CDバイヤーのための「実戦」に役立つ十四カ条



 スペースがあまりないので、メモ風に記すことにする。以下、最初に断っておくが、あくまで知識と一般教養のためのリスニングについてであって、趣味のための音楽についてではない。

(1) 金を惜しまずCDを買え。CDが高くなったといわれるが、基本的にCDは安い。1枚のCDに含まれている情報を他の手段で入手しようと思ったら、その何十倍、何百倍のコストがかかる。

(2) 1つのテーマについて、1枚のCDで満足せず、必ず同ジャンルのCDを何枚か求めよ。同ジャンルのCDを複数聴いてみて初めて、最初のCDの長所が明らかになる。そのジャンルに関して健全なパースペクティヴを得ることができる。

(3) 選択の失敗を恐れるな。失敗なしには、選択能力が身につかない。選択の失敗も、選択能力を養うための授業料と思えば安いもの。

(4) 自分の水準に合わないものは、無理して聴くな。水準が低すぎるものも、水準が高すぎるものも、聴くだけ時間のムダである。時は金なりと考えて、高価なCDであっても、聴きさしでやめるべし。

(5) 聴きさしでやめることを決意したCDについても、一応終わりまで1曲、1曲飛ばし聴きしてみよ。意外な発見をすることがある。

(6) 速聴術を身につけよ。できるだけ短時間のうちに、できるだけ大量のCDを渉猟するためには、速聴以外にない。イントロとヴァース、コーラス、ギター/サックス/キーボードソロ等のパーツに分解すれば、短時間に驚くほど大量のヒット曲を消化できる。

(7) CDを聴きながらレビューを書くな。どうしてもレビューを書きたいときには、CDを聴き終わってから、レビューを書くためにもう一度聴き直したほうが、はるかに時間の節約になる。レビューを書きながらだらだら1枚のCDを聴く間に、5枚の同類CDを聴くことができる。たいていは、後者のほうが時間の有効利用になる。

(8) 人の意見や、CDガイドのたぐいに惑わされるな。最近、CDガイドが流行になっているが、お粗末なものが多い。

(9) ブックレットを読み飛ばすな。ブックレットには、しばしばCD本体以上の情報が含まれている。

(10) CDを聴くときには、懐疑心を忘れるな。録音されていると、何でももっともらしく聞こえるが、世評が高いCDにもウソ、デタラメはいくらもある。

(11) オヤと思う個所(いい意味でも、悪い意味でも)に出会ったら、必ず、このアーティストはこの歌詞/メロディをいかにして得たか、あるいは、このアーティストの音楽の根拠はどこにあるのかと考えてみよ。それがいいかげんである場合には、デタラメの場合が多い。

(12) 何かに疑いを持ったら、いつでもオリジナル音源、生のサンプリングソースにぶちあたるまで疑いをおしすすめよ。

(13) 歌詞対訳は誤訳、悪訳がきわめて多い。対訳でよくわからない部分に出会ったら、自分の頭を疑うより、誤訳ではないかとまず疑ってみよ。

(14) 学校で得た知識など、いかほどのものでもない。社会人になってから獲得し、蓄積していく知識の量と質、特に、20代、30代のそれが、その人のその後の人生にとって決定的に重要である。若いときは、何をさしおいても音楽を聴く時間をつくれ。



 読んですぐにピンときた方もいらっしゃるでしょう。これは立花 隆の 『ぼくはこんな本を読んできた』(文春文庫)の83ページ、"「実戦」に役立つ十四カ条" の体裁を借りた文章です。最初に断り書きがしてあるにもかかわらず、多くの音楽リスナーからは反感を買いそうな内容になっています。自分自身、ここに挙げられた各項目について全面的に賛成できるわけではなく、いろいろと考えるところもありますが、まずは議論の叩き台として提示してみます。

(December, 2002)

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