Daryl Hall & John Oates
GREATEST HITS : ROCK 'N SOUL PART 1
1983 RCA |
1. Say It Isn't So 2. Sara Smile 3. She's Gone 4. Rich Girl 5. Kiss on My List 6. You Make Me Dreams 7. Private Eyes 8. Adult Education 9. I Can't Go for That (No Can Do) 10. Maneater 11. One on One 12. Wait for Me (Live Version) |
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僕が生まれた初めて買ったベスト盤が、これだ。ホール&オーツには洋楽の聴き始めの時期に出会い、すぐに夢中になった。アルバムでいうと、"PRIVATE EYES" や "H2O" の頃だ。彼らはまさに人気と実力の絶頂期にあって、発表する曲がことごとく大ヒットしていた頃だった。だから、チャートを駆け上る新曲 "Say It Isn't So" が収められたこのアルバムをすぐに購入したのは、僕にとってはとても自然なことだった。 収録曲についての説明は今さら必要ないだろう。70年代から80年代にかけて全米のヒットチャートを席巻した歴史的なデュオの名曲が集められている。当時の新曲にあたる "Say It Isn't So" と "Adult Education" の出来も素晴らしい。いずれもボブ・クリアマウンテンを共同制作者として迎え、開放的でビッグなサウンドで録音されている。前者はよりオーソドックスなH&O節に近いといえるが、"Adult Education" はややプログレッシヴな意欲作だ。印象的なイントロのギター・カッティングは、アレンジャーに名を連ねる Chic のナイル・ロジャースのプレイを想起させる。東洋的なリフをメインに組み立てたフューチャリスティックなファンクは、5分39秒の長きに渡って聴き手を幻惑する。マンハッタンのチャイナタウンで怪しげなドラッグを掴まされたようなハッタリ感が秀逸だ。終盤のミッキー・カリーの豪快なドラム・プレイは特に素晴らしく、次のスタジオ作 "BIG BAM BOOM" で展開されるヒップホップ的な遊びをも予感させる。 *** リリースから早20年が経過した。今やホール&オーツのベスト盤は巷に溢れている。音源管理の甘そうな欧州盤のほか、ここ数年の80年代ブームに便乗した日本盤も数多い。だが自分にとってはやはりこれだ。代表曲10曲+新曲2曲のシンプルな構成だが、どこを切っても彼らの魅力が満載の大ヒット曲が凝縮されている。CD/MD時代にはやや短く思える収録時間も、元がアナログ盤のこの作品にはちょうど良い長さといえる。 そう、このアルバムはアナログ盤だった。そのことは、収録曲の構成を見てもわかる。当時の新曲 "Say It Isn't So" と "Adult Education" はそれぞれ1曲目と8曲目に収められているが、これは言うまでもなくアナログのA面1曲目とB面1曲目にあたる。残る2〜7曲目、9〜11曲目は概ねヒット順に並べられており、B面の最後にあたる12曲目は当時未発表だったライヴテイク、つまり熱心なファンにとってのプレゼントとして置かれている。(もっともこの後 "Wait For Me" のスタジオテイクがなかなかベスト盤に収録されず、多くのファンを嘆かせることになる) いずれにせよ、徹底的にアナログ盤のあり方を意識した曲順になっていることがわかるだろう。A面B面といえば、このベスト盤には洒落た邦題がついていた。『フロム・A・トゥ・One』。A面から Side 1 へ。つまり表面も裏面も甲乙付け難い大ヒット曲集、優劣なしのどちらも第1面であることを宣言するタイトルだった。アナログレコードのレーベル面にも丁寧にそれぞれ Side A、Side 1 と印字されていたように記憶する。 邦題ばかりでなく、原題の "ROCK N' SOUL PART 1" も印象的だ。ホール&オーツの音楽を一言で表現するときによく用いられるのがこの「ロックン・ソウル」。ブルー・アイド・ソウルに基礎を置く彼らが、最先端のロック風味を巧みに取り入れて完成した独自のスタイルだ。敢えて別の邦題を付けた理由は、以前のアルバム "BIGGER THAN BOTH OF US" に既に『ロックン・ソウル』というタイトルを使ってしまっていたからだ。日本側スタッフの先見の明を評価したいところではあるが、ここは出来れば原題も活かしたかった。なぜならば、僕は今でもずっと "ROCK 'N SOUL PART 2" のリリースを待っているから。"Wait for me, please." とダリルは確かに歌ったのだ。 承知のとおり、ホール&オーツの商業的な成功はこのアルバム前後がピークとなった。"BIG BAM BOOM" は個人的にはよく聴いた作品だが、多くのリスナーは少し前までの軽やかなステップを感じることができなかったようだ。その後のアリスタへの移籍も成功したとは言えず、全米での人気凋落はいよいよ激しくなる。忠誠心の厚いファンを抱える日本市場においては、80年代ブームもあって相変わらず頻繁に来日公演が実現しているが、創造的な意味で「時代の半歩先を行く」ホール&オーツの魅力を楽しめたのはこのアルバムの時期までであると断言してもいいだろう。フィリー・ソウルの原点に回帰した近年の作品でも変わらぬ暖かいハーモニーを聴くことが出来るが、その性質は80年代前半のそれとはかなり異なっている。 ダリルもジョンも、まさか忘れたわけじゃあるまい。彼らはわざわざ「第1部」と銘打ってベスト盤を編んだのだ。それならやはり「第2部」を発表する義務がある。この時期の彼らは「こんなの楽勝、いくらでもヒットは作れる」とタカを括っていたのだろう。まさか20年経って「第2部」を編集できないくらいにヒット曲に苦しむなんて予想もしていなかったに違いない。だが、低迷時代も含めて熱心にアルバムを追いかけてきたファンのひとりとして、やはり何らかの形で落とし前をつけてくれることを期待する。つまんなかったら見捨てるかって?とんでもない、I can't go for that, no can do。大丈夫、どんな形であろうと僕は2人を最後まで支持し続けるから。 |