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Tokyo, 2004.6.17
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Hitoshi Sekiguchi
translation by Ikuko Ono

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 プリティ・ガールズ・メイク・グレイヴス、ゴシップ、バトルズ、ブロック・パーティ、さらに日本のエンヴィなどの作品もリリースしているDimMakレーベルに所属するフロム・モニュメント・トゥ・マッシズは、他のレーベルメイト達に負けず劣らずの個性派だ。ギター、ベース、ドラムスからなる最小トリオ編成だが、スポークンワードを中心に数々のサンプルをフィーチャーしたサウンドは、一連のポスト・ロック勢の中においても極めてユニークな存在感を放っている。2004年6月に行なわれた来日公演では、それぞれのプレイヤーが高度な楽器演奏を繰り広げながら、同時に各自の工夫した形でサンプラー機材を駆使し、非常にダイナミックかつ濃密な音空間を展開、本当に圧巻のライヴを見せてくれた。以下のインタビューを読めば、この先鋭的な表現を支えているのは、アート意識とともに思想性をも高いレベルで持った彼らの精神性に他ならないことが理解してもらえるはずだ。

「このバンドにとって思想的な部分は重要な要素なんだ。インスパイアされるだけでなく、原動力でもあるんでね。僕らの場合、もし思想の部分抜きで音楽をやったとしたら、そんなに長く続かないと思う」

まず最初に、自己紹介と、日本ツアーをここまで続けてきた感想を一人ずつお願いします。

Matthew:名前はMatthew Solberg。ギターとループ・サンプルとヴォーカル担当。日本については、とにかく驚きの連続だね。生まれて初めて訪れたけど、オーディエンスが本当に素晴らしかった。日本に滞在した1週間で、アメリカにいる時の1ヶ月よりも多くの観客の前でプレイしちゃったんだよね。本当にたくさん観に来てくれたし、みんなフレンドリーだし。今のところ、思い切り楽しんでるよ。

Sergio:Sergio Robledo-Maderazo。ベースとキーボードとサンプリングをやってる。日本の感想は、とても美しい、ってこと。本当に美しい国だね。人々はみんな友好的で、とてもよくしてくれる。マシューもそうだと思うけど、日本の音楽のよさには感心させられてるんだ。すごくいろんなタイプのバンドが存在するんだね。オーディエンスがいろんな音楽に対してオープンな気がする。アメリカのショーでは、似たようなバンドが連続して演奏する状況が普通なんだ。誰もが偏見無く様々なタイプの音楽を楽しんでるって感じが、特に気に入ってるよ。

Francis:僕はFrancis Choung。ドラムとドラム・シンセサイザー、ヴォーカルを少し。そしてコンピューターで編集するのは僕の役なんだ。僕も彼らと同じで、日本にはとってもいい印象を受けてる。想像以上だよ。みんな愛想が良くて親切で、大歓声を上げてくれて。来る前は、日本の観客は文化的な理由からみんな静かなんじゃないかと思ってたんだ。でも全然違っててすごくエキサイティングだった。日本が大好きになったよ。僕は韓国系で、韓国へはよく行くんだけど、日本と韓国って似てるところがたくさんあると思う。文化的にも、街や人々の感じもね。だから僕には親しみがあって居心地いいんだ。

日本の観客の反応について「本当はもっとみんな、ただ突っ立って聴くんじゃなくて、踊って熱狂してほしかった」っていうような気持ちはあったりしましたか?

Francis:いや、みんなが踊るような状況は期待してなかったよ。アメリカでも、僕らみたいなバンドのショーで踊る人はそんなにいないからね。大体反応は同じだよ。こんな感じに腕組みして聴いてる。そんなに動きまくるキッズを想定してはいないんだ。さっき言ったように、日本ではもっと控えめな観客を想像してたから、逆にアメリカと同じだったことに、ちょっと驚いたね。

Matthew:見てて面白かったのは、最初はみんなじっとしてたのが、数曲やった頃には頭がリズムを取るようになっててさ。

Sergio:うん。東京以外には名古屋と京都でもプレイしたんだけど、それぞれに違いがあったね。東京で一番歓声が大きかった感じで、名古屋と京都では拍手中心だった。最初は楽しんでくれてるのかどうか自信がなかったけど、最後の方では、ちゃんと楽しんでくれてることが分かったよ。

Francis:単に東京のキッズほどうるさくなかっただけで、同じように楽しんでくれたと思う。

Sergio:彼らが満足なら僕らも満足なんだ。どんな反応で示してくれてもね。

僕は12日の新宿でのライヴを観させてもらいました。ただ、超満員だったんで、みなさんの演奏している姿は首から上しか見えなかったんですけど(笑)……とにかく音は素晴らしかったです。

Sergio:Thank you!

Francis & Matthew:(日本語で)ドウモ・アリガト!

で、よく見えなかったのですが、演奏しながら鳴らしているサンプルは、誰がどんなタイミングで鳴らしていたんでしょう?

Sergio:ええとね、スピーチの部分のサンプルはMP3にしてiPodに入れてあるんだ。それを適切なタイミングで僕がトリガーしてる。それから……ベースとキーボードの間は僕がペダルで切り替えてるんだ。

Matthew:ギター・ループのサンプリングもペダルでやってる。ギターで弾いたフレーズをとらえてループにして、オーディエンスに流すんだ。モニターと同時にフランシスの方にも行ってて、彼にとってメトロノームの役目を果たしてる。そこだけ分離されるんだよ。僕の方はライヴ・ギターに切り替えて、ループの上にライヴ・ギターを乗せる。ループ・サンプルをオン・オフしたり、新しくループをとらえたりするのを、全部その場でやってるんだ。結果的にレコードと同じように、多くのギター・パートが一斉に鳴ってる状態になるわけ。

Francis:僕の場合、ドラムセットの真後ろにドラム・シンセがあって、手動で操作してる。それを使ってる曲では、そこからの信号を遮断するペダルを足で踏んで、音を出したり止めたりしてるんだ。ドラム・マシーンに関してはそんな感じ。

この、サンプラーを併用して生演奏に組み合わせていくスタイルというのを、どういう風にして作ってきたんでしょう? 何かきっかけとなったこととかはあったんでしょうか?

Sergio:バンド結成当時から、他のギター・バンドとは違うことをしたいっていう希望があって。だからなるべく幅広いタイプの音楽を参考にするようにしてきたんだ。エレクトロニック・ミュージック、DJミュージック、ヒップホップ……あらゆるものから影響を受けてる。特にヒップホップの世界ではずっと前からサンプリングという手法が用いられてきた。ドラムのビート、ベースのリフ、人の声といったものを抽出してきて音楽に乗せるやり方がね。フランシスとは長いつきあいなんだけど、サンプルを使った音楽を一緒に作ろうってずっと思ってて、このバンドはそれを実現するチャンスだったんだ。例えばDJシャドウなんか、音楽的なサンプルも言葉のサンプルもたくさん使ってミックスさせて作ってるけど、ああいった人にはすごくインスパイアされるよ。

Francis:彼らは僕らと同じように、政治的な内容のサンプルを使うしね、ブラック・パンサー党とか、その他いろんな人のスピーチを使ってる。そういう意味でもインスパイアされるね。

Matthew:他にも、例えばゴッド・スピード・ユー!ブラック・エンペラーみたいなサンプリング・スタイルもあるよね。キャッチーな短いフレーズを持ってくるんじゃなくて、雰囲気のあるサンプルを延々と、一種のムードを醸し出すために使ってる。誰かの話し声とかもね。そういうアイディアも気に入ってるんだ。

Francis:僕らのは基本的にヴォーカルのない音楽だから、サンプラーがヴォーカルの役目を果たしてるんだよね。サンプルは曲に合わせて注意深く選んで、構成して、はめ込んでいかなければならない。僕らが言いたいことは全部サンプルの中で表現してるから。普通のバンドの歌詞の部分、声の部分が、うちの場合はサンプルなんだ。

Matthew:Refusedにも大きな影響を受けたよね。ああいう音にしたかったわけじゃなくて、パンクから脱皮して、違った形の新しいパンクをやろう、っていうアイディア自体に。

Sergio:Refusedはニュー・ノイズって呼んでたね。サンプルが僕らのヴォーカルだって言ったけど、歌を入れないということは意識的に決めたことなんだ。自分達はインストゥルメンタルが好きで、他とは違うことをトライしたかった。じゃあ、歌詞を入れずにストーリーやムードが伝えられたら?って話になって。音楽・サウンドでストーリーを語るにはどうしたらいいだろう? 自分達の政治的な思想や意見を、どうやったら伝えられるか? そう考えるうちに、僕らよりも上手く喋っている人達が過去にも現在にもいるじゃないか、と思ってね。それに、それらの人々の考えは、あまり広く伝えられていない。ロックンロールの世界では特にね。ならば、自分達で歌詞を書くよりも、オリジナルの声を聴いてもらうのがベストなんじゃないかと思ったんだ。

伝えたいことがあるからそういう方法をとる、ということですが、日本での公演で、サンプルで流している言葉の内容が、演奏を聴いている人達に伝わらない――要するに言語が違うから意味が伝わらない――という状態を奇妙に感じたりしましたでしょうか?

Sergio:まぁ、それはね(笑)。でも、歌を歌っていたとしても同じことじゃないかな。実は日本に来る前に、日本の観客向けのサンプルを探して曲間で流そうか、って話もしてたんだよ。結局、準備やら何やらで忙しくて出来なかったけど。でも、英語を話すアメリカでも、必ずしも僕らの言いたいことを全員に理解してもらってるとは限らないし、それでも構わないんだ。1曲演奏するごとに曲紹介をして、その中で詳しく説明してくれるバンドも見かけるけど、僕らはそれはしたくない。聞き手が各々興味を持ってくれて、自分で調べてくれることに期待してるんだ。「これはどういう意味なの?」って、僕らに直接尋ねてくれてもいいし。曲が僕らの言いたいことをすべて言い切ってるとは元々思ってないからね。

Francis:ライヴに来てくれた日本の人達が、僕らの音楽を気に入ってくれたら、もしかしたらそのうち、もっと知りたくなってネットなんかで調べてくれるかも知れない。そうすれば、どんなことが言いたいのか分かってくれると思う。もちろん、音楽そのものの良さもあると思うよ。サンプルと音楽が一緒に曲を構成してるけど、音楽の部分も曲ごとのフィーリングを伝えてると思う。エモーショナルな音楽だし、音楽そのものがストーリーを紡ぎだしてる、って感じはあるんじゃないかな。まずそこから入って、サンプルの内容にも興味を持ってくれたらいいね。

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