プログレジェクトX 〜 プログレ者たち
この番組は、絶滅の危機に瀕したプログレッシヴ・ロックの復活秘話を紹介するもの
である… -------------------------------------------------------------------------------- ♪風の中のすばる〜 減 り 続 け る リ ス ナ 起死回生の | 産業プログレの失敗 ♪砂の中の銀河〜 消えない烙印 「プログレは売れない」 -------------------------------------------------------------------------------- その日、開発担当の男たちのもとに一本の電話が入った。 「やりました。イエス新作、開発成功です!」 皆にどよめきが走った。 しかし、リーダーのクリス・スクワイア達の期待をよそに、売れ行きは芳しくなかった。 男たちは、泣いた。 企画のスティーヴ・ハウ 「なぜだ、なぜ売れない?」 わからなかった。 スティーヴは新作のCDを自宅に持ち帰った。 そして妻に聞いてみた。 「どう思う?」 妻は答えた。 「イントロが長過ぎて、歌い始めるタイミング逃しちゃいそうね」 スティーヴは唖然とした。 翌朝、出社間際の忙しい時に一歳になる息子が初めて立っちをした! スティーヴはこの記念すべき出来事にイエスのCDをかけて祝福しようとしたが、興奮して手元が覚束ないせいか、CDプレイヤーの再生ボタンが押せない… 何とか押すことはできたものの、長いイントロを演奏し終えてヴォーカルに入るまでの間に、息子は立っちの体制を崩して座りこんでしまった… スティーヴは確信した… 「長いイントロ」はダメだ!…と。 スティーヴは出社後すぐに上層部と掛け合った。 「コンパクトなイントロですぐにキャッチーなコーラスにつながるプログレを出しましょう。必ず売れます」 しかし答えはNOだった。 上層部には「産業プログレは流行らない」と判断されていた。 「流行らないのではない。流行らせるだけの努力が足りないのだ」 そうスティーヴは思った。しかし Boston の新作の失敗、迷走する Asia の不振に社内全体が産業プログレを敬遠し始めていた。 仕方がなかった。 しかし、スティーヴはあきらめなかった。 時を同じくして、リック・ウェイクマンは危機感を抱いていた。今でこそプログレッシヴ・ロックはその複雑な構成と観念的な歌詞により似非インテリ層の支持 を得ているが、次世代ではオルタナティヴ・ロックのバンド群が複雑なリズムを自在に演奏できるようになる。このままでは、古典的なプログレファンすらも奪 われてしまう…。 そのとき、当時、発売されたばかりの Incubus の新作 "A CROW LEFT OF THE MURDER" がリックの耳に入った。極彩色のアートワークに90年代前半の Rush を思わせるテクニカルなリズム展開。斬新で高度な産業オルタナティヴだった。 …やるしかない。 「ここでやめたら、すべてが無駄になる。」 不可能だと言われていた、「ロンリー・ハート」を超えるイエス究極の産業プログレ。 無謀とも言えるその企画の実現へ向けて、男たちは立ち上がった。 だめだ…。リックは頭を抱えた。 古いファンたちは「ロンリー・ハート」を嬉々として弾くリックを冷たくあしらった。 「もっと『危機』として弾きやがれ!」 会場で浴びせかけられる激しい野次に、オーケストラ・ヒットを乱打するリック・ウェイクマンの指が止まった。 「オレはこんなに楽しんで弾いてるというのに…」 プログレはこのまま死を迎えるしかないのか… バンドの誰もが落胆していた。 チャンスが、きた。 「いまこそ、プログレ復活の時だ!」 甘かった。 時期を見誤ったリリースは、社内で在庫の山となった。 そしてオルタナ以降、ロックは拡散と浸透の道をたどり、プログレは停滞した。 「グランジに路線変更したよ!」ある日、企画のスティーヴが言った。 皆、唖然とした。 「子供が立つ瞬間に鳴らせないプログレなんかいらないんだよ!」 誰も何も言えなかった。 1週間後、来社したスティーヴの顔は憔悴しきっていた。 「息子が、グラン死した。」 寒い駄洒落に、皆の目が、冷たかった。 ようやくスティーヴもオルタナのうわべだけの華やかさに気付いた。 ジョン・アンダーソンやアラン・ホワイトも携帯の着メロをアリス・イン・チェインズからイエスやジェネシスに変更し始めた。 「グラン死をなくしたい」 男たちの熱い願いをかなえる戦いが、再び始まった。 200X年4月1日。 革命がおきた。 『CLOSE TO THE LONELY HEART(仮)』。 AORのように爽やかで、ファンクのようにしなやか。 現代音楽のように複雑で、産業ロックのようにキャッチー。 そんな、夢のようなプログレ。 そうして現在に至るまでプログレは皆に愛されながら聴かれている。 -------------------------------------------------------------------------------- ♪「宮殿」のクリムゾン 「狂気」のフロイド みんなどこへ行った 新作発表もせず 歌手不在ジェネシス 謎ばかりのマグマ みんなどこへ行った 後継者が出ることもなく あんなにあったバンドを誰も覚えていない ファンはチャートばかり見てる イエスよ 「南の空」から 教えてよ 「同志」の様子を イエスよ 「悟りの境地」は 今何処にあるのだろう ♪がけっぷちのELP ジリ貧のエイジア みんな何処へ行った メジャーレーベル契約もなく 耳あたりの良さを追って 格好の良さを追って 人はヒップホップばかり聴いてる イエスよ 「危機」の淵から 教えてよ 「クジラ」への愛を イエスよ 「究極」の作品は 今何処にあるのだろう 『プログレジェクトX』 完 (May, 2004) |