いやー、この世界、奥が深い、ってことは前々から気づいてはいたけれど、特にいちおう自分からコレクターを名乗って、自分のサイトを持ってからは痛感させられますね。そこで、ディープなマニアの世界の一端をご紹介、なーんていうのは嘘。実は私の場合、ぜんぜんディープでもなんでもない、浅はかな理由からこの世界に入ってしまいました。
まあ、私のレコード・コレクションを見ていただけばおわかりの通り、私は幼少時から「洋楽(それもほとんどUKオンリー)レコードいっぱい買う人」であったのは確かなんですが、実を言うと、コレクター根性に目覚めたのは一昨年(1998年)の春ごろ、と言ったら驚いてもらえるでしょうか。驚いてください。つまりコレクターとしてのキャリアは2年未満なんです。この道30年とか40年の人がひしめいているコレクターの世界では(だってマニア・ショップなんて客はおじさんばっかりだもんね)本当にほんとのひよっこです(年は食ってるんだけど)。
確かに昔からVinylとか、UK Edisonとか、Ciscoとかには入り浸ってたけど、それは単に、昔はそういうところじゃないと、英国からの輸入盤は売ってなかったというそれだけの理由です。それにくらべ、日本にタワーもある、ヴァージンもある、HMVもあるっていう現在は夢みたいで、そのぶん、なんか夢も薄れたっていうか。
しかし、コレクターじゃないってことは恐ろしいことで、今から考えると恐ろしいこといっぱいしてきたなー。Beatlesの初期シングル、全部100円で売っ払ったりしちゃったもん。しかし次の日、その店(名前は忘れたが、今はもうない神保町の中古盤屋)行ってみたら、私の売ったシングルが全部1枚3000円(かなり昔のことなんで、今だったら万単位でしょう)で壁に貼られてたりして。純朴で無知な少女をだますなんて、あの店のことは今も許さない! ああいうあこぎな商売するからつぶれたんだね。(業者の買い取り価格は売値の3割ぐらいが正当です)
それにアナログからCDに移行したとき、それまで持ってた70年代以前のLPレコードもほとんどすべて売ってしまった。ディスク・ユニオンはけっこういい値をつけてくれたけど、それでも高いものでも数千円で、おそらくあの中には今ならウン万円してるものがいっぱいあったはずだと考えると泣けます。
それほど派手な失敗でなくても、日本盤で揃えていたCDを、英国盤に買い換えるためにほとんど売っ払っちゃったのも、今となると惜しかったなあ。とにかく私がレコード買い始めた当時は、輸入盤なんてほとんど入手不可能か、あってもバカ高かったので、「英国オリジナル盤がいっとうえらい。日本盤はあくまで貧乏人のための代替品」というのが頭に刷り込まれちゃってるんです。ところが今は日本盤のほうが高い上、今になって知ったんだけど、世界的にはしばしば日本盤のほうがレアで、日本盤であるっていうだけで稀少価値がつくこともあるんですね。
その日本盤の保存の仕方も、本当のコレクターが聞いたら卒倒しそうなもので、まず帯(これがあるとないとでは価値が違う)はちぎって捨てちゃう。中に入ってる日本語のライナーも歌詞カードも捨てちゃう。要するに日本語が書いてある部分はすべて捨てちゃって、自分では「ああ、これで少しはオリジナル盤に近づいた」とか納得してたんだから‥‥(苦笑)
ああ、私はよくレコード売ります。それも単に飽きちゃったからとか、(若いときは)金に困ったからという理由で。いちおう今のリストには1500枚強あるけど、これまで買ったレコードの数と言ったら、1万枚は下らないでしょう。
やっぱりこういうのって、外の世界の人にはディープですか? まあ、たくさん持ってるからえらいとは思わないけどね。私はレコード3万枚持ってるという男の子と知り合ったことがあるけど、はっきりいってまったく意志の疎通ができない人でした。口を開けば、ただえんえんとアーティスト名とレコード・タイトルが出てくるだけで(苦笑)。
私の考えでは、千のオーダーで持ってるのが普通の健全なマニア。でも万を超えるとあっちの世界に行ってしまう危険性がある。だいたいどんなコレクターも、万のオーダーに乗ると人間こわれます(笑)。私もこれくらいがちょうどいいので、あまり増やさない方針なのですが、まあ、無理みたいですね。ただ、物理的要因(寝る場所がなくなる)からいって限界はあるだろうけど。
ええと、すぐ話がそれるのが私の癖ですみません。なんでMansunコレクターになったのかという話でしたね。そんなわけで、Mansunもぜんぜん意識して集めてたわけじゃないんです。私はThree
EPのころから聴いてるんですが、いいなとは思ってたけど、シングル買おうというところまで行かなかった。だって英国盤シングルって千円もして高いから(情けねー)。日本盤なんてもっと高いし。
ところが、この経緯は日記の方を読んでもらうとわかるのですが、ファースト・アルバムを買ってようやく「これはもしかしてすごいバンドなんじゃないか‥‥?」と。しかしそれでもまだシングル買う気は起こさない。まあ、「中古で安くあったら」という感じで、ぽつぽつ集めてた程度。
そんな私を決定的に変えたのが、インターネットに接続したこと。これも遅かったんです。それでいろんなバンド・サイトを探検し始めて、まあそれはそれで楽しかったんですが、ここでようやく、他のコレクターの生態ってものをつぶさに見てしまったのね。それまでの私にとってレコード・コレクションというのは、せいぜいがアルバムをすべて集めることぐらいだったのに(それさえも貫徹したバンドはほとんどなかった)、この人たちはすべてのシングルを集めてる! ばかりか、CDもLPも7”も12”もカセットも、すべてのフォーマットを集めてる! ばかりか、それの各国バージョンも集めてる! ばかりか、プロモやブートレッグも集めてる!と、私には驚くことばかり。
それでもその時は「すごいなあ」と思うだけで(この「すごいなあ」にはちょっぴりバカにする気持ちも入ってます)、自分がそのまねしようなんて夢にも思わなかったし、できるとも思わなかった。
そんな私を決定的に変えたのが(こればっか)、Garyというイギリス人コレクターと知り合ったこと。
実はインターネットを始めるまで、Mansunがどんなレコード出してるのかも知らなかったの。それが他のMansunサイトのおかげで、なんでもデビュー・シングルはすごいレア盤らしいということを知って、これは私もちょっと欲しいなあと思ってたんです。そんなときに彼がニュースグループで“Take
It Easy Chicken”を売りに出していたのを見て、てっきりそのデビュー・シングルだと思ってメールを書いたのが運の尽き。実はそれは私がもうすでに持っているTwo
EPだったんですが、彼がSuedeの日本盤を捜しているというので、見つけて送ってあげたのがつきあいの始まりでした。
まあ、この辺の詳しい経緯は日記にも書いたので省略するけど、何度もメールをやりとりするうちに、なんかすっかり意気投合して、結局、Suedeの日本盤シングル(といってもどれも中古で400円〜800円)との交換で、私は一気に7枚のMansun英国プロモと、Sci
Fi Hi Fiからのセカンド・シングル“Skin Up
Pin Up”の7"を所有するはめになってしまったわけ。
実をいうと、自分で手にするまで、英国プロモというのがどういうものなのかもちゃんとわかってなかったんです。なにしろ、こちらは日本の見本盤の意識があるから、べつにそれほど貴重なものだとも欲しいとも思ってなかった。ところが手に取ってみたら、下手するとオフィシャル盤よりおしゃれだし、かわいいし、見るからにレア!って感じじゃないですか。なるほど、これならコレクションする価値もあるというもの。
そこでむらむらと欲がわいてきました。どうせならすべてのシングル・プロモを揃えたい。いや、それ以前にオフィシャル・シングルも抜けだらけなので、そっちの方も揃えたい。それにビニール盤ってやっぱりかわいいので、それも全部ほしい! 年に1回しか彼らのライブを見れない者としては、ブートレッグも見たい聴きたい! あとはひたすら泥沼です(笑)。
もっとも私の側にも言い訳は用意してあって、まずこれだけ愛したバンドは他にいないってこと。嫌いな曲が1曲もなくて、B面曲のどれを聴いても感動するってこと。それどころか、下手するとB面のほうがいい。まあ、これだけでもMansunに入れ込むには十分だけど、コレクターとしては次の点もポイント。
まだ比較的キャリアの浅い若いバンドとしてはカルト人気を誇るってこと。ということはつまり、ポピュラリティにくらべてコレクター人気がすごく高い。初期シングルはすでに入手困難だし、これからますます値段が上がる可能性も。
Mansun以前に私が熱愛していたのはSuedeとManicsで、こちらは中古シングルがかなり市場にでまわっているので、すでにかなり集めていたんだけど、それでもプロモは1枚も持ってないし、本当のレア盤はかなり抜けてるし、あれだけメジャーになっちゃうと、今からそれを集めるには莫大な金がかかるので私には無理。でもMansunならまだ間に合う!というのも大きかった。
この読みは正しくて、私が集め始めてからでも、すでにMansunのレア・アイテムはどんどん入手困難になってますね。ちょっと前までは“Grey
Lantern”の缶入りプロモなんてけっこう見かけたのに、「やっぱり高いし、もうちょっと余裕できたら‥‥」なんて考えて買わなかった。ああ、あの時買っておけば! というのは絶対やっちゃいけないと、ちゃんとティップスのほうにも書いたんだっけ(笑)。それでも懲りないのがコレクターってもので、他人様から見ればただのバカでしょうが、まあ笑って見てやってください。
余談だけど、『コレクター・フリークアウト』ってマンガ知ってます? コレクター向けのファンジンの連載マンガなんだけど、これが日本で唯一のレコード・コレクター漫画。もっとも作者は70年代初期の英国フォーク・ロック・マニアなんで、Mansunファンの人には何がなんだかさっぱりわからないでしょうが、私はたまたま多少わかるんですね。(ああ、年がバレる!) それで読んで思ったのは「クズ(私に言わせれば)みたいな中古レコードに10万、20万の大枚はたく人がいるんだ!」ということ。こういう人はレコード屋行くにも100万円持っていく。「レアだから」というだけの理由で聴いたこともないバンドのレコードも買う。まあ、マンガだから誇張している部分もあるだろうけど、かなり自嘲気味に描いてる(私もだ)ってことは、本当なんでしょう。
いやー、これがディープってものですよね。私なんか5000円でも逡巡してるもん。Mansunに20万出すって言えば、世界中のセラーが足元にひれ伏すよな。しかし不思議なのは、今をときめくMansunと、30年前に消え去ったマイナー・フォーク・バンドとでは、確かに流通しているレコードの数も違うだろうけど、ファンの数は桁違いだと思うのですが、どうして値段にこんな違いがあるの? やっぱりよくわからない世界ですね。
それで何が言いたいかというと、「私よりバカなやつがいる!」というのでうれしかっただけです。〈それってディープっていうより、単に悪趣味な金持ちのジジイってだけじゃないの?〉 ああ、それを言ったらおしまいじゃないか! まあ、Mansun買ってると、「私ってなんて趣味がいい、音楽がわかる、知性と教養と気品に満ちあふれた人なの!」と感じて気持ちよくなれるという利点もありますが。(なりませんか?)
【注】 私の生まれつきの口の悪さを知らずに、同じコレクターをバカだの悪趣味だの罵っているのを見て、「なんてひどいやつだ」と誤解なさる方がいるといけないので解説しておきます。私にとってボケだのカスだのバカだのというのは、じゅうぶん好きのうちなのです。まあさすがに「寄るな、さわるな、息もするな」っていうのはちょっと嫌いかな。でも本当に嫌いだったら、存在することすら認めないので、もちろんのこと口にも出しません。とにかく自分でもバカだと思いながらやめられない(やめたくない)のがマニアってもので。
というわけで、皆さん、私にならってどんどんMansun買いましょう。でもレアものなんかに手を出しちゃだめですよ。中古もブートレッグもだめです。だってそんなのいくら買ってもバンドには一銭も入らないんだからかわいそうでしょ。それにいったんこの道に入ったら後悔しますよ。親が泣きますよ。特にお金持ちの人はだめです。絶対にだめです。〈こいつがこういうことを言うのは「これ以上ライバルが増えて値段が上がってはたまらん」と思っているからである〉
そんなにお金が余ってたら正規盤の新譜をちゃんとしたレコード屋で買いましょう。それも同じものを1枚2枚とケチくさいことを言わず、ダースで買いましょう。グロスで買いましょう。それだけ日本でレコードが売れれば、やつらももっとしょっちゅう日本に来るしかなくなるし、雑誌にも載るし、テレビでもやってもらえるし、そうなるとファンは喜ぶし、バンドも喜ぶし、レコード屋さんやレコード会社も喜ぶし、英国政府も喜んで日英親善に貢献することにもなるし、何より私がとってもとってもうれしいので。