The Black Crowes @ Wembley Stadium


15 July 1995

 ついに黒烏たちを生で観ることができました!

 …正しくは 「Rolling Stons @ Wembley Stadium」 というタイトルであるべきなのかもしれませんが、自分にとってはたとえ前座であろうと、数年越しの夢が叶った喜びの方が大きいのです。ストーンズは "STEEL WHEELS" の来日公演も観てるしね。前回のブラック・クロウズ来日公演はまさに就職活動の真っ只中だったため泣く泣く諦めましたが、今回はその就職活動で拾ってくれた某社が命じた転勤先・ロンドンでの遭遇。江戸の仇を長崎で、いや倫敦で取らせていただきます。



 しかし、雨。

 昨日まで夏そのものの真っ青な空だったというのに、急にとんでもない天気になってしまいました。最近どうも雨男っぽくなったなあ。この日のためにチャリング・クロス近くのフリマで92年ツアーの黒烏公認Tシャツを(たったの5ポンドで)買ったというのに、Gジャンなしではとても耐えられないほど肌寒い日になってしまいました。でもウェンブリー・スタジアムに到着してみると黒烏Tシャツは一人見掛けたかどうかという程度、あとは圧倒的にストーンズTシャツ。そりゃそうだ、ブラック・クロウズは前座バンドなのですから。

 巨大なシルバーメタリックのステージセットに雨がパラパラ降っています。先程までは土砂振りでしたが、さっと降ってさっと止むのがこの地らしい変わりやすいお天気。それにしても幅広い客層です。見渡せば、60年代から追っかけてる人、70年代に出会った人、80年代に触れた人、そして昨年の "VOODOO LOUNGE" アルバムで初めてファンになった人に至るまで、老若男女、偏りというものが全く見られません。さすがは国民的バンド、ローリング・ストーンズ。まあイギリス人にしてみればストーンズのロックなんて空気みたいなものかもしれない。ことさら身構えて聴くものじゃなくて、これまでいつもそこに在ったし、これからも多分ずっと在り続けるもの、として街に流れているわけです。もちろん日本のように1万円も出してみるライヴではなく、その約3分の1の値段でブラック・クロウズのオマケつきで見るべきバンドらしいです。チキショー、羨まし過ぎる。

 どうも前置きが長くてすみません。様子を伝えついでに開演前に流れていたBGMなどをご紹介しますと、

"Smells Like Teen Spirit" - Nirvana
"More Human Than Human" - White Zombie
"Reckoning Day" - Megadeth
"Damaged" - Queensryche

 などなど。そして、The Tea Party "The River" のあの妖しいビートがスタジアムに鳴り響いた時の嬉しさといったらなかったなあ。誰の趣味だったのか分からないけど、実にカッコいい選曲でした。



 さてさて18時30分、BGMがフェードアウトして満員(7万人強)に膨れ上がったウェンブリー・スタジアムについにアトランタの黒烏たちが姿を現します! ステージ近辺では巨大な星条旗を振っているお客さんも見えます。アメリカ人なのかな? ツインギターにキーボーディスト付き、さらに今回のツアーには専任パーカッショニストまでいますから、ステージ上はかなりゴチャゴチャしている。そのパーカッショニストが叩き出す土着的なリズムに、紫のTシャツを着たクリス・ロビンソン(細ーい!)がマラカスを振り、リッチ・ロビンソンがひどく生っぽいリフを刻み始めると1曲目の "Gone" がスタート。

 傑作 "AMORICA" のオープニングを飾る楽曲、クリスの振り絞るような凄まじい気迫のこもったヴォーカルにスタジアムがどよめきます。ああ、まさに 「凄い」 としか言いようのないその声。そこら辺のスティーヴ・マリオットのフォロワー達とは明確に一線を画する 「本物のニセモノ」 です。雨後の筍のようなブルーズ・ロックのムーヴメントの中で、なぜ奴らだけが全米制覇を成し遂げることができたのか。あまりにも存在感のあるクリス・ロビンソンのこのヴォーカルこそがその問に対する回答。

 ただボン・ジョヴィの時にも書きましたけど、前座と本編の扱いの違いは非常に大きいです。曲の始まりと終わりには一応大きな拍手が起こるものの「所詮は前座だし」的な雰囲気は否定できません。スタジアムのあちこちからマリファナのアヤシイ煙が立ち昇る中、世界一仲の悪い兄弟バンドの熱い熱い演奏が上を滑っていきます。気持ちいい… タテに揺れるのではなく横にうねるのが彼らのグルーヴの身上ですが、"Gone" はその典型例と言えるでしょう。

 2曲目までに随分間が空きます。何やらクリスとリッチが話し込んでいる様子。会場の盛り上がりの悪さについて、どちらの責任か言い争いでもしてるのかな? ステージ上で殴り合う兄弟なんてのもスゴイかも…なんて勝手に想像を膨らませていると、リッチがギターをかき鳴らし始めて2曲目に突入。おお、いきなりの新曲!

 彼らのライヴの特徴に突然未発表曲を演奏し始めるというのがありますが、満員のウェンブリー・スタジアムで、しかも前座で2曲目に繰り出すとは大した度胸。ヴォーカルはまだ部分的にしか完成していないようで、すんげえカッコいいブルージィなギター/ベースのリフを核としたジャムセッション風。ハモンドオルガンとパーカッションも入り乱れ、凄まじいグルーヴを醸し出します。こういうの、彼らにとっちゃ朝飯前って感じなんだろうなあ。身体の中に染み込んでるみたい。今回のライヴの特徴として、叩きモノ系プレイヤーが2人いるのが何といっても強いです。リズムが縦に横に複雑に折り込まれたタペストリー状態。う〜ん、快感です。いくつものキメのフレーズをこなしつつ展開したハードなジャムは、リッチがギターネックを大きくひと振りすると終了しました。

 3曲目は全米#1アルバム 『サザン・ハーモニー』 から "Black Moon Creeping"。動きのはっきりした曲だけに会場も乗ってきます。アルバムテイクとは迫力というか、音圧が全然違うんですよね。やっぱ叩き上げライヴバンドだよなあ。この曲の演奏中、ステージ上には赤マントと赤のマスクに身を包んだ全身真っ赤の着ぐるみ悪魔くんがウロウロしています。イマイチ意味不明な演出でした。ううむ…

 続いて、美しいピアノのイントロに導かれて "Ballad In Urgency" に入るともうメロメロです。ひたすら、ズブズブに濃い展開。こういうのやらせた時にニセモノとの格の違いがはっきり出るんだよね〜。ほとんど自分に酔ってるとしか聞こえないクリスのヴォーカルも、もっともっと酔ってくれ!状態。リッチなど最近のインタビューで、ブラック・クロウズは自己陶酔的だと批判に対し、「ロックとは自己陶酔的でなくてはならない!」 と断言しております。その心意気やよし。

 とその時。
 ん? ウェンブリー・スタジアムに一陣の冷たい風が吹き渡る。不吉な予感。

 折しも楽曲はアウトロのピアノからリッチの壮大なスライドギター・ソロへ。素晴らしきトーンが空まで届いたのか、何と再び雨が降ってきましたではありませんか。スタッフが慌ててアンプに覆いを掛けます。しかし雨はますます激しくなり、土砂降りへ! えっ、マジで? おいおいせっかくの黒烏ライヴ中なんだぜ、そりゃないよ〜。バケツを引っくり返したような物凄い雨にどよめく野外アリーナ席のお客さんたち。ぐしょ濡れになりながら、数千人単位で一斉に屋根付きスタンド席に掛け込んできます。降り注ぐ雨の中、ピアノの音色が実に美しく最後のフレーズまで弾ききり、ここでライヴは中断。逃げ惑う観客たちを前に、クリス・ロビンソンは "Thank you, see you later, have a good day." と言い残し、小さく手を振ってステージから降りていきました。少し悲しそうな顔をしながら。

 結局、その後ブラック・クロウズがステージに戻ることはありませんでした。まさにこれから、というところで涙、また涙のレポートになってしまいましたが、それでも彼らのケタ違いの迫力は確かに肌で感じたつもりです。"AMORICA" のセールス不振は多少気になりますが、ぜひ再び彼らのライヴを生で体験したいものだと思っています…



 ちなみに、ひとしきり降った雨は午後7時過ぎになって止み、晴れ間がのぞいてローリング・ストーンズを迎えることになりました。規制でガチガチの東京ドームと違って火器使用バリバリのものすごいステージ。ほとんどセット全体が火を噴き、一瞬一瞬がクライマックスの連続というとんでもない見世物を存分に楽しませてもらいました。とてもうちの両親と同じくらいの年齢とは思えんな…

 アンコールの "Jumpin' Jack Flash" が終了するや否や、矢継ぎ早に約50連発の激しい打ち上げ花火が僕らの頭上で炸裂します。大歓声に包まれる中、今頃あの兄弟また喧嘩してるのかな?なんて思いを馳せながら、ウェンブリーからの帰途につきました。


July 2002 追記

 「世界一仲の悪い兄弟バンド」 の座は Oasis に奪われてしまったのかもしれませんが、彼らと The Black Crowes が組んで全米ツアーをするという駄洒落のような企画がその後実現してしまったのだから世の中分からないものです。

 "AMORICA" 以降、黒烏のセールスは下降線を辿り始めます。しかしその後も彼らの基本的なスタンスにはブレがなかったし、個人的にもこの "AMORICA" のグルーヴは非常に気に入っています。これを書いている時点で彼らはどうやらバンド活動にピリオドを打ちつつあり、クリス・ロビンソンのソロ活動の噂も聞こえています。うん、それもいいけどさ、今後もたまには兄弟2人であの絶妙のグルーヴとブルーズを聞かせておくれよ。今度こそはフルステージで見せてもらうから。


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