11.第三の男
 
まず私から彼に近づくことにした。設定としては、両国付近をランニングしている私と、愛川さんを待っている高橋君が偶然出会うという形である。これならくり返し会っても別に不自然ではない。私はスキを見てマックを抜け出し、あたかも数q走ってきたような格好で彼に近づいた。
私「あれ、高橋君!?」
高「お、おう。なにやってんだよ」
こっちのセリフである。
私「俺はランニングだよ。最近運動してないしさ。高橋君はなにしてんの?」
直球である。男はだまってストレートなのだ。
高「あー、俺は、あれだ。あいつを待ってる」
私「あいつって誰?」
高「ほら、あいつだよ。あーもう、名前出ねぇ!
私「(痴呆症?)そっか。じゃあ俺もう行くわ」
ということで、私はそそくさとその場を離れた。大体花火大会の日にランニングをしているということ自体非常識なのだが、それをいとも簡単に信じてくれる男、高橋。そして私は両国駅を一周し、またも高橋君と出会った。
「あれ、高橋君!?」
高「…まだ走ってんの?」
私「いや、ほら、運動不足だから」
彼は黙ってしまった。
私「そういえばさ、誰と会うの?女?」
高「いや、そういうことではない」
私「じゃあどういうことなの?」
高「…男ってことじゃん?」
疑問形である。まあ仕方ないだろう。
私「そっか。じゃあね」
私はまた両国駅を一周し、さらに高橋君と出会った。
「あれ、高橋君!? 」
高橋君はなにも言ってくれなかった。
私「友達はまだ?」
高「あー、あいつね、時間にすっげールーズなんだよ」
私「でも、あと10分ぐらいで花火終わっちゃうよ」
高「わかってるよ!(ちょっとキレてる)あーもう、井上のやつ…
彼は言葉の終わりにぼそっとそう言った。架空の人物の登場である。勝手に時間にルーズにされては、井上君もとんだ災難である。
私「ふーん。それじゃあね」
私は彼の元から逃げるように走り去り、マックへと向かった。そして星也にあいつの忍耐はそろそろ限界であること、井上君という人物が登場したこと、あと一回でも会っていたら多分マジ切れされていたこと、もうあいつを観察してもこれ以上は時間の無駄であることなどを話し、愛川さんを待っている高橋君を尻目に、私と星也は一足先に家路についたのである。                 12へ続く

HOME