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過去のアルバムからのナンバーもまんべんなく並べられたセットリストでしたが、これはやはり初来日ということで決めた選曲だったんですか?

Chris:いや、いつもとほとんど変わらないな。

Ben:好きなバンドのライヴに行って、昔の曲をすごく楽しみにしてたのに新曲しか演らなかったなんていうのは興ざめだからね。忘れもしない、96年にビルト・トゥ・スピルを観に行ったことがあってさ。ちょうど『Perfect From Now On』をリリースした直後で、めちゃくちゃ気に入ってたからアルバムの曲を期待してたんけど、フタを開けてみたらレコーディング前の新曲ばっかりで、あれにはほんとに頭にきたね。信じられなかった。ライヴってのは、オーディエンスが知ってる曲を生で演奏する場所なんだよ。みんなそれを楽しみに足を運んでくれるんだからね。新曲を試すために演るもんじゃない。だからセットリストを考える時は、新旧交えた選曲でバランスをとるようにしているんだ。

前作まではライヴで演奏を重ねて完成させた曲をレコーディングしていたのが、最新作『トランスアトランティシズム』では、スタジオに入ってから曲を仕上げるという、これまでとは違ったアプローチをとったんですよね。そうやって出来たニュー・アルバムの曲をライヴで演奏するというのも新しい経験になると思うんですが、実際にやってみてどうですか?

Nick:確かに、前作の『ザ・フォト・アルバム』はツアーでこなれた曲をレコーディングしたから、その後さらにツアーで演奏した時に、いっそう自信はついたけど曲自体はほとんど変わり映えしなかった。それに比べて、今作の曲はこれからどうなるかまだ見当がつかなくて、それをライヴで確かめていくのが楽しいんじゃないかな。今のところライヴでもやっていける気がするし、全員しっかり取り組んでいきたいと思ってる。新作の全曲にライヴでの効果が感じられればいいけど、もしかしたらライヴには向かない、アルバムだけにしておいた方が良い楽曲だってあるかもしれない。現時点でそれを見極めるのは難しいけど、とにかく今はどの曲がライヴに向いてるのか知りたくてうずうずしてる。実際ステージで演奏して上手くいかなかったとしたら、オーディエンスにも俺達にとってもエキサイティングな曲になるように、手を加えてもいけるだろうしね。早くもっとライヴで演りたい!って心から思うよ。今回のアルバム作りで良かった点はそこなんだ。これからどうなるかまだ分からないってところに興奮してるよ。

デス・キャブ・フォー・キューティーは、かなり凝ったサウンド・プロダクションのスタジオ・アルバムを作っていますが、それをライヴで再現するにあたって、どんなことを意識しますか?

Chris:レコーディングでの姿勢を取り入れつつ、ライヴはもっとオープンでラフな感じにしたいと思ってるんだ。ただ、ライヴはアルバムと比べてロックしてるしラフになるのは間違いないけど、そこにスタジオでの音作りを持ち込みたいという意識はあるよ。実際、今度のツアーではリハーサル中にもレコーディング的な要素を出来るだけ取り込もうとしてたしね。

昨日のライヴを観ていて、ときどきクリスとベンがキーボードを弾いているのがショー全体にメリハリをつけていて、とても良かったと思いました。今後ライヴでもっとエレクトロニクスな機材を取り入れていこうと思ったりしていますか?

Ben:今回のレコーディングのためにジェイソンが新しいサンプラーを買ったんだ。パッドと同期していて、ドラムを叩くとサンプル音が出せる仕組みになってるんだよ。僕の分もあるから二人でいろいろ試してる。最近のライヴでいちばん目立って新しい要素っていったらそこかもしれない。結構うまくいってると思うよ。

Jason:これからは、ステージ中を走り回る機会も多くなるかもね。

Ben:そうだな。新しい機材の導入とともにステージ上で動き回ることが増えてくることは間違いないね。曲によってはニックが前半でギター、後半でベースを担当したり、クリスは前半がギターで後半をピアノとか。必要な機材を持って来れなかったから昨日は演奏できなかった新曲もあるんだけど。

ちなみに、スタジオ作品で、より凝ったデジタル・レコーディングを取り入れることに対してはどれくらい興味がありますか?

Chris:今回のアルバムも全部アナログで、録音もミックスもリールを使った。デジタル・レコーディングはダメだとは言わないけど、まだ興味がないだけなんだよ。最近まで使う必要を感じなかったというか。コンピュータでしか出来ないこともあるけど、テープじゃなくちゃ難しいこともあると思うんだ。テープに録音してる時は、どんなことをしても細工するのは不可能だっていう緊張感がある。デジタルのようにツマミひとつで調整は出来ないから、欲しい音を自分で出すしかないわけで。なんとなくテープの方が、より血が通ってて必死な気がするんだよね。特に大勢で一発録りなんかすると、みんなが一つの部屋で演奏してる雰囲気がちゃんと伝わってくるんだ。デジタル・レコーディングも単なる手法のひとつってことだよ。水彩画を好む人もいれば油絵が好きな人もいるのと同じで、つまりは嗜好の問題なんだ。どちらにも独自の長所があるわけだからね。

あなた方が拠点にしているスタジオは「ホール・オブ・ジャスティス」という、かつてジャック・エンディーノ(ニルヴァーナの『ブリーチ』を手がけたプロデューサーで、シアトル・インディー・シーンの黎明期に大きな貢献を果たした人物)が数々のインディー・ロックの名作を作った場所なんですよね(※当時の名称はレサイプロカル・スタジオ)。どんなスタジオなのか少し教えてくれますか?

Chris:ヒドいところ(笑)。ネズミが出るし。スタジオになってから23〜4年経っていて、その間に何度もオーナーが変わってるんだ。ただ、ビルの家賃が安いからその分スタジオ代も安くできるし、レコーディングの制作費があまり無いんだとしたら、あそこが一番。今でもオーバーダブをレコーディングしに来る人が多いんだ。小さな三角形のビルに入ってて、コントロール・ルームとレコーディング・ルームの2部屋だけ。外にはグラフィティが描かれていて壁が剥げ落ちてるし、周りの治安も悪いんだよ。気に入ってはいるけどね。それに多数の歴史的レコードを世に送り出した場所でもある。シアトルでもパンク・ロックの象徴的な場所になるんじゃないかな。

そもそも、そのスタジオを手に入れようと思ったのはどうしてなんですか?

Chris:ビル自体を所有してるわけじゃないんだよね。僕が、バンドの所属レーベルでもあるBarsukと共同経営してるんだ。どうして手に入れようと思ったか……上手い質問するな(笑)。まあ、つまり当時の自分たちにしてみれば、一段格の高いスタジオだったんだ。

Nick:俺たち、無名もいいとこだったし(笑)。

Chris:さっきは少し言い過ぎたかもしれない。そんなに悪くもないんだ。機能的でなんとなく温かみもあるし……。

Ben:なんとなくクールな感じもあるし……。

Chris:ああ、まあな……ほんとに機能的で何にでもすぐに手が届く身近なスタジオなんだ。豪華さの欠片もないけどね。すごく労働者階級っぽいんだよ。

Nick:素晴らしい歴史と雰囲気のあるスタジオだよ。でも、俺たちよりクリスがもっと感じてることだろうけど……蜜月期間は終わったっていうかさ。最初はホール・オブ・ジャスティスにいるってことだけで興奮してたのに、今じゃドアを蹴ったりしてるからね(笑)。歴史が生まれた場所だから、誰もが足を踏み入れたがるだろうとは思う。でも俺たちはもうすっかり甘やかされてきて、もっと高いスタジオを使ってもいいんじゃない?なんて話してるんだ(笑)。

Chris:どうも3〜4年毎にオーナーが変わるらしいんだよ。僕たちも3年目で、そろそろ飽きてきたんだけど、どうしてオーナーが変わるのかやっと分かってきた。前のオーナーのジョン・グッドマンソン(※スリーター・キニーなどを手がけた名プロデューサー)からスタジオを譲り受ける時に「ほんとにここでいいのか?」って訊かれたんだよね。彼としてはとにかくあそこを出たくて仕方がなかったみたい。当時の僕は「ここは今までで最高のスタジオだよ!」って喜んでて、その時は実際そうだったから(笑)。もちろん、たくさんの作品をあのスタジオでレコーディングしたし、とても誇りに思ってる。でも、そろそろ手放す時期なのかもしれないな。

なるほど。ところで、ベンに質問しますが、ポスタル・サーヴィスとして成功したことがデス・キャブ・フォー・キューティーの活動にどんな影響をもたらしたと思いますか? また、今後どのように両バンドとのバランスをとっていこうと思っていますか?

Ben:売れる方のバンドが大切だと思ったことは一度もないよ。デスキャブを続けてきて6年の間、このバンドがずっと自分の生活の中心だったんだから。ポスタル・サーヴィスも自分のやりたいことだし、成功してすごく誇りに思うけど、バランスを保つには優先順位を明確にすることだね。幸いにもジミー・タンボレロがプレッシャーをかけてくることは全くないし、今以上に何かをしなくちゃと感じることもないんだ。サブ・ポップってその辺がはっきりしてるんだよ。僕としては楽しいからどちらのバンドにも関わっていたい。ただ、バンド・メンバーとしてライヴでプレイすることに勝るものはないと僕は思ってるんだけど、その点ポスタル・サーヴィスってあまりライヴっぽくないから、それほどワクワクしないっていうか、ハプニングが起きる可能性が少ないっていうかさ。演奏の70%をコンピュータに頼るよりも、自分で一つ一つの音をステージ上から紡ぎ出すほうがもっとエキサイティングだな。

(ここでクリスとベンが、他の取材の時間が来たので席を外すが、勢いで残ったリズム隊の2人を相手に話を続行)

クリスとベンがいなくなったところで、あの2人がどんな人間なのか語ってもらえますか?

Nick:あいつらをどう思うかって? あの2人はデス・キャブ・フォー・キューティーにおける火と氷、陽と陰みたいなものだね。ほんとに良いチームだよ。互いを励まし合うし、とてもバランスがとれてると思う。時には議論することもあるけど、最終的には2人とも相手に対してリスペクトがあって信頼しているから、お互いの一番良い部分を引き出し合ってるんだ。それがこのバンドの成功に繋がってるんだと思うよ。彼らと友達になれて、そして一緒にバンド活動が出来て本当に嬉しいよ。

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