第十九章 〜 スタート 〜
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第十九章 〜 スタート 〜
目が覚めると、胸が重かった。食欲も無い。
ドキドキとは少し違う、胸の重み。
運動会当日の感じ。
100メートル走で、次に自分の番の時みたいな胸の重み。
月曜日って言うのもあるし、あれから磯野さんに会う、最初の日だからか、ずっと胸が重かった。
「いってきます」
今日は早めに家を出た。いつもよりだいぶ早い。学校とは反対の山の方へ向かう。湿気もあって気温も高い。いつきと聞いたカエルの声は今はセミの声に変わっていた。山に近づいて坂道を歩くと日陰に入っていくらか涼しい。家が見えてくる。中からは声は聞こえない。少し離れた場所に大きな杉の木が一本ある。その下にはありの巣があって、一匹一匹が忙しそうに働いている。方舟と一緒だ。皆何かをしているんだ。今日も明日もこれからも。
家の方から音が聞こえて振り向くと磯野さんが出てくる。薄暗い家から出てきて朝の日差しが当たる山道へ出ると一層綺麗に髪の毛が光っている。ヘルメットから出ている前髪が綺麗に見える。本当に綺麗に。
「おはよう。」
声をかけると、立ち止まって僕を見る。小さくおじぎをすると、こっちに歩いてくる。バッグからノートを取り出そうとするから声をかけた。
「学校行こう。」