■Springsteen at MSG 2000
Bruce Springsteen & The E-street Bandの2000年・リユニオンライヴをDVDで観た。場所はニューヨークのマジソンスクェアガーデン。
観客は、スペイン・バルセロナのライヴほど終始熱狂的なわけではなく、比較的リラックスして楽しんでいる様子。英雄の如く特別なものに接する−というよりは、長くつきあってきた近所(ニュージャージー出身)の”特別な友人”に再会しているようなかんじだ。
で、Springsteen本人の肝心のパフォーマンスだが、やはりとんでもないものだ。(笑)
DVD収録時間は3時間に及び、すべてが素晴らしいことは言うまでもないが、その中でも「The River」と「10th avenue freeze-out」が圧巻。どちらもニュアンスを深く深く掘り下げて、オリジナルの倍以上の丈になっている。発表されてから30年弱。おそらく数百回、いやリハも含めれば数千回?演奏しているであろう楽曲だが、マンネリズムに陥ることなく熟成に熟成を重ねた深い深い味わい。
「The River」では導入部に"The big man"のサックス・ソロパートが設けられ、Springsteenの歌は旋律を崩し歌詞の言葉ひとつひとつを丁寧に独白するように綴る。
「10th avenue freeze-out」では中間部でゴスペルライクなロックンロール宣教師に変身し、速射砲で言葉を放ち続ける。たどり着くまでの厳しさを覚悟し“約束された川”に向おう!−と訴え、10年ぶりに結集した同志(バンド)を讃え、連帯する喜びを全身で表現する。そして、それは見事な【ロックンロール・エンタテイメント】としても緻密に計算されつくされていて、聴衆をその世界に確実に引き込み、同化させ、楽しませる。
このエンタテイメント性というのが最重要ポイントだろう。一歩間違えれば宗教臭く妙にシリアスになるところを手前で踏み止まるその手法からは、成熟に至ったアメリカ合衆国のショービジネスの歴史も透けて見えてくる。
■Springsteenを信じられるか?
Bruce Springsteenは「音楽で社会を変えたい」と真顔でいう。
しかし、どこにでも無理解で不謹慎な人間はいるものだ。
有色人種偏見による銃の乱射でギニア人移民の命が犠牲になったことを歌う「American Skin」という曲を彼が静かに唄いだすと、一部の観客たちはリズムに合わせて手拍子を打ち口笛を鳴らす。そこで「Please be quiet...」と囁き右手を前に出すSpringsteen.....その一部の観客たちにとって静かなメッセージソングはきっと退屈なのだろう。もちろんシリアスな曲のあとにはとびきりのパーティソングが控えていて、これでもかと盛り上がるのだが。
《現実社会に対する批評メッセージとロックンロールエンタテイメント》−突き詰めれば相反するテーマを、深い絆で結ばれた同志(バンドやスタッフ)たちの【友愛】に支えられつつ、Springsteenは揺るぎない信念の基にすべて引き受け、両立させようとする。
文句の付けようがない!と言いたいところだが、ふと観客席を見渡せば、そこにいるのは99%が白人だ。
上に“成熟に至ったアメリカのショービジネス”と書いたが、大統領選挙のお祭り騒ぎをテレビで見て違和感を覚えるボクは、Springsteenの“本気”が未だに心の底から理解できないでいるようだ。
New York... 1984