ユーフォニアムについて

1800年代の初頭、欧州において金管楽器の飛躍的な発展がバルブシステムの発明によって始まりました。1800年代の中頃には中低音域を担当する様々な形状の金管楽器が考案され、ユーフォニアムの歴史が始まりました。

ドイツのゾマーが発明したEuphonionという楽器の名称が海を渡り、英国でEuphonionの名称が使用されていた時期に日本は英国から初めて楽器を輸入しました。この時にユーホネン、ユーホーニオンと呼ばれた楽器の名称は時代と共に多少の変化はありますが、現在「ユーフォニアム」という名称で呼ばれています。英国や米国で現在Euphoniumと呼ばれている楽器と日本のユーフォニアムは同一の楽器を示しています。「ユーフォニアム」という名称は、ドイツで発明され、英国を経由し、日本に到達した名称です。

ユーフォニアムは世界各地で様々な名称で呼ばれています。
英語で書かれたニューグローブの音楽辞典で「Euphonium」を調べると、Euphoniumは、ユーフォニオン(Euphonion)、変ロ調のテナーテューバ(Tenortuba in B♭)と同じ楽器であり、フランスでbasse、saxhorn basse、tuba bassse、ドイツでBaryton、Tenorbass、Tenorbasshorn、イタリアでbaritono、bombardino、eufonio、flicorno basso等と各国で呼ばれている楽器を示しています。

1. ユーフォニアムの定義

ユーフォニアム(Euphonium)は、通常4つのバルブを備えています。
バルブとはピストンやロータリー・システムと呼ばれる管の長さを変える事の出来る弁の事です。ユーフォニアムは円錐形で太い管と大きなベルを持つ変ロ調の中低音域を担当する金管楽器で、その音色は温かく響きが豊かな楽器です。近代国家における各国のオーケストラや吹奏楽団で使用するために1843年にドイツのゾマー(F.Sommer)によって発明され、ユーフォニオン(Euphonion)と呼ばれました。この名称はギリシャ語のユーフォノス(euphonos)、「eu=良くphone=響く」に由来し、後にこの呼び名はイタリアやスペインでユーフォニオ(Eufonio)として現れました。

2. ユーフォニアムの変遷

ユーフォニアムは1800年代中頃からヨーロッパ及び米国の各地域において主だった金管楽器メーカーや楽器製作者によって様々な発明や改良を施されましたが、これらの成果に対して個々の名称を楽器名や商品名として与えた為に、ユーフォニアムの変遷は実に複雑な様相を呈しています。

ユーフォニアムの変遷は大きく捉えると、以下の4つの時代に分けて考える事が出来ると考えます。

1、1820年頃にバルブが発明、完成されるまでオーケストラやバンド等で中低音域を担当していた金管楽器は、1843年頃にユーフォニアム(ユーフォニオン)が発明された後もしばらくこの役割を保ちながら、次第に現在のユーフォニアムに置き換えらました。これにはセルパンやオフィクレイド、バスユーフォニアム、バスホルン、等の楽器を挙げる事が出来ます。筆者は「ユーフォニアムの発明前史」としてこれらの楽器を位置づけています。

2、各メーカーや発明家によって、様々なバルブの金管楽器が考案されました。テナーバスホルンを原型としてユーフォニオンが発明されましたが、ボンバルディーノ、ヘルホルン、テナーテューバ、ゾメロホン、バロキシトン等、発明家達は製作した楽器に個別の名称を与えています。筆者は「ユーフォニアムの発明の時代」と考えています。

3、様々な名称を付けられたこれらの楽器は大きく捉えると3つの地域で影響し合いながら発展をしました。筆者は「ユーフォニアムの発展の時代」と考えています。

一つはフランスでアドルフ・サックスの考案したサクソルン属と呼ばれる楽器です。このサクソルン属はフランスやベルギー、英国等の欧州各地でアップライト型のピストンバルブを持つ楽器として発展しました。明治初期に英国より日本に初めて輸入された楽器や現在の日本で広く普及しているユーフォニアムはこのサクソルンの楽器のデザインの流れを汲むものです。

二つ目は、チェルベニーが考案した卵形(オーバル形)や長円形のベルを持つロータリーバルブの楽器です。これらは主に東ヨーロッパの地域、特にドイツ語圏でバリトンと呼ばれて発達したデザインの楽器です。

三つ目は、米国で発達したサクソルン属です。欧州のサクソルンが導入された後、ベルが後方を向くデザインや2つのベルを持つ機能を持った楽器等、独自のスタイルを持ちました。その後バリトンホーンと呼ばれる楽器も考案されました。

4、前項3で述べた、各地域で発展した楽器は明治以降に様々な歴史の影響を受けながら日本に輸入されました。明治3年に初めて輸入された英国のユーフォニアムや、明治後期に東欧から輸入された楽器、国産化された江川、田邊、小椋、ニッカン製等の楽器、第2次大戦後の米国や英国から輸入された楽器、ヤマハの登場と新製品の開発。1960年代後半から始まる日本のユーフォニアム界の発展。これらを筆者は「日本におけるユーフォニアムの歴史と発展」と考えています。


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