ジョージ・ロバーツ氏との出会いは、僕が高校一年生の頃にさかのぼる。高校に入ってすぐの6月だったと思うのだ
が、洗足学園大学にて、日本トロンボーン協会主催の「トロンボーンフェスティバル」というイベントがあった。このイベ
ントでは、オーケストラの模擬オーディションや、各音大のトロンボーンアンサンブルの演奏などがあったので、当時
音大に入って、将来はオーケストラのプレイヤーになろうと思っていた僕にとっては、とても勉強になるイベントだと思
い、初めて足を運んだのである。恥ずかしいことに、この時まだ、ジョージ・ロバーツ氏のことは名前も知らなかった。
僕がロビーをうろうろしていると、ジャズトロンボニストの井口秀夫さんとジョージ・ロバーツ氏が到着したのだが、井口
さんに、「この人誰ですか?」と、失礼な質問をしたのを覚えている。
「この人は、今日のゲストプレイヤーで、すごい人なんだぞ!」と、即怒られた。それでも、僕の失礼、大胆な行動は
続く。「すごい人なら、とりあえずサインもらっとこう!」という浅はかな考えからサインをもらったのがきっかけで、会話
が始まる。「歳はいくつだ?」と聞かれ、「15歳です。」と答えた。もちろん通訳を通してだが・・・。その後、「控え室に
おいで。」と言われ、一緒にご飯を食べたり、トロンボーンの音を聴いてもらって、音の出し方のアドバイスをもらった
り、その日の曲のリハーサルを見せてもらうことが出来た。この後、お客さんの前での彼の演奏を聴いて、僕は生ま
れて初めて演奏に感動して涙が出たことは今でも忘れない。彼の音は、まさに彼の人柄そのもので、温かく、包容力
があり、トロンボーンを聴いているというより、まるで歌を聴いているようだった。「彼のような音を出したい!」と、心の
底から思った。
数日後に別の場所で、彼のトーク&コンサートが行われたのだが、そこで彼は僕のことをお客さんの前で紹介してく
れた。「私も彼くらいの歳にプロになった。彼を見ていると、自分の昔を見ているようで、すごく励みになる。」こんな話
をしてくれた気がする。
この後、彼はアメリカに帰ったのだが、手紙のやりとりが始まる。またバストロンボニストの村上準一郎氏を通して、
彼がコンサートで使用しているマイナスワンテープと、譜面をいただいたのだが、その中の、「スーパーマンの愛のテ
ーマ」が特に好きだったので、この曲をよく練習していた。手紙にも、「一生懸命練習しているので、また日本に来た
ら音を聴いてください。」
なんてことを書いた。1年後、パーシー・フェイス・オーケストラで来日した時に、現在宮間利之&ニューハードなどで
活躍されながら、ライブハウス兼喫茶店を経営している、岡田澄雄さんのお店、「さくらんぼ」で、彼のライブがあっ
た。このライブで、例のスーパーマンの曲を、僕が演奏することになってしまったのである。手紙には、それらしい事が
書いてあったようだが、あまり理解していなかったようで、全く心の準備が出来ていなかった。お店の熱気、緊張で、
音程もどんどん高くなり、最悪の演奏をしてしまった・・・。彼を含め、一緒に来ていたロイド・エリオット氏、他パーシ
ー・フェイスのメンバー、そしてお客さんは、温かい拍手を僕にくれた。
その後も、ヘンリー・マンシーニ・オーケストラでの来日時、前回の「100人のトロンボーンコンサート」などのたびに彼
にお会いしている。あの頃は高校生だったが、今では、一応プロとしての道を歩き始めた。当時クラシックのプレイヤ
ーをめざていた僕が、ジャズ、スタジオ、映画音楽などに興味を持ち、今このの世界にいるのは、彼の影響が非常に
大きい。
それに、さくらんぼでのライブを聴きに来ていたプロのトロンボーン奏者も多く、失礼ながら、僕が知らないのに、僕の
ことを覚えていて下さった方もたくさんいらっしゃった。今、いろいろとお世話になっている、ニューブリードの下堀福男
さんもその一人だ・・・。片岡雄三さんから、「ジャガーノート」などのビッグバンドの仕事をもらいプロ初ステージが踏め
たのも、このさくらんぼでの演奏がっかけである。今ではさくらんぼで、リーダーバンドのBones Four Menや、Slide
Allianceのライブをやらせていただけるようになった。とても名誉なことだ。これも、元はと言えば、彼のおかげである。
彼は僕に、確実にプロとしてのレールを敷いてくれた。心の底から感謝している。

2004年には、カリフォルニア州サンディエゴを訪れ、彼と再会、演奏する事が出来ました。
(詳しくは、アメリカ一周旅行記、Las Vegas、San Diego編をご覧下さい!)
2007年2月、再度サンディエゴを訪れ、再会出来ました!詳しくはWeblogをご覧下さい!
(上の写真は、左が2004年、2007年の物です。)

〜ジョージ・ロバーツ氏のプロフィール〜
スタン・ケントン楽団、ヘンリー・マンシーニ・オーケストラのバストロンボーン奏者として活動。その後はロサ
ンゼルスを本拠地、NBC、ABC、CBS放送のオーケストラ、ワーナー・ブロス、20th Century Fox、ユ
ニバーサリー等の映画音楽(ジョーズ、キング・コング、未知との遭遇など多数・・・)に携わるほか、テレビ
番組「アカデミー・アウォーズ」、「キャロル・バーネットショー」などに出演。また、ネリソン・リドル、ヘンリー・
マンシーニ、フランク・シナトラ、サミー・デイビスJr.、サラ・ボーン、エラ・フィッツジェラルド等のレコーディン
グに参加し、名演を聴かせている。その他、アメリカ、カナダ、オーストラリア、日本、ドイツなどでクリニック
やコンサートも行い、意欲的に活動している。彼は音楽界でも最も愛されている演奏家の一人であり、その
美しい音色でトロンボーンをソロ楽器として位置づけた先駆者的存在である。現在も「ミスター・ベース・トロ
ンボーン」として、多岐に渡り活躍している。