10. いかんともしがたい男
 
さて、少し話を整理してみよう。高橋君という男は、典型的なあっちタイプの人間。それに腹が立っていた私達は、ブラックメールを決行。まんまとだまされる高橋君。彼氏はいるのかと聞いてきた高橋君。彼女と別れたと言ってくれた高橋君。そして花火大会に誘った私達(愛川さん)。確かこんな感じであろう。
 話を戻そう。彼は花火大会の日、7時に両国駅に来る。だが一生待っても愛川希さんは来ないだろう。それを知らずにウロウロして挙動不審になっている高橋君を見て楽しむというのが、この花火大会の目的である。そしてさらに高橋君の横を何度も往来し、「なにやってるの?」と果てしなく聞く、というのが今回の最終目標である。
  当日、私と星也は駅へ下見に行った。
「ここのマックであいつが来るまで待つことにしよう」
「つーかさ、愛川さんは来ないわけでしょ。てかいないじゃん。だからあいつ愛川さんにメール出すべ。そしたらどう返信するの?」
 私はこの星也の質問に待ってましたとばかりに答えた。
「花火大会の日っていうのはメールすっげー届きづらいんだよ。特に隅田川とかのでかい大会だと。だからそれを理由にしてもみ消そう。もしも奴からメールが来ても、無視」
「へー。なるほど」
 こんな感じで長い間星也と喋っていると、ついに約束の時間が近づいてきた。7時である。夏なので辺りはまだ若干明るいが、ついに高橋君の登場である。
「そろそろじゃない?」
「そーだね。ちょいと覗いてみよう」
 私達は二階の窓から駅構内を見回した。


 いた。 彼は赤いリストバンドを手首につけ、携帯をみながらウロウロしている。あまりの登場シーンのあっけなさと彼の準備周到さに私達は驚き呆れた。その様子からして、おそらく15分ほど前には到着していたものと思われる。
 まずは、一時間ほど観察である。だが何も食わずに長居するとお店の人にも悪いので、キチンとハンバーガーを買った。
 彼は壁によりかかりながら、ずっと携帯を見ている。どうやら愛川さんへのメールがなかなか届かなくて、いらついているものと思われる。まぁ送れたところで返信は来ないのでどっちにしろ同じではあるが。
 30分経過。彼は一本の柱を中心に、常によりかかりながら、ゆっくりと回っている。五分間に大体72°ぐらいの周期で回っている。よって20分後には元の場所に戻る。というか、どうでもいい。
 そろそろ彼の行動に見飽きてきた私と星也は動くことにした。
「それじゃそろそろ行きますか」
「そーだね」
 次の一時間は聞き込み調査の時間である。
                              11へ続く

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