マニアックなボックスセットが国内盤で毎月のようにリリースされたり、ソフトバンクのCMで "Voodoo Child (Slight Return)" が流れたりして、ジミ・ヘンドリックスへの注目度が高まっている昨今(2008年記) 。巷には多種多様・玉石混交なCDが溢れていて、ジミヘンに興味を持ったものの何を買っていいのかわからない、という方も多いのではないか。そんなわけでお買い物ガイド。ここに挙げたものを買えば間違いない。★印=おすすめ度(最高5つ星)
基本となるスタジオ録音
* Are You Experienced (1967) ★★★★★
Foxy Lady / Manic Depression / Red House / Can You See Me / Love Or Confusion / I Don't Live Today / May This Be Love / Fire / Third Stone From The Sun / Remember / Are You Experienced // Hey Joe / Stone Free / Purple Haze / 51st Anniversary / Wind Cries Mary / Highway Chile
ハード&ヘヴィでありつつコンパクト&キャッチーな曲が詰まったデビュー作。シングルの6曲が追加された結果、さらに強力になった。特に有名な "Purple Haze"(紫のけむり)や "Hey Joe", "Fire" など代表曲がまとめて聴ける。 初心者はまずここから聴くことをおすすめする。これぞロック!なギターが炸裂する "Foxy Lady" はクリムゾンの "Vrooom" になんとなく似てる。ロバート・フリップはかなり影響を受けてるはず。SFちっくなインスト "Third Stone From The Sun" はジャコ・パストリアスがベース・ソロでよく引用していた。"Are You Experienced" は、ビートルズ "Strawberry Fields Forever" のコーダからの続きにも聞こえる。
* Axis: Bold as Love (1967) ★★★★★
EXP / Up from the Skies / Spanish Castle Magic / Wait Until Tomorrow / Ain't No Telling / Little Wing / If 6 Was 9 / You Got Me Floatin' / Castles Made of Sand / She's So Fine / One Rainy Wish / Little Miss Lover / Bold as Love
ファーストの流れをくみサイケでポップ、さらに洗練度を増したセカンド。またも名曲満載。特に "Little Wing" は屈指の名曲であり、クラプトンやスティングまでがカヴァーしている。"Up from the Skies" はジャズ風スウィング・ビートが心地よい。"If 6 Was 9" はトッド・ラングレンが「Faithful」で完コピ。"Bold as Love" エンディングのギター・ソロは永遠に続くかのように余韻を残す。
* Electric Ladyland (1968) ★★★★
...And the Gods Made Love / Have You Ever Been (To Electric Ladyland) / Crosstown Traffic / Voodoo Chile / Little Miss Strange / Long Hot Summer Night / Come On (part 1) / Gypsy Eyes / Burning of the Midnight Lamp / Rainy Day, Dream Away / 1983... (A Merman I Should Turn to Be) / Moon, Turn the Tides...Gently Gently Away / Still Raining, Still Dreaming / House Burning Down / All Along the Watchtower / Voodoo Child (Slight Return)
アナログ盤は2枚組(オリジナルは質より量の集団ヌード・ジャケ)。前作以上に凝ったステレオ音像。ギターが前後左右縦横無尽に飛び回る。2chステレオで聞いても後方からギターが聞こえたりするサラウンド効果あり。ソウルやジャズまで音楽性の幅を広げ、構成的にも芸術性を高めて一般的に最高傑作とされている。"Crosstown Traffic", "Burning of the Midnight Lamp", "All Along the Watchtower" といった名曲名演が収められているとはいえ、比較的弱い曲も実は少なくない。延々と即興演奏が続くやや冗長な部分もあり、初心者が最初に聴くにはキツイかもしれない。上の2枚を先に聴いてから臨んだ方がいいと思う。でも決定的名曲 "Voodoo Child (Slight Return)" が最後に出て来るとやっぱり降参するしかない。こんな異様なイントロ、どうやって考えつくのか。
* First Rays of the New Rising Sun (1997) ★★★★
Freedom / Izabella / Night Bird Flying / Angel / Room Full of Mirrors / Dolly Dagger / Ezy Ryder / Drifting / Beginnings / Stepping Stone / My Friend / Straight Ahead / Hey Baby (New Rising Sun) / Earth Blues / Astro Man / In From the Storm / Belly Button Window
死後にリリースされたアルバム「The Cry of Love」「Rainbow Bridge」「War Heroes」に分散されていた曲を1997年にまとめたもの。といってもどれもほぼ完成された曲であり決して残り物ではない。ライヴでのレパートリーになっていた曲が多く全体の統一感もある。ベースがノエル・レディングからビリー・コックスに交替したせいかリズムがタイトになり、初期に見られたサイケ・ポップ色よりもファンク・ロック色を強め、よりブラック・ミュージックに接近している。かっこいいジャズ・ロック風インスト "Beginnings"(別名:Jam Back at the House)もある。"Angel" は "Wind Cries Mary", "Little Wing" 路線の名バラード。この中では録音時期が離れている "My Friend" がルーズな乗りで他とはやや毛色が異なる。除外した方が良かったような気がする。
主なライヴ盤
* Live at Monterey ★★★★★
ジミがアメリカへ凱旋を果たし、ギターを燃やすパフォーマンスで全世界に衝撃を与えたモンタレー・ポップ・フェスティバル出演時(1967.6.17)の模様を完全収録した最新リミックス新装盤。長〜いチューニングと短いブライアン・ジョーンズ(ストーンズ)の紹介を経て始まる "Killing Floor"、出だしの切り込みカッティングがカッコ良い。同様に "Rock Me Baby"(後に "Lover Man" というオリジナル曲に発展)もイントロが良い。他にボブ・ディランの "Like a Rolling Stone" も取り上げている。最後の "Wild Thing" ではギター・ソロで "Stranger in the night" を引用、そしてギターに火を付け破壊、ノイズの嵐となる。このときはジミも絶好調だったようで、曲間MCでも上機嫌な様子が窺える。映像版あり。
* Live at Woodstock ★★★
ウッドストック・フェス(1969.8.18)にトリで出演した際のライヴをほぼ完全収録。ここでの "Star Spangled Banner"(星条旗:アメリカ合衆国国歌)がウッドストックを象徴する名演として歴史に残る。ただし全体としてはベスト・パフォーマンスとは言いにくい。ノエル・レディングの脱退によりエクスペリエンスを解体、新たに旧友ビリー・コックスをベースに、更にサイド・ギター1人とパーカッション2人を加え6人編成の「Gypsy Sun & Rainbows」として残された唯一のライヴ音源だが、追加メンバーの演奏に問題があったのか、ほとんど3人で演奏しているように聞こえるミックスになっているということもあって、人数を増やした意味がよくわからない。たまに聞こえるサイド・ギターとの絡みが珍しいとはいえ、やはりジミはトリオ編成でこそ自由奔放に本領を発揮できるのではないか。これ以後は以前のようにトリオ編成に戻って活動していくことだし。映像版あり。
* Live at the Fillmore East ★★★
ビリー・コックス、バディ・マイルスとの「Band Of Gypsys」としてニューヨークのフィルモア・イーストで1969年大晦日と1970年元旦の2日間4セット行ったライヴから選曲した2枚組。以前の奔放なサイケ・ロックから重心の低いファンクに大きく変化している。ビリーのベースは歯切れが良く好ましいのだが、バディの単調なドラミングと能天気なヴォーカルが難点か。とはいえ、生前唯一出されたライヴ・アルバム「Band Of Gypsys」(こことのダブりは1曲のみ)よりは遥かに聴き応えがあり、"Stone Free", "Machine Gun" などでたっぷりとギター・ソロが堪能できる。ちなみに、かつて出回っていた3曲追加版「Band Of Gypsys + 3」には(音質は悪いが)迫力ある "Foxy Lady" が収録されていた。
その "Foxy Lady" とCD未収録の "Fire" を含む映像版もあるが、インタビュー主体のドキュメンタリーで演奏部分は多くない(DVD特典映像として1月1日ファースト・セットをモノクロで収録)。4ステージ全てを収めた完全版ボックス(6枚組)も出たが、法の目をすり抜けたハーフ・オフィシャル/ハーフ・ブート(未公認)のもの。マニアじゃなければそこまで聴く必要はない。
追記:12月31日の1st showを完全収録した「Machine Gun」が2016年にリリースされ、4ステージのコンプリートではなく数曲カットしたボックスが2019年にリリースされた。
参考ページ:THE BAND OF GYPSYS FILLMORE SET LISTS
* Blue Wild Angel: Live at the Isle of Wight ★★
ウッドストックから一年後、ワイト島フェス(1970.8.30)に出演した際のライヴを完全収録。冒頭で英国国家 "God Save The Queen" に続けて "Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band" を短く演奏。逆に "Machine Gun" は22分にも及ぶ。ビリー・コックスのどっしりベースとミッチ・ミッチェルの手数の多いドラムスは相性が良いと思う。ぼくはバンド・オブ・ジプシーズより好きだ。しかしここでは、会場のPAに無線やラジオ(?)が混信する問題が起こったりしてジミも気が乗らなかったのか体調も悪かったのか、やや不調気味。残念ながらイギリスでは約一年半ぶりしかも最後のライヴは不本意な結果となってしまった。映像版にその不機嫌ぶりが映し出されている。この後ヨーロッパで数回ライヴを行った後、ジミは亡くなってしまう。
ちなみに、近い時期で出来の良い演奏は「Live at Berkeley (2nd show)」(1970.5.30)で聴けるが、DVDを入手すれば5.1chオーディオで同内容のものが完全収録されている。
last updated: 2019.12.16
Part 2(おすすめ編集盤/おすすめライヴ音源)に続く