ジャズの歴史を振り返ると、極少数の「天才」が新しい「スタイル(即興演奏のやり方、楽器編成、リズム、等々」を
産みだし、大多数のその他のプレイヤーがそれを発展させていく、ということの繰り返しであると私は思います。
今日はその「天才」の一人、トランペットのマイルス・デイビスをとりあげます。マイルス・デイビスは1940年代に前回
聴いたチャーリー・パーカーに認められてジャズ・シーンに登場し、以後常にジャズの最前線で活躍してきました。
ほぼ十年ごとに次の十年間のジャズ・シーンを予告するような作品を発表した、と言われています。すなわち、40年代末の
「Birth of Cool」は50年代の「クール・ジャズ」を、50年代末の「Milestones」は60年代の「モード・ジャズ」を予告し、
今日聴く「Bitche's Brew」は60年代末に発表され、70年代の「エレクトリック・ジャズ」の先駆けになったという訳です。
また、マイルスは新しいバンドを結成するときにはそのときは無名だが、後にジャズ・シーンの中心になっていくような
優秀な人材を見つけてきました。今回の曲には、70年代にフュージョン、エレクトリック・ジャズで大活躍する人物が
何人も含まれています。たとえば、「ウエザー・レポート」のジョー・ザヴィヌル、ウエイン・ショーター、「リターン・トゥ・フォーエバー」
のチック・コリア、「マハヴィシュヌ・オーケストラ」のジョン・マクラフリンなどです。
曲は「ファラオズ・ダンス」といいます。13人編成で演奏されますが、なんとホーンはマイルスのトランペット、ショーターのソプラノ・サックス、
ベニー・モウピンのバス・クラリネット(あまり使われない楽器ですが、この曲では全編にわたり重要な効果を与えています)の三人で、
後は「リズム・セクション」になっていて、ギター1、エレクトリック・ピアノ3、エレクトリック・ベース1、ウッド・ベース1、ドラム2、
パーカッション2、という編成です。さあ、この「リズム・セクション」がどんな音を出すのか聴いてみて下さい。長い演奏なので今日はこれ一曲だけです。
本日のレコード
1. 「Pharaoh's Dance」"Bitche's Brew" Miles Davis 1969
大編成の「リズム・セクション」が何とも不思議な雰囲気を出しています。解説したように、この
バンドのメンバーから70年代のフュージョン・ジャズの中心になる人たちが出ているので、このレコードが
「フュージョン」の先駆けであるといわれることが多いのですが、考えてみると、この演奏はいわゆる「フュージョン」
とは全然違うんですね。エレクトリック楽器が多いのは確かだけれど、この演奏はマイルスが作り出した
まったく独自の音楽であると私は思っています。
さて、速いものでもう一学期も終わりです。二学期に向けて要望・質問などあったら感想と一緒に書いて下さい。
また、「楽器別に注目して聴くシリーズ」はベースしか出来なかったけれど、これからどんな楽器に注目して
聴いてみたいか聞かせて下さい。
(女子A)すごく神秘的な感じで、あまり「ジャズ」と言う感じはしなかった。
多くの楽器一つ一つ聴いてみるとバラバラにきこえるが、なぜか何の違和感もなく、それでいてある種独特な印象を与えるのが
すごくおもしろかった。楽器のどれか一つが主役になるわけでも、脇役になるわけでもなく、すべてが主役ですべてが脇役と言う感じ
がした。すごく長い曲なのに全くあきなかった。この曲で「プロモーション・ビデオ」を作ったらおもしろいと思った。
このクラブに入って、ロック、ポップスしか聴かないという偏見を破ってジャズに首をつっこむことができてよかった。ラジオなんかで
たまにジャズも聴くようになりました。楽器別ではアルト・サックス、ギター、ピアノなんかを聴きたい。
(男子B)ジャングルをどんどん進んでいくみたいで、行く先々の風景が見えてくるみたいだった。
トランペットの演奏は言葉では言い表すことの出来ない良さがあった。二学期は今日のものよりも、昔のものを出来るだけやってほしいです。
ニューオリンズ・ジャズも聴きたい。楽器はトランペット、クラリネット、ドラムが聴きたい。
(男子C)今日の曲はメチャクチャという感じで好きじゃない。またベースを弾いてみせて下さい
(女子D)なんか夜の街をどろぼうが逃走していくような曲で、なかなかおもしろい。二学期は
テナー・サックス、ドラム、ボーカルのジャズを聴きたいです。
(女子E)ふだんあまり出てこないバス・クラリネットがソロを吹いていてよかった。
ソプラノ・サックスはあまり出てこなかった。二学期は、もっとクラリネットやバリトン・サックスがソロを吹いているような
ジャズを聴きたいです。(ブラスバンドでバリトンを吹いている子でした)
(女子F)13人編成だけあってすごく大がかりという印象だった。ちょっと恐い感じがして何かを
追いつめていくような圧迫感がちょっとあった。ホーンの三人がリズムを強調していたのが曲のムードを
盛り上げていたように思いました。ギターとピアノとボーカルが聴きたい。あとウエザー・レポート。
今日は出席者が少なかったのかな。いつもいっぱい感想書いてくれる子がいないな。さあ、次は二学期だ。