本日の曲目について
「亡き王女のためのバヴァーヌ」
Pavane pour une infante defunte
モリス・ラヴェル(1875-1937)は、スペインとの国境に近い南フランスに生まれ、パリ(パリ音楽院)で教育を受け、そこで生涯の大半を送った。ドビュッシーと同様にピアニストで、代表作として多くのピアノ曲を残している。
ラヴェルのピアノ音楽の特徴は、当時フランスで発展してきた印象主義的性格を持つものと、ドイツ・ロマン主義の伝統に対する新古典主義的性格を持つものがあげられる。前者の代表作としては「水の戯れ」などが考えられるが、アルペッジョ的フィギュレーション、不協和音による色彩的用法、リズムの不規則性が、その特徴である。また後者としては「亡き王女のためのパヴァーヌ」などで、伝統的な和声進行を和らげるような平行和音の使用や不協和音の色彩的な使用が特徴としてあらわれている。
パヴァーヌは16世紀のスペインで流行した宮廷舞曲で、この曲はそのパヴァーヌに基づく主題が他の2つの主題をはさんで繰り返されるというロンド形式で構成されている。ラヴェルがパリ音楽院に在学中の1899年の作品で、ヴェラスケスの描いた若い王女の肖像画からインスピレーションをえて書いたものと言われている。また、ラヴェルは、自ら管弦楽曲への編曲も盛んに行い、「亡き王女のためのパヴァーヌ」をはじめとして、「優雅で感傷的なワルツ」、「クープランの墓」、「マ・メール・ロワ」など、その手腕を発揮している。「亡き王女のためのパヴァーヌ」は1910年に編曲され、今日では原曲と編曲のどちらの形態でも広く親しまれている。
(栄長 敬子)
「ネル」
Nell
フォーレ作曲『20曲集』は第1巻と第2巻に分かれており、「ネル」は第2巻の冒頭をかざっている。
この曲は、ルコンド・ド・リールの詩に音楽をつけたもので、1878年に作曲され、サン・サーンスに献呈された。
アルペジオの16分音符は、大きな鳥のように空中で輪を描き、羽を広げたりすぼめたりしながら飛び回る。歌はその中を4度・5度・6度・7度・オクターブと、レガートの中で飛躍する。そして中間部における転調は限りなく穏やかに広がり、何事もなかったかのように再び元の調に帰ってくる。つつましく控え目な表現の中に新鮮さ、情熱、そして優雅さがあふれている曲である。
(大井 哲也)
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