Various Artists


A LAFACE FAMILY CHRISTMAS


1993 LaFace/Arista
1. Silver Bells - A Few Good Men
2. Christmas Song - Toni Braxton
3. Sleigh Ride - TLC
4. Player's Ball - OutKast
5. Interlude: Joy All Day - OutKast
6. Have Yourself a Merry Little Christmas - McArthur
7. All I Want for Christmas - TLC
8. This Christmas - Usher
9. Merry Christmas My Dear - A Few Good Men
10. Interlude: Christmas Is Here - A Few Good Men



 泣く子も黙る LaFace レーベルからリリースされたクリスマスアルバム。93年、これだけのアーティストを抱えていた LaFace の勢いを素直に感じましょう。この後、米国ブラック音楽のベクトルは強烈に南に向かいます。ジョージア州アトランタで大半が録音されたこのアルバムも、そのムーヴメントの先駆けと見ることができるわけで、この点はもっともっと注目されて良い。

 アーティスト毎に紹介していきましょう。まず冒頭 "Silver Bells" でいきなり激烈な4声ハーモニーをかましてくれる A Few Good Men(AFGM)。当時から LaFace の秘密兵器と言われ、Boyz II Men らに代表される巷のコーラスグループブームに終止符を打つこと間違いなしと噂されていた彼らのお披露目トラックです。定番中の定番曲でありながら、スピーカーから飛び出す声の迫力に一発でKO。野太いバリトンを突き抜ける強烈なファルセット。ブレイクで自己紹介を回す部分もご愛嬌です。

 この逸材を前に、LA Reid & Babyface も最高の舞台を用意しました。つまりオープニングと対を成すクロージング。9曲目の "Merry Christmas My Dear" はダリル・シモンズのオリジナル曲で、ゆったりしたメロウなヴァースの独唱から、急激に分厚いコーラスになだれ込むところでハッとさせられます。2番以降はさらにフェイクとアドリブが複雑に交錯し、ブリッジではシモンズお約束の転調攻撃。わかりきった展開なのにこれだけ手に汗握らせてくれる理由は、曲の質の高さだけではないでしょう。「声」の力。正直、Boyz II Men や Az Yet なんかと比べてもらっちゃ困る。強烈に男臭くて、ソウル魂溢れるグループなのです。

 ご存知のお方も多いでしょうが、AFGMの94年のデビュー盤 "A THANG FOR YOU" は権利問題などですぐに回収され、幻の名盤として珍重されています。問題の曲を差し替えるなどして翌95年に "TAKE A DIP" として再リリースされていますが、初回版の迫力には及ぶべくもなく。一応、"Have I Never" が小ヒットしましたが、当初の期待に応えられないうちに表舞台から姿を消しています。そんな大器の片鱗を感じることができるのも、このクリスマスアルバムだけの特権。

 続いてトニ・ブラクストン。当時まさしく上り調子だった彼女、メル・トーメの "The Christmas Song" を実に伸びやかに歌いきります。制作は LA Reid と McArthur。2人はドラムスにもクレジットされており、Vance Taylor の控えめなアコースティック・ピアノと Kayo の(恐らく)生ベースが加わってトニを引き立てます。彼女独特の中低音部に膨らみのある豊かなヴォーカルを堪能しましょう。2001年にリリースされたトニのクリスマスアルバムにもこの曲が収録されていますが、ひょっとして8年も前のこのテイクをそのまま使ったのでしょうか? だとすれば彼女自身も相当に気に入っている歌唱ということになりそうです。

 TLCも忘れるわけにいきません。"Sleigh Ride""All I Want For Christmas"、いずれもマイナーコードのいささか地味なトラックですが、制作は "Waterfalls" 等で知られるオーガナイズド・ノイズ。さすがに彼女らの魅力を知り尽くしています。パターンはいずれも同じで、T-Boz の超低音ヴァースで導入し、コーラスに Chili の明るいヴォーカルを絡めて、ブレイクで Left-Eye のラップに思う存分遊ばせる。個人的にはもう少しハッピーな曲調のものを聴きたかったところですが、この不穏さこそがアトランタ・サウンドとして翌年以降の全米チャートを席巻していくわけで。遠くで揺れるエレピが迫りくる何かを予感させる、貴重な録音と言えるかもしれません。

 その意味ではここにアウトキャストの "Player's Ball" が収録されていることも重要なポイント。いきなり全米37位まで上昇してゴールドシングルになったこの曲。明らかにそれまでのヒップホップとは異なる緊張感を持っています。作曲・制作・各楽器の演奏に関わったオーガナイズド・ノイズの手腕は高く評価されるべきでしょう。ワウ・ギターやくぐもったリズムセクションが70年代ソウルの香りを強烈に発散。後半でいきなり暴れだすベースラインのカッコよさといったらありません。この曲が置かれたことによって、本作の存在は世間一般のクリスマスアルバムとはまったく異質なものになっています。

 残る2曲は McArthur と Usher ですが、いずれも凡庸な出来。前者は LaFace もののクレジットでときどき見かけますが、ダリル・シモンズやドネル・ジョーンズのように極端に良い仕事をしている印象はありません。伸び伸びとしたテナーは悪くないのだけれど、この程度のヴォーカリストなら南部に5万人くらいいそうだ。アッシャーはちょうど声の変わり目だったのか、喉のコントロールに苦しんでいる模様。バックトラックとの相性も良くなく、数年後にダラス・オースティンと完成させるスタイルには程遠いのですが、理由のひとつは制作が Brian Alexander Morgan であること。ご存知 SWV を大ヒットさせた仕掛人ですが、そう思って聴くと SWV にぴったりの音作りに聞こえてくるから不思議なものです。

 あれ、もうおしまいになってしまいました。何だかんだ言っても信頼の LaFace ブランド。ブラックミュージック好きにとっては間違いなく最高の時間を提供してくれること請け合いのこのアルバム、今年のクリスマスにぜひ聴いてみてはいかが?


お気に入りベスト3
1. The Christmas Song - Toni Braxton
2. Merry Christmas My Dear- A Few Good Men
3. Player's Ball - OutKast

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