Brian Wilson / The Beach Boys - 'Smile'

「Smile」と「Smiley Smile」の間の断絶

Smile (T 2580-2)Brian Wilson Beach Boys Smile Brian Wilson Beach Boys Smiley SmileSmiley Smile

Smiley Smile

ブライアンが「Smile」を放棄した後、メンバー全員(The Beach Boys 名義)のプロデュースで改めて作り直された「Smiley Smile」は、彼等のアルバムの中でも極めて異色作で、最もアヴァンギャルドである。それまでの開放的な音から一転して密室的な息苦しさを感じさせる。その原因は、自宅スタジオでのほとんどエコーのない録音にあるだろう。実験的な曲作り・音作り・アレンジは、Godley & Creme (10cc) の様でもある。

ここで言う“開放的な音”とは、前作「Pet Sounds」、未発表に終わった「Smile」のセッションまでを含む。単純に言えば、スタジオ・ミュージシャンを大勢集めて“せーの”で一発録音する方法を取っていたのが、「Smiley Smile」では自分達で演奏している、という違い("H&V", "GV" は除く)。ドラムレスでバックの演奏がスカスカ。ブライアン独特の妙なパーカッション (*) はここでも健在だが。

ハワイをテーマとした "Little Pad" のように可愛らしい小品もあるが、地の底に沈んでいくような "Fall Breaks And Back To Winter""Fire" の燃えかすか?)、テープの回転数を操作して声を変調(?)させる "She's Goin' Bold"、呟くような歌と最後に遠くで聞こえるコーラスが不気味な "Wind Chimes" など、暗い曲が多く、ファンの間でも評判が悪い。一方では、Chris Cutler の Recommended Records のカタログに 'gem' と評価され載っていたりする。

Heroes and Villains(英雄と悪漢)

"Heroes and Villains" は、開放・密室、その両方が(結果的に)ミックスされたものになっている。すなわち、分岐点はこの曲、ということ。色んなパーツを思い付くまま録音していった揚げ句、ブライアン自身もどうまとめていいのか訳わかんなくなっちゃって、その結果「Smile」が暗礁に乗り上げてしまったのではないか。前作「Pet Sounds」では確固たるヴィジョンがあったはずなのだが、「Smile」にはそれがなかった。

"H&V" にあのように多彩なパーツが存在し収拾が着かなくなった原因の一つに、"GV" が構成的にもうまく成功した、ということがあろう。その二番煎じとまでは言わなくとも、あんな風にまとまるんじゃないかという希望的観測がブライアンにあったのかも知れない。シングル発売の期限が迫ったために、それを諦めて(妥協して)簡潔なヴァージョンを作り、それが結果的に決定稿となってしまったんではないかな。

言うなれば、今に至るブライアン/ビーチ・ボーイズの運命を決めた曲、それが、 "H&V" のように思える。

(*) 余談

ブライアンは変なパーカッションが好きだ。
"Caroline, No" のポコーン、
"Pet Sounds" のギィーッココ(ギロ)、
"God Only Knows",“駄目な僕”のパカポコ、
"You Still Believe In Me" のチリンチリン、パフパフもその一種か。
「Pet Sounds」で目立って使われている。
特に“駄目な僕”なんか、最初そぐわないように聞こえたが、今ではこれがないといけないように思える。寂寞感・虚無感が漂うんだよね。木魚みたいで(笑)。

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