Daryl Hall & John Oates @ 東京国際フォーラム



 「現役ってそういうことだったのか会議」

 …ホール&オーツの今年の来日公演をわずか一行に要約。
 直前に観たバングルスの素晴らしいコンサートとともに、「いい感じに歳をとる」カッコよさを感じさせてくれるものになりました。80年代ブームに合わせ、ここ数年頻繁に来日している彼らですが、正直言ってこんなにも現役感を漂わせた演奏をしてくれるとは予想していませんでした。彼らのコンサートは過去2回観ていますが、個人的には今回が一番良かったと思います。ライヴ会場から当日券があることを連絡してくださったまほさんに感謝。おかげさまで、東京国際フォーラム1階18列中央付近で観ることができました。

 現役感の理由は、ダリルのヴォーカルがとても安定していて、派手なフェイクをせずに歌ってくれたということもありますが、何といってもやはり充実した新作を携えてのツアーだったことが大きいでしょう。バングルスも新作からの楽曲が良かったのですが、H&Oのニューアルバム "DO IT FOR LOVE" も負けず劣らず素晴らしい作品。アコースティックで、ソウルフルで、1曲目からラストまでぐいぐい引き込まれる「歌心」に溢れています。80年代にブレイクしたモダンな音も素敵でしたが、彼らの軌跡はどうやら大きな輪を描いてぐるりと一周し、フィリーソウル的なルーツ地点に戻ってきたようですね。

***

 それではバランスの良いセットリストを見てみましょう。

Daryl Hall & John Oates Japan Tour set list
25/May/2003

1. Adult Education
2. Method of Modern Love
3. Man On A Mission
4. Say It Isn't So
5. Do It For Love
6. Family Man
7. Life's Too Short
8. Starting All Over Again
9. She's Gone
10. Color of Love
11. Getaway Car
12. One On One
13. Someday We'll Know
14. Wait For Me
15. Sara Smile
16. I Can't Go For That
17. Maneater

-Encore-
18. Rich Girl
19. Kiss On My List
20. Private Eyes

-More encore-
21. What's Goin' On



 ちなみにバックバンドは、
 Charlie DeChant (Saxophone, keyboard, percussion, etc.)
 Jeff Catania (Guitar)
 John Korba (Keyboard)
 Mike Braun (Drums)
 T-Bone Wolk (Bass)


 の5人。T-Bone とチャーリーはもうお馴染みの古〜いバンド仲間です。ギタリストなどはかなり若者くんで、H&Oの全盛期なんてまだ小学生だったんじゃないのかな?

 全21曲中、新作から5曲(3, 5, 7, 11, 13)、昨年発表されたジョン・オーツのソロ作から1曲(10)、マーヴィン・ゲイのカヴァーが1曲(21)で、残る14曲がバックカタログからのヒット曲ということになります。ニューアルバムにはまだまだいい曲が残っていますが、これだけのキャリアがあるグループだと、観客の多くは過去の名曲もいっぱい聴きたがっていますから、新作からはシングル曲中心に5曲というのがギリギリの線でしょうね。

 オープニングは "Adult Education" (US#8/84)。近年のライヴでは定番のようですが、個人的にはやや意外な選曲でした。ビッグなドラムビートとシャープなカッティングのギターが大胆に調和、ダリルの力強いヴォーカルに、ジョンやT-Boneらのコーラスが絡んでいきなり大盛り上がり! 終盤のギターソロを見事に弾きこなしていたのはジョン・オーツだったのだけれど、みんなちゃんと見てたかな? 2曲目の "Method of Modern Love" (US#5/85) はこの日だけのスペシャルな差し替え。通常のセットではここに "Out of Touch" (US#1/84) が入ります。アルバム "BIG BAM BOOM" はどの曲にも思い入れのある作品だし、"Method" は例の「♪M-E-T-H-O-D-O-F-L-O-V-E」のアルファベット列挙コーラスも大好きなので、これを歌えるなんて!と貴重な選曲に個人的には大喜びでした。

 3曲目の "Man On A Mission" はすっきりと流れる新曲で、ダリルの今の声域にも良く合っているようです。ようやくチャーリーさんがフロントまで出てきて短いサックス・ソロを吹いてくれました。チャーリーはサックスの出番以外にも、キーボードを弾いたりパーカッションを叩いたり、はたまた謎のアクションをとってウケを狙ったりと目が離せません。常にビシッとスーツを着こなすチャーリーも、さすがにずいぶん歳をとりました。でもサックスの音色は相変わらずつやつやしていて、目を閉じると20年前と全然変わっていないようです。

 サックスといえば、続く4曲目の "Say It Isn't So" (US#2/83) でもソロがあります。これは "Adult Education" 同様、ベスト盤 "ROCK 'N' SOUL PART 1" 用の新曲で、ビデオクリップでは間奏で印象的なフレーズのソロを吹くチャーリーがしっかり映っていたのですが、アルバムヴァージョンにはなぜかサックス・ソロがありませんね。どうしたのかな。ライヴでのソロパートはチャーリーだけでなく、T-Bone のベースも火を吹くようなソロを展開。頭のうしろにベースを抱えて弾きまくる。彼は普段とても寡黙なプレイヤーだけに、そのギャップの大きさが受ける場面です。

 暖かいメッセージに溢れた新曲 "Do It For Love" を挟んで "Family Man" (US#6/83) へ。マイク・オールドフィールドのカヴァーですが、すっかり自分たちの曲にしちゃってますよね。ここではサポートの若者ギタリストが激しいソロを聴かせます。うーん、巧いんだけど、ちょっと違うんだよな〜。音数の多いハードロック的なソロは、G.E.Smith のオリジナルとは別物と思って楽しむべきなのでしょう。続く新曲 "Getaway Car" の紹介MCで、ダリルは Billy Mann のペンによるこの曲が最近の個人的お気に入りだと語っていました。彼は新作でずいぶんいい仕事をしているようですね。確かまだ30歳前後、フィラデルフィア生まれで最近はニューヨーク近辺で活動中のマルチミュージシャンです。ソロアルバムも2枚ほど出していますが、プロデュースや作曲業でクレジットされているのを近頃よく見かけるようになりました。R&B好きという彼、きっとホール&オーツの音楽も聴きながら育ったのでしょうね。憧れのアーティストと一緒に仕事をするのはきっとわくわくする経験だったに違いありません。

 ちょっと飛びますが、13曲目の "Someday We'll Know" もそんな位置付けの曲。もともと Gregg Alexander のプロジェクト、New Radicals が98年にリリースしたデビュー作に収められていた楽曲で、聴いたときから「ホール&オーツっぽいなあ」と思っていたものでした。この曲のみならず、アルバム全体が80年代初期のH&Oを思わせる「人工的な懐かしさ」に満ちていたのです。ピアノを絡めたポップ・ロック、曲の後半にダリルそっくりのエモーショナルな盛り上げアドリブを聴かせる Gregg のヴォーカルが耳に残ります。彼の声にはダリル・ホールやトッド・ラングレンを思わせるところがありました。両者はフィリーソウルに通じるルーツが共通するばかりでなく、"WAR BABIES" アルバムでトッドがH&Oをプロデュースする(そしてセールス的には大失敗する)という過去もありました。ですから、New Radicals が作ったこのトッドとH&Oへのオマージュのような曲をH&Oが取り上げて、しかもトッドがゲスト参加するというニュースを聞いたときには驚いたものです。正直言って、オリジナルより良い出来みたい。他人の曲をしっかり自分たちの色に染めて、単なるカヴァーを超えた独自の解釈がなされているように思います。

♪Someday we'll know
 If love can move a mountain
 Someday we'll know
 Why the sky is blue
 Someday we'll know
 Why I wasn't meant for you
 Someday we'll know
 Why Samson loved Delilah
 One day I'll go
 Dancing on the moon
 Someday you'll know
 That I was the one for you


 切なくて、痛くて、心に沁みる歌詞。作者の Gregg Alexander も、きっとこのヴァージョンの出来に満足していることでしょう。ライヴで聴きながら、この楽曲が5年かかって「あるべき姿」を獲得したかのような、不思議な感覚に捕らわれました。

 あと特筆しておくべきなのは10曲目の "Color of Love" かな? ジョン・オーツ初のソロアルバムからの1曲で、ジョンがフロントで派手に活躍するのはこの曲くらいのものです。僕はジョンのセンスをすごく買っていて、昔からアルバム中に1〜2曲ずつ入っている彼のリードヴォーカル曲はどれも随分聴いていますが、ファンク全開のこの曲にはびっくり。お客さんの反応も悪くなくて、ノリノリのグルーヴが国際フォーラムを包みました。新曲が全体的にアコースティックなアレンジであることもあって、このファンクナンバーはいいアクセントになっていたように思います。

 残るセットの大半を占めるホール&オーツの代表曲については特に解説は不要でしょう。個人的に目が行ったところをメモしておくと、"Starting All Over Again" でのダリルとジョンのぴったり息の合ったハーモニー+再び2人でやっていくことへの静かな決意表明、"She's Gone" (US#7/76) でのチャーリーのソプラノサックス、大好きな "One On One" (US#7/83) でのダリルのファルセット(+ジョンたちの合いの手コーラス)、"Wait For Me" (US#18/80) でのダリルのキーボード演奏+オリジナルに比較的忠実なアレンジ、"I Can Go For That (No Can Do)" (US#1/82) でのチャーリーのイントロのフルート演奏、そしてフロントに出てきて丸3分はあろうかという長尺のサックスソロ独演会、"Maneater" (US#1/82) での「あの」ディレイを駆使した画期的なチャーリーのサックスソロ大会などなど。あれれ、何だかチャーリーさんばかり見ていたようですね。でも昔から大好きなサックスプレイヤーだし、今でも元気に「チャーリー印」の音を吹いてくれているのを見て、本当に嬉しかったのです。

 アンコールのパート1は "Rich Girl" (US#1/77)、"Kiss On My List" (US#1/81)、"Private Eyes" (US#1/81) という、泣く子も黙る全米#1ヒット3連発。そもそもこんなセットを組めること自体、並のアーティストでは有り得ないこと。日本でも知名度の高い曲ばかりなのでもちろんすごく盛り上がります。特にチャーリーが大きなアクションで手拍子を促す "Private Eyes" では会場全体が一緒になってハンドクラップ! これが楽しくてホール&オーツのライヴがやめられないって人も多いんだろうなあ。もちろん僕もみんなに加わってパン! パパン!

 アンコール2回目、前日までは "You Make My Dreams" (US#5/81) などから入ったようですが、この日はいきなりマーヴィン・ゲイのカヴァー "What's Goin' On" に突入します。自分のソロ作の曲を歌ったジョンに対抗したダリルのソロコーナーっぽい雰囲気。そういえば、開演前の場内BGMがマーヴィンのベスト盤だったのですよね。"I Want You""Got To Give It Up" などが静かに流れていた意味が最後にやっとわかるという趣向。"What's Goin' On" はダリルのフェイヴァリット、さすがに歌い込んでいるだけあって、実にスムース&セクシーなヴォーカルを堪能できました。チャーリーのサックスもマーヴィンのオリジナルそっくりに入ってきます。この曲が作られてからもう何年も経つというのに、人間は相変わらず戦争を止めようとしないし、差別もちっともなくなりません。でも少なくともこういう心揺さぶられる曲を聴き、口ずさんでいる瞬間だけは僕らの心はひとつになれる。音楽の持つ大きな力を感じさせてくれる素敵なエンディングでした。

***

 素晴らしい新作と、懐かしい大ヒット曲と、息の合った頼もしいバックバンド。今さらながら、コンサートの楽しさを教えてもらったような気がします。数日後には「ニュースステーション」に生出演し、"Private Eyes""Man On A Mission" をライヴ演奏してくれたりもしましたね。前者はややテンポが遅めだったしダリルのフェイクも多かったのだけれど、後者では絶妙の呼吸でジョンのコーラスと合わせてくれました。まだまだ現役のホール&オーツ、来日公演のチラシから "DO IT FOR LOVE" の発売に寄せた彼らのコメントを引用して締めくくることにしましょう。「僕たちはまだクリエイティヴィティのピークも迎えていない。これからもっといい曲を書いていくつもりだ。これからももっといいアルバムを作る自信がある。もっとこれからも続いていくよ…」

 以上、「現役ってそういうことだったのか会議」議事録でした。


(June, 2003)

MUSIC / BBS / DIARY / HOME