Mansun日記 第4章 (1997年4月)

MANSUN CONCERT REVIEW

(Club Quattro, 16/4/1997)

使用前

◆ というわけで、早くも‥‥クシャン!!
★ まいったなー、今日はいきなり花粉症の発作。ブシュー!(鼻をかむ音)
● せっかくのMansunなのにー! ジュルジュル‥‥
▲ いいじゃないの、ハ、ハ、ハックシュン! 少しぐらい緊張ほぐれた方が。今日なんか朝からカレンダーを何回も見ては、「本当に今日なんだろうな? 本当にMansunが見れるんだろうな?」とかやってたんだから。
★ 確かにこうなると、すべての気力が一気に萎えますけどね。グジュグジュ‥‥(うるさいので以下略)
◆ しかしこれはひどい。これだけひどいのは10年ぶりじゃないか。地下鉄の中でいきなり鼻水・くしゃみ・涙が止まらなくなって、まだひどくなる一方。30分でポケット・ティッシュ7個使ってしまった。
● 隣の女が香水つけてたでしょ。あれがトリガーになったんじゃないの?
▲ 私の花粉症は花粉に限らず、アレルギー物質ならなんにでも反応するのだ。(アルコールにアレルギーなので)
◆ そこで渋谷に着くなり薬局捜して駆けずり回って、今は薬飲んで、喫茶店でケーキセット食べてるところ。
★ 食欲まったくないんだけど、飲んだり食ったりするといくらか楽になることがあるので。
◆ とにかく私はこんな状態でMansunを見るのはいやだ! 涙で前が見えないというのは期待していたけど、こんな涙じゃない!
● ティッシュの大箱かかえて見るのもいやだよー!
▲ ああ、もう6時じゃないか! 行かないと!
● 根性あれば必ず前へ行けるから、あせることないわよ。
◆ それよりこれなんとかしなくちゃ。
★ Mansun見れば、そんなのどこかへ吹っ飛ぶと思うよ。
◆ (目を血走らせて)もうそれに賭けるっきゃないな。
▲ では、行ってまいります。
★ まるで特攻隊(笑)。

使用後

◆ はあー‥‥ふぁ、ふぁ、ふぁっくしょい!
★ また始まった!
▲ なんで? クアトロでは完全に止まってたのに。グシュン!
● 寒さのせいじゃないのか? 今日は真冬みたいに寒い日だったから。ズズッ。
★ 風邪ひいたんじゃないの? チーン!(鼻をかむ音)
● なんでMansun見てるときだけ風邪が治るんだよ。そういう精神的なものに左右されるのはアレルギーに決まってる。ハーックション!(うるさいので以下略)
◆ というわけで体調最悪なのだが、とにかくこれを書いてしまわなければ。どこから始めようか?
▲ 入ったところから。
◆ 私が鼻をすすりながらクアトロに着いたのが6時15分。まだ入場の途中で、そこでさらに15分ぐらい待って入った。当然ながら整理番号は悪かったんだけど、クアトロは小さいし、今日はコギャル相手という気楽さがあるので、あわてず騒がず、マーチャンダイズを物色する。
● 買ったのはファースト・アルバムの青いバラの柄のチビTシャツとMansunのロゴ入りタグ。Tシャツはこの渋いようで派手な色柄が私にはすごく似合っていいんだけど、いくら上半身は肉ついてないといっても、Sサイズでは私にはちときつい。
★ Made in Englandなのにー?
◆ 私はイギリスでも相当大柄な方なのだ。
▲ タグってなんだよ? 何にするの?
● アルミでできた軍隊の認識票みたいなの。首から下げてお守りにする。
▲ 最近そういう変なマーチャンダイズが多いな。
◆ Suedeじゃロゴ入りのライター売ってたわよ。百円ライターが千円もするので、バカらしくて買わなかったけど。
▲ どうせ売るんならもうちょっと役に立つもの売ってくれよ。
★ 役に立つというと?
● Paul Draper等身大抱き人形とか。
◆ 気持ちの悪いこと言うな!
● 気持ちわるいとはなんだ。だったら枕カバーとか。
★ なんだよー、それ!
▲ Take Thatと勘違いしてるな。
● Take Thatなんか等身大写真プリントのシーツまであったわよ。Markにくるまって寝るわけ。
★ やっぱり気持ち悪いような気がする。

◆ それから荷物をロッカーへ預けて中へ入った。MMを読んだのでコギャル軍団を恐れてたんだけど、確かにステージ前はその人々に占領されているものの、あとの客は三々五々。これなら楽勝と思って、とりあえず場所を捜す。
▲ しかし今日びっくりしたのは、5才ぐらいの女の子を連れた母親がいたこと! こんなの初めて見た! 子連れでスタンディング・ギグへ来るか?! 子供殺す気か?
● Take Thatならともかく。
▲ Take Thatの「子供」は少なくともティーンエイジャーだったよ!
◆ しかもその母親が、いちばん前に陣取って、PAスピーカーのラックに子供のせてる!
▲ 確かにあの上なら子供は安全か知らないが、難聴になるぞ。
★ あれは娘がファンなのか、それとも親のほうなのか?
◆ 親に決まってるでしょが。5才の子にMansunがわかるか?
▲ わからんぞー。コギャルにわかるんだから。知能程度たいして変わらんし。

《このあと悪口雑言がしばらく続きますが、単なるボヤキなのでカット》

▲ しかし、いくらなんでも始まればどこかへ逃げ出すだろうと思ってたら、なんと最後までその場所でがんばり通した。
◆ 子供が泣くとかグズるとかするだろうと思ったんだけど、子供の方も真剣にステージを見てたな。耳はふさいでたけど。
★ やっぱり子供がファンなんじゃないの?
● うそだー!
▲ コンサートの低年齢化はどこまで行くのでしょうか? 先行き恐ろしい。

◆ そんなわけで、ステージそばには行けなかったんだけど、先を見越してフロア右側に入った。クアトロは左にあの邪魔な柱があるので、それが視界に入らないところにしたのだ。
★ どうせ最初の「ワーッ!」ってところで一気に前に行くからね。
● でも開演遅かった。幸い花粉症はクアトロに入るなり、ぴたっと止まったんだけど。
▲ みんな待つのがつらいって言うけど、私はけっこう好きだけどな。アドレナリンの分泌がだんだん高まって、全身に力がみなぎってくる感じが。それに後ろから人波が押し寄せてくるのを「いつ来るか、いつ来るか」と待ってるのって、波乗りみたいで楽しい。
● そういうのはあんただけだって。
◆ しかし、それまでおとなしかったコギャル軍団、さすがに開演の時の悲鳴はすごかったね。
▲ 人の圧力もすごかった。おかげで私はあっというまにいちばん前まで押し出されてしまった。それも例の母子の真後ろ!
★ 位置関係を言うと、母子がスピーカー・ラックの角に張りついてて、私はスピーカーに張りつく形で、その人たちの後ろにのしかかった形。はじっこ近くだが、いちおう最前列。
● おかげでよく見えたけどねえ‥‥
◆ あの母子さえいなければ、私とMansunを隔てるものは何もない、はじだけど、クアトロはステージ小さいし、ステージ全景が見える絶好の位置なのに! 邪魔だ! はっきり言って邪魔! コギャルなんぞ蹴散らしてやるつもりだったけど、いくらなんでも子連れの母親に蹴り入れるわけにもいかないし。迷惑なんだよ!
★ イギリスのクラブじゃありえないことなんだけどねえ。年齢制限があるから。
◆ そんなのなくたって常識じゃないか! 非常識きわまる! ガキは入れるな!
▲ だいたい子供料金なんてないし、あの子も金払って入ったんだろうか?
● 抱いて入れる子供は無料‥‥のはずはないしなあ。
▲ でもよく見えたじゃない。文句ばかり言うなよ。
◆ そういうんじゃなくて、目の下にガキの頭があるんじゃ、集中できないんだよ! いつも言うように、コンサートというのは異空間で、中でもMansunは私にとってはとびきり特別なバンドなのに! そこに「家庭」を持ち込むな! だいたい、押されるたんびに子供つぶしちゃうんじゃないかと気が気じゃないし。私がイケなかったのはそのせいだわ。
● まあまあ‥‥
◆ やっぱりコギャル中心より、身の危険はあっても男中心のギグの方がずっといい。切れた男がいれば絶対に群がバラけるし、私はその隙に乗じて自由に動けるし。なのにコギャルって最初こそすごいけど、あとはスクラム組んで固まって動かないんだもの。あれを突破するには助走をつけて走ってきて体当たりするか、それこそ頭の上によじ登らなくちゃならない。
★ そういや、ステージ・ダイブはおろか、ボディ・サーフィンも一度も見られなかったのは、最近のギグじゃめずらしいですね。
◆ だからコギャルじゃだめなんだよ。
▲ Shed Sevenじゃコギャルがやってたよ。同じコギャルでもあっちの方が上等だったな。
★ でもおかげで、痛い思いもまったくせずに、あれだけ近くで見られたんだし、いいじゃない。
◆ どうも私はまわり中から小突かれたり、もみくちゃにされないとイケないみたい。
▲ マゾみたいなこと言うなよ。
● 普通のセックスじゃ感じない体になってしまったのね。
▲ だから、そういう誤解を招くようなことを言うな!
★ それに踊れないと。
◆ それが惜しかった! Mansunは十分踊れるのに、いちばん前だと身動きもできない。まわりが踊ってくれればいっしょに動けるのに、みんな立ってるだけだし。

◆ それじゃいよいよ、コンサート評行きます。それじゃ本日のメイン、つまり「Paul Draperとはいったいぜんたい何者なのか?」というのを確かめるのが今日の最大の目的だったんだけど。
● まずは見かけから。Paulはまた髪の色が元に戻ったね。やっぱりあの黒髪は染めてたんだ。今はブロンド。たぶんこれが地色だと思う。眉毛もまつげも同じ色だったし。それに髪型がまた変わって、今は後ろと横を短く刈り上げ、くしゃくしゃの前髪を額にたらしている。誰に似ているかといえば‥‥
◆ Damon Albarnの髪型じゃないか!
● そう、Damonそっくり
◆ よりによって、宿敵Damon Albarnと! 私がイケなかったのはそのせいかも。ついDamonがそこにいるように見えちゃって。
★ 顔はぜんぜん似てないよ。Paulの方がずっとかわいい。
▲ でもDamonだって、英国屈指の美少年ってことになってるんじゃありませんか?
◆ 私はキライだ。
● でも、私、Damonの髪型はかわいいと思ってたけどな。Paulもこのヘアスタイルが似合ってて、今までになくかわいく見えた。
★ でも不思議な人だよねえ。Kurt Cobainスタイルの時は、ほんとにKurt Cobainそっくりに見えたのに、髪型がDamonになるとDamonそっくりになってしまう。まるで、顔のない男みたい。
▲ それは言えてるかも。だいたいが、MMのあの写真(オールバックでバラ持ったやつ)を見て、「同一人物とは思えない」と言ってたけど、生で見てもやっぱりあれと同一人物とは思えない
◆ 私、とにかく近くてはっきりくっきり見えるし、どうせこれ書かなきゃならないからと思って、何ひとつ見逃すまいとじっくり観察してたんだけど、何も形容が浮かんでこないの。本当にきれいな顔してるんだけど。
● きれいとは思わない。きれいってのはSuedeみたいなのを言うんだよ。この子はかわいいの。
◆ それにスッピンだったよね。ディスク・リビューで「スッピンで普通の髪型にしたらきっとかわいいだろう」と書いたけど、本当だったな。
▲ でもなんかつかみどころがないんだな。
★ かといって、「どこにでもいそうな普通の男の子」では決してない。不思議な人だ。
● こないだ見たNeil Codlingみたいな、いわゆる「絶世の美少年」では絶対にないよね。かといって、Tim Burgessみたいに愛くるしいって感じでもない。だけど、なんていうか、妙にそそるんだな。
★ 「なんとかしてあげたい」タイプよね。
▲ 誰かに似てるんだがな、思い出せない。
◆ でも両性具有を売りにしているわりには、それほど女っぽくはないな。スッピンのせいもあるだろうけど。
● でも23にしては幼いし、男というより「男の子」って感じ。いいわー。
◆ 体つきも思った通り小柄。私ぐらいかな。ほっそりしてるけど、Neilみたく消え入りそうというほどではない。
▲ そりゃ、あんなのがそういてたまるか。
● あの体型も好き。足が短くてかわいい。Jimを思い出した。細くてなんか頼りなくて。

◆ それじゃ他の3人についても。
● その前にお洋服について。◆さんのご要望通り、PaulとChadは黒づくめでしたよ。
◆ べつにこういう体型の人はどうでもいいんだが‥‥ブロンドだし‥‥
● Paulは胸に細かいフリルのついた黒いドレス・シャツ(なぜかフリルが似合う)に、Mansunのトレードマークである安全ピンをいっぱい付けている。下はボンデージ・ジーンズ。Chadも似たような格好。
▲ あの安全ピンはパンクのつもりか? なんとなくいきがってるところが、初期のManicsみたいだ。
★ いわゆるDIYパンクですね。
● 同じ手作りでも、いくらなんでもManicsよりはかっこいいよ。
▲ むか。
◆ スタイル・コンシャスなのは確かだな。Stoveはスーツにワイシャツの襟を立ててという私好みのスタイルだが、上着を脱ぐと、ワイシャツのそでをちぎってノースリーブにしてあった。これもなかなかセクシーで決まっている。Andieは何着てたか忘れた。
★ Stoveは写真で見るよりいい男だね。背も高いし、ブロンドで真っ青な目だし、見るからに白人男好きのギャルが好きそう。私のタイプじゃぜんぜんないけど。
● Chadはあのアゴがなあ。
◆ ヘアスタイルはブロンドの王子様ヘアのままだし。
★ 見た感じごついから、背高いのかと思ったら、Paulとほとんど変わらないのね。よって体型もかなりかっこわるい。
● Paulは小さいなりにコンパクトにかっこいいじゃない。あの体型好き!
▲ Andieはなんていうか、写真で見る通り。この人もかっこいい。背はいちばん高いし。

★ かんじんの話はどうなったの? 「Paul Draperとはいったいぜんたい何者なのか?」ってのは?
▲ そんなの見ただけでわかるかよ。
◆ それがわかっちゃうから不思議なんだな。1時間もじっくりながめてると、内面もある程度見えてくるんだよ。
● Paulの印象は‥‥やっぱり暗いと言っていいんでしょうか?
◆ しゃべらないし、笑わないしね。
★ それも意外だった。あんな愛嬌のある顔してるからよけい。まして彼がシンガーだし、フロントマンなんだし、MCは当然Paulの役割かと思ったら、しゃべるのはChadだけなの。
● それよりあの人、なんでいつも泣き出しそうな顔してるの? そこがまたJim Reidみたいだと思ったんだけど。
◆ ああいう顔なんだよ。
★ 和気あいあいのSuedeを見たあとだけに、よけいあの表情の硬さが気になりましたね。
▲ いや、他のメンバーはわりとリラックスして楽しそうなんだけどね、Paulだけなんか硬いのね。
● そう、他の人たちはよく笑うし、客席の歓声やかけ声にちゃんとリアクションするけど、Paulは完全に客を無視してる。多少、表情がゆるむのは他のメンバーと話すときだけで、でも決して笑わない。
◆ 他の3人は見るからに自信満々の生意気な若造って感じじゃない。だけどPaulは違うのね。タイプは違うけど、私はBrettを思い起こした。Paulも本当に音楽のことを真剣に考えてて、いい音楽やるだけがすべてと考えてる感じじゃない。
● ただ、Brettはエンターテイナーとしても優れてるけど、Paulは歌って演奏するだけで、ほかのことに注意を払う余裕がないって感じ。
★ でも、堂々としてるし、余裕ないってことはないよ。単にシャイなだけじゃない?
● でも暗いよ。曲間には後ろのPAのところ行って、客席に背を向けてギターを弾いてるし。
★ あれはフィードバックやってたんでしょ。
▲ PAの調子が悪かったんじゃないかな? 何度かローディーが出てきて調整してたでしょ。
● とにかく、言っちゃ悪いけど、エンターテイナーとしての才能はまるっきりないな。
▲ ないのか、あるいは拒否してるのか? 私はShed SevenのRickそっくりだと思ったよ。あの堅さと無表情さは。でもRickと同じで、決めるところは決めるし、かっこいいんだな。
◆ そうそう、ギターを振り回したり、頭の上に持ち上げて弾いたり、あれって立派な芸じゃありませんか。
★ ▲がShed Sevenのコンサート・リビューで、「これだけ愛想のないバンドはMary Chain以来」と書いてたけど、それよりは愛想があったと思うな。少なくとも他の3人は愛嬌あるし。
● ていうか、Suedeが愛想のかたまりだったからな。
◆ 人をバカみたいに言うなよ。だいたい、Paulはギターも弾くんだから、愛嬌ふりまく暇なんかないの。ギター弾きながらだから、スタンドマイクの前から動けないし。ManicsのJamesだってそうでしょ?
▲ Jamesのあれは、歌もギターもそれ自体が曲芸に等しいもの。それ以外のことなんかしなくていいの。だいたい愛嬌ふりまくにはRicheyとNickyがいたし。でも私はPaulはこれでいいと思う。あれだけの曲書く人が、ただの気のいい若者だったら、なんのおもしろみもない。
● ▲はまた暗きゃいいと思ってる。
▲ 暗いなんて言ってない。シャイで繊細で神経が細やかで、多少自意識過剰なだけなんだと思う。それってスターの素質じゃない。
★ あるいはそれもまたポーズってことも考えられるが。
◆ それはないね。ステージではどんなにがんばっても絶対本性が見えてしまう。やっぱりあれが地なんだよ。
▲ 好きだ‥‥
● あれだけかわいいんだから、にっこりすればどんなにかわいいか。
★ そういう人に限って笑わないのよね。
◆ やっぱりこれはJim Reidとか、Barney Sumnerとかのあのタイプだな。あの情けなさと頼りなさが。
▲ えー、あれほど情けなくはないよ。少なくとも態度は自信に満ちてるし、落ち着いてる。
★ その年と顔に似合わぬ落ち着きと自信が、よけい近寄りがたくてよそよそしい感じなんだよ。
● かわいいんだけどねえ。
▲ なんか違和感。だって、歌詞とか聞くと変なユーモアに満ちてるじゃない。だからもっとひょうきんな人なのかと。
★ 暗いからユーモアないと思ったら大間違いよ。Mary Chainがどれだけ笑えたか忘れたの?

◆ そういや、MMのバックナンバーを見ていたら、96年回顧座談会にPaulとChadが出席しているのを発見したんだけど。
● えー! 気がつかなかった! 見せて見せて!
◆ それが‥‥Chadは少しだけしゃべるんだけど、Paulは終始黙ったままで、一言の発言もなし
● なにそれー?! 暗ーい!
▲ 座談会で一言もしゃべらないってのは‥‥
★ Mary Chain以上の自閉症としか‥‥
◆ 出席者の写真のキャプションには、それぞれの発言の一部が引用されてるんだけど、Paulのところだけ「‥‥」で。
▲ だいじょうぶなんか、この人も?
● でも少なくともインタビューじゃしゃべるよね。
◆ 今年はMansun以外は出席者の顔ぶれも小粒で、話もつまんないし、機嫌悪かったんじゃないか?
★ やっぱり相当むつかしそうな人だ。
● 賢そうでいいじゃん。
▲ 賢いのは事実だけど、なんかこちらも危ない人みたいな‥‥
◆ そういう不吉なことを言うな。Brettだって、かつての彼しか知らなかったら、根暗の権化としか思えなかったけど、根は明るい青年だったじゃないか。
★ それも程度問題じゃありません?(笑)
◆ 謎だ。やっぱりこの人は謎だ。そして男は謎が多いほど魅力的なのだ。
● これに関してはまだまだ研究の余地があるわね。

◆ というわけで、次はかんじんの音楽評。
▲ いやー、驚きました。そうじゃないかとは思っていたが、やっぱり驚いた。つまり、Mansunのレコードのあの音をキーボーディスト(とオーケストラ)なしで再現するのは絶対に不可能なわけよ。だからもしかしてキーボーディスト連れてくるのかもしれないと思ったり、それともテープを使うのかとも思ったが、それは一切なしでやった。ということはつまり、リード楽器は2本のギターのみ。これだけギンギンのギター・バンドだったとは!
★ ていうか、こっちが本来のMansunの姿でしょ? もともと4人なんだから。レコードでは思いきり贅沢したけど、ライブでは原点のロック魂を見せると。
▲ 理想じゃん! それにしてもMansunにはノイズはないとか言ったのは誰だよ? フィードバック全開じゃないか!
◆ なんかレコードとはぜんぜん別のバンドみたい。何も悪いと言ってるわけじゃないが。
● ほんと。レコードで聴いてる分には、あくまで変化球勝負のバンドみたいで、こんなハードなギター・バンドだったなんて。
◆ それどころかこれじゃまるでヘヴィメタルだと思ったところもあった。
★ 3人でヘッドバンギングしたりして(笑)。
▲ 何が悪い? Paulはヘヴィメタルは大きらいだと言ってたけど。
◆ それを言ったら、ダンス・ミュージックもきらいだと言ってた。
★ どうもこの人たちの言うこととやることには、ささやかな矛盾があるような。

● それじゃ個々のプレイヤー評。
◆ それが‥‥私、なにしろPAスピーカーに耳押し当てるような形で聴いてたじゃない。おまけにこの轟音ノイズだから、うるさくて細かいところなんて聴き取れなくて‥‥
▲ 特にすごいテクとは思わなかったけどね、でもギタリスト2人いると、音に厚みと迫力があっていいね。
★ Manicsってギタリスト2人いなかったっけ?
◆ しっ、それを言うな。
▲ とにかくゴリゴリでかっこよかった
● ▲はまた音がでかくてうるさければいいと思ってる。
▲ 音はShed Sevenの方がでかかったし、うるさかったよ。でもロックっぽさということに関しては、Mansunの方が上だな。Shed Sevenのギタリストはリビューにも書いたように、うまいんだけど、あまりにも教本通りで如才なさすぎて。
◆ 私はMansunといえば、あの荘厳華麗なサウンドというのが頭にあったので、ちょっと意外な印象だったな。
● 私もMansunといえば、ポップで胸にぐっとくる泣かせのメロディという印象があったので‥‥
★ そこが◆●と▲★の好みの違いね。
▲ 私ら満足だったもんねー。

◆ というわけで、次はPaulのボーカル評です。
● 確かにメロディはあのままだし、歌もレコードで聴く通りなんだが、とにかくギターがうるさくて、歌が埋没してしまうきらいがあった。もっとじっくり「歌」を聴かせる曲が何曲かあっても良かったのに。
▲ そういや、アクースティックやバラードは1曲もやらなかったね。もともとあまりないけど。
★ ひたすら全編ギターが吠えまくる! 好き!
● だいたいが、レコードではミディアム・テンポの曲でも、わざわざテンポ上げてやってたでしょ。どれもアップテンポで、しかもギターが終始ギャンギャン鳴ってるもんで、曲がみんなのっぺりして同じに聞こえてしまうんだよ。“Lyrical Trainspotter”や“Mansun's Only Lovesong”みたいな曲にまで轟音ギターをかぶせなくてもいいのに。
◆ Mansunといえば、曲の良さが売りなのに!
▲ でもそれは逆に言えば、歌の弱さでしょ? というわけで、あの細い小さい体だから心配してたけど、この人もやっぱり声量ないな。
★ それはRick Witterについても言ってたわね。
▲ それでもRickはまだ背はあるし、ボーカル専業だから歌に全力投球できるじゃない。それを思えば、この人もよくやってるんだけど。
★ 高音部もけっこう苦しかったよね。
▲ まあ、そういうのが気になるのも、声量、音域ともに文句の付けようのないBrett Andersonのようなシンガーの歌を聴いてしまったあとだから。
● やっぱりあれくらいお肉ついてなきゃだめか。
◆ あれだけ痩せたのにまだ言うか!
▲ 痩せてもBrettは体でかいし、筋肉あるじゃない。Paulはどっちもないもん。くらべちゃかわいそうだよ。でも、なにしろデビューしたばかりのバンドだからね、特にシンガーはキャリアを積むといちばん変わるし。次は絶対もっといいよ。
● よかった。
◆ 何がいいのよ?
● だって、あれだけの曲が書けて、かわいくて、これで歌もギターも超絶うまかったりしたら化け物だもん。少しは人間らしい弱みがあってよかったじゃん。
◆ ううむ。しかし私はやっぱり少し残念だ。この人は声の良さに惚れたのに。

★ 曲は?
◆ イントロを聴いただけで躍り上がるような曲があるってのがライブの醍醐味なんだけど、Mansunは全曲そうだからな。もうなんでもいいって感じ。1曲を10回連続やってくれてもいいよ。これって確かMary Chainにも言ったような気がするけど、それだけ1曲1曲のできがいいってこと。
★ 全部アレンジがレコードと違ってるから、新曲を聴いているようで新鮮でよかったです。
▲ 実をいうと、アクースティックも1曲ぐらい聴きたかったんだけどな。Chadのギターソロも聴きたかったし。それにほんとにあれだけのピアノ弾けるのかどうかも確認したかった。
● そういうサービスは一切なしね。ひたすら押しまくって終わる。そこらがいかにも若いっていうか。
◆ アンコールも1曲だけってのはケチだ。
▲ でも、もっと聴きたいって気を起こさせるのは、いい演奏だったってことでしょ?
◆ まあとにかく、レコードでは技巧の限りを尽くし、ライブでは力でねじ伏せるという方針は正しいのかもしれないが。

● しかし、さっきからイケなかったと言ってるけど、なんでなんだろ?
◆ これでイケなきゃなんでイケるかと思い込んでただけにね。レコード聴いただけでこれだけ来るんだから、まして本人が目の前で演奏してくれたらと。
★ 「ノイズとダンスと美少年」 これだけあれば、私はいつでもどこでもイケる自信があったんですがね。ましてMansunはその全部があったし。
▲ でも踊れなかった。
◆ あのガキのせいだよー!
◆ やっぱりDamonに似てるからかな?
▲ 花粉症のせい、じゃないよな。止まってたんだから。
★ ▲の落ち込みが治ってなかったんじゃない?
▲ 知ってからまだ日が浅いからかな?
● うそ、Northsideなんか何も知らなかったし、あのルックスなのに、我を忘れてイったわよ。
◆ 結局そういうもろもろの相乗効果か。でもいつも言うように、コンサートのノリは客席との一体感が重要よ。これでよくわかったのは、私はクアトロとは決定的に相性が悪いってこと。
★ でもこの人たちはどこへだって出かけていくと思うけど。私もだけど。
▲ でもなぜかヴェニューにはそれ自体の雰囲気ってものがあるね。私は今はリキッドルームがいちばん好き。チッタにくらべて近いし、見やすいし。客質もまあまあだし。客質の良さからいったら、チッタがいちばんだけど。
● それよりMansunでなんでイケなかったのかが気にかかる。客なんか関係ないよ。ブリッツのSuedeの客なんか決して上等じゃなかったけれど、アレを見たとたん、他のものはすべて気にならなくなったもん。
◆ だからMansunにはまだそこまでの力はないってことでしょ。
★ そこまで惚れてないってことじゃないですか?
▲ これで惚れてないって? これだけ朝から晩までMansunばっかり聴いてて、Mansunのことばかり考えてて?
◆ それはそうだ。私ははっきりいってSuedeの地位が脅かされるのではないかと心配してたくらいで。
★ でもPaul Draperを間近で見て、ずばりセックス感じました?
▲ そういう意味でSuedeとくらべるのは酷だよ。Brettみたいなセックスの権化とくらべるのは。
◆ そういう言い方は‥‥
● モヤモヤしたものはいっぱい感じるんだけど、イクところまではいかないのね。
▲ だいたいそれを拒否してる感じがする。
◆ これはひょっとして‥‥やっぱり‥‥
● ほら、◆のあれが始まるぞ。
◆ これだけセクシーで、あらゆる点で私の好みなのに、なぜか直接にはセックスを感じさせないというのは‥‥これはやっぱりゲイに違いない!
★ またー。
◆ だって、これまでもそうだったんだから。私はそういうのには動物的嗅覚が働くんだよ。
▲ 私にはゲイには見えなかったけどなあ。
◆ そんなの見たってわからない。匂うんだってば。
● 最近◆も鼻がきかなくなってきてるし、あまり当てにしないほうが。
◆ だって他に考えられないもの!

● あー、おかげで欲求不満が残る!
▲ そう? 私はギグとしてはなんの不満も‥‥
● そういうんじゃなくて! あれだけのイロモノだから、コンサートでは何かあっと驚かせるような余録があるかと思ってたのに、あまりにまっとうなロックショーだったんで。
▲ それのどこが悪い?
★ Suedeにはそれがありすぎるほどありましたからね。
◆ だからSuedeとくらべちゃかわいそうよ。
▲ Mansunで何に驚くわけ?
● だから何か予想もできないようなハプニングが‥‥
★ ドレス着て出てくるとか、ストリップやるとか?
◆ それじゃまんまじゃないか!
● せめてあとは写真や記事が見たい。あー、早く雑誌出ないかな、Mansunの載った雑誌。
★ 本物見たばかりなのに。
● それとこれとは違うのよね。だいたい写真を見なくちゃ、私が見たのが本物のPaul Draperだって確信が持てない。この人、見るたびに顔が変わるんだもの。
◆ そういや、カメラマンが3人もいた。しかもひとりは外人。てことは、またどこかが同行取材やってるな。
▲ えー、だって前回MMがやったばかりなのに。
◆ でも今度はNo.1になったあとだもん。扱いが違うでしょ。
● Selectだといいな。
◆ 私は日本の記事なんか見たくないね。どうせまたファンの女の子の話ばかりなんだから。
● もうなんだっていいよー!
★ というわけで、見たおかげでなぜかますます謎と渇望がつのるMansunでした。