September 1995
一聴して耳を引く音ならどこにでも転がっている。だけど、その中で繰り返し聴くに耐える本物のメロディは、一体どれほどあるだろう?
そして、繰り返し聴き込むほどにじわじわと良さを増してくる作品って?
…なんて思わずマジに振ってしまいたくなるほど、フランシス・ダナリーの新作
"TALL BLONDE HELICOPTER" は良いアルバムです。彼がヴォーカルとギターで活躍していた前のバンド
It Bites のサウンドが初期ジェネシスあたりの影響顕著なブリティッシュ・ロックだったこともあって、プログレの範疇で語られることも多い彼ですが、ソロになってからは到底プログレとは呼べない作風。特に1995年に入ってからの彼は、フォーキーでアコースティックなアレンジのもと、とにかく「良いメロディ」を聴かせることに専念しています。僕が購入できたのは
Atlantic Records からリリースされたアメリカ盤CDなので、ロンドンのHMVでは19ポンド近い高値がついています。最近のレートで約3,000円くらいかな。何とも地味でダサいジャケット。犬を抱いたフランシス、モノクロ写真で頭も丸めちゃってます。似合わないよねえ。
でも、そんなことどうでもいい。
丁寧に紡がれたメロディ、アコースティックギターを中心に据えた端正なアレンジ。前作
"FEARLESS" のとっ散らかりようがウソのような一貫性のある作風。起伏はたくさんあるのだけれど、なぜかそうは感じさせません。うまく並べられた15曲が、あっという間に僕の中を駆け抜けていきます。中でも特に印象的なのは、やはり4月に
Mean Fiddler で観たライヴの時に既に演奏されていた
"Too Much Saturn" と "Grateful and Thankful"。後者は思い出すだけで何故か涙が溢れてくるくらいにいい。女性コーラスを軽く絡ませた
"Rain or Shine" も良いし、しっとりと切ない情景が目に浮かぶ
"Only New York Going On" もグッド。
グランジとヒップホップがチャートを席巻する現在、レコード会社としては一番売りにくいタイプのアーティストかもしれません。でも本物かどうかはセールスとは別の次元で語られるべきだし、ニフティサーブのロックラインフォーラムなどでのフランシスへの反応を見ていると、数は多くなくとも確実に本物のファンを掴んでいるようで嬉しい。こんなに綺麗なメロディを書けて、かつ独特の声を持っているシンガーって、今どんどん少なくなっているような気がします。
秋の夜更けに、ゆっくりと聴いていたい1枚。
心から、お薦めします。
January 2003 追記
95年、本当によく聴いたアルバム。確かこの年の個人的ベストアルバムを並べた時のトップ5に入れたんじゃないかな。今でもときどき取り出してかけますが、余計な装飾がないだけに経年変化に強いメロディにホロリとさせられます。2002年には元
Squeeze のChris Difford のアルバムに参加、一緒にツアーに出たりして話題を振りまいてくれました。エイミー・マンといい彼といい、微妙にスクイーズにつながっていくのは不思議。良質のメロディが友を呼ぶのだろうか。
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