Rush
A SHOW OF HANDS
1988 Mercury |
1. Intro 2. The Big Money 3. Subdivisions 4. Marathon 5. Turn The Page 6. Manhattan Project 7. Mission 8. Distant Early Warning 9. Mystic Rhythms 10. Witch Hunt (Part III Of Fear) |
11. The Rhythm Method (Drum Solo) 12. Force Ten 13. Time Stand Still 14. Red Sector A 15. Closer To The Heart |
「ラッシュを聴いてみたいんですけど…」 そんな初心者に僕がお勧めするディスクと言えば、これ。ベスト盤も数種類出ていますが、別にレビュウするとおりそれなりの問題を抱えています。彼らはライヴを聴いてこそその凄さが分かるバンドのひとつ。ならばライヴ盤から入るのもありでしょう。親切なことに、ラッシュは活動期間の区切りごとにライヴ盤をリリースしてきました。したがってあるライヴ盤を聴くことで、その時期の楽曲の雰囲気や、演奏の特徴をつかむことができるのです。 この "A SHOW OF HANDS" (『新約 神話大全』)は、シンセサイザーを大々的に導入して比較的分かりやすいサウンドにこだわった80年代のラッシュを総括するものです。出典アルバムは以下のとおり。 US#10/82 "SIGNALS" (3) US#10/84 "GRACE UNDER PRESSURE" (8, 14) US#10/85 "POWER WINDOWS" (2, 4, 6, 9) US#13/87 "HOLD YOUR FIRE" (5, 7, 12, 13) これ以前の楽曲は "Witch Hunt" と "Closer To The Heart" のわずか2曲。 (どうでもいいことですが、80年代のラッシュは81年のライヴ "EXIT... STAGE LEFT" も最高位10位で、アルバム4枚連続10位というちょっと謎の記録を作りました。安定したファン層を抱えていたことの証しでもあります) シンセサイザーを派手に組み込んだ編曲でありながらも、ラッシュは3人組。どこまでもトリオにこだわる彼らは、アルバムの分厚いサウンドを恐ろしく忠実にライヴで再現していきます。ここがまず聴きどころのひとつ。…といっても、CDじゃ凄さがよく分からないかも。だってこれじゃスタジオ盤と一緒じゃんって言われそうなくらい完璧な演奏だから。実はこのライヴアルバムは映像版もリリースされていますので、余裕のある方はそちらもご覧になることをお勧めします。特にゲディ・リーが、複雑なベースを弾きながらヴォーカルをとり、時には鍵盤を弾きながら足でベースペダルを踏んでいる様に度肝を抜かれることでしょう。しかもそれを、飄々と自然体でやっている! そうしてCDに戻り、目を閉じてじっくり聴いてみれば、あれだけ複雑な演奏をやりながらこんなにも3人のコンビネーションが合っているのか、と改めて彼らの凄さを思い知ることになるのです。 もちろんライヴ演奏ならではのお楽しみも。まずは11曲目の Neil Peart ドラムソロ。単にドラムを叩きまくるだけでなく、かっちり構成された中に超絶技巧を散りばめたソロパートです。終わった瞬間、思わず拍手してしまいたくなるくらい。そしてもうひとつの聴きどころは、ラストを締め括る "Closer To The Heart"。多くのラッシュファンにとって心のアンセムになっている曲ですが、このヴァージョンは本当に素晴らしい。会場全体がゲディに声を重ねて大合唱。数あるライヴテイクの中でも1、2を争う名演ではないかと。アルバムを聴き終えた時「生きててよかった」とまで思わせるライヴ盤は、そうそうありません。 例えば "HOLD YOUR FIRE" アルバムは、耳当たりが良いのでポップに聞こえたりもしましたが、やっぱりライヴは全然違います。スピーディな "Turn The Page" の緊張感も、"Mission" の感動的な宣言も、"Force Ten" の情け容赦ない攻撃性も、どれもがスタジオ録音を遥かに凌ぐカッコよさ。全般にアレックス・ライフソンのギターのエッジが立っていて、スタジオ盤でシンセに埋もれていた部分まで鮮やかに再現。 70年代の名曲たちももっと収録してほしかったけれど、それは贅沢というもの。2枚組でも3枚組でもボックスセットでも、膨らませるのは簡単だけど絞り込むのは難しい。そして限界まで絞り込むのがラッシュの美学。3人の名手の技の競演を、心ゆくまで堪能しましょう。 お気に入りベスト3 1. Closer To The Heart (大合唱!) 2. Marathon (後半の盛り上がりの感動はスタジオ盤を凌ぐ) 3. Subdivisions (淡々と、切なく。"SIGNALS" からたった1曲なのはもったいない〜) . |