オビ論研究序説
日本盤レコード/CDにつきものの「解説文」と「歌詞対訳」。 わが国固有の独自文化だろう。オリジナルの輸入盤にアーティストの略歴やその作品の意義・位置付けといった詳細なライナーノーツがつくことは、編集盤や再発盤でもない限り、通常はありえない。音楽を聴くのにいちいち評論家のゴタクを読むなんてことはしないのだ。自分が惚れこんだらそれが名盤。たとえ先生方がどう絶賛しようと、気に入らなきゃゴミCD。それが西洋流個人主義。周囲の顔色なんてうかがっちゃいねえ。誤訳だらけの日本盤歌詞対訳に至っては、何をか言わんやである。 それはそれで結構なのだが、もうひとつの日本独自文化の方は大事にしてあげねばなるまい。 それは、レコード/CDの「帯(オビ)」である。 形状をより正確に形容するならば、CDのそれはオビではない。だが、アナログLP時代にジャケットの端をぐるりと帯状に取り巻いたあの紙片の精神が生きている限り、やっぱりそれもオビだろう。いずれにせよ、日本盤と輸入盤を厳然と分かつ境界線、それが「オビ」なのである。 しからばこのオビの効用はいったい何であるか。 大きく分けて3点が挙げられる。そのいずれも、馴染みのない言語で歌われる「外国の音楽」を聴くといういささか酔狂なユーザを想定した、至れり尽せりのマーケティング戦略に則ったものだ。 (1)アルバムタイトル/アーティスト名の紹介 そもそも、外国のレコードは題名からしてよく分からんのである。 ジャケットには謎の文字群が並んでいる上に、仮に読めたとしてもその意味するところはしばしば理解の範囲を超えている。だからこそ、"THRILLER" には『スリラー』とカナを振ってやらねばならないし、"THE SOUTHERN HARMONY AND THE MUSICAL COMPANION" は『サザン・ハーモニー』に短縮されねばならず、"DARK SIDE OF THE MOON" は『狂気』と意訳され、はたまた "EFFIL4ZAGGIN" が『主張あるニガー』になってしまったりするのだ(これはむしろアーティスト名の意訳)。そう、ここに、この幅数センチの「オビ」という舞台の上で「邦題」という日本的な、あまりにも日本的な創作精神が花開いてしまうのである。だが、邦題についてはそれだけで十分な研究対象足りうるほど奥が深いジャンルでもあり、ここでは割愛したい。 余談だが、全く同様の理由により「邦アーティスト名」が生じることがあることを指摘しておこう。普通 Sade を『シャーデー』と読めたり、Zhane を『ジャネイ』と読める人は多くない。そこで例えば Duran Duran には『デュラン・デュラン』という発音が割り当てられ、言わば記号としてオビの上で躍動するわけだ。実際にはむしろ「ぢゅらーんぢゅらーん」に近い発音のような気もするが、いずれにせよこうして日本語としての読みが確定する。 そして時には Queensryche を『クイーンズライチ』にしてしまったり、Xscape が『エスケイプ』になってしまったり、Lipps, Inc. を『リップス』にしてしまうような日本独特のアーティスト名、すなわち「邦アーティスト名」が誕生してしまうことになる。これは立派な日本文化であり、恥じることはない。時にはトミー・ボーリンが『當墓林』とわざわざジャケット上に印字してしまうくらい、海外においても邦アーティスト名はリスペクトされているのだから。 (2)収録曲の紹介 言わばコンテンツの紹介だが、ここでも邦題の美学が炸裂する。 プログレッシブ・ロックにおいて難解な日本語が多用されたり、Air Supply において原題に全く関係ない「渚」絡みのフレーズが多発したりする現象はよく知られている。だがそれもまた別の機会に詳述することとしよう。今私が語らねばならないのは、何をおいても第3番目の効用だ。 (3)タタキ文句 何と長い前振りだったことか。 要するにこれである。私が考える日本盤オビの効用の最たるものというのは。 わずかなオビのスペースを用いて、アルバムの宣伝文句をぐっと凝縮したコピー。当然多くの特徴を語ることはできない。限界まで贅肉を削ぎ落としたフレーズで、簡潔かつ的確に、購買ターゲット層の心を動かし財布の紐を緩めなくてはならないのだ。 例えば、以下の例を見てみよう。 No.1 アメリカン・ハード・ロック・バンドのプライドが炸裂する4年振りのオリジナル・ニュー・アルバム、満を持して堂々のリリース!! (「バランス」(1995)/ヴァン・ヘイレン) ここには、Van Halen がアメリカン・ハードロックのトップバンドであること、4年振りという久々のリリースであること、そこにはプライドが炸裂していること、などの情報が凝縮されている。悪くはないが、決して面白いものではない。 次の例を見てみよう。 「パープル・レイン」は、ほんの予告だった…。 より美しく、より過激に、世紀末に咲き誇るマルチ・ミュージシャン=プリンス!! (「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」(1985)/プリンス&ザ・レヴォリューション) ここでは、具体的な音のイメージにはほとんど触れられていないながらも「美」「過激」「世紀末」「マルチ・ミュージシャン」といった刺激的なフレーズを散りばめ、記録的な大ベストセラーである「パープル・レイン」すらも予告編に過ぎなかったと位置付けることで、本作への期待感を煽ることに成功していると言えよう。 こうしてオビのタタキ文句を眺めていくと、何かに似ていることに気づかないだろうか? 余分なコトバの削ぎ落とし、語感の重視、ある種の侘び寂び感… そう、これは俳句や短歌に通じる世界ではないか。 これぞ純日本的な美意識であり、陰影と余韻を楽しむ和風の美的感覚なのである。してみると、日本盤に特有な「オビ」なる紙片にこうしたフレーズが書きつけられているのも半ば当然のこととして受け入れられるし、じっと見ていると「オビ」が短冊のようにも見えてくるから不思議というほかない。 では、手元のCDライブラリからランダムにピックアップしたオビのタタキ文句を列挙しながら講評してみよう。 あの感動を再び…。アイルランドより遥かなる想いを込めて贈ります。デンマーク・ライヴ・三曲及び、アルバム未発表曲収録。 (「ザ・コアーズ・ライヴ」(1996)/ザ・コアーズ) 変わってみたい、貴方のために… レイ・デイヴィス(キンクス)、アンディ・パートリッジ(XTC)ら参加。日本盤のみボーナス・トラック2曲追加収録。 (「私って…?」(1996)/キャシー・デニス) イギリスの生んだ最もインテリジェンス溢れるロック・グループ、フィクス。 鬼才ルパート・ハインの手によって誕生した衝撃のデビュー・アルバム。 (「シャタード・ルーム」(1982)/フィクス) 何もかもが妖しい! "ニュー・ウェイブ以降の英ロック界の最も魅力的なバンド" フィクスの2ndアルバムは新鮮な感動を与えてアッという間にアメリカでもベスト・セラー。妖才サイ・カーニンを中心に陳腐なラブ.ソングを拒否し、シャープでモダンな新主流派サウンドを創るフィクスに胸ゾクゾク! (「リーチ・ザ・ビーチ」(1983)/フィクス) 幻惑のサウンド・コラージュ 時代感覚に溢れるファンキー・ビートと伝統的ブリティッシュ・サウンドのエッセンスでさらに飛翔! 妖しくも美しい魅力にもう虜!! (「ファントムズ」(1984)/フィクス) 研ぎ澄まされた感性。美しくも幻想的な旋律(メロディ)。 「ファントムズ」から2年、ベーシスト、ダニー・ブラウンを正式メンバーとして迎えたフィクス。ロック・シーンで最もインテリジェンス溢れる彼らの話題の最新作!! (「ウォークアバウト」(1986)/フィクス) サンセット・グリルに行くと、1人の男がいつもいるんだ。 過ぎた夏の思い出をビールでやり過ごし、そいつは女を待っている。遠い昔の恋人を…… (「ビルディング・ザ・パーフェクト・ビースト」(1984)/ドン・ヘンリー) いかがだろうか。 小さなスペースに、実に様々なドラマが展開されていることがお分かりいただけると思う。特にドン・ヘンリーのものは、シングルにもなった大曲 "Sunset Grill" のタイトルや "The Boys of Summer" のイメージを織り込みつつ、アルバム全体を貫くテーマをしっかりとまとめあげており、極めて高く評価できる一作だといえる。 続いて、この WINTER WONDERLAND でも大々的に取り上げている「ベスト盤」のオビについて考察してみることにする。 栄光の軌跡、未来への展望。すべてがここにある。新ヴォーカリストを迎え、新曲4曲を同時収録! (「グレイテスト・ヒッツ」(1990)/TOTO) その新ヴォーカリスト (Jean-Michel Byron)が全然ぱっとせず、早々に消え去ってしまったことを思えば、なかなか貴重なオビだと言えるかもしれない。ただし、貧弱な収録曲数からして「すべてがここにある」という看板には偽りありと言わねばなるまい。これはまだいい方だが、一般にベスト盤のオビはつまらないものが多く、ベスト盤コレクターとしてはしばしば落胆させられる。例えば次の例などはどうか。 グレイトな、まさしく"ヒット曲集"。 〜新曲2曲を含む、初めてのベスト・ヒット・セレクション・アルバム。 (「グレイテスト・ヒッツ」(1989)/ビリー・オーシャン) これはいったい何であろうか? もはやオビとしての機能を放棄しているとしか思えない。もちろん内容とタタキ文句のクオリティとは一切関連がないのであって、ビリーの素晴らしい声を楽しめるお気に入りベスト盤なのではあるが…。 そのほか、手近にあったものを列挙すると以下のとおりである。 時代を揺さぶる巨大なロック −デフ・レパード− 世界を変えた15年間の軌跡 (「グレイテスト・ヒッツ」(1995)/デフ・レパード) イギリスが生んだ天才スーパー・スター=ジョージ・マイケル。キング・オブ・ポップが復活! 今までのキャリアの集大成が、新曲3曲とともに2枚組でリリース。シンガー:ジョージ・マイケルの魅力の全てがここに。 沈黙よりも、彼は歌うことを選んだ…。 (「レディース・アンド・ジェントルマン… ザ・ベスト・オブ・ジョージ・マイケル」(1998)) 炎のソウル・クイーンが今、その全貌を明らかにする。4年の沈黙を破り、チャカが放つ、キャリア初のベスト・コレクション! (「チャカ・カーン・ベスト!〜エピファニー」(1996)/チャカ・カーン) ソウル&ロックの女王ティナ究極のベスト!! ロッド・スチュワートとのデュエット他、計6曲に及ぶ新作・新録を含む、全19曲もの豪華ラインアップ! (「シンプリー・ザ・ベスト」(1991)/ティナ・ターナー) 英国が生んだスーパースター、クリス・レア 本物の中の本物のベスト・アルバムが今ここに… (「ザ・ベスト・オブ・クリス・レア」(1994)) マッドネスのスカ・ビートは永遠だ!! 70年代後半〜80年代前半にかけて大ヒットしたシングル満載の究極のベスト・アルバム・ボーナストラック収録。 (「ベスト・オブ・マッドネス」(1992)/マッドネス) 手際よくまとめようとした優等生的な事例が多い中、次のアイテムのフレーズなどは結構洒落ている。 大人の恋を考察する16編のショート・ストーリー。 新曲「エンジェル」及び過去10年間のヒット曲をすべて収録したキャリア初のベスト・アルバム。 (「グレイテスト・ヒッツ」(1996)/シンプリー・レッド) オビ論を語るにあたって忘れることができないのがハードロック/へヴィメタルというジャンルであろう。ここには印象的な名「オビ」が数多く存在する。 新たな次元への飛躍。 メタリカ−−第5作。 (「METALLICA」(1991)/メタリカ) 「METALLICA」を超えるのは、メタリカだけだ。 進化するメタリカが全世界に放つ5年ぶりの衝撃作!! (「LOAD」(1996)/メタリカ) 余分な解説は要らない。 近年のメタリカの音同様、ソリッドに迫るタタキが清々しい。 一方、知的な音を売りにしている次のバンドも特徴的だ。 崇高なる理想を追求し孤塁を守る最後の帝国。 クリーンズライチのニュー・アルバム、遂に完成!! (「エンパイア」(1990)/クイーンズライチ) 4年間の沈黙… そして今忽然と姿を現した、壮大なるメタル哲学の全貌!! (「約束の地−プロミスト・ランド−」(1994)/クイーンズライチ) リスナーがこのバンドに期待する、知的で硬派なコトバが乱れ飛ぶ。似た位置にいるドリーム・シアターのタタキもなかなかのものだが、例えば次の作品などはむしろ失敗例として挙げるべきかもしれない。 無限の空間に広がる様々なドラマを集大成にした悲しくも切ない夢のストーリーが今… (「フォーリング・イントゥ・インフィニティ」(1997)/ドリーム・シアター) 「無限」「夢」という、アルバム名/アーティスト名の織り込みはなかなかだが、今ひとつキレがよろしくない。ちょうど音そのものが転換期だったのだが、オビの方が変化についていけなかった感がある。 個人的なお気に入りは、次のバンドのものだ。 シーンきっての危険な集団が遂に全米を席巻する瞬間(とき)が来た。ニュー・アルバム、こいつはスゴイぞ!! (「俗悪」(1992)/パンテラ) パワー! エナジー! さらなるアグレッション!! 現代に叩きつけられた強靭な一撃! (「脳殺」(1994)/パンテラ) 特に「脳殺」は、音的にもほとんどこう形容するしかないものであり、実によくできたオビだと考えている。アルバム邦題も素晴らしいと言わざるを得ない。 メタル系では最後に次の1枚を挙げておこう。 4人の完璧な結束のもとに、純粋メガデス・サウンドがここに完成!! 新世紀を予見する待望のニュー・アルバム!! (「破滅へのカウントダウン」(1992)/メガデス) 確かに新世紀にはなったが、予見されたとおりの時代になっただろうか。 「完璧な結束」の一端を担ったニック・メンツァとマーティ・フリードマンの意見も聞いてみたいものである。 さて、これまた外せないジャンルにプログレがある。たいへん長くなってしまうので、自分の大好きなイエスの主なオビを列挙するにとどめたい。 72年、世界のスーパー・グループに飛躍したブリティッシュ・ロック界最大のホープ! (「こわれもの」(1972)/イエス) イエスの初期の代表曲を集めたベスト選曲に未発表ライヴ・ヴァージョンのシングル付!! 高度のテクニックと高い精神性で透明な別世界へと誘うイエスの魔力、再び!! (「クラシック・イエス/ベスト・オブ・イエス」(1981)/イエス) グループ結成以来14年、運命の糸は再び男達を結びつけた。イエス復活を劇的に演出する超話題作!! (「ロンリー・ハート」(1983)/イエス) あの「ロンリー・ハート」から4年。無限の創造力が時代を超えて再び動きだした。これが新しいYES。ビッグ・ジェネレイター。 (「ビッグ・ジェネレイター」(1987)/イエス) 完全無欠。「こわれもの」「危機」の名作を生んだイエスの黄金のラインナップ・バンド ABWHに、かつてイエスに在籍した主要メンバーたちが合体! 歴史を揺さぶる超スーパー・グループとして生まれ変わった。 (「結晶」(1991)/イエス) イエス史上最高傑作誕生!! 大ヒット作 "ロンリー・ハート" を生み出したメンバーによる最新作。"ロンリー・ハート" の流れをくむポップな楽曲から、約16分に及ぶ "危機" の続編まで、息をもつかせぬイエス・ワールド完成。 (「TALK」(1994)/イエス) 途中からは過去の名作タイトルを引用するばかりになってしまっていることがよく分かる。残念ながらそうしたアルバムは、過去の作品を超えるものではない。そもそも、自ら「史上最高傑作」と名乗るアルバムをどうやって信じられようか。買い手にとって、オビから読み取らねばならない重大な危険信号だと言えるだろう。 続いてR&B/ソウルにいってみよう。まずは当たり障りないマライアから。 愛する心を信じて。 夢見る恋人たちへ、マライア・キャリー7オクターブのラヴ・メッセージ。 (「ミュージック・ボックス」(1993)/マライア・キャリー) 虹の果てには夢と愛がある… マライアが世界に架ける幸せの虹。90年代最高の女性ヴォーカリスト、マライア・キャリーが贈る新しい幕開け (「RAINBOW」(1999)/マライア・キャリー) 「夢」とか「愛」とかいうキーワードで塗り固められた虚構の城の頂上から見下ろす光景に、きっとあなたも眩暈がするのではないだろうか。 以下、ランダムに手に届くCDをピックアップしてみたい。よい出来のものもあれば、そうでないものもあることが見てとれることと思う。 弾むビートにうねる腰! 更に分厚くファンクするザ・タイム3枚目の傑作アルバム。映画「パープル・レイン」で使用された全米ヒット・シングル「ジャングル・ラヴ」「ザ・バード」収録。 (「アイスクリーム・キャッスル」(1984)/ザ・タイム(再発CD)) 昼も夜も見つめて欲しい。 衝撃のデビュー・アルバムから約3年。皆が待ちこがれた2ndアルバムが遂に登場。全米大ヒット曲「G.H.E.T.T.O.U.T.」収録。 (「オール・デイ、オール・ナイト」(1997)/チェンジング・フェイシス) 最新のHIP・HOP・SOULアルバム。そして最高のヴォーカル・アルバム。 責任プロデュース ジャーメイン・デュプリ (「オフ・ザ・フック」(1995)/エクスケイプ) 悩殺! 彼女の挑発に堪えられますか? U.S.大ヒットシングル「フリーク・ライク・ミー」収録! (「ドゥ・ユー・ワナ・ライド」(1995)/アディーナ・ハワード) 以下はなかなかのお気に入りだ。 焦がれるハートと熱い吐息 −−恋愛事件(ラブ・アフェア)の主人公たちへ…。 (「ラブ・アフェア」(1993)/トニー・ブラクストン) これはアルバムタイトルと、シングルヒットの邦題「熱い吐息」をうまく織り込んである点で評価できる。 溢れる想い、届かぬ想い… かくも美しき "All The Things" で世界中の男と女を虜にした JOE 待望のジャイヴ移籍第一弾アルバムが今、あなたの手の中に。きっと一生手放せなくなる… (「オール・ザット・アイ・アム」(1997)/ジョー) ライナーも書いている松尾 潔がさらりと書いたのではないかと想像されるタタキだが、確かに自分も手放せなくなっている。よくできたアルバムであり、オビだといえるのではないか。 そして、時にはセンス・オブ・ユーモアも必要だ。お店でちらりと目にした Amber の大ヒットマキシCDシングルのオビには度肝を抜かれ、次の瞬間、オビのコレクションのためだけにレジでお金を支払っている自分がいた。 アーバンな夜はアンバーから… (「THIS IS YOUR NIGHT」(1996)/アンバー) さて、私のオビ論序説もいよいよ終わりが近づいてきた。 Essays 既出のショート・ストーリー「『夢。夢のあと』のあと」は好評をいただき、一部ではフォロワーも出現しているようだが、実際のところ、あのアイディアは決してオリジナルではない。上のトニー・ブラクストンやドン・ヘンリーの作品にもあったように、オビにおいて曲名やアルバム名を織り込んだ名文句はいくつも存在してきたのだ。 しかし、以下のシリーズほどそれを徹底的にやり尽くしたCDはなかった。 それは、私の愛する80年代ヒット曲のコンピレーション『We are the '80s』である。大阪のFM802が企画したこのシリーズは様々なレーベルからリリースされたが、そのいずれもがオビタタキにおいて大々的に収録曲によるタイトル遊びを展開したのだ。この時の衝撃は忘れることができない。 その傑作群からいくつかを紹介して、本序説を締めくくることにしよう。 恋におぼれてマニアックなまでに情熱物語。哀愁のマンデイにカモン・アイリーンとシャウトすれど得られぬ愛の証しにファンキータウンをさまよい孤独のナイト・ゲームス…。 想い出のスニーカーを履いてレッスンズ・イン・ラヴ。エンドレス・ラヴを誓うもヤング・アット・ハートの二人。愛はかげろうのようにはかなく、愛しのヴィーナスはゴーイン・バック・トゥ・チャイナ…。 ロンリー・ハートのローズを誘い、シー・オブ・ラヴへCARSでドライヴ。そよ風に口づけしようとテイク・オン・ミー。が、YESと応じぬ今夜は気まぐれなカリフォルニア・ガールズ。a〜haとため息。恋はあせらずリラックス… 今じゃなつかしふたりのイエスタデイ。 ボストンからあなたを夢みてやって来たシスター "クリス" ちゃん。愛しのヒムと喫茶アマンダでヒート・イズ・オン! ペットのワンちゃんお供にブルー・メルセデスに乗り、リアル・ラヴの証しにティファニーへ。チャーリー、今夜はSEXトン? 渚の誓いにホールド・ミー・ナウ。気になるふたりはセクシー&セヴンティーン。スターシップで繰り出すクール・ナイト。愛しのキリエはアイ・ライク・ショパン。が、チワワも吠えるファンキータウン。タコ焼き頬張り踊るリッツの夜は更けゆく…。 (March, 2001) |