Sade


LOVERS LIVE


2002 Sony Music Entertainment
1. Cherish The Day
2. Somebody Already Broke My Heart
3. Smooth Operator
4. Jezebel
5. Kiss Of Life
6. Slave Song
7. Sweetest Gift
8. Sweetest Taboo
9. Paradise
10. No Ordinary Love
11. By Your Side
12. Flow
13. Is It A Crime


 2001年洋楽界最大の話題のひとつは、シャーデー7年ぶりの新作 "LOVERS ROCK" のリリースと、それに伴う大ツアーの決行でした。7月から9月にかけて北米大陸をほぼ隈なく回った "LOVERS LIVE" ツアーは、しかし、ついに日本に到達することはありませんでした。シャーデーから僕らへのお土産は、このライヴアルバムとVHS/DVDだけ。ちょっと残念だけれど、これはもう、楽しむしかない。そして実際、このライヴ盤は、ちょっと驚くべきディスクと言うべきものです。

 9月にカリフォルニアで行われた2回の公演が録音・編集されています。シャーデーがライヴバンドであることは知識として知っていても、ここでの演奏の素晴らしさと、米国の観客の大歓声には誰もが驚かされるのではないでしょうか。オープニングの "Cherish The Day" から異様なテンション。シャーデーの登場を固唾を呑んで待っていたファンたちの絶叫ともいうべき歓声が、スピーカーからほとばしるように飛び出してきます。シャーデー・アデュが最初のフレーズを発声した瞬間、その興奮は頂点に。

 だいたい、この曲がオープニングであること自体が一般的にはあり得ないことかもしれません。"LOVE DELUXE" 収録の、比較的地味な楽曲。独特なギターのカッティングに乗って、淡々と歌うアデュ。特に極端な盛り上がりが訪れるわけではありません。深く深く愛し愛される喜びを、静かに歌い上げるだけです。彼らのヒット曲レパートリーを眺めたときに、つかみの1曲としては "Smooth Operator""Sweetest Taboo" のほうが適切なんじゃないの、という気持ちはわからないでもない。しかしこのライヴを聴く限り、1曲目にこんな渋い曲を持ってきたこと自体に意味がある。通常とは逆の意味で、僕を含むリスナーたちを鷲づかみにしてしまう魔法がまぶされているのです。

 もうひとつのポイント。代表曲も一応押さえてはありますが、これはあくまでも新作 "LOVERS ROCK" のツアーであるということ。その証拠に、13曲中5曲も新作から演奏しています(2,6,7,11,12)。決して懐メロ大会になることなく、前進し続ける現在進行形のバンドとしてのシャーデー。実際、これらの曲はスタジオテイクより遥かに立体的で生々しい演奏になっており、オリジナルよりずっと好きになりました。旧曲についても、微妙にアレンジが変えてあったり、長めのギターソロが挿入されていたりして、聴き込んだファンたちも楽しませてくれる仕様になっています。サックス/ギターのスチュアート・マシューマンを中心とするコアメンバーたちの息の合った演奏ぶりに、バンドとしての強烈な一体感を感じるのも一興。複雑な技術を要する演奏ではないように聞こえるかもしれません。しかしこういう無駄のない演奏をする時こそ、バンドとしての本質が問われるものです。

 最大の聴きものはラストを飾る "Is It A Crime"。初期シャーデーを代表するドラマティックなナンバーで、アルバム "PROMISE" では冒頭に収録されていましたが、やはりひとつのショウのクライマックスにこそ相応しい。8分にも及ぶロングヴァージョンで、印象的なブルージィなサックスのイントロが鳴り出した瞬間に会場全体が大絶叫。この興奮ぶりは言葉で表現しがたいものがあります。その後も楽曲の展開にお構いなく、随所で歓声を上げまくるファンたちの様子がしっかりと録音されていますが、それを凌駕するのがアデュのヴォーカル。ここまで比較的淡々と、シルクのように滑らかなトーンで包んでくれていたその声が、この曲では一転して感情を爆発させます。別れた恋人を今も熱く思う心、ビクトリア湖より広く、エンパイア・ステートより高いその愛を身体全体で表現する絶唱ぶり。間違いなく、全身に鳥肌が立つことを保証します。

 バンドとしての足どりを手軽に追いかけることのできるベスト盤 "BEST OF SADE" も良いディスクですが、ひょっとするとさらりと流れていってしまうかもしれません。その意味で、シャーデー初心者にこそこのライヴ盤をお勧めしたい。シャーデーとは一体どのようなバンドなのか。そしてまた、良いコンサートとはどのようなものなのか。聴き終わる頃には、きっと答えが見えてくるはずだから。


お気に入りベスト3
1. Is It A Crime
2. Smooth Operator
3. Jezebel

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