Christopher Cross & Air Supply
@ 東京国際フォーラム
例えばフジロックフェスティバルの参加アーティストが、すべて人脈的につながってるかというとそんなことは有り得ないわけで。ですがクリストファー・クロスとエア・サプライが一緒にツアーをするというと、やっぱり違和感を感じるわけで。人脈的なつながりはあんまりないのかもしれませんが、日本独自の音楽ジャンル「アダルト・オリエンテッド・ロック(AOR)」で適当に括られたと思しき2002年3月2日(土)の上記コンサートを見てきました。 会場に足を踏み入れてまず驚くのは年齢層の高さ。平均年齢は30代後半から40代にかかろうとしているのではないでしょうか。ほとんどが夫婦なりカップルなりの男女2人組。ゆったりと、出会った頃の想い出の音楽を聴きに来ているようです。あとの残りは男性2人組が多くてこれはAORマニアらしい(笑)。「トップ40ヒット全部やると思う?」「いやオレはシングルヒットしてないあの曲のソロを聴きたいんだよ」などなど、日常生活ではほとんど耳にすることのない会話があちこちで交わされていました。 まずは「前座」のクリストファー・クロスから。 シンプルなステージセットで、メンバーは本人+ドラマー+ベーシスト+キーボードの4人。ベーシストとキーボードの2人は女性で、コーラス要員も兼ねています(中にはキーボードの彼女とデュエットした曲もありました)。クリストファー・クロスといえば透明感のある素晴らしいハイトーンボイスが印象的ですが、2002年の今でもその喉は健在。ただ、多少スロースターターのようで、オープニング曲を歌い終わったあたりから次第に調子が出てきたようです。 2曲目にいきなり "Never Be The Same" (US#15/80) が飛び出して場内が盛り上がります。かといって懐メロばかりではありません。彼自身は決して「過去の人」ではなく、数年おきに新作を発表しつづけていることもあって、この日のコンサートでも近作からの演奏が多数聴かれました。初めて聴くものであっても、きちんと作曲され、丁寧に歌われる曲には引き込まれるものです。この人は「音楽」が大好きで、それをとても大切にしているのだろうなあと思わずにいられませんでした。 もちろん、大ヒット曲もたくさん歌ってくれました。ここぞというところでステージ後ろにスクリーンが降りてきて、海の映像を映し出しながら "Sailing" (US#1/80) の静かなイントロが流れ出すとやっぱりドキドキしてしますね。柔らかくて優しい彼の声を堪能できる1曲でした。また、ニューヨークを襲ったテロ事件のことに触れながら、「『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』を歌います」と邦題で曲紹介してくれた "Arthur's Theme (Best That You Can Do)" (US#1/81) でも映像を用いて効果を挙げていました。 何となくバラード的なイメージがあるクリストファー・クロスですが、実はなかなかいいロックも歌います。"All Right" (US#12/83) はキラキラしたイントロといい爽やかなコーラスといい大好きな曲。ややキーが高いので、本人も多少苦しそうでしたが、僕が何より感動したのはギターソロ。失礼ながら、クリストファー・クロスがこんなにいいギターを弾くとは思いませんでした。ここでいう「いいギター」とは、取りも直さず「産業ロック的なギターソロ」という意味。いわゆる Steve Lukather や Jay Graydon などに期待するあんなソロを、ルックスからは全く想像できない(失礼!)彼があっさりと弾きこなすのを見てちょっとビックリしてしまったのです。デビュー作の『南から来た男』は腕聴きのスタジオミュージシャンによって作り上げられた音だと思い込んでいましたが、実はクリストファー自身のイメージが強く反映されているのかもしれません。 この他、アコースティックな "Think of Laura" (US#9/84、『忘れじのローラ』) も非常に良かったのですが、デビュー作冒頭を飾る "Say You'll Be Mine" (US#20/81) を歌ってくれなかったのは少し残念。何か悪い思い出でもあるのかな? とはいえ、僕のオールタイムフェイヴァリッツ第141位に位置するデビューヒットの "Ride Like The Wind" (US#2/80、『風立ちぬ』) もやってくれたし、良しとしましょう。マイケル・マクドナルドとの共演を見逃して落胆していた自分ですが、この日のコンサートでは前述の女性ベース+キーボードが見事にマイケルのパートを歌ってくれて、とても緊張感のあるいい演奏を聴くことができました。よかった。 そんなわけで地味ながら心温まる、とてもいいコンサートだったのです。 …ここまでは。 でもってエア・サプライですよ。 別に彼らのコンサートが酷かったと言っているのではなくて。ただ、その、あの。あまりにも「凄かった」ので、ちょっとビックリして。今でもときどき思い出し笑いしちゃう、ってことです(笑)。 いや、僕だって一応80年代洋楽ファンですから。エア・サプライは大好きでしたよ。むしろ洋楽にハマったきっかけのアーティストのひとつと言ってもいいくらい。80年代前半は彼らのヒット曲が常にFMや街角で流れていたものです。もちろん、「渚」とか「海岸」とか「シーサイド」とか「潮風」といったキーワードが、歌の内容とは関係のないエア・サプライ販促用パブリック・イメージだってことも一応知ってます。ですがしかし。この日初めて見たエア・サプライのコンサートは… 一言で言っちゃうとラスベガスのディナーショーみたいな、なんだか物凄い厚化粧みたいなセットでした。 もっと言っちゃうと、僕はこのグループを何となく爽やかなイメージで捉えていたフシがあります。そりゃそうです。「ロスト・イン・ラブ」や「シーサイド・ラブ」や「さよならロンリー・ラブ」といった楽曲からは当然そんなイメージを持つことでしょう。グラハム・ラッセルとラッセル・ヒッチコックが 『グラハム・ラッセル・ヒッチコック』 として一体化したデュオだとばかり思っていた訳ですがさにあらず。むしろ強烈なまでのエゴのぶつかり合いを見せつけられる、なんだか修羅場みたいなステージでした。 特に、グラハム・ラッセル(背の高い方、左利きギタリスト)がこれほどまでに自我の強い男だとはまったく知りませんでしたよ。確かにエア・サプライのほとんどのヒット曲は彼のペンによるものです。ラッセル・ヒッチコック(背は低いが声は高い方)は相変わらずのハイトーン(声量でか過ぎ(笑))を聴かせてくれますが、目につくのはそれを遮ってフロントに立とうとするグラハム・ラッセルの姿。特にギターも弾かずに両手を大きく広げて立ちはだかる様子には、「テメエらよく見やがれ、エア・サプライ=俺なんだよ」と言わんばかりの強烈な自己アピールを感じまくり。 これって何かに似ている。 背が高い方がバンドマスターのはずなのに、ハイトーンでクルクル髪の小柄ヴォーカリストの方がなぜか知名度が高く、そのことによってバンド内が常にゴタゴタしていて、ライヴをやるとエゴのぶつかり合いになってしまうよく似た凸凹コンビのグループ。 そう、クリスタル・キング。…『大都会』 かよ。 こう喩えたのは一緒に観に行った相棒ですが、まさしく言い得て妙。大笑いしちゃいました。 冗談はさておき、トップ10ヒットを中心に名曲オンパレードのゴテゴテしたセットリストで国際フォーラムを揺るがすエア・サプライ、ノリは完全に関西系です。『シーサイド・ラブ』 に至ってはステージから降りてきて、歌いながらお客さんとひとりひとり握手しつつ1階席をぐるりと1周。この過度のサービス精神もまた、関西系。もちろん悪いコンサートだったとは思いませんが、僕がこうしたエア・サプライのライヴの「お約束」を知らずに行ってしまったせいなのかどうか、最後までどうにもしっくりこなくて残念でした。(多分最大の理由は、あまりにも手数が多すぎる元気な若者バックバンドたち。特にドラムスとキーボードはどう聴いても弾き過ぎ…) ラストを飾るお約束の "All Out of Love" (US#2/80) はフィナーレと呼ぶに相応しい仰々しさだったし、それを言うなら "Making Love Out of Nothing At All" (US#2/83、『渚の誓い』) の大仰さは、ジム・スタインマン楽曲かくあるべし、と言わんばかりの素晴らしい仕上がりで。いろいろ書きましたが要約すると、かなりオモロイもん見せてもらったライヴでした。マル。 (April, 2002) |