曲目解説

ヨハネス・ブラームス     愛の歌 (18曲のワルツ)
Jonannes Brahms Liebeslieder op. 52

 ヨハネス・ブラームス(1833〜1897)は北ドイツのハンブルグ生まれであったが、下層階級の出身ということから、その故郷に冷たくされて以来、第二の故郷、オーストリアに深い敬意を表していた。とくに、首都ウィーンの芸術であるワルツにはそれが顕著で、この「愛の歌」はその代表的な例である。4手用ピアノ曲にはとくに民族性を発揮した彼だが、この曲ではさらに4重唱を組み合わせている。しかもこのピアノは単なる伴奏ではなく、むしろ独立したパートとしての地位を持っているようであり、このような曲を書いた人は彼が初めてではないだろうかとされている。さらに、全18曲がすべて4分の3拍子のワルツのリズムで書かれているのも大きな特徴である。

第1曲 4重唱。ホ長調。男声2重唱の「訴え」からはじまり、女声が加わると同じ最初の旋律が2回繰り返される。
第2曲 4重唱。イ短調。テノールから始まり、教訓めいた言葉を重唱で激しく投げかける。
第3曲 テノール、バスの2重唱。変ロ長調。「ああ、女よ!」と明るい呼びかけからはじ
まる。
第4曲 ソプラノ、アルトの2重唱。ヘ長調。優しく美しいが、熱い情熱を秘めた歌。
第5曲 4重唱。イ短調。低音のピアノ前奏よりはじまり、女声2重唱が柔らかく、あると
きは激しく歌う。
第6曲 4重唱。イ長調。テノールの軽快なフレーズよりはじまる優雅な歌。
第7曲 ソプラノ独唱。ハ短調。第5曲と同じく、柔らかく、あるときは激しく歌う。
第8曲 4重唱。変イ長調。軽快かつ輝きに満ちた曲。後半は自由な転調が目立つ。
第9曲 4重唱。ホ長調。はじめはソプラノを除く3重唱で歌い出し、それにソプラノがこたえる。全曲中最も長大だが陽気な曲。
第10曲 4重唱。ト長調。テノールがソプラノの自由に模倣された旋律を歌い、愛の喜びを歌い交す。
第11曲 4重唱。ハ短調。今までの明るい気分が一転、突如腹立たしい気分と暗い不機嫌さでいっぱいになる。
第12曲 4重唱。ハ短調。不機嫌さはいっそう激しくなるが、暗さは消える。決意したような勇敢さが表れる歌。
第13曲 ソプラノ、アルトの2重唱。変イ長調。小鳥の描写を意味するようなピアノの旋律に、陽気な気分の情景が歌われる。
第14曲 テノール、バスの2重唱。変ホ長調。女性を想う男性の切実な訴えが垣間見える歌。
第15曲 4重唱。変イ長調。ユニゾンの女声パートも加わり、前曲よりも気分が高まってゆく。
第16曲 4重唱。ヘ短調。自分の想いを止められない者のように、生き生きとした活発な曲。
第17曲 テノール独唱。変ニ長調。「表情を持って」という指定が示すように、甘美に、そして切実に歌われる佳曲。
第18曲 4重唱。短い歌詞が何度も繰り返され、楽しかった愛の感傷にふける曲。はじめは暗く変ロ長調から、そして明るいホ長調に変わり、また暗い嬰ハ短調へ。最後には明るく嬰ハ長調で憧れを暗示して終わる。

(一橋厳徳氏解説より引用)

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