Crusaders @ ブルーノート東京



 2003年10月6日、The Crusaders のブルーノート東京公演(2ndステージ)を観てきた。

 クルセイダーズの復活は昨年のフュージョン界における一大ニュースだった。予想通り今年になってブルーノート東京での来日公演が決定したので、ともかく足を運ぶことにした。何しろ1950年代から活動しているグループなので、自分ももちろん後追いのファンだ。よく耳にしたのは79年のポップな "Street Life" だが、遡るとテキサス出身らしい泥臭いファンク/ジャズを演奏しており、これがますます気に入ったのだった。今回の再結成にはジョー・サンプル(p, key)、ウィルトン・フェルダー(sax)、スティックス・フーパー(dr)が集まったが、残念ながらウェイン・ヘンダーソン(tb)は参加していない。来日公演は更にフーパーが欠け、セッションドラマーが穴を埋めた。70年代後半にラリー・カールトンが参加して洗練されたプレイを聴かせたギター・パートは、今回はレイ・パーカー・Jr.が代役を務めている。個人的にはレイを至近距離で観ることができるというのも楽しみのひとつだった。

 ブルーノート東京特有のアットホームな雰囲気の中で進行したライヴは、さすがにベテランらしい貫禄を感じさせた。代表曲のひとつ "Free As The Wind" で華麗に幕を開け、以後は新作 "RURAL RENEWAL" からの曲とかつてのヒット曲を織り交ぜながら進行する。本物のジョー・サンプルが、目の前で本物のフェンダー・ローズと本物のウーリッツァーを弾いている。本物のウィルトン・フェルダーが本当にあのサックスをブロウしまくっている。それだけで目がつぶれそうな光景だが、サポートメンバーたちも実に堅実な演奏ぶりだ。いずれも有名なスタジオ・ミュージシャンばかりだが、特筆すべきはトロンボーンのスティーヴ・バクスターだろう。ウェイン・ヘンダーソンの代役は並大抵の仕事ではないはずだが、ほとんどの楽曲で展開されるウィルトン・フェルダーとの長い2管ユニゾンは信じられないほど完璧な精度でぴったりと寄り添い、時に任されるソロパートではダイナミックな構成を一気に吹ききって大きな喝采を浴びていた。彼に比べると、レイ・パーカーはリズム・ギター仕事が多いせいか地味にも見えたが、正確なピッキングは70年代にボズ・スキャッグスの傑作群で聴かせてくれたとおり。常に後ろからサポートする姿勢が好印象だったが、それも当然だろう。今日の主役はあくまでもウィルトンであり、ジョーなのだから。

 そのジョー・サンプルは1曲ごとにマイクを持ってゆったりとしたおしゃべりを聞かせてくれた。再結成して久しぶりのツアーについて、新曲のタイトルの由来、そしてエレクトリック・ピアノとの出会いについて…。本人は最初エレピが大嫌いだったそうだ。だがある日レイ・チャールズが弾くウーリッツァーの太い音を聴いて感動し、クルセイダーズとしてレコード会社と契約してすぐにそのお金で買いに行ったウーリッツァーが彼の運命を変えたのだという。その門外不出の大切なウーリッツァー(北米大陸から外に出したことがないらしい)を初めて日本に持ってきたんだ、と嬉しそうに語る彼。64歳の大ベテランだが、この時ばかりは子供のような微笑を見せてくれた。もちろんキラキラした柔らかい光の玉を転がすようなフェンダー・ローズの音色も彼のトレードマーク。リチャード・ティー亡き後、エレクトリック・ピアノ・プレイヤーの大御所として今なお君臨するジョーの素晴らしい速弾きも堪能できたのだった。

 ライヴならではの見せどころはキャロル・キングのカヴァー "So Far Away"。以前からライヴアルバムで聞かせていたとおり、この曲では後半にウィルトン・フェルダーの超ロングトーンが登場する。バックの演奏が止んで、ワンノートを1分近く長々とブロウし続けるこのパートは観客から大歓声が沸く場面でもある。ロングトーンはケニーGのライヴでもお馴染みだが、おそらくは吹きながら同時に鼻で息を吸い込む循環呼吸法をマスターしているのだろう。いつまでも続く長い音色への拍手と歓声が頂点に達したところでバックメンバーが加わるのだが、ウィルトン自身はどうってことないよって顔で平然としているところがまたクール。毎晩やってる名人芸なのだろうが、目の前で見せられるとやっぱり凄い。

 もうひとつの見せ場はアンコールの最後にやってきた。ジョー・サンプルからの紹介を受けてマイクスタンドの前に立ったレイ・パーカー・Jr. がニコニコしながら語る。「クルセイダーズは高校生の頃によくバンド組んでカバーしてたんだよ。だからこうして今、クルセイダーズと一緒にツアーしてるのが信じられないくらいさ。だって本物のジョー・サンプルに、本物のウィルトン・フェルダーだぜ… ワオ!」。でも、だからこそ今夜は "Woman Needs Love""Ghostbusters" も歌わないよ、というのだ。だってこれはクルセイダーズのステージなんだからと。それは分かる。分かるけど残念だ。だって確かにクルセイダーズを観にきた訳だけれど、レイだって聴きたかったんだから。するとレイはニヤリと笑って言ったのだ。「"Ghostbusters" は歌わないけど、クルセイダーズのステージだから、みんなコーラスで "Cru-saders!!!" って歌ってくれるかな?」「YEEEEAAAHHH!!!!」。かくしてクルセイダーズ・ヴァージョンの "Ghostbusters" が始まったのだった。信じられない! ウィルトン・フェルダーとスティーヴ・バクスターが2管のホーンであのリフを吹いている! ジョー・サンプルがエレピで伴奏を付けている! そしてレイ・パーカー・Jr.が昔のままの声で歌っている!

♪If there's something strange in your neighborhood
 Who you gonna call?
  (観客)Cru-saders!
 If there's something weird and it don't look good
 Who you gonna call?
  (観客)Cru-saders!


 というわけで、和気あいあいの大盛り上がり大会になったのだった。途中で最前列の女の子をステージに上げてマイクでコーラス部分を歌わせるなど、最後に美味しいところをもらった形のレイ・パーカー・Jr.だが、クルセイダーズも成し遂げなかった全米#1ヒット保持者だし、彼目当てで来たファンもいるだろうから当然の扱いだろう。とにかく楽しめる、実に良いコンサートだった。そして自分がこうしたフュージョン/スムーズ・ジャズの音楽がいかに好きかということを再認識する夜にもなった。


<セットリスト>
Free As The Wind
Shotgun House
The Territory
Ballad For Joe
So Far Away
Carnival of The Night
X Marks The Spot
-ENCORE-
Rural Renewal
Ghostbusters


(October, 2003)

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