limpbizkitギタリストオーディション

1.プロローグ--受かったら儲けモン

 ある日、残業中にこのニュースを目にしました。要約すると以下の様になります。

・limpbizkit(リンプビズキット)というバンドがこれから始まるワールドツアーに向けギタリストを2人募集しており、その内の1人を日本人から選出したい為、オーディションを行う。

・limpbizkitのフレッド・ダーストは、以前来日した時より何らかの理由で、日本を才能溢れるミュージシャンの宝の島の様に感じている。

・選ばれた結果、バンドに加入しlimpbizkitの所属事務所とアーティスト契約を結び、リハーサルを重ねた後ワールドツアーやレコーディングを行う。

・応募資格は、リンプビズキットに加入してギタリストとしてやっていくレベルのギター・テクニックとその志しを持った、18歳〜35歳までの健康な男女でプロ・アマは問わない。

・審査は3回あり、まず全国から30人が選考され、その中から10人が選考され、最終的に1人が選ばれる。

・応募方法はギター経験歴・アーティスト契約の有無・履歴書・バストアップ及び全身写真等を2003年4月11日必着でユニバーサルミュージックに送付する。

 limpbizkitについては、一応名前だけは聴いた事がありますが、実際に音楽を聴いた事はありません。友人に聞いてみるとヒップホップっぽかったりヘヴィーっぽかったりといった音楽性だそうで、結構人気があるそうです。

 思い起せばプロのオーディションなどは一度も受けた事がなく、世界を又に駆けるバンドのオーディションなどそうは参加出来るモノでもないという事で、申し込んでみました。

 まずは全国から30人に選ばれなくてはなりません。履歴書は普通に書き、写真は手持ちがなかったんで画像データをプリントアウトしたものを同封しました。で、ギター経験歴なんですが、どういったフォーマットで書き上げればいいのかも良く解らないので、取り合えず以下の様に書いてみました。

ギター経験歴

 

 ●13歳からギターを始める。当時は邦楽ロック(BOOWY・BUCK-TICK・X・ZIGGY等)を中心に云々...

 ●15歳から洋楽スラッシュメタル(METALLICA・SLAYER・MEGADETH等)を中心に云々...

 ●16歳から洋楽HM/HR(YngwieMalmsteen・DeepPurple・STRATOVARIUS・Guns'n'Roses・BonJovi等)を中心に云々...

 ●18歳、大学入学と共にギター講師のアルバイトを始め、中高生へギターを教え始める。バンド活動では少しずつオリジナル曲をLiveで演奏し始める。またXXX(出身地の県庁所在地)で活動中のアマチュアバンド(HM/HR・パンク・ビジュアル系)の助っ人としても活動し云々...

 ●21歳、就職活動と共にバンド活動を徐々に少なくする云々...

 ●22歳、就職に伴いギター講師及びバンド活動を停止する。趣味としてギターを弾いており現在に至る。

 求められる物がこれでいいのかどうかは解りませんが、このオーディションの告知を見た時は既に募集締切の2日前だったんで、取り急ぎこれにて応募してみました。

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2.選ばれちゃった

 応募の数日後、携帯電話に非通知の着信が数回あり、非通知着信拒否設定を解除すると、再度非通知の着信がありました。電話に出てみるとなんとユニバーサルミュージックからの電話です。

 結論としては数千の応募の中から選ばれた30人に俺が入っており、更に10人に絞る為の二回目の審査に来て欲しいという事でした。審査日・審査会場・審査の条件等の確認をしましたが、凄い驚きました。

 数千の応募の中から選ばれた30人に自分が含まれたというのは、栄誉な事であり、人生に訪れる数少ないチャンスであると思いました。limpbizkitは聴いた事がないんだけど。どんなバンドかも知らないのにこの稀有なチャンスを手にしてしまい、動揺しました。

 審査の詳細は、以下です。

・場所
 東京は赤坂のユニバーサルミュージック

・持参物
 ギター・エフェクター・シールド・身分証明書

・審査員長
 ピーター・カトシス(limpbizkit本マネージャー)

・審査内容
 1〜2分のオリジナル曲

・アンプ(いずれかを選択)
 Roland JC-120 Combo
 Marshall J-2000 DSL-100 Head & JCM900 1960 STA Cabi
 Mesa BoogieDual Rectifier Head & Mesa Boogie Rectifier Top Cabi 

 1〜2分のオリジナル曲。何だそりゃ。どの様なギタリストが求められているのかも解らないのに、1〜2分間ギター一本でどの様なアピールすれば良いのか。少し考えましたが、いつも通り自分のスタイルでプレイする事にしました。1〜2分の短めなギターソロでいいじゃないかと。

 レンタル屋でCDを借りて来て“フムフム、なるほど”と彼等のスタイルを分析し真似る事は可能だと思います。でも変に無理して自分のスタイルを崩すより、自分の愛するHM/HRスタイルで参加したかった。という訳で“アルペジオやクラシカルなフレーズを織り込んだ短めのギターソロ”という方向で審査へ挑む事に決定です。

 アンプはやっぱマーシャルで。エフェクターの類は殆ど実家なんでジャズコ(Roland)はパス、メサブギーは嫌いじゃないけど、愛着を持って使ってたマーシャルで決定です。

 ギターは個性を出す為、ストラトではなくあえて32フレットのギターを選定。ヘヴィ系のバンドであればDimarzioHS-3よりもDuncanJBの方がマッチすると思うし。

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3.会場入り

 二次審査当日、東京にあるユニバーサルミュージックまでギターを持って出かけました。

 会場に着くとまず、英語で書かれた書面へサインを求められました。内容は要約すると“二次審査の模様は録画・録音されており、著作権的なものはlimpbizkit所属事務所が全て所有する”みたいな感じだという事です。雑誌やメディアに使われるみたいですな。

 サインの後、待合室で暫く待たされ、審査対象者一同が審査会場へ通されました。そこで大まかな審査の流れや内容についての説明を受けたり、写真を取られたりし、また待合室へ戻されました。何か雰囲気が記者会見みたいで堅苦しく、少し緊張しながらこんな事を思いました。

 “この中から一人選ばれてワールドツアーで世界各国を周ったりレコーディングをするんだよな”

 集まった皆を見まわすと、迷彩柄の短パンやダボダボの服、ニット帽が多く見られ、なるほど、HM/HR愛好家など皆無な感じで、自分が場違いな印象を受けました。

 審査員は全部で3人、前述のピーター・カトシス(limpbizkit本マネージャー)、CrossBeat誌の人、YoungGuitar誌の人という事です。他にスタッフやギャラリーを合わせて、オーディエンスは総勢20〜30人ってとこでした。

 審査が始まり一人ずつ待合室から呼び出されました。待合室でお互いの緊張を解すかの様に話し合う面々、一人黙々とギターを弾き続ける面々、落ち着かな気に時計を気にする面々。俺はあまり話さずにじっとギターを弾いてました。

 周りで話し合う面々は皆、リンプは1stが好きだの2ndの方がいいだのそんな話をしており、改めて自分は場違いな所にいると認識しました。だってlimpbizkitというバンドの音楽を聴いた事がないんだもの。

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4.男の生き様

 “まぁ、細かい事は気にせず、いつもの自分のプレイで挑もう。”

 そう思う中、遂に自分の番になった。

 張り詰めた雰囲気。ここまで来たらしょうがねぇ、男は黙ってただ弾くのみだ。まずは音量を絞り、マイナー調でクラシカルなアルペジオを奏で、一気に音量をフルにして5弦スウィープや6弦スウィープをしながらフレットを上昇。32フレットを生かし超高音を出した後、Yngwie風のリフを刻む。勿論リフの合間にはクラシカルなレガートプレイを織り込んでいる。

 この辺で少し余裕を見せ、周りに目を向けるとカメラのフラッシュがあり、懐かしい思いが込み上げて来る。あぁ、ギターを持った自分にカメラを向けられるのは何年振りなんだろう。そんな事を考えながらもリフは次の展開へ。

 マイナー調のYngwie風のリフから一転し、明るい感じのアメリカンっぽいリフへ流れを変え、ハーモニクスやペンタトニックのプレイを織り込み、一心不乱にギターを弾いた。

 と、そこで司会進行役の声がマイクで俺のギターを止めた。時間をオーバーしたのか。かなりカチンと来た。その後、ピーター・カトシスより以下の様なリクエストがあり、頭が真っ白になった。

 “もっと違った感じで、スペーシーでメロディアスな感じで弾いてくれないか。”

 スペーシーとメロディアスをリンクさせる事が出来なかった。スペーシーはハーモニクスや超高音で行けるかな、メロディアスは、ウムム、どうすんべ、あぁ、フランジャーとかあればなぁ、まぁ、ねぇモンはしょうがねぇ、何かテキトウに速弾きで誤魔化すかぁ。咄嗟にこう思い、クラシカルなマイナースケールをフレットが続く限り上昇させた。上昇させながら気がついた。

 “あっ、さっきと全然違った感じになってない”

 まぁ、済んだ事はしょうがない“これが俺の生き様だ”開き直ってまた止められるまで弾いた。その後二つの質問に答え審査終了である。

Cross Beat:最近聴いたアルバムを3枚挙げて下さい。

俺:METALLICAのMaster Of Puppets、Yngwie MalmsteenのAttack、Uli Jon RothのBeyond The Astral Skiesです。

Young Guitar:好きなギタリストを3人挙げて下さい。

俺:Yngwie Malmsteen、Uli Jon Roth、Randy Roseかな。

 恐らく、最後の質問における彼等の求める答えは間違っているだろう。それは質問を答える前に解ったが、きっぱりとHM/HRのアーティストを挙げた。この質問は俺にとっては、隠れキリシタンへの踏絵の様なモノである。

 彼等はlimpbizkitと似た様なアーティストの回答を求めていたのではないだろうか。コーン(?)とかレイジ・アゲインスト・マシーン(?)とかそれっぽいのを答える事も出来たがそうはしなかった。

 HM/HRこそが自分の愛するスタイル。何故に嘘などつけようか。

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5.エピローグ--やっぱりね

 審査を終え会場を後に。参加者全員に記念品という事で、審査中のギターを弾いている自分のポラロイド写真、WeRock!!ステッカー、ZakkWildのピック、“saliva”というバンドのCD、分厚いメモ帳等を貰いました。

 折角赤坂まで出て来たんだもの、地元で発注しても手に入らなかった輸入版でも探して帰ろうかという事で、渋谷のHMVとTowerRecordへ寄ってから、家へ帰りました。

 家に着いて、買って来たImpaled NazareneのAbsence Of War Does Not Mean Peaceを聴きながら思う。

“あぁ、やっぱり俺はこっちの方がしっくり来るなぁ。”

 審査の合格者には、翌日の夜に電話で通知されるとの事でしたが、俺の元には電話はなかったです。落ちましたー。

 まぁ、良く考えれば当然で、また自分の出来る事は全て行ったつもりなんで、全然後悔もしていないし、合格者には頑張って欲しいと思います。見事アメリカンドリームを手にした合格者、君を心から祝福します。どこかで君の奏でるギターの収録されたlimpbizkitのニューアルバムを耳にし、気に入ったら喜んで購入します。

 日本全国数千人の中から選ばれた30人に自分が含まれた。これだけでも話の種になるではないか。数日の間ですが、いい夢観させて貰いました。

 という事で、人生初のワールドクラスオーディションは準決勝敗退という形で幕を閉じました。こういったオーディションは珍しく、とても面白く感じたんで、また機会があれば受けてみたいと思います。出来れば、自分のフィールド(HM/HR)で勝負したいなぁ。

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