この木なんの木? 


いつもなにげなく吹いている楽器、よく考えてみると
楽器になる前は世界のどこかですくすく育っていた木…。
(最近は木じゃない楽器もありますが(^o^;)…)
どこから来た、どんな木だったんだろう…?


☆Oboe編☆

Oboeといえば、たいてい真っ黒な管体に銀色のキーというのが主流。よく「グラナディラ」なんて呼ばれているあの木は、変わり種Oboeの「ローズウッド」と呼ばれる赤っぽい木と対照的に言われることが多いけれど、見た目のほかにいったいなにが違うというのでしょう?

じつは、生物学的には「グラナディラ」も「ローズウッド」もおんなじファミリー。ヒルギカズラ(またはツルサイカチ)属(Dalbergia genus)と呼ばれるなかまに属しています。このヒルギカズラ属には、なんと約300種ものローズウッド系のなかまが含まれているのです。
アジア・アフリカ・中央〜南アメリカの熱帯&亜熱帯気候で育つ“Tropical Hardwood”と呼ばれるこれらの木は、文字どおりカタい木。Dalbergiaっていうのは、これらの木を研究したスエーデン人Dalbergさんに由来しているので、別にコレといった意味はありません(^o^;)
おまけですがこのヒルギカズラ属はマメ科(Leguminosae family)に属しています。私たちが普段イメージするマメって、ビールのおともの枝豆とか、つる巻きがかわいいエンドウマメとか、緑の枝の華奢な植物だったりしますが、ごっついマメの木ってのもあるんですね。ぐんぐん天まで伸びる「ジャックとマメの木」のお話も、きっとこういう木のつもりだったに違いない…。
カタくて丈夫、見た目もキレイなので昔から楽器だけじゃなくて家具づくりなんかにも人気のあったこれらの木、いろんな国で育って、いろんな国に運び込まれて…といった長い歴史のなかで、ひとつの種にいろんな名称がつけられてごちゃごちゃしているけれど、ラテン語でつけられている学名はひとつの種にひとつの学名、という1対1の対応がお約束となっているので、通称と対応させてみますね。

学名 通称 ひとこと
Dalbergia melanoxylon African Blackwood, Grenadilla Wood, Mozambique Ebony いわゆる「黒いOboe」の木。アフリカ産。
Dalbergia nigra  Brazilian Rosewood, Palisander Loree、Patricola、Marigaux(←今は作ってない?)の赤いOboeはこの木でできています。ブラジル産。
Dalbergia cearensis Kingwood, Violetwood Loree Royal、Rigoutat、Yamahaの茶色いOboeはこの木でできています。ブラジル産。
Dalbergia retusa Cocobolo, cocabola Josefにはこの木でできたOboeもあるようです。パナマ〜メキシコ南西部が産地。

さて、実際にこれらの木をOboeにしたときにはどんな違いが出てくるのでしょう?
ある説によれば、スタンダードなGrenadilla Woodは木の密度が高いので、とても音が飛ばしやすくて、管体の割れにも強いようです。また管の寸法が変わりにくいので長持ちするとか…。
Cocobolo
Grenadilla Woodよりは密度が低く、Grenadilla Woodのよい面を残しながらも音色はちょっとあたたかい感じになります。
VioletwoodはCocoboloよりもさらに密度が低くて、音色には独特の甘さとあたたかさが
出てきます。
Brazilian RosewoodはOboeをつくる木のなかでは最も密度の低い木。なので、音色もいちばん甘いけれど、音が飛ばしにくいことがあったりします。室内楽にピッタリ!
実際に音色を左右するのは、木の硬さとか密度そのものというよりは繊維の構造だとかあな(孔)の状態。これによって管体がつるつるかざらざらかが変わってくるからです。でも、原則としては

←低い 密度 高い→
飛ばしにくく、甘い音 音色 よく飛ぶ、硬めの音
割れやすい 割れ 割れにくい
消耗しやすい 持ち 長持ちしやすい

と考えてよさそうです。あとは自分の演奏の目的や好みで木を選べばよいということになりますね。


せっかくスッキリまとまった頭をさらに混乱させるおまけのお話(^-^;)…

マメ科ヒルギカズラ属のGrenadilla Woodは別名
Mozambique Ebonyとも呼ばれます。
ところがこのEbonyという単語、じつは黒檀のこと。じゃあ黒檀の学名は?というと、Diospyros ebenum。これはカキノキ科カキノキ属の植物で、なんとあの柿のなかまに分類されています。どういうことか…つまり、Mozambique EbonyはEbonyを名乗りながら黒檀とは別だ、ということです。
それなら紫檀はどうかというと、学名Dalbergia cochinchinensis。紫檀はOboeの木のなかまマメ科ヒルギカズラ属に含まれていて、なんと黒檀と紫檀は別のなかまだったという意外な事実にたどりついたりします。あぁ、奥が深い、深すぎる…。

黒檀と紫檀は名前が似ていても違うなかま、Grenadilla WoodとVioletwoodは色が違っても同じなかま…ついでに「どうしてGrenadilla Woodは真っ黒なのに“Rose”woodのなかまなの?」というごもっともな疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
じつはRosewoodというのは、バラ色の木というイミじゃなくて、木からバラのような芳香が出るからついた名前なのです。そういえば、アロマテラピー用のエッセンシャルオイル(精油)のなかに「ローズウッド」ってやつがありますね。あれが名前のモトだったのです…。
でも、決してバラほどいい匂いがするとは思えないのは私だけ(^-^;)???


☆Fagott編☆

Fagottの管体は赤っぽいモノや茶色っぽいモノ、色の濃いモノや薄いモノetc.見た目はOboeよりバリエーションが豊富。コレは表面に塗装したり樹脂をかけたりする関係かも知れません。じゃあFagottって、なんの木でできてるの?

Fagottの一般的な材質はカエデ。カエデはグラナディラのなかまほどではないけれど、かなりカタい木。PianoとかViolinの材料としても使われます。カエデはカエデ科カエデ属の木。あぁ、Oboeよりもずっとシンプルそうですね(^0^;)よかったよかった。

それならFagottをつくるカエデはなんていう名前なの?というハナシになりますね。FagottメーカーFOX社のHPにカエデの木について書かれたページがあるけれど、FOX社だけでも5種類のカエデの木を使い分けているようです。じゃあそれぞれの学名を調べてみよう!と思ったら…じつはカエデの世界も全然シンプルではないことが判明しました。
カエデのなかまは世界各地にいろんな種類があるせいなのか、学名すら混乱している状態で、つまりは学者さんによって1本の木を別の学名で呼んでいたりするくらいなのだそうです。そのうえ通称だっていろいろつけられているわけで…結局またもやややこしいコトになってしまいますね。

では、いくつかの木について紹介してみます。
Mountain Maple(学名:Acer spicatum Lamarck)は日本ではアメリカヤマモミジと呼ばれる木。しかしFOX社のHPにはユーゴスラビア産と書かれています(^o^;)Fagottづくりでは最も一般的な木。独特のほどよい重量感があって、音色もあたたかく、正統派Fagottの特徴のど真ん中、といった感じ。最大の弱点はかなりお値段が高いこと。そのせいで高級機にしか使えないのです。FOXでは現在すべてのプロフェッショナルモデルがこの木でつくられているそうです。

Black Maple(学名:Acer saccharum ssp. nigrum???…Black Mapleと呼ばれる木はこの木だけではないようで、ちょっとアヤシイですが…)は北アメリカ産で、Karl Almenraderが1800年代初頭に試しに使ったときからFagottの歴史に関わってきたようです。Mountain Mapleよりも重いので、音を飛ばしやすい反面自由がききにくいという特徴があります。木の性質にあった管体デザインに仕上げて、この木に合ったReedと組み合わせればとってもスバラシイ音が出せるので、主席奏者に好まれるのだとか。この学名Acer saccharum ssp. nigrumが正しければBlack MapleはSugar Mapleと近縁の木、ということになりますが…これについてはまたのちほど。

Big Leaf Mapleは通称Oregon Mapleとも呼ばれ、学名はAcer macrophyllum。日本ではヒロハカエデと呼ばれる木です。葉っぱが広い、ってことでしょうね(^-^;)FOX社の使っている木のなかではいちばん軽くて、いちばん自由度の高い楽器がつくれます。ほかの楽器に音が溶け込みやすいので、オケのセカンド奏者に好かれるFagottといえます。

Red Maple(学名はAcer rubrum)は、日本では文字どおりベニカエデと呼ばれるほか、アメリカハナノキとも言われます。楽器にした感じはMountain Mapleとよく似た特徴をもっています。木目はちょっぴり粗いけれどお値段は少しお手頃です。

Sugar Maple(学名:Acer saccharum)は日本ではサトウカエデと呼ばれます。なにがサトウ=砂糖かというと、この木から甘い樹液が採れるから。ホットケーキにかけるメープルシロップのことですね。ううっ、おいしそうだ…(^0^;)
この木はここへ挙げたなかではいちばんカタい木。FOX社ではこの木を初期のプロフェッショナルモデル用に使っていたようで、今もスチューデント向けの楽器として人気のある機種に用いているそうです。ほかの木よりも明るい音のするFagottが作れるので、音色を暗くできる長めの管体デザインで設計するとgood。音はとっても飛ばしやすいけれど、Mountain Mapleよりはちょっと自由がききにくい楽器になります。


こうしていろいろ書いてみて思ったんですけど…Fagottを吹いていらっしゃる方って、たとえばFlute吹きさんが「今度こそ14金のFluteを買うわっ」と言われるような感覚で、木の種類をみて買う楽器を選んだりされるモノなのでしょうか?…Oboeの木と違って、見た目だけじゃカンタンにはわからなさそうですよね。