Mansun日記 第5章 (1997年)

ごちゃごちゃシングル・リビュー

《これはいろんなところに書いたものからの抜粋です。Mansun関係のところだけを抜き出しました。しかし2枚セットで出てるものを、どうしてこうやってパラパラ買うのかなあ。本当にこの頃はコレクターじゃなかったことがわかりますね》

Mansun / She Makes My Nose Bleed CD2 (Parlophone, 1997)

◆ あ、もう読むところがなくなってしまった。それじゃやっぱりMansunの話でもしようか。コンサート・リビューでは不満めいたことも言ってしまったが、やっぱりいいよなー。何度聴いても吐き気がするほどいい
★ どういう形容だ?
● 普通これだけ集中的に聴いてばっかりいると、どこかで飽きがくるっていうか、気の抜けたstaleな感じになるじゃない。だからMansunもきっとそうなると恐れてたんだけど、いつまでたっても、何度聴いても、そのたびにバカみたいに感激するってなんなの?
◆ VoxについてたCDに入ってた“The Holy Blood And The Holy Grail”なんだけど、これがまた気が遠くなるほどいいのよ。これがアウトテイクだぜ! ほんとにあれは怪物だ。
▲ これでPaul Draperが自殺したらとどめだな‥‥《このころ好きな人が立て続けに自殺するという不幸があったので暗くなってる》
◆●★ おまえは冗談にもそういうことを言うな!!!
★ この曲、初めてPaulとChadの共作になってるね。
● だってこの人たち、なにしろいっしょに住んでるし、2人で家でごちゃごちゃテープいじってるのが、いちばん楽しいそうだから。これからは共作の形になるんじゃないかな。
▲ でも、Mansunの宗教曲って、完全な罰当たりかと思ってたけど、これなんか聴くとマジじゃないかと思えてきた。それくらい神々しくも清らかな讃美歌で。それだけに今の気分にぴったり合いすぎて、あぶない感じ。
◆ あぶなくない、あぶなくない!
★ おまけにこのCDで聴いてMansunの次に気に入ったのは、Gus Gusという変な名前のアイスランドのバンドなんだけど、それも“Believe”ってくらいで、讃美歌なのよ。しかもその2曲が続けて入っていて、よけいホーリィな気分になってしまう。
◆ それでGus Gusって何だろうと思って調べたら、このシンガー、写真だけ見たらまるで女の子なんだけど、トランスヴェスタイトの男の子なのよ。
▲ また! 何かに取り憑かれるとそればっかり出てくるとは言うけれど、また取り憑かれてないか?
◆ いや、これはやっぱりトレンドだ。
★ かわいいの?
◆ いや、Bjorkのできそこないみたいに見える。
● なんだ、そりゃー!
▲ (Voxをめくりながら)おお、今度のManicsのManchesterでのコンサートのサポートはMansunだ。やっぱりわかってる人はわかってるっていうか。
◆ そ、そういう贅沢が許されるわけ?!!!
● だってアリーナだぜ。これは相当大々的なショーだ。思えば遠くへ来たもんだっていうか。

◆ Mansunはシングルも買ったんだけど、そのリビューもここでやってしまおうか。“She Makes My Nose Bleed”のCD2なんだけど。
▲ といっても、タイトル曲はアルバムで持ってるし、B面曲の“The Holy Blood”はVoxで聴いちゃったし、初めて聴くのはライブの2曲だけじゃない。
◆ 単にポスター付きって書いてあったから買っただけだ。
● どんなの? 見せて見せて。
◆ ポスターといっても、CDに封入だから小さいし、モノクロのバンド写真なんだけど。
● うひょほー! かーいい!
★ もうなんでもよくなってませんか?
▲ なんかこの人(Paul)は、ほんと見るたび顔が変わるなー。これはRadioheadのThom Yorkみたいに見える。
◆● 似てねーよ!
★ ブロンドで線が細いところは似てると言えるかもしれない。もっともThomのあれはブリーチで、今は茶色に戻ってるけど。
▲ なのにThomはウラナリだのなんだの言って、さんざんバカにされたのに。
● カオが違う、顔が! こんなにかわいくないもーん!
▲ ライブを聴かせてよ。
◆ うん。“Wide Open Space”と“Drastic Sturgeon”の2曲。
● かわいいっ! “Wide Open Space”で声が裏返るところが死ぬほどかわいい! “Drastic Sturgeon”は死ぬほどセクシーだし。もうどうしましょってくらいで。
★ でもぉ、私の聴いたのとなんか違う‥‥
▲ ほんとだ。ここでもギターだけだけど、あのスペイシーな感覚がちゃんと表現されてるし。
★ ボーカルもはっきり聞こえるし。
● ギターの音色も美しいし、ちゃんとギターが泣いてるし。
◆ どうなってるの、これ?
★ もしかして日本は手抜きか?!
● やっぱりPAに耳押し当てて聴くのは無理があったんだよ!
▲ 初日だったしねえ。クアトロは音いい方じゃないし。ミキサーも慣れなかったのかも。
◆ ギグの出来は日によって違うしね。だいたいあれだけ時差のある長旅してきて、最高の演奏ができる方が驚きなんだ。
★ ところで、Paulってちゃんと弾けるんですね。
▲ またRicheyに対するあてこすりを言おうっていうんなら‥‥
★ いや、これだけの曲が書けて歌えて、ギターも弾けるなんてえらいと思ったの。
▲ ギターも歌もうまいじゃない! 声量はやっぱりないし、音域もちょっと苦しいけど。《とかなんとか言ってたがー‥‥》
▲ それにライブってやっぱりいいよねえ。あの興奮がまざまざと脳裏によみがえって。それにスタジオ・レコーディングじゃ聴けない、バンドの生の音が聴けるのがいい。最近のバンドって、めったにライブ・レコード出さないけど、どうしてだろ?
◆ ビデオ時代だからかな。どうせなら絵もついてた方がいいし。
● ライブ・ビデオだってめったに出ないじゃない。
★ だいたいビデオじゃ音質悪いし。
▲ もう! ManicsとSuedeとMansunはライブ出してくれないならブートレッグで買っちゃうぞ!
◆ いいなー、やっぱりMansunはいいなー。シングルもぜんぶ買い集めたくなっちゃった。Suedeもなんだけど。B面集まとめてくれないかな。

NME Style Guide

● お話かわって、これはNMEの別冊付録のファッション特集。
★ といっても、音楽紙だからぜんぶミュージシャン関係ってことで、これがなかなかおいしいのよね。表紙にSuede、Mansunって書いてあったから買ったんだけど。
◆ BrettとNeilは“Fashion Is...”というページに登場。これは現在のロックシーンのファッション・リーダーの人々が、それぞれのファッション・ステートメントを語るという企画なんだけど。いわゆるファッション写真じゃなくて、単なるスナップだったのが残念だけど、いつもながら、なーんて花のように美しいカップルなんでしょう! 隣がSupergrassのサルだからよけい引き立つこと。
▲ 若いNeilと並ぶと、Brettはシワが目立ちますが。
◆ シワも美のうちよ!
● お洋服は当然のように2人とも黒づくめ。おでこにサングラスを載せたBrettと、タートルネックに皮ジャンのNeil、おっしゃれー!
★ ステートメントというのは?
◆ Brett「玄米と果物をたくさん食べるようにしてるんだ。おかげで、昔よりずっとルックスも気分もよくなった。ぼくはガリガリに痩せてる方が好きなんだ。その方が似合うしね。痩せすぎだって言う人もいるけど、そんなことないよ。ぼくは太るとすぐ顔に肉がついちゃうんで、顔をちゃんとしようと思うと、手足は棒きれみたいになっちゃうんだよ」
★ どこがステートメントなんですか! 単なる自慢じゃないか!
● だいたい肉がつくのは顔じゃなくて腹‥‥
◆ うるさい! 文句あっか! 痩せれば勝ちよ。なんとでも言えるね。
▲ まあ、事実だけに。実際、痩せようと思ってもこれだけ痩せられる人はそうはいないし。
● しかし、ついこないだまでデブの代名詞だった人がねえ‥‥ほんと信じられないわ。
★ 本出せば売れるのにね。『Brett Andersonの玄米ダイエット』って。
● おお! 私は買うぞ。
◆ 一方のNeilは「Suedeがトータル・イメージを持っているとすれば、それはぼくらの内なる自信のせいだろう。でも、個性もある。見たものにどう反応して何を得るか、どう自己表現するかってところに」。
★ こっちの方が賢そう。
● ちなみにこのお2人のタイトルは“Body Beautiful”。
◆ ボディだけじゃないわ。ボディも完璧だけど、顔もよ。ここはやっぱりSuedeのタイトルを取って、“Beautiful Ones”としてもらいたかったね。
▲ Mansunは? Mansunは?
◆ Mansunはモノクロ見開きで“Going Live”という企画に登場。これはなんだ? ステージ衣装ってことか?
● わーい、おんなじ! 私が見たときとおんなじシャツだ。
★ ていうか、最近これ着た写真ばっかりじゃないか? もしかしてこれしか着るもの持ってないのか? Mary Chainみたいなやつだ。
◆ Chadも似たようなフリルのシャツだしね。あれ? Chadが首から下げてるタグ(私がMansunで買ったのと同じようなやつ)はSuedeのロゴ入りだ。Brettからもらったんだって。いいなー! 日本じゃSuedeは売ってなかったぞ。
● そういや、ここはBrettのお手つきか。
◆ 卑猥な言い方をするなよ。
● だってBrettって卑猥なんだもの。
◆ 卑猥じゃなーい! セクシーと言いなさい。
▲ Paulはこれがいちばん新しい写真なせいか、私の見たままだね。
● あいにく写真があまりきれいじゃないんだけど。しかしまつげ長いなー。これは体毛も濃そう。
◆ Chadほどじゃないよ。
★ しかしMansunでミーハーやろうとしても盛り上がりませんね。
◆ やっぱり内側が見えてこないとなあ。

MANSUN / TAXLOSS CD1 (Parlophone, 1997)

● というわけで、にわかに活気づいてきた英音楽界。
◆ 単にManicsとSuedeとMansunのおかげで、私のやる気が出てきただけだが。
● 一頃ほーんと買わなくなっていたCDをパタパタ買いましたので、まとめてリビューしてしまおうというわけ。今回は◆●対談でお送りします。
◆ タイトルに「ごちゃごちゃ」とついているのは、ちゃんと論旨の通った論文にしようという意欲をハナから放棄しているだけだ。なにしろ仕事の合間を見つけて書いてるので。
● それで一番手はもちろんMansun!これがMansunの新曲。もちろんデビュー・アルバムからのシングル・カット。
◆ 片っぱしから買ってるねえ。一頃のManicsみたいだな。
● 全部なんか買ってないよ。というのも、1枚のシングルにつき、2バージョンずつ出すという英国の悪習のせいで、全部買ってたら破産だからだ。《とか言いながら、この後は結局ぜんぶどころか複数枚買うはめに》
◆ ほんとにあれは姑息だ。日本で1冊の本を上下2分冊で出すのと同じくらい姑息だ。多少高くなってもいいから、どうしていっしょに入れない? これじゃまるで、かつての12”シングルをA面B面バラで売ってるようなもんじゃないか。これなんかたった3曲しか入ってないし。
● でもMansunのアウトテイクは1曲でも貴重だし、いいことわかってるから。
◆ だったらSuedeもだ! 私もSuedeのシングルぜんぶほしいよ! 特に今のPeter Savilleシリーズはスリーブだけでも集めたくなってしまう。
● そっちは中古待ちね。それにこれまたポスター付きって書いてあったから。〈要するにこの頃はポスター欲しさに買ってただけなのね〉
◆ どんなの、どんなの? 見せて!
● それが‥‥(ポスターを渡す)
◆ なんだ、またモノクロか。
● いちおうPennie Smithの写真なんですがね。
◆ ‥‥ところで、Paulはどこなの?!
● Mansunの写真でPaulがいないわけないでしょうが。ChadでもStoveでもAndyでもない、Joy DivisionのTシャツ着てる人がそう。
◆ えーっ! また化けた!
● そう。そういうわけで、何度見てもこれがPaulには見えない。見たこともない、知らない人にしか見えない。
◆ なぜ?! 顔が変わるにもほどがあるよ! だいたいがぜんぜんかわいくないし。
● ほんとはかわいいんですう!
◆ 困るなあ、この人は。写真ごとに別人みたいに変わるんで、感情移入がなかなかできなくて。
● とにかく我々は実物をあれだけじっくり拝んできたんだから、あれを信じるっきゃないじゃない。
◆ スリーブ・デザインも統一感がないなあ。前のシングルとはぜんぜん違う紙ケースで。
● 統一されてるのはロゴだけね。
◆ ここのデザインはStylorougeがやってるんだけど、このデザイナーだめね。Suedeなんかすべてのアルバム・シングルとも、完全にトータル・イメージの美しいデザインでまとめられているのに。やっぱりそこがインディーの強みっていうか。
● さりげなく自慢しないで下さい。そのかわり中味は絶対いいから。そこでタイトル曲は飛ばして、さっそく2曲目“Grey Lantern”。
◆ というと、アルバム未収録のアルバム・タイトル・ナンバーか? そういうの好き!‥‥ん? なんかいつもと違うっていうか‥‥曲も化けた!
● なんていうかこれは‥‥インディーっぽい、ラフでスピーディな曲ですね。
◆ 私はアルバムの延長を考えていたから驚いた。つまり、ストリングスが入ったお耽美で荘厳な曲かと。
● アルバムよりライブの印象に近いな。でもこれはこれでえらいかっこいいじゃん。
◆ この人たちは音楽スタイルの幅も広すぎてつかみきれない! これだけ聴いてもまだ正体が見えない!
● ほんとに憎らしいほどなんでもできるんだなあ。
◆ もう1曲は“Taxloss”のリミックス。Lisa Marie Experienceって人がリミックスしてるけど、何者だ? 聞いたことないな。
● これがまた完全なテクノ・バージョン! 確かにMansunはテクノ・リズムも隠し味的には取り入れてるけど、彼らとしてはわりとロックっぽい部類の“Taxloss”が、こんなかっこいいダンス・ナンバーになるとは!
◆ 原曲の面影まったくないと言いたいところだけど、そこにちゃんと歌が乗るんだよね。
● リミックスっていうよか、歌だけ残してあとは全部録音し直してるでしょ。ほとんど新曲と言っていい。
◆ リミックスはけっこうはずれが多いんだけど、これは見事な成功と言っていいんじゃない? まったく底を見せない、次は何をやらかすか想像もつかないMansun。今後にますます期待っていうところで。

MANSUN / SHE MAKES MY NOSE BLEED CD1 (Parlophone, 1997)

 それでもってこちらも負けず劣らずあやしいMansun(セクシャリティはいまだ不明)。CD2のリビューはすでにやったが、あちらがB面はライブだったのに対して、こっちはアウトテイク2曲とタイトル曲のアクースティック・バージョン入り。とにかくMansunはすべていいので、結局シングルも買いあさってる。B面集が出るという噂もあったが、そんなの出るまで待てない!
 そこでさっそくB面の“The Most To Gain”。ああー、こんな名曲がB面だなんてー! とか、まだCDをかけもしないうちに書いてるが、どうせそうなることはわかってるんでね。〈まじめにやれ!〉
 それじゃ今度はちゃんと聴きます。お、トレードマークのピコピコ・リズムから始まるが、中味はしっとりした悲痛なアクースティック・バラード。CD2のほうの“The Holy Blood”を思わせますね。こんな曲が2曲も書けるなんてー!って、結局こればっかりだが、いいものはいい! やはりアルバムは派手めな曲を集めているが、この人はこういう地味な切ない曲がまたいいのよねー。無条件で泣けます。
 続けて“Flourella”。一転してこっちは重いハード・ロック。ほー、こういうストレートなロックは初期シングルにはあったけど、やはりアルバムでは聴けなかったもの。ひえー、かっこいい! 昔のManicsみたい。歌もがらっと変わってグランジ風になるが、サビの聴かせどころではしっかりドラマチックにメロディアスに盛り上げる。このファルセットがもおー! あー、疲れる。なんかMansunは絶叫ばかりでリビューにならん。
 そしてアルバムの中でも好きだった(というか全曲そうなんだけど)、おまけにアルバム中最もエッチっぽい“She Makes My Nose Bleed”がアクースティックだとどうなるのかも興味津々。だいたいにおいて、アクースティック・バージョンというのは、適当にギターをジャラジャラかき鳴らして、静かに歌うことでお茶を濁すことが多いのだが、Mansunはアクースティックも聴かせる!
 Mansunの純然たるアクースティックを聴くのは初めてだが、アクースティックを弾かせると、ギタリストの本当の力量がわかる。これでわかるのはChadという人はやっぱりクソみたいにギターがうまいということ。このスワンプふうのアクースティックも常人じゃできないっすよ。南部ふうということで、Martin Goreのアクースティックに似てるが、あれをキチガイみたくうまくするとこうなる。そしてこの2人のコーラス・ハーモニーがまた絶品で、ああー‥‥
 好きだ。気が狂うほど好きだ。この人たちは天才だ。という意外、もう何を言ったらいいのかわからないMansunでした。

MANSUN / MANSUN TWO EP (Parlophone, 1996)

 ついでだからもひとつおまけにMansun(限りなく出てくるなあ)。これはLondonみやげではないが、Londonでいくら捜しても見つからなかったMansunの初期シングルが、近所の古本屋にあるあたりがコレクションの妙味。というわけで、これは帰国後、家の近くで偶然見つけた。それも「おすすめ品」シールをつけてディスプレイされてたってところがよけい不思議。西葛西でMansun知ってるやつなんかいるのか?
 タイトルに“Mansun Two EP”とあるが、ということはつまり、当然“Mansun One EP”もあるはずで、日本盤の“Japan Only EP”はこのワンとツーを1枚に合わせた入門盤と見える。〈ほんとは2と3でした。日本盤の“One  EP”が出ていることさえ知らないで書いてる〉 だから曲もほとんど共通しているのだが、“The Greatest Pain”という1曲だけが、日本盤には含まれていなかった。1曲のために千円! いいよ、いいよ、Mansunならその価値あるから。
 スリーブはいつもながら(アルバムを除く)しょぼいが、ここでは初めてメンバー写真をスリーブに載せている。といってもちっぽけなセピアの写真だが、かわいいよ、Paul。このころはドラマーが前の人だが、Hibとクレジットされている。変な名前。
 そこでさっそく“The Greatest Pain”を聴く。タイトルからしてなんかドキドキ。しっとりしたかわいいピアノで始まるが、そこにいきなり轟音ギターがとどろく。アルバムで洗練を極める前のMansunはまだロックっぽかったという証だが(ライブではまだ相当ロックっぽいが)、それでも全体に凛とした気品と洗練されたポップ性が香る、Mansunならではの曲。かっこいいよー! 美しいよー!って、そればっかり。

みそぎコーナー

(なんでこういうタイトルがついてるかは長い話なので略)

● というわけでお次はMansun。うー、あいかわらずおまえもかわいいのう、なでなで‥‥。
◆ しかし狂ったように仕事してるね。あれだけいっぱいレコード作っておいて、またシングルが出るの?
● だからね、才能がね、ありあまってね、たまったものは出さないとね。
◆ わかったよ!
● それでこれはMansunのアメリカ・ツアー・レポート。
◆ なんかそういうの好きじゃないんだな。
● なんでよ?
◆ 好きな人が嫌いなアメリカにいるのがかわいそうで耐えられないだけ。
● 勝手にかわいそうと決めるなよ。
◆ だって私の好きな人がアメリカで受けるわけがないもん(きっぱり)。それにイギリスのバンドがアメリカ行ってろくなことになったためしがないし。大丈夫なのかしら?
● 大丈夫。明るいカリフォルニアの太陽が降り注ぐビーチで、いつも通り真っ黒い服着て、暗ーい顔して、目の下にクマ作って、うつろな目して立ってるから。
◆ まったくこの人は!(爆笑)
● Mary Chainみたい! ああ、やっぱりMary Chainを思い出すなー、このいとおしさは。そういや、Mary Chainもそうだけど、Suedeもいつも黒づくめだし、私たちの好みってこのパターン多いね。
◆ いい男は黒しか着ちゃいけないと、イギリスの法律で決まっているのだ。
● でも、Manicsは例外で、絶対に黒を着ないという異色のバンドだった。
◆ まあ、あの人たちのドレス・センスに関しては、私は何も言わないけどね。あれはあれで一種のマニフェストなんだろう。
● AndyはSuedeのロゴTシャツ着てる。
◆ あいかわらず愛を貫いてるな。ういやつらじゃ。しかしStoveは裸じゃないか。統率乱れてるよ。
● この人は「肉体派」だから。
◆ どこが! そういやPaulは決して肌見せないね。
● そうなんです、残念。絶対絶対私の好みの体型なのに!
◆ やっぱり水着が良かったか?
● やです! カウボーイハットは意外や似合ってかわいいけど。そういや、Jimもアメリカでカウボーイハットかぶってるのがかわいかった。
◆ この写真、ずいぶんほっぺたがふっくらしてこないか?
● もともと顔はふっくらしてるんです。体は細いけど。
◆ そういや、●は下ぶくれが好きだっけ。
● 下ぶくれじゃない! だいたいBrettとNeilを見たあとだと、誰でもそう見えるよ。
◆ それはそうだ。Chadはあの恐ろしい金髪縦ロールを切ったじゃない。
● うん。パーマもやめたし。そしたらすごいかわいくなった。こうするとあごも目立たないし。やっぱり美少年かもしんない。
◆ で、なんかおもしろい話は? タイトルには‘Mansun Go Mad In LA’とあるけれど、何をしでかしたの?
● これのことかな? Hollywoodのクラブ・ギグでの出来事なんだけど。Paulが仰向けにフロアに寝ころがって、歯でギターを弾いていると‥‥
◆ なんだ、そりゃー! どういう芸当だ?
● と、本人が言っている。するとChadが何気にステージを横切って、Paulの胸の上にまたがり‥‥
◆ (期待に胸躍らせて)それで、それで?
● あそこをPaulの顔に押しつけて、ぐりぐり腰をまわしたんだそうだ。
◆ きゃー!
● Paulはそれがよっぽどうれしかったらしく、そればっかり言ってる。「モロにだぜ! 口にじかにだぜ! まねじゃなくて、あいつ本当にやりやがった!」とか。
◆ くやしー! 見たかった! なんで日本じゃやってくれないのよ? しかしえらい。それは案外誰もやっていない。そういや、Suedeもビデオだけじゃなくて、ライブでからみやってくれるともっとうれしいんだがな。
● (想像する)やっぱり似合わないよ。Richardとじゃ。
◆ Neilでもいいよ。いっそ3Pという手も。
● Justineが女王様ルックで鞭もって出てきて、Brettをしばき倒すというのなら、すごーく似合うと思うんだけど。
◆ やだ!
● 嫉妬ね。

MANSUN / ONE EP (Parlophone, 1996)

 またかと言われそうだが、またMansunだ。しかし、レコード出ないのにディスク・リビューだけはえんえん続くな。というのも、飢餓状態に耐えかねて初期シングルを買いあさっているからだ。ご本人たちは現在大がかりな英国ツアー中で、てことはアルバム製作に取りかかれるのはそれが終わってからだから、セカンド・アルバムは早くても今年の終わりごろになっちゃうな。出ると言ってたB面集はどうなったんだ? なんでもいいから出してくれー!というのが、Mansun中毒者の深刻な叫びである。とにかくもう出るのか出ないのかわからないコンピレーションなんか待っていられない! というわけで、Mansunのシングルは東京の輸入レコード屋でもLondonでもずいぶん捜したのだが、どこにもなくて、意外や秋葉原のヤマギワの中古センターにどっと入っているのを発見。ここは洋楽はほとんどないので、普段はろくに見もしない店なのだが。そういや、“Two EP”を見つけたのは西葛西だし、燈台もと暗しっていうか、そういうもんなんだよなー。
 というわけで、“Two EP”があるなら“One EP”もあるはずと思って捜していたのがこれ。日本盤で、これがMansunの日本でのデビュー・シングル。4曲入りだからおそらくオリジナルのままのフォーマットだろう。向こうではこの前にSci-Fi Hi-Fiというインディーから2枚のシングルを出しているというのだが、その入手はむずかしかろうなあ。だいたい“Take It Easy Chichen”がデビューだってことは知ってるが、完全なディスコグラフィがないので、曲名もわからない。その部分さえ揃えば、Mansunのレコーディングはすべて揃うはずなのだが。《これも単なる無知で、ぜんぜん揃ってはいなかったのだが、このSci-Fi Hi-Fiはなんの苦労もなく日本で入手してしまった》 とりあえず、これはEMIからのメジャー・デビュー・シングルとなる。曲目は“Egg Shaped Fred”を除く3曲ともアルバム未収録で、聴いたことのない曲ばっか。わーい!
 そこで1曲目は飛ばしてさっそく次の“Ski Jump Nose”を聴きます。これは初期Mansunの代表曲のひとつで、タイトルだけはよく耳にするんだが、聴くのは初めて。(曲流れる) あれー? これ、聴いたことあるぞ。そうか、ライブで聴いたんだ! 自分でもこの目でMansunが見られるなんて信じられなかったから、この目で見てもまだ信じられなくて、いまだについコンサート行ったこと忘れちゃうのよね。バカな私、チョメチョメ。〈文体が変なのは、久々にヤクをやったせいで(Mansunは麻薬だって言ってるでしょ)、軽くイっちゃってるせいなのであしからず〉
 あー、かっこいい‥‥(聴き惚れる)〈リビューは?! Mansunっていうと、いつもこればっかりなんだから〉 だってほんとにかっこいいと言うほかなんて言ったらいいのか‥‥ヘヴィなギター・リフがうなるスローなブギで、Mary Chainみたいだな。〈そういう「○○みたい」ってのはMansunに失礼だからやめたら?〉 だってほんとになんて言っていいのかわからないんだもん! Mary ChainとPrimal Screamを足して、さらにパワーアップしたみたいだ。特にここでのPaulの唱法がJimみたいだったり、Bobbieみたいだったりするからよけい似ているような気がするんだろうが。
 しかし、Chadってなんてかっこいいリフを弾くんだろう。この1曲だけでもWilliamに匹敵するっていうか、しかもWilliamはそれが本業だが、この人はそれ以外にありとあらゆるスタイルが弾ける上に、そのすべてがうまいもんなー。ほんと、PaulとChadのうまさと多芸さにはあきれかえる。さらにイントロとエンディングに入る冷たく冴え冴えとしたピアノの音がなんとも美しく、不安感に満ちていて、こういう芸の細かさもMansunならでは。
 続いて“Lemonade Secret Drinker”。“Ski Jump Nose”もそうだが、変なタイトル! 軽快なダンス・リズムで始まるのはお約束だが、歌が入ってからはやたらドスのきいたブルージーなバラード。この人は曲によってガラッと唱法が変わるのだが、これはPaulのいちばんコワモテのする部分。ここではMick Jaggerみたいだ。しかし、もちろんMansunはコワモテだけじゃ終わらない。この、タララララと1音ずつ下がるメロディ・ラインはPaulの得意だが、これが気持ちよくてかわいくて大好き。(これを聴くたびCureの“The Walk”を思い出す)
 最後は“Thief”。これもハードでヘヴィな曲で、“Japan Only EP”でも「初期の方がロックっぽかった」と書いたが、まさにその通りだと思う。もちろん、そのワイルドさは今でもライブでは生きているのだが、レコーディングに関しては洗練されすぎて、ちょっとこの荒々しさが薄れてしまったようなのが残念なような‥‥と言ったらあまりに贅沢か。かといって、これが洗練されていないかと言えば、もちろんそんなはずはなく、どんなハードな曲をやっても単純ロックンロールにならないのは、ギターやメロディ・ラインが凝りに凝っているからだ。どんなバンドでもデビュー時はまだ不器用さや荒削りさが残ってるものなのに、それが最初からまったくないMansunって。アルバム“Grey Lantern”の完成度にも「とても新人とは思えない」と驚いていたが、シングル聴くともっと信じられないよ。ほんとにこいつら新人なのか? 実は10年選手の、35才だったりするんじゃないのか? と言いたくなるところだが、違う!と思わせるのは、やっぱり若さとみずみずしさがみなぎっているからで、もう完璧じゃん!
 ちなみに、この3曲はいずれもすさまじい憎悪と怒りの歌である。Paulが言う「ぼくはラブソングなんか書かない。ぼくらの歌はヘイト・ソングスだ」というのは、こういう意味だったのか。初期のMansunは怒ってたという言い方もできそうだな。この怒りもまた、洗練とともに消え去ったとは言えそうだ。ライブでもそりゃパワーと気迫と*うつろさ*はすごいものだったが、別に怒ってるような感じはしなかったしな。Paulも少しずつ丸くなってきてるのか?
 あっ、ここにも隠しトラックが! 前曲が終わってしばらくたったところに、美しいアクースティックのインストゥルメンタルが入ってる。でもってこの美しさがまたもう‥‥! どうしてどうしてこの人(Chadのこと)は、ああいうギャンギャンに咆哮するヘヴィなリフが弾けるうえに、こういう繊細そのもののアクースティックが弾けるの?! しかも、痛烈で暴力的な罵倒と嘲笑に満ちた曲のあとに、こういう宝石のように美しいインストゥルメンタルを入れる、これぞまさしくMansun。ああー‥‥

MANSUN / TAXLOSS CD2 (Parlophone, 1997)

 そしてこれがやはりヤマギワで仕入れてきた買いもらし分のシングル。他にもいっぱい入ってたが、あとはすべて持ってるので。少なくともこれでEMI移籍後のMansunの音源はすべて揃ったはずだ。〈“Stripper Vicar”と“Wide Open Space”ってシングルカットされたんじゃなかったっけ?〉 あっ、そういやそうだ。くやしー! でもあのシングル、どっちも日本じゃ一度も見たこともないぞ! どうなってるんだ?! しかしいつになるかわからないが、B面集は絶対出るな。これだけの名曲の数々を埋もれさせたままにするはずないもん。中味は表題曲のほか、未発表曲1曲と、“Ski Jump Nose”のライブ、それに“Wide Open Space”のアクースティック・バージョン。
 それじゃさっそくその新曲“The Impending Collapse Of It All”。PaulとChadの共作曲だが、えーとこれは‥‥Mansunの曲は複雑すぎて、一言じゃ言い表せないんだよ! これもすばらしい、いい曲だってことで。〈逃げだ!〉 えーと、前のとこれと聴きくらべて気が付いたんだけど、Andyってものすごくうまいドラマーなんだな。少なくとも前のドラマーよりはるかにうまい。このメンバーチェンジは正解だった。ほんとは好きなバンドにはあまりメンバーチェンジってしてほしくないのだが、ブレイク前のメンバーチェンジは吉と出ることが多い。Manicsがそうだし、Suedeがそうだし、Beatlesだってそうだしね。〈ほとんどのバンドがそうなのでは?〉 うるさいな。
 いやー、うまいよ、この人は。単に手数が多いだけじゃなくて、歯切れの良い、はずむようなリズム感があるしね。これまたこの若さで‥‥。圧倒的なギターとメロディに埋もれて、Mansunはわりとリズムが目立たない感じがするが、よくダンス・リズムを取り入れているのでわかるように、リズムにもコンシャスなグループなのだ。なんとこの人々には欠点てものが何もないじゃない!〈何を今さら〉
 続けてライブ。レコードでさえあれだけかっこいい“Ski Jump Nose”、これこそまさにライブ向きの曲なので、いったいどうなるのか、わくわく‥‥おや? これは“The Chad Who Love Me”のイントロじゃないか、どうなってるの? しかし、あの曲をキーボードなし、ストリングスなしで、ここまで荘厳華麗にできるなんて‥‥って、私も生で見たはずなんだが‥‥。あの部分を2本のギターだけで表現しているのだが、このからみあうギターの妖しさ、美しさがまた悶絶もの! Paulってほんとにギターもけっこううまいな。いや、けっこうどころじゃなく、彼自身リードが勤まるぐらいうまい。だってどっちがChadかよくわからないもの。天才じゃないかしら。
 そして曲はそのままメドレーで“Ski Jump Nose”に移る。かっこいいー! こんなの日本でもやったっけ? そういややってたような気もするが‥‥〈さっきから自分の見たライブの話になるとあやふやなことばっかり言って、あんた、どこに耳付けてるのよ!〉 だってー、自分じゃけっこう冷静なつもりだったけど、やっぱり理性はどこかへ消し飛んでたようで、すべてがまるで夢の中の出来事みたいで、かんじんなことは何ひとつ覚えてないんだよー!
 その“Ski Jump Nose”だが、ライブではスタジオよりはるかにアップテンポのアレンジになっていて(Mansunのライブはほとんどどの曲もそうなのだが)、もうかっこいいのなんの! さっきPaulがギターうまいって言ったが、それを言ったら、Chadだって歌うまいな。だってコーラスがちゃんとハモるもの。それはレコードでの華麗なコーラスだけ聴いていてもわかりましたが。〈だからそれも自分の目で見てきたはずでしょ!〉 そうなんだが‥‥とにかく生では、しかもPAの真ん前ではあの轟音にかき消されて‥‥それとも日本公演はやっぱりあまりいい出来じゃなかったんだろうか? 〈これを聴いちゃうとそういう気もしてくるわね〉 まあいい、この目でMansunを見られただけでもいいんだ!
 きゃっ! 突然“Ski Jump Nose”が途切れて、“The Lyrical Trainspotter”の一節が流れたかと思うと、一転してまた元に戻る。この展開もむちゃくちゃかっこいいー! ひえー! すごいー! この異様な盛り上がり! この人たちは絶対ライブ・アルバム出すべきだよ。それを言ったらライブ・ビデオも!
 はあはあ、すっかり興奮してしまったが、あと1曲アクースティック版“Wide Open Space”がある。ライブの狂騒状態が嘘のように、これまた涙が出るほど繊細で清らかな、不安感と静謐な美しさに満ちたナンバー。はー‥‥、すごいっ! Mansunはやっぱりすごい! これは毒だ! クスリだ! 麻薬だ!(もう自分でも何を言っているのかわからなくなっている)
 しかし、PaulとChadというリード・コンビはほとんど鉄壁というか無敵だな。とはいえ、そういう無敵のコンビほど脆いものはないのであって、過去にそういうふうに言われた人々はことごとく壮絶な喧嘩別れをしている。Lennon & McCartneyでしょ、Strummer & Jonesでしょ、Morrissey & Marrでしょ、Anderson & Butlerまで! もっとも、この人々は全員ソングライター・チームでもあったのに対して、Paulはいまだにほとんどひとりで曲書いてるから大丈夫か。でもそれにはChadの「内助の功」が欠かせないだろうし、だいたいMansunのギターがChadじゃなかったらいやだ!〈なんで勝手に別れると決める?!〉 そうか、この人々は「愛」で結ばれてるからいいのか。〈またそうやって勝手に決める!〉 いいや、これは愛だ。

P.S. まるでどうでもいいことだが、実業之日本社のコミックスは「マンサン・コミックス」という名前で、英語綴りはMansunとそのまんまだ。どういう由来なんだか知らないが、もちろんMansunが存在するよりずっと前からこの名前。ということは、日本でもアメリカみたいに登録商標にうるさかったら、MansunはマンサンUKとか、マンサン(バンド)とか名乗らなくちゃならないのか? たしかUrusei Yatsuraが日本でのみ(向こうじゃそのまんま)Yatsuraに改名したのって、小学館(だかどっか)から物言いがついたからって聞いたんだけど。