ミュージシャン座談会
高橋ヨシロウ / 永川敏郎 / 藤村“茶々丸”幸宏
取材/大野祥之氏
参考文献:Rockin'f


大 野 きょうは“プログレッシヴ・ロック”がどういうものかというテーマについて話し合ってみたいんだけど?
ヨシロウ “永川敏郎、おおいにプログレを語る”というタイトルで始めましょう(笑)。
永 川 語れないって(笑)。ボクの場合は、キーボードをやっていたから、最初のうちはビートルズやディープ・パープルをコピーしていたんですよ。でも、どうしてもギターがメインの音楽だったから、“キーボードのテクニックが、もっとひけらかされている音楽はないかな?”って思って、プログレっていうジャンルを知ったんです。それで、プログレにのめり込んでいったのが、70年代の後半。イエスの『イエス・ソングス』に衝撃を受けてね。リック・ウェイクマン(イエスの超テクニカル・キーボード奏者)がすごく弾きまくっていたし、よりいろんなことをやっていたんで、ハード・ロックからどんどんそっちのほうに走っていったんですよね。
ヨシロウ ボクもディープ・パープルの影響を受けて、それを突き詰めていった時に、エマーソン・レイク&パーマー(EL&P)に興味を引かれて。ベースを突き詰めようとして、EL&Pを聴きだした感じ。そこから、ピンク・フロイドとかイエスも聴いたし。
茶々丸 ボクはギタリストだけど、当時はハード・ロックにしても、テクニカルなものって、あまりなかったでしょう。そこで出会ったのがフォーカス(オランダのハード・プログレ・バンド)で、ヤン・アッカーマンのギターがすごかったから、そっちの方面の音楽も聴くようになった。
大 野 その当時のプログレは、クラシックやジャズといった、ロック以外のジャンルを取り入れていくことで、“プログレッシヴ(進化する)”という意味を体現してきたんじゃないかと思うんだけど?
永 川 まさに、そうだったと思います。ふつうの音楽にいろんなジャンルのものを加えて、新たなものを作るのが“プログレッシヴ・ロック”と呼ばれていたし、当時はそういうものが人気がありましたよね。いろんな音楽雑誌の人気投票を見ても、1位にEL&Pがいて、2位にクィーンがいたり。“プログレを聴こう!”っていうんじゃなく、ふつうの音楽のなかのひとつのジャンルでしたね。
藤 村 子供の頃、プログレっていう言葉を知らずに、自分がおもしろいと思うものばかり聴いていたら、それがたまたまプログレだった。だから、永川クンといっしょにやり始めた頃に(80年代初期の第T期ジェラルド)、“こういう音楽をプログレっていうんだな”って、初めて意識した。
大 野 プログレッシヴ・ロックには、いろんなエッセンスが入っているけど、自分でやる場合には、どうやってそれを取り入れた?
永 川 まあ、自然にキーボードのソロを入れて、複雑なリズムを入れて・・・・・・というような感じに発展させていっただけで。
茶々丸 ボクが初めて永川クンとやった頃、永川クンの持っているものは、もうプログレだったんですよ。“出てくるものすべてがプログレ”っていうような。きっと、元から持っているものがプログレなんでしょうね。
大 野 血がプログレ?
ヨシロウ 永川クンが『太陽にほえろ!』(70〜80年代にヒットした刑事ドラマ)に出ていたら、たぶん“プログレ刑事”って呼ばれてただろうなぁ(笑)。
永 川 “ビョ〜ン、ビョ〜ン、ビョン♪”(『太陽にほえろ!』の緊張感ある場面で流れるフレーズを歌う)って、あれもEL&P的なフレーズでしょ。
大 野 それくらいプログレ的な手法が、一般に浸透していたっていうことでしょう?
ヨシロウ まぁ、そんな感じで、自然にプログレがあったんでしょうね。フル・オーケストラが演奏していたものを、少人数で音を重ねて作っていくのが、プログレの手法でしょう。クラシックにも起承転結のような展開があるけれど、それを極端に突き詰めて展開していくっていう手法もプログレですよね。
大 野 高橋クンの場合は、アクションではハードかつポップなサウンドをやりながら、プログレのノヴェラもやっているわけだけど?
ヨシロウ オレなんか、プログレをやる場合は、ベーシストとしてのこだわりがあるけど、ふつうに弾いていたらアカンような気がする。ルートを追うとか、ふつうのランニング・ベースのラインを弾くっていうんじゃなくて、キーボードやギターとの間にカラミながら、なんか動かないと許されないような・・・・・・。どういうふうにアンサンブルを作っていくかっていうのが楽しみ。
大 野 知的な楽しみ?
ヨシロウ 楽器の奏法的な楽しみかな。だから、歌のメロディを中心に考えて、それに楽器の演奏が付随しているだけの音楽ではないわけで。楽器の演奏をひたすら楽しめる音楽やね。歌も入っているかもしれないけど、歌の比重が極端に大きいわけではなく、4人のバンドだったら、完全に4分の1ずつ好きなことができる。それも、プログレ・バンドの特徴かな?
茶々丸 ベースひとつ取り上げても、ある時はコントラバスであったり、トロンボーンであったりと、いろんな役割をはたしているし。
大 野 80年代に入ると、プログレもいろんな音楽性を聞かせるようになったでしょう?
永 川 70年代には、展開豊かな曲も世間一般に聴いてもらえたけど、80年代になって、音楽をじっくりと聴いていられない時代になったというか(笑)。だから、長い曲を聴いてくれる人が、あまりいなくなろましたよね。で、その当時ヒットしていた音楽が、わりとコンパクトで、ポップになっていったし。
ヨシロウ プログレっていう音楽は、じっくりと楽しむものだったけど、ラジオとかテレビといった電波のメディアは短時間勝負だから、曲も自然に短くなっていくんだよね。短い時間で、どれだけ詰め込めるかっていうことになると、どんどんコンパクトにならざる得ない。でないと、恐竜が大きくなりすぎて滅んだように、曲も長くなると滅んでいく(笑)。そういうふうに淘汰されていったと思う。
茶々丸 60年代後半から70年代にかけては、世界的に“攻めの時代”だったでしょう。プログレは、そういう中から生まれてきた音楽だったと思う。で、80年代はコンパクトな時代ながら、押さえているところは押さえていましたよね。
大野 そういうアプローチに変わりながら、イエスが「ロンリー・ハート」で、オーケストラ・ヒットを取り入れたり、サンプリングを一般的にしたのも、プログレで、そういう革新的な技術をいち早く取り入れていたあたりに、プログレならではの姿勢があったと思うんだ。
ヨシロウ 音の改革は、つねにあったわけだから。
永 川 80年代って、70年代の音が古くさいって言われたでしょう。でも、たとえばオルガンの音を、今は誰も「古くさいね」と言われないように、20年くらい時間がたつと、昔のものでも斬新に聴こえたりする。だから、今の10代のロック・ファンの人なんかは、プログレっていうものを知らないかもしれないけど、今プログレを聴いたら、すごく斬新に感じられるんじゃないかな。
大 野 70年代から始まったプログレッシヴ・ロックというものを、これから21世紀に向かって、どういうふうに作り上げていこうと考えてる?
永 川 ボクは個人的に、こういう音楽が好きだったし、他のジャンルだったら、人よりいいものが作れる自信がないんですよ。自分のいちばん自信のあるところで、ボクはこのジャンルを選んで、やりたいことをやらせてもらっているだけですね。とくに作戦とかもないし、たまたま出してくれるレコード会社があるからラッキーなだけで。だから、ライフ・ワークですね。
茶々丸 ヴィエナの場合は、クラシック、ロック、ジャズと、それぞれ違うジャンルの人が集まっていて、プログレっていうのは、なんでもありっていうのが魅力だと思うんですよ。だから、よりジャンル分けをしないでいきたいと思うし、あえて“プログレ”っていうジャンルもなくして、やりたいことをやるっていうだけですね。
ヨシロウ まあ、ボクの場合はエッセンスの抽出の仕方が違うんで。アクションは、メロディを前に出したサウンドだけど、ノヴェラでは自分がベースを弾いて、楽器奏者的な要素が強くなってくる。そういう展開のあるドラマティックなサウンドも好きだし。自分の中の二面性を楽しんでいます。
永 川 プログレを聴いたことのない人に、昔のプログレじゃなく、今のプログレを聴いてもらいたいんですよ。ここにいるバンドたちもCDを出しているわけだし、ボクたちを聴いてもらえれば、“これが、プログレッシヴ・ロックなのかな”って思ってもらえるような音を出しているからね。
ヨシロウ ノヴェラは比較的、入りやすい音楽だと思うから。そこを入口にして、ヴィエナとかジェラルドとかテルズ・シンフォニアなんかに手を伸ばしていくといいんじゃないかな。でも、まずはアクションあたりから始めてもらうのもいいですね。プログレ・ポップと呼ばれていますから、このページでだけ(笑)。
大 野 そこからプログレの世界が広がっていく。
ヨシロウ でも、身近でいえば、最近のゲーム音楽なんて、完全にプログレでしょう。ああいう音楽性のものを、ライヴでちゃんと演奏しているのが、プログレ・バンドだという。身近にプログレ・サウンドなんて、ありふれているわけですよ。


≪THE END≫



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