ギター遍歴最終章の後、なんだか人と接する事がイヤに成り、神戸を出る事にする。
ギターと大きなスポーツバックを持って、有り金をジーンズに突っ込んだ。
「どうせこの町を出るんなら、どこか人の居ない町へ行こう。」
「でも、人の居ない町ってどこだろう?」
「分からないけど、とりあえず日本海側の方が良いかな・・・。」
そんな事を思いながら大阪駅より特急雷鳥に乗り込んだ。
季節は冬。外には雪がチラついていた。
幾つかの駅を通り過ぎてゆく。
ふと、「次の駅で降りよう。」と思った。
その駅は夜の黒と雪の白が綺麗なコンストラストを醸し出してる町。武生と言う駅だった。
駅の周りには古いパチンコ屋と小さな商店街が有るだけだった。
私は寒さをこらえながら、その商店街に有る小さな食堂に入る事にした。
その食堂はとても暖かく、それが暖房のせいだけでは無い事を後で知る事に成る。
とりあえず、何か注文しようかと壁に貼って有るメニューに目をやると、『武生名物』と書いて有るソバとごはんを頼む
事にした。
この食堂は50代位の夫婦2人で営んで居るみたいだった。
時折、その奥さんが私の方を見てる。
まぁ、確かにギターと大きなスポーツバックを持って居る客と言うのも余り見かけ無いだろう。
私は何か話す気にも成らなかったし、気付かないふりをしていた。
そして注文したソバとごはんと刺身が出て来た。
刺身?注文してないぞ?
その事を告げようとした時、その奥さんが「今日良いヒラメが入ったの。良かったら食べて下さいね。」と 笑顔で言っ
た。
私 「でも、こんな事されると・・・。」
その言葉が言い終わる前に、厨房に居たご主人が「良いから黙って食え!」と・・・。
奥さんは「うんうん。」と笑顔で頷いている。
人を信じられなく成っていた。
人と接したく無かった。
そんな事全部、見透かされている様で・・・。
なんか嬉しくて悲しくて涙が零れた。
『人の居ない町』を探していたはずなのに、そこで『暖かい人』に出会った。
武生の小さな食堂で食べた、ソバとごはんと刺身・・・。
これは一生忘れないだろう。
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