そしてとうとう社会の授業が始まる。私はこの授業のために夏季講習を受けにきたようなものだ。大きな期待を持って授業に臨んだ。
 先生は50代半ばあたりの、人のよさそうなおじさんであった。「社会の教師というのは年をとっていなければいけない」という、私独自の完璧な社会教師ノルマの1はまずクリアである。それであって、口調も非常に穏やかで大変快適であった。よく教師だけが突っ走る授業というのがあるが、その心配もどうやらなさそうである。
 チャイムと同時にプリントが配られた。といっても、問題用紙ではなく今までの総復習といった感じの今後も役に立ちそうなものである。重要ポイントの所に先生が書いたと思われるノラクロの絵があったが、ここは気にしないでおこう。
 その後はプリントを中心に授業が進んでいった。この先生の口調を聞くだけで癒される。マイナスイオン的存在である。
 だが20分ほど進んだ所で、「では、プリントを置いてください。」と命令が下された。従う生徒たち。また何か配るのかな? と思ったその時である。
 「このまま、授業してても、みんな疲れちゃうよね。暑いしね。だから、これから、昔の日本人と、外国人の、色んな価値観のね、話をしようと思います。」
 はい、ちょっと待って。全然疲れてないし!クーラーもガンガンだし!と、つっこむ間もなく先生は語り始めた。ジェスチャーも交えて。
 「日本人っていうのはね、すごい汚いんだ」
 いきなりなにを言い出すんだこの人は。すると、「フン、フン!」と言いながら鼻の穴の片方をふさぎ、鼻水を飛ばす動作をはじめた。思わず阿世知君を見ると、下を向いて肩をヒクヒクさせていた。
 次に、「ぺっぺっ!」とつばをとばす真似をはじめた。「日本人は、こうなんですね」ご丁寧に解説つきである。私は込み上げてくる笑いを抑えるのに必死であった。だが周りを見るとなぜかみんな平然としている。肩をヒクヒクさせているのは私と阿世知君だけだ。ここで大声で笑おうものなら次から講習にでるのが苦痛になってしまう。なんとしても耐えなければいけない。
 「外国人は、日本人を、今みたいに、思ってるんだよ」とやさしい口調で先生は言った。やっと終わった・・・。と思った次の瞬間である。
 「フン、フン!」また始まった!勘弁してくれ。
  この調子で残り時間を費やし、先生は帰っていった。
 阿世知君は私に「いい勉強になったね」と言ってくれた。

                                          4へ続く


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