"LATERALUS" - Tool



 2001年上半期の米国ロック界最大の事件のひとつは、Tool の新作 "LATERALUS" が、発売第1週目で50万枚を超える驚異的なセールスを上げ、期待どおりの初登場全米1位を記録したことだろう。

 ごく簡単に Tool について振り返っておくと、92年にミニアルバム "OPIATE" をリリースしてデビューするも、日本では全然話題にもならなかった。93年にフルレンスの "UNDERTOW" をリリースしてじわじわとファン層を広げ、96年のセカンド "AENIMA" は全米初登場2位とブレイク。このまま一気に爆発するかと思いきや、レコード会社との契約トラブル等で活動ができない状態となり、不幸な沈黙期間に突入してしまう。が、ようやく2000年にはメイナードのサイドプロジェクト、A Perfect Circle の制作とフジロックフェスへの来日も経て、日本でもようやく知名度が上がってきたところでこれだ。


 1stの "UNDERTOW" はずいぶん聴いた。よく言われるように、特にリズム隊に King Crimson の影響を強く感じる。しかし徹底的に暗い雰囲気を帯びていて、むしろ JAPAN が King Crimson だったらこうなるのかなといった世界観だ(やや謎)。"Prison Sex" や "Sober" といったシングル曲の(一定の)分かりやすさと、シャープなプロダクションのおかげで、気持ち悪さをこらえて聴くことができたような気がする。

 2nd "AENIMA" に至り、プログレ度はさらに加速する。"Stinkfist" のようなナンバーを除けば、個別の楽曲単体で楽しむというより、アルバム全体の雰囲気に浸り、のめり込むようにして「体験」する作品だと言えるだろう。だいたい、ジャンル分けができない。さまざまな音楽要素がごった煮になり、Tool にしかやれない、誰もフォロワーになれない世界を確立したのだ。複雑で長大な作品も増え、気持ち悪い度は頂点に達した。


 …達したかと思ったところで4年半も開いてこの "LATERALUS" である。一聴して、これはもう圧倒的に凄い。何が凄いかというと、それを全然説明できないところが凄い。もはやコトバが全然ついてこない。音楽だけが暴走していて。


 ある意味で Dream Theater のそれをも凌駕する凄まじいテクニックに裏打ちされた、一糸乱れぬアンサンブル。特に変拍子を刻むドラムスが正確無比に荒れ狂う様を耳で追いかけていると、ほとんど感動的ですらある。キックが、シンバルが、タムが、ジグソーパズルのピースをピタリとはめ込んだようにあるべき場所に収まったアレンジぶり。もちろんギターもベースもこれにがっしり組み込まれながら複雑な曲展開を見せるわけで、相当きっちりスコアを書き込んだのではないかと思わせる一方、妙にぶっきらぼうに、インプロヴィゼーションのように響く部分もある。

 そう、このスタイルは King Crimson、それも "LARKS' TONGUES IN ASPIC" "STARLESS AND BIBLE BLACK" "RED" の3部作の時期における、インプロヴィゼーションともコンポジションともつかない、音楽の神が取り憑いたように延々と演奏し続ける、あの鬼気迫るサウンドに近い手触りだとも言える。もちろん音そのものがというわけではなくて、そこから醸し出す雰囲気とか精神性に共通点を感じる、ということなのだけれど。ストイックさという意味ではひどく計算された "DISCIPLINE" 時代のクリムゾンの影を見出すこともできるかもしれない。

 そんな現代アメリカにおける最高級の技量に裏打ちされながらも、メイナードが歌う歌詞の方はほとんど理解できない。歌詞をCDに敢えて添付しないその方針も然ることながら、聴き手の共感や感情移入を極端に排除する何かを感じずにはいられない。しかしこの「取っ付きの悪さ」が、却って全米でカルト的なまでの人気を煽っている理由でもあるのではないか。


 そう、この "LATERALUS" もひどく取っ付きが悪い。
 テクニカルロック聴きとしては、1曲目の "The Grudge" の凄まじいリズムアレンジで完全にノックアウトされるし、その後も立て続けに繰り出される複雑なリフと変拍子の嵐と、どこに連れて行かれるか分からない予測不能な展開に、最後まで78分間息もつかせず持って行かれてしまう。とはいえ、ほとんど狂気的な世界を垣間見てしまったような聴後感は圧倒的に重苦しく、気持ち悪く、大いに落ちこむ。そこで、もう2度と聴くまいと一度は決心するのだ。

 しかしどういう訳か、僕は必ずこのディスクを再度プレイしてしまう。

 そこに、このアルバムの本当の凄さがある。これを音楽的ドラッグと言わずしてなんと言おう。この麻薬的中毒性こそが Tool の魅力であり、カリスマ性の源なのではないか。これまでのヘヴィロック勢に、ファッションやスタイルに頼ることなく「音楽だけ」でここまで魂を奪うことのできたバンドが果たしてあっただろうか。そもそも Tool を「ヘヴィロック勢」にひと括りにしてよいものかどうか。


 そんなことを考えながら、僕は何度目になるかわからない "LATERALUS" の再生ボタンを押す。



 そんな Tool が、8月になんと King Crimson と全米ツアーに出るというではないか。冗談が本当になってしまったようなこの企画、ハッキリ言って身悶えするほど観たい。観たい。観たい。

 現在の King Crimson は Robert Fripp、Adrian Belew、Pat Mastelotto 、Trey Gunn という布陣で、Tony Levin と Bill Bruford の名前が見当たらないのは正直言ってとても寂しいのだが、それでもやはり Tool + Crimson は歴史的なツアーだろう。すっかり形骸化してしまったロックという音楽に「精神性」や「世界観」の香りを多少なりとも感じることができるとするならば、それはきっとこんな組み合わせによるライヴだ。映像あるいは音源が何らかの形で公開されることを切に願う。


 ツアー日程は以下のとおり。

Aug. 3: Morrison, Colo. (Red Rocks)
Aug. 6-7: Seattle (Paramount Theatre)
Aug. 8: Portland, Ore. (Schnitzer Hall)
Aug. 10-11: Berkeley, Calif. (Community Theatre)
Aug. 13-14: Los Angeles (Wiltern Theatre)
Aug. 15: San Diego (SDSU Open Air Theatre)


(July, 2001) 
Special thanks to けいさん

MUSIC / BBS / DIARY / HOME