Tori Amos 新作タイトル
"STRANGE LITTLE GIRLS" に寄せて
Tori Amos の新作のタイトルが "STRANGE LITTLE GIRLS" に、発売日が9月18日に決定しました。発売決定を記念して、まだ皆目見当もつかない新作に思いをめぐらせるとともに、最愛の女性ヴォーカリストの1人である彼女のこれまでを振り返ってみたいと思います。 まずタイトル。聞いて最初の感想はきっと皆さんと同じ。「なんて Tori らしいタイトルなんだろう。」 逆にいうと、これまでこのタイトルが曲やアルバムに使われてこなかったのが不思議なくらい。だって、彼女の曲の歌詞やピアノのフレーズのあちこちに、僕は永遠の少女性のようなものを感じずにはいられないのです。もちろんそれは、単なる可愛い「先生のお気に入り」型の少女ではなくて、ある意味ひねくれた、あるいは感情の起伏激しい、あるいは小悪魔的な、あるいはその他変幻自在の「変わった女の子」の姿であるわけですけれど。 そう思ってこれまでの作品を引っくり返してみると、いかに「少女」への言及が多いかが分かります。"LITTLE EARTHQUAKES" アルバムにはそのものズバリ、"Girl" という曲があり、"UNDER THE PINK" には "Cornflake Girl"が、さらに "FROM THE CHOIRGIRL HOTEL" に至ってはアルバムタイトルに織り込まれているくらいです。 一方、"BOYS FOR PELE" はタイトルに「少年」が入ってて曲タイトルにも Lucifer, Muhammad, Jupiter など男性キャラが豊富なため、一見異色にも思えます。実際のところこのアルバムは異色なのであって、サウンド的にもピアノではなくハープシコードの多用など、ちょっと方向性を変えてみた感がありますね。それでもやっぱりテーマは "BOYS" の方ではなくて女神の "PELE" の方だと思うわけです。ブックレット内で子豚に乳房を含ませる Tori の写真からしても、少女というよりは「母親」的なイメージを演出しているような気が。とはいえ、"girl" という単語を含む曲は11曲もある、といったら意外ですか? それではアルバムごとに、歌詞またはタイトルに "girl" という語を含む曲名をリストアップしてみましょう。("Y KANT TORI READ" は対象から外しました) LITTLE EARTHQUAKES (7 songs) ![]() Crucify Girl Silent All These Years Precious Things Happy Phantom Mother Tear In Your Hand UNDER THE PINK (6 songs) ![]() Bells For Her Past The Mission Cornflake Girl Cloud On My Tongue Space Dog Yes, Anastasia BOYS FOR PELE (11 songs) ![]() Father Lucifer Marianne Caught A Lite Sneeze Muhammad My Friend Hey Jupiter Little Amsterdam Talula Not The Red Baron Agent Orange In The Springtime of His Voodoo Twinkle ![]() FROM THE CHOIRGIRL HOTEL (3 songs) Black Dove (January) Northern Lad Playboy Mommy TO VENUS AND BACK (1 song) Juarez ![]() 多少の漏れはあるかもしれませんが、ざっと調べたところではこんなものでしょう。多いですね。やはり Tori 自身、意識してか無意識のうちにか分かりませんが「少女」をテーマにして曲を書いていることが多いということなのかも。少女期のさまざまな体験がソングライティング上の大きなインスピレーションになっている、ということなのかもしれません。 それは "Cornflake Girl" における cornflake girl と raisin girls、あるいは "Black Dove" における "She was a January girl..." のような曲中キャラクターであったりもするし、あるいは明らかに彼女自身を指す言葉として用いられていたりもするわけです。例えば "Girl" における次のフレーズのように。 "He said you're really an ugly girl, but I like the way you play." 蛇足ながらこの曲には "nine inch nails" というフレーズが顔を出すことでも有名ですよね。"UNDER THE PINK" 制作中には Trent Reznor ともかなり親しい仲になったという噂もありました。 さてご覧のとおり、ここ数作、具体的には "FROM THE CHOIRGIRL HOTEL" と "TO VENUS AND BACK" では使用頻度が激減しています。そうした中で新作が "STRANGE LITTLE GIRLS" と題された、というのはとても興味深く思えるのです。 単なる原点回帰ではないでしょう。というのは、新作は昨年9月に Tori に生まれた初めての娘 (= Girl!)、Natashya ちゃんの子育て経験を通して制作されたものだからです。今年37歳になる Tori にとって、女の子を産み、育てるという経験はやはり新鮮かつ不思議に満ちたものだったに違いありません。そのあたりが音的に何らかの影響を与えているかどうか? また、新作のインスピレーションの1つにアメリカのポルノ産業のことが挙げられており、ここで初期の作品に顕著だったジェンダー問題的な視点があらためてクローズアップされるのかどうか? すっかり固定メンバーとなったドラムスの Matt Chamberlain はよいとして、これまた個人的フェイヴァリットの King Crimson からゲスト参加する Adrian Belew はどんなプレイを聴かせてくれるのか? …などなど、興味は尽きません。期待を胸に9月まで、取り出した旧作を並べてじっくり聴き続けることになりそうです。 最後に、Tori がまだ本当に少女だった頃、Myra Ellen Amos だった頃に書いた "Just Ellen" という詞を引用して締めくくりましょう。背伸びしてオトナっぽく振る舞おうとする少女である Tori と、そんな little girl に過ぎない自分を醒めた目で見つめる Tori とが交錯する、とてもとても彼女らしい lyrics だと思います。 "JUST ELLEN" I'm too young for a man But I'm too old for a boy So can't we just pretend That I'm older than I really am But then, only little girls pretend. (May 2001) July 2001 追記: その後、"STRANGE LITTLE GIRLS" はカヴァー曲集であることが判明しました。タイトルはアルバムにも収録された Stranglers の "Strange Little Girl" から取られているようです。Tom Waits や Lloyd Cole をはじめ、Eminem や Slayer なども貪欲にカヴァーする彼女の嗜好にびっくり。ますますリリースが楽しみです。 |