Mansun日記 第23章 (1998年9月)

MANSUN THE GUARDIAN INTERVIEW

1. プレスのいじめのこと

★ あ! 行ってManics書くはずが、この人はこんなところでまたゴソゴソやってる。
▲ ゴソゴソじゃない。PaulもSound Offで言っていたGuardianのインタビューが手に入ったので、それを読んでたのだ。そこで、これは非常にシリアスな意義深い内容なので、◆●抜きでやろうと思う。
★ またそういうことやると後で恨まれますよ。
▲ あいつらに任せておくと、写真見てきゃーきゃー言ってるだけじゃないか。どう考えてもMansunをアイドル扱いするのは不当だ。
★ んー、でもかわいい顔に生まれついたのも事実なんだし‥‥
▲ とにかくこれはインターネットから落としたやつで、写真ついてないからあいつらは寄ってこないだろ。
★ 人を害虫みたいに(笑)。
▲ これは9月5日付けThe Guardian紙に掲載されたPaulのインタビューの全文で、Howard Devotoとの短い会見記も含まれている。筆者はMichael Bracewell。それでいきなりプレスのMansunいじめの話から始まって‥‥
★ つい、ほだされてしまったと。またかよー!
▲ 何がまたなんだよ?
★ だってそういうのはもうさんざん見てきたじゃない。
▲ だって、本当に相当ひどかったみたいよ。私はほら、“Grey Lantern”で知ったから、それ以前のことはよく知らなかったけど、MMなんて今でこそMansunを持ち上げてるくせに、1996年の7月には‘Mansun are four ugly, scruffy nothings, playing ugly, scruffy, nothing music.’なんて書いてたんだぜ!
★ (余裕の笑い)scruffyだったのは事実だけど、Mansun見て醜いとは思わなかったよ。初めて見た“Stripper Vicar”のビデオでも「男の子たちはきれいだ」と書いてたくらいで。SuedeもManicsも第一印象は「醜い」と思ったのに。
▲ おのれ! 神をも恐れぬこのセリフ! 天罰が下るがよい!
★ だから、それはすでにManicsの例があるでしょう? 売れさえすればプレスなんかしっぽ振って足をなめにすり寄ってくるんだから。
▲ でも、まだManicsほど売れてない。
★ いずれそうなるよ。だからそんなの気にするなって。このMMのセリフは今に語り草になるよ。
▲ それはPaulに言ってよ。口では「気にしてない」とか、「もうあまりにけなされたんで免疫ができた」とか言ってるけど、こうやってしつこく恨み言を言うところみると、やっぱり相当気に病んでるよ。
★ だからそれももう見慣れた光景でしょ。「みんなに憎まれてる」とか「世界中が敵だ」とかいうのは、ManicsやMary Chainの常套句だったじゃない。
▲ でもこの人はとりわけ繊細そうなだけに‥‥
★ だいたいがプレスのMansun攻撃なんてManicsの比じゃないじゃない。せいぜいが無視されるくらいで。あいつらときたら、「死ね」とかなんとか面と向かって平気で言うからな。
▲ それもそうか‥‥少なくとも血を流して抗議するRicheyを嘲笑してくれたのは事実だからな。
★ おっと、ちとヤバい雰囲気に‥‥
▲ Paulを見てると、なんか目に見えないところで血を流しているような気がしてしまうのよ。
★ だから誰もかれもがRicheyなわけじゃないってのに!
▲ そうだよね?
★ そうだよ!
▲ ならいいや。それはともかく、相手がミュージック・ペーパーじゃないせいか、Paulもかなり気を許してるみたいで、めずらしい子供時代のエピソードなんかも聞ける。
★ どんなの?
▲ 1980年代の中ごろ、15才の内気な少年Paul Draperは、初めて買ってもらったアクースティック・ギターを学校に持っていったんだって。
★ (想像して)かわいい。
▲ ところがバスを降りるなり、格好の餌食と見た年上の悪ガキどもにつかまってフクロにされたうえ、ギターを取り上げられ、塀にぶつけて粉々にこわされてしまったんだって。
★ ひどいー! そしてそれがトラウマになったと?
▲ いや、その経験があるから、長じてミュージシャンになったとき、「ぼくのギターをこわした連中が、今はぼくのバンドのリビューを書いてるんだな」と思っただけだそうだ。
★ いかにもな反応(笑)。まあ、小さいし、細いし、女性的だし、見るからに子供の頃はいじめられっ子という顔してますがね。
▲ あのバイオにも「驚くほど女性的」な少年だったと書かれてたな。
★ げっ! 見てみたい! 26の今でもあんななんだから、10代のころはどんなにかわいかったか‥‥
▲ それでNMEにもいじめられてるとか、Radio 1にもいじめられてるとか。
★ だからそういうのは聞き飽きたって。本当の本物はプレスに憎まれるぐらいじゃなきゃだめなんだ。
▲ それは私もそう思うけど、とにかくPaulが異常に神経質になっててさ。というのも、ちょうど時期的に「この1年間、これだけのために生きてきた」“Six”のリリースを目前にして、いちばん神経過敏になってる時だったからみたいだけど。
★ 確かに見た目通り神経こまかそうだけど。

▲ ちょっとおもしろいと思ったのは、プレスというのは、デビューした一群の新人バンドからバックアップするバンドを決めて、あとはボロクソにけなすっていうのね。
★ それは私も気づいてた。でもSuedeもMary Chainもそれで押されて出てきたんだから、私たちはあまり文句言えないんじゃないの?
▲ それでMansunの時はNorthern Uproarが「選ばれた」んだって。
★ 確かあなたもNorthern Uproarは支持してたんでは? Jamesがプロデュースしたからと言って。
▲ おそらくプレスの思惑もそんなところだろうけどね。ところが現在の姿を見よ、とは言ってないが、におわせてはいる。(Northern Uproarは結局セカンドを出したところでお払い箱になったそうだ)
★ 根はけっこう傲慢なのも見かけ通りか。
▲ 自信と言ってよ! それは次の言葉にも表れてる。

Mansunのファンは、みんな本当の音楽ファンで、膨大なレコード・コレクションを持ってて音楽に関してすごく知識のあるような人ばかりだ。というか、そういう人でなくちゃファンになってくれないと思う。だって、彼らはしょっちゅう、Mansunはとっとと荷物をまとめてChesterへ帰るべきだとかいう記事ばかり読まされてるんだから。

▲ (浮かれて)これって私のことだわ! 本物の音楽ファンで、レコードいっぱい持ってて、博学という!
★ でもこれって、見方によってはやっぱり相当傲慢な言い方。まるでファンを選んでるみたいで。わからないやつは聴かなくてもいいみたいな。
▲ それの何が悪い?
★ そういや、Manicsもファンに対して手厳しかったな。でもこれって、また憎まれる材料ですよ。
▲ 何が?
★ つまり「外」の新聞がMansunを絶賛するというだけでも業界にとってはカチンとくる材料なのに、おまけに「外」でミュージック・プレスの悪口をこれだけ吹聴しちゃうと、ますます仲間外れにされる
▲ かまうもんか! Manicsはずっとそれでやってきたんだから。
★ それもそうか。それにGuardianにほめられるというのもいかにもだなあ。ladsはGuardianなんか読まないでしょう。
▲ そんなファンはどっちみちいらない! 「高尚な」ファンだけでけっこう。
★ でもこうやって恨みたらたらなところをみると、本人は必ずしもそう思ってはいないようだけど。Manicsだって結局はそうでしょ? 口ではイヤミも言うけど、No.1の座をいやがってはいない。
▲ No.1なんかファーストで取っちゃったもん。これからは「選ばれた」ファンだけを相手にしてればいいんだ。
★ まあ、そういう道もあるけど。ただ、水を差すようなこと言ってなんだけど、Guardianといえども、記事の質自体はミュージック・ペーパーにははるかに及ばないね。あっちの方がよっぽど高尚だし難解だし、おもしろいね。プロパーじゃないからしょうがないけど。ほめるにせよ、けなすにせよ、MMあたりの方がずーっと気が利いてるもん。
▲ 書くのがうまくたって、かんじんの音楽がわからないんじゃしょうがない。

2. 風土のこと

▲ あと、Chester出身ということでもずいぶんいじめられたと言ってるな。
★ それもよくわからんところなんだけど。なんで出身地が関係あるんだよ?
▲ でも彼自身、いかにChesterが音楽に不向きな環境かを力説してるよ。Paulは生まれはLiverpoolなんだけど、育ったのはNorth WalesのDeesideというところで‥‥

子供の頃は、夏休みはLiverpoolのかなり荒れた地域ですごした。叔母さんたちがそこに住んでたんだ。でもそんなすさんだ所でも、Liverpoolには音楽文化というものがあった。Liverpoolでは、15才の子供が学校へアクースティック・ギターを持っていって弾けば、人はちゃんと耳を傾けてくれるんだ。ところがぼくの学校じゃ、ギターなんか持っていこうものなら、女々しいオカマ野郎ということになって、あの通りさ。

★ (感心して)なるほど。ManchesterやLiverpoolがあれだけ多くのバンドを輩出するのも、そういう環境というか風土があってのことなのか。
▲ それを思えば、ManicsとかMary Chainみたいな辺境から出てきたバンドが、どれだけ苦労してるかわかるでしょう。
★ でもDeesideってどんなところか知らないけど、少なくともBlackwoodやEast Kilbrideよりは恵まれてると思うけどなあ。なんかちょっと大げさっていうか、そういう逆風に逆らってここまできたってことを強調しすぎない?
▲ どこが悪い?
★ だから「なにくそ!」とがんばっているうちはいいけど、その逆風が順風に変わったとき、ポキッといっちゃうんじゃないかと。Manicsみたいに。
▲ Manicsを引き合いに出すなー!
★ もうすっかり同一視してるくせに。
▲ だいたいManicsはまだ負けちゃいない!
★ どうしてこういう人たちは素直になれないのかなあ? ここまで来れたのは、単に才能のおかげだと。
▲ だからそういう逆境にも負けないだけの才能があったと、暗に主張してるんじゃないか。
★ そういうもんですか。

3. アートスクールのこと

★ 他に何かおもしろいこと言ってないの?
▲ 非常にためになることを言っている。Paulはアートスクールに行ったんだけど、それについて。

 アートスクールの教員とはうまくいかなかった。彼らは創造性とは何かについて確固たる考えを持ってたようだけど、それはぼくには何の意味も持たなかったから。第二次大戦後、政府は美術教育に何百万という金をつぎ込んだけど、それが何を生み出した? ぼくに言わせりゃ、たいしたものは生んでいない。でも政府はポップ・ミュージックには一銭も出さなかった。それが何を生み出した? おそらく戦後この国で最大のクリエイティブな作品の母胎になったじゃないか。ぼくはポップ・ミュージックこそ現存する最高のアート形態だと思う。ポップ・ミュージックは大いなる矛盾の結晶だ。金儲けのためのエンターテインメントであると同時に、ハイアートであるという皮肉な矛盾の。
 ぼくがアート・コレッジに行ったのは、たぶん音楽のためだったんだと思う。「よし、キュービズム復活ののろしをあげてやろう」とか、そんなんじゃないんだ。現代美術なんかばからしいといつも思ってた。あるとき、講師のひとりにこう言われたんだ。「すると、きみは例の、アート・コレッジで時間をむだにしているミュージシャンのひとりなのかね?」 だからぼくは「そうです」と答えた。
 ぼくは線を引くのに定規を使って絵を描いたんだけど、先生たちはそれが気に入らなかった。だからぼくは学校をやめてそれでおしまいさ。ちょうどそのころNirvanaの“Nevermind”を聴いて、「ぼくはバンドを組まなきゃ」と思った。でも、アート・コレッジでのぼくの体験は、人生一般の縮図にすぎなかった。というのも、バンドを始めるやいなや、批評家は「それをやっちゃいけない、あれをやっちゃいけない」と言って、ぼくらを嫌うんだ。人ってつねにそういうことを言うもんなんだよ。

▲ まったくだ。まったく同感! 「英国の最大の文化的貢献は音楽だ」というのも、「ポップ・ミュージックこそ最高のアート形態」というのも、つねづね私が主張していることだし。
★ でもー、美術学校で定規で絵を描いたらやっぱり怒られると思う(笑)。
▲ だから芸術にそういう規範をあてはめてはならんのだ。“Everything is permitted.”(Burroughs) でなくちゃ。
★ でもそういう自分は、ことロックに関しては厳格な規範を持ってるように思うけど。
▲ Mansunはその規範にすべての面でかなっているからいいのだ。

4. Howard Devotoのこと

★ ところでHoward Devotoのことは?
▲ 実はHowardは、80年代にこの業界からすっかり足を洗って、今はLondonのphotographic agencyで働いてるんだそうだ。
★ えー? それはちょっと悲しいっていうか‥‥
▲ でもこれは彼の納得ずくの選択だから。Luxuriaの解散後、ソロ・アルバムを出したけど、それは自分で納得のいくものじゃなかったんだって。それで音楽に見切りをつけたわけ。
★ それがどうして? どこで知り合ったかわかった?
▲ うん、Mansunのマネージャーの妹がたまたまHowardと同じ会社で働いていて、Howardの過去を知り、それがマネージャーの耳に入って、Mansunの耳に入ったというわけ。それでMansunの方からレコード送ったり、電話をかけたりして接触をはかったんだけど、今さらスタジオに入る気はまったくなかったHowardを説き伏せて、強引に連れ出したらしい。
★ でもHowardもMansunを気に入ってなかったら、いっしょにやろうとは思わなかったよね。
▲ もちろん。彼は言葉を選んだ非常に控えめで慎重な話し方をするんだけど、Mansunについては「私に言えるのは、Mansunには恐るべき才能があるということだけだ。実際、近い将来、誰かがきっとPaulにいっしょに仕事をしてくれと言ってくるだろうね。その時は、彼に対してしかるべき敬意を払ってくれることを願うよ」とだけ述べている。
★ てことは、自分はもうやる気はないってこと?
▲ 「それは彼ら次第だ」と言ってるから、もうMansunとやらないとは言ってないけど、これをきっかけに音楽界に返り咲く気はまったくないそうだ。「あくまでアフター・ファイブの楽しみとして」やるだけで。Paulの方は「もっとやりたい。できればEP丸ごと1枚作りたい」と言って、やる気満々だけど。
★ たしかにあの2曲はMansunの基準で言っても超傑作でしたからね。
▲ 厳密に言わせてもらえば、“Railings”はMansunの基準からいえば並みの出来だが、“Everyone Must Win”はMansunとしても松特上だ。
★ ところで、共作っていうけど、正確にはHowardは何をやってるんでしょう?というのが前から気になっていたんだけど。
▲ 最初は「まあ詞だけなら送ってあげても‥‥」くらいのつもりだったらしいのね。ところが、それにさっそくPaulが曲を付けて送ると、向こうもギター・コードを送ってきたりして、最後はいっしょにスタジオに入ってデュエットするところまで行った。文字通りPaulの熱意と才能にほだされたんでしょう。
★ ふーん?
▲ 詞だけでも私は大感激だけどね。ちなみに私のロック三大詩人(80年以降)はHoward、Joe、Richeyだ。

5. バーンアウトのこと

★ でもそれを思うと、Howardも才能が枯渇したわけじゃないんじゃない。
▲ いや、才能の問題じゃなく、意欲の問題だと思う。とにかく本人はもう音楽に何も思い残すことはないというんだから。実際、彼はすでにそれだけの仕事はしたからね。
★ 燃え尽きちゃったのね。なんかJoe Strummerを思わせますね。
▲ それを言うな。
★ どうせ引っぱり出すなら、HowardじゃなくJoeだったら良かったとは、ちらっとでも思いません?
▲ 思わない! 詩人としてはHowardはJoeにまったくひけを取らないし。それにJoeは完全に引退したわけじゃないし。
★ チマチマした片手間仕事でしょ。そんなんじゃなく、バン!と超傑作をものにして、「もう昔の俺は死んだんだ」と言って、きれいさっぱり引退してくれたほうが、どんなにかかっこいいと思いません?
▲ おまえ、からんでるのか?
★ 私はただ、あなたの内心を代弁してあげてるだけで。
▲ 余計なことをするなー!
★ でもいつかPaulにもこういう日がくるのかねえ?
▲ またいやなことを。
★ あれだけ疾走していれば、いつかどこかで必ず息切れするし、こういう人は燃え尽きるのも早いんじゃないと。
▲ それで燃え尽きても、私は何の悔いもないし、一生彼を愛し続けるよ。いまだにJoeを愛し続けているのと同じく。
★ そういやJoe Strummerも▲のトラウマだったんだ。Richeyのおかげでずっとご無沙汰だったけど。
▲ トラウマじゃないよ。Joeに関しては何も思い残すことはないし。ニュースがないのは良いニュースで、彼はどこかで幸せな満ち足りた生活を送っていると確信してるから。
★ なんでJoeのことなんか思い出したんだっけ?
▲ おまえが言い出したんだろ。それにこないだのギグでもわかるように、ClashはMansunのルーツのひとつだし、今のMansunの置かれた立場というか、バンドの心境って、ManicsよりClashに近いと思うな。
★ 「前進あるのみ!」のパンク・スピリットですか? ということは、Mansunもどこかで挫折して、Paulが失踪するしかないんだけど。そこから戻ってこられるか否かが、Joeになるか、Richeyになるかの分かれ目で‥‥
▲ それに私はいっそJoeみたいになるよりは、Richeyになってほしいと思ってると言いたいんだろ!
★ そこまでは言ってませんが。
▲ もう耳タコに聞かされたからいいよ。どうしてそういう貧しい類推しかできないの? Mansunはこのままどんどんどんどんビッグになって、全世界に才能を認められ、それこそ今のManicsみたいになって、ただし誰も失踪なんかしないで、みんなそろって幸せになるっていうふうには考えられないの?
★ なんかそのセリフにも怨念がこもってるような気がするが、ほんとにそうなるといいですねえ。ただ、これも故事の教えるところによると、早いうちにひとり犠牲を払ってしまうと、あとはうまく行くっていうこともあるんだけど。人身御供というか。
▲ 何を言う! この鬼! 人でなし! 私はPaulの幸せのために、StoveでもAndieでも犠牲にするつもりはないよ!
★ そんなこと言ってないってば。どっちが鬼だよ。だからMansunってのは、少なく見積もっても人の5倍のスピードで生きてるじゃない。よってClashやManicsが5年かかってやったことを、最初の1年ですませちゃったんじゃないかと。
▲ どういうことよ?
★ Chadがあぶなかったでしょうが。あのままほっといたら、彼は自滅だし、よって今のMansunも存在しなかった。だけど、PaulがAAに引きずっていって、めでたく治ったと。
▲ ‥‥ManicsはRicheyを病院に入れたけど、治るどころか‥‥
★ だからChadはラッキーだったんだよ。ま、多少はおかしくなったようだけど。あの東洋思想かぶれとか。
▲ でもRicheyみたいに人格破壊されたわけじゃない。
★ まあ、音楽に差し支えなければいいやってことで。
▲ そうかあ! Mansunはもうやっちゃったのか! ならもう安心だ。前途はバラ色!
★ って、そう楽観できるものでもないと思うけど。

6. ギグのこと

▲ それで昨今のMansunといえば、すでに何度も触れているように、キチガイみたいにたくさんのギグをこなしているんだが、それについてこんなことを言っている。

ぼくらは他のバンドが絶対に行かないような、LincolnとかShrewsburyみたいな小さい町で小さいコンサートをするようにしている。Glastonburyで稼いだ金があれば、小さい町で10回はコンサートができるからね。Bury St Edmundsへ行ったときのことだけど、クラブの前である男がぼくらを待ってたんだ。それはまるで“Star Wars”かなんかの一場面みたいだった。男は「ああ、やっと来てくれたか。ぼくは1976年からずっとここで待ってたんだよ」と言うから、なんでだと訊ねたら、彼はこう言うんだ。「1976年にClashがそこのドアから出てきて、ポスターにサインしてくれた。でもそれっきりで、彼らはここまで来た最後のバンドだった。でも今きみたちが来てくれた。Bury St Edmundsでプレイしようというバンドが」

▲ これはちょっとじわーんとさせる話でしょ。こういうことがあるから、ツアーもやめられないのか。
★ でもこれって完璧に赤字だよね。Glastonburyの収入をつぎ込んでるっていうんだから。
▲ GlastonburyやReadingみたいな大がかりなのを除けば、ツアーなんてたいてい赤字だよ。でも金のためにやってるわけじゃない。
★ 普通はプロモーションのためなんだけど、Mansunはそこまでする必要なんかないし。
▲ だからこういうファンのために決まってるじゃないか!
★ それと、やむにやまれぬ衝動と。やっぱりそういうところもClashみたいだなあ。Clashも精力的にツアーをこなして、立て続けに大量のレコード出して、倒れるまで走り続けて結局倒れちゃったけど。
▲ だからそれはもういいの! でも似てるのはほんとだ。彼もやっぱり何かと戦ってるんだな。政治的な詞やなんやらで、ManicsはClashの後継者のつもりだろうけど、本当の意味でのClashの後継者はMansunだ。Manicsがリビングルームでのんびりくつろいでる間に、Mansunは路上で戦い続けているんだから。
★ ‥‥Manicsにはくつろぐ権利があるんじゃないですか? これまでの戦いが壮絶だったんだから。
▲ そんなことはわかってるよ!
★ でも、見方を変えると、レコード会社にとっては夢のようなバンドですね。普通ならいやがるツアーをこれだけ積極的にこなし、ヒット・レコードはバンバン出すし。
▲ 何もParlophoneなんか喜ばす筋合いはないんだけどな。

7. creativityとprolificityのこと

▲ 次に“Six”について。これはもうあっちこっちで言ってるのと同じことだけど。

 あのアルバムは去年のツアー中に生まれたんだ。ツアーを終えて、アルバム作りのためにスタジオに入るなんて贅沢はできなかったから、サウンドチェックの合間に作った。アイディアが浮かぶと、その場で演奏した。ぼくにあったのは小さな手帳だけ。何かアイディアが浮かぶと、ツアーバスの中でそれに書き込むんだ。去年はいいライブ・バンドになるにはどうすればいいかを学んだ。だからそのライブ・サウンドをアルバムにも再現したかった。そこでサウンドチェックの時に作ったマテリアルを、そのまんまの順序でアルバムにして、それをまたライブでやるわけ。

▲ あのライブ・リビューで「コントロールされすぎている」と書いたのはちょっと言い過ぎだったかな。あれがレコードそっくりに聞こえたのは、あのレコードがライブの感覚をそっくりそのままレコーディングしたものだったからなのかもしれない。
★ 確かにライブはうまくなった。その「成長」がいいものなのかどうかはさておいて。
▲ とにかくもう前進するっきゃないんだよ。あと「詞を書きつける小さな手帳」の話ってのも、どこかで聞いたと思わない?
★ そういや、私の好きなロック詩人はたいていみんなそういう手帳を持っていた。でも、これでMansunの多産さの秘密がちょっとわかりましたね。サウンドチェックで新曲作るバンドってのはまずいないと思う。
▲ だってほんとにそこしか時間がないもん。去年も今年も連日連夜ツアーだったんだから。それだけじゃない、移動中も、ベッドに寝ていても、ごはん食べてるときも、いつも頭の中で作曲してるって言ってた。これは“Tax-Loss Lovers From Chester”で読んだんだけど、

 Lennon & McCartneyは8年間で200曲を書いた。だからぼくはその倍のスピードで曲を書いてるんだ。ぼくにはあまりにも多くのアイディアがあるんだけど、それはちっとも問題じゃない。クリエイティブであることがぼくの生きがいなんだ。
 このバンドが終わりになったら、山のような「幻の名曲」が残るだろうね。その頃にはシングルはもうみんな廃盤だしさ。そういう曲はもう誰も聴けないわけ。それってちょっといいな。

★ 何がいいんだよー?!
▲ 自分がそれだけいい曲をたくさん書いたってことだけでいいんでしょう。
★ だいたいクリエイティブであるってことと、多作であるってことは必ずしも同じじゃないんだけど‥‥
▲ でも彼はこれだけクリエイティブな曲をこれだけたくさん書いている。それで、もったいないから人には聴かせてやらない
★ なのあり?
▲ そもそも、最初レコード契約を渋ってたのも、それが原因としか思えない。それに私は前々から、本当に気に入った曲はわざとシングルのB面に入れてるんじゃないかと疑ってたのだが、どうやらそれも故意にやってるらしい
★ なんのために?! なんかもうほんとに鬼気迫るっていうか。大丈夫どころか、すでにかなりおかしいんじゃない?
▲ 天才だからしょうがない。こんなことも言ってる。

 もしMansunがなかったら、ぼくはたぶん、工場の下っぱ工員になってただろう。昔はよく夜ベッドに横になって、頭の中で作曲をしていた。30になるなんて想像もできないし、バンドをやってない自分も想像できない。ぼくがいつも自問自答していることがあるんだ。「ぼくはクリエイティブでいたいのか?」、それとも「ぼくはポップスターになりたいのか?」 ぼくはクリエイティブでいたいんだということを証明したと思う。だって、ぼくは“Six”の中の曲のメロディの一部だけを取り出して、それをラジオ向きのヒットソングに作ることもできたのにそれをしなかったんだから。そんなことは思ってもみなかったんだから。

▲ なのになのに、「このアルバムにちりばめられた無数の断片を独立した曲として録音して、残りのアイディアは次以降のアルバムのためにとっておいたら‥‥」とか言ってたのは誰だ?!
★ ‥‥それはその、そうすればスタジアム・バンドへまっしぐらだったろうというだけで、べつにこれがいけないとは‥‥。それにあなたはPaulにはそれはできないんだと言ってたけど、これ読むとできないわけじゃなく、意図的な選択なんじゃない。
▲ やっぱりな。やっぱりそういう男なんだな。
★ 「デーモンにとり憑かれた」とは“Six”のリビューでも言ったけど‥‥
▲ 「ミューズに愛された」と言ってほしいね。それじゃ最後の締めは、Paulの自負のほどがわかるこのセリフで。

 (今の音楽状況では)パンクみたいなものが再び勃発する余地はないと思う。今の音楽業界に必要なのは、ういう停滞を打破し、すべての殻をぶち破るような何かなんだ。たとえば、田舎から出てきて、自分が何をやっているのかもわかってないような、4人のガキとかね。
 言い古されたクリシェだけど、平凡だと思われるよりは憎まれる方がずっといい。ぼくにとって最悪のMansun評は「ああ、Mansunか、悪くないと思うよ」というものだ。だって、ぼくらは「悪くない」バンドじゃない。ぼくらは本当にエキサイティングなライブ・バンドだし、優れたレコードを作るし、挑戦的だし、人とは違ってるし、今の英国バンドがやっていることの枠を完全に超えているんだから。