■データBOX (1)中日が昭和29年以来、50年ぶり2度目の日本一に『王手』をかけた。これまで3勝2敗とした36チーム(1分けを含む)中、27チームが優勝しており、優勝確率は75%。このうち、今回の中日と同じ●○●○○で王手をかけた3チーム(昭和49年ロッテ、53年ヤクルト、56年巨人)は、すべて優勝している。 (2)中日は今シリーズ通算8本塁打となり、1シリーズの球団最多記録となった。従来の球団最多は昭和49年シリーズ(対ロッテ)の7本。なお、チーム本塁打数のシリーズ最多記録は昭和53年、ヤクルトの13本(7試合=対阪急)。 (3)川上は、シリーズ第1戦(先発●=2失点)の雪辱を果たした。第1戦の敗戦投手が、次の登板で白星を挙げたのは、平成4年の西武・鹿取義隆(第4戦で救援勝利)以来で10人目。 |
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【名言迷言】
◆8回5安打1失点の好投を見せ、「第4戦の山井の好投も参考になった?」と聞かれた中日・川上 「ハイ、あのガッツポーズです」
◆無安打に終わったものの、六回に好ブロックで失点を防いだ中日・谷繁 「1点取るのも、1点守るのも同じです」
【タイ記録】
▽個人連続試合打点4 アレックス(中日)=10人目
▽チームシリーズ最多死球6 中日=2チーム目
▽個人通算最多連続敗北5 西口(西武)=4人目
▽個人最多連続無走者23人 川上(中日)=3人目
▽個人シリーズ最多暴投2 長田(西武)=6人目、7回目
▽投手シリーズ最多出場人員13人 西武=2チーム目
★優勝球団は1人当たり243万円…シリーズ分配金
日本シリーズ運営委員会は22日、今年のシリーズ第4戦までの入場料収入で決まる選手への分配金を発表した。
勝利チームは9701万372円、敗戦チームは6467万3581円で、日本シリーズ出場有資格40選手で割ると、1人当たりはそれぞれ約243万円、約162万円となる。
分配金は、入場料収入から共通経費を引いた額の28%(勝ちが16.8%、負けが11.2%)が所属球団を通じて渡される。
「油断していると、ああいうことになる。若さが、随所に出てしまったね」
伊東監督が悔やんだシーンは三回一死だった。中日・荒木のライナーが左翼フェンスを直撃。左翼・和田は二塁打と判断し、中継の遊撃・中島へ山なりの返球。中島も三塁への意識はなく、完全に二塁送球だけを考えた位置取り。これを見た荒木は三塁を陥れ、続く遊ゴロ野選で生還。油断が招いた失点だった。
「あれは痛い。ウチがやろうとしている野球をやられた。和田も中島も完全に油断していた。この大事な試合で…」
苦い顔で清水守備コーチが首をひねった。“当事者”の和田は「油断のつもりはないけど、思いきり投げて返せばよかった」と肩を落とした。昭和62年の巨人との日本シリーズで西武が見せた二死一塁から中前打での本塁生還。シリーズ史に残る走塁も今は昔。お家芸を逆にやられたのではダメージも大きい。
「しっかりと徹底していないから」という伊東監督。清水コーチは第6戦の前に選手に厳重注意をする方針だというが、歯車が狂い始めた西武野球。不動のセットアッパー・小野寺が九回に2発を浴びたのも、今後に大きな不安が残した。
「最後にああいう形になってしまってシラけてしまった。何も言うことはない。開き直っていくしかない」。伊東監督は自分に言い聞かせた。後味の悪い試合で敵地へ乗り込む西武。とにかく思いきり戦うだけ。もう失うものは何もない。
〔写真:三回、緩慢な守備が原因で荒木に3塁打を許した西武・和田。巨人・クロマティのまずい守備で流れが変わった昭和61年の日本シリーズ第6戦を思わせた〕
◆三塁打となった三回の緩慢な守備について西武・中島 「(三塁への)指示は聞こえなかった。スタンドがワーッとなったので、三塁へ向かったのに気づいた」
■クロマティの緩慢送球 西武−巨人の対戦となった昭和62年の日本シリーズ第6戦。2−1と西武リードで迎えた八回二死一塁、秋山が左中間寄りの中前打を放ったが、打球を処理したクロマティが緩慢な返球、さらにそれをカットした川相も打者走者に気を取られたる間に、すでに三塁に到達しようとしていた一塁走者の辻が一気に本塁突入。貴重な3点目を奪った。この試合を3−1で制した西武が4勝2敗で日本一となったが、当時、緩慢な巨人と抜け目ない西武という両軍の違いが際立った象徴的なプレーといわれた。 |
★西口が6四球を悔やむ
約1カ月ぶりの登板も七回途中3安打3失点と好投した西口は「負けはしたけど、精いっぱいやりました。きょうは四球がマイナス点ですね」と、失点につながった6四球を悔やんだ。しかし、荒木投手コーチは「西口はひと回りでいいと思っていた。文句のつけようのない出来でした」と評価していた。
◆中日・川上について西武・伊東監督 「西口は十分にやってくれたけど、それ以上に向こう(川上)がよかった。低めに集まって、初戦はまっすぐで押してきたけど、今日はカット系で攻められた」
◆西口について西武・荒木投手コーチ 「西口は6四球を帳消しにするくらいの投球だった。(2本塁打された)小野寺は抑えてくれるだろうと思って投げさせた」
★カブ&フェルが6三振の大ブレーキ
第4戦まで計31打数10安打、10打点と大暴れだったカブレラ、フェルナンデスの助っ人コンビが、6三振と大ブレーキ。「きょうは川上がよかったよ」と素直に脱帽したのはフェルナンデス。一方、カブレラは「あれだけストライクゾーンが広ければ、誰だって打てないよ」とムッとした表情だった。
★小関が一矢を報いるタイムリー
六回一死一、二塁で、代打・小関が一矢を報いる右中間フェンス直撃の適時二塁打。「あれが精いっぱい。たまたまですよ」。出場機会は少ないが、「(代打のタイミングを)早めに言ってもらってるので準備はできています。次勝てば大丈夫」と心はナゴヤドームへと向いていた。
■データBOX (1)西武・西口はシリーズ通算6試合目の登板で5連敗(0勝)となった。シリーズ5連敗は巨人・藤田元司(昭和33年第4戦−36年第5戦)、阪神・村山実(37年第6戦−39年第7戦)、広島・北別府学(54年第1戦−平成3年第3戦)に並ぶワースト記録。 (2)和田が今シリーズ6本目の長打を放った(本塁打2、三塁打1、二塁打3)。毎日・別当薫の1シリーズ最多記録(7長打=昭和25年)まで、あと1本。 (3)西武は今シリーズ6与死球となり、1シリーズ最多記録(昭和50年、広島=対阪急)に並んだ。 |
絶対に男になる。第6戦先発の松坂の姿は、試合後の西武ドームになかった。ナインより、一足早く球場を後にしたが、まさにがけっ縁からチームを救うときがきた。
「悔しい思いをしてますから…。リベンジ? そういう気持ちはあります」
試合前、口を真一文字に結び、闘志を見せていた。この時点で王手を取っていようが、なかろうが、その表情は“勝つこと”に集中していた。
ただ、練習では130キロのマシン相手に約20分の打ち込み。バスターなど器用なところを見せながら、和やかムードだった。一大決戦を前に、自ら気持ちをリフレッシュさせた。
日本シリーズでは、2年前の巨人戦2敗に加え、今回の第2戦と3戦3KO。だが、24日の第6戦は、10月1日からのプレーオフではなかった万全の中6日。松坂自身、初の日本一に向け、流れを引き戻す。
【名言迷言】
◆今季最後の西武ドームでの試合に西武・星野 「最後はスカッと終わりたいね。気持ちよくホームラン打つよ」(星野は投手です…)
◆4戦目まで6本塁打の中日打線について西武・帆足 「何であんなに打つんスか?! (12球団で)一番、少ないはずなのに…」
◆キューバに渡航経験があり、この日、果敢にもフェルナンデスの父親にスペイン語で話しかけた西武・和田 「ウノ、ドス、トレス、クワトロ、シンコ…(1、2、3…)ここからが難しいんだよね」(あえなく撃沈)
だが、“誤算”はあった。三回の荒木の二塁打の当たりを三塁打にしてしまった守備。そして、コントロールの甘さが目立つ中継ぎ陣…。負けは覚悟していたとはいえ、伊東監督にとっては、不安の種となっているに違いない。
中日は対照的に、ペナントレースと同じ戦い方をしている。好走塁を見せた荒木は六回、好返球で本塁で刺した。そのシーンが象徴で、この3勝2敗という勝敗は、ディフェンス面での差が出ているといえる。
24日の第6戦からナゴヤドームに場所を移す。西武の先発は松坂と石井貴。中日は山本昌にドミンゴが続く。勝敗の分かれ目は、やはり先発陣のデキ。特に、第2戦で不甲斐ない投球内容を見せた松坂が短い間に、どう立て直して、挑むのか。エースの右腕に全てがかかっていると言っても、過言ではない。
西武の高波文一外野手(29)と中日の荒木雅博内野手(27)で、高波が3年になった年に荒木が1年生として入学。「入ってきたときから守備もうまくてセンスがあった。将来は絶対伸びる選手だなと思ってました。荒木はスーパースターですよ」と後輩をベタほめする高波。厳しい上下関係にもかかわらず、高波の同期会に荒木が呼ばれるほどの仲の良さだ。
高波は今回の日本シリーズではまだ出場機会がないが、伊東西武ではリーグ優勝を決めた11日のダイエーとのプレーオフ第2ステージ第5戦で勝ち越しのホームを踏む“ラッキーボーイ”的な存在。対する荒木は中日の核弾頭としてレギュラーシーズンでチーム最多の176安打。今度はチームを50年ぶりの日本一に導くために、この日も1番打者を務めた。
「スーパースターは高波さんの方ですよ。こうやって話せるようになったのも、プロに入ってからです。お互いに頑張りたいですね」と荒木。
高波は昨年5月8日に阪神から西武に移籍。かつてウエスタン・リーグで戦った2人だが、高波の移籍後、初めて再会したのがこの日本シリーズの大舞台となった。
「こういう場で荒木に会えてうれしい」という高波に対して荒木も「西武のユニホーム、似合ってますね」。日本シリーズも佳境。2人は切磋琢磨(せっさたくま)を続ける。
21日にテレビ朝日系で放送されたプロ野球日本シリーズ、西武−中日戦の第4戦=写真=の平均視聴率が13・0%(ビデオリサーチ、関東地区調べ)で、同シリーズのナイター中継の過去最低記録を更新した。第1話で高視聴率を獲得した同局系連続ドラマ「黒革の手帖」(木曜後9・0)は試合の延長で中止になり、苦情の問い合わせが殺到。野球中継よりも、ドラマの方が見たかった?
21日の野球中継は、午後6時18分から同10時33分まで約4時間にわたり放送。試合が午後9時45分以降まで延びた場合、「黒革」の第2話は翌週の28日に放送すると新聞などで告知していたが、それでも怒り心頭の視聴者は多かったようだ。
同ドラマは、松本清張氏の原作をもとに、米倉涼子(29)扮する銀座のママが悪女に徹してのし上がっていく物語。14日放送の第1話で平均視聴率17・4%を記録し、裏番組のTBS系“お化け”人気シリーズ「渡る世間は鬼ばかり」(17・0%)をテレビ朝日系ドラマとしては初めて上回る快挙を成し遂げた。
第2話では、米倉が小林稔侍(61)扮するクリニック院長から多額の金を引き出そうと誘惑し、ベッドに押し倒されるシーンなどを放送する予定だっただけに、楽しみにしていた視聴者は激怒。同局には21、22日の2日間で、電話での苦情や問い合わせが約700件も殺到。同じ内容のメールも約200件と、「かなり多い」(同局広報部)反響を呼んだ。
〔写真:野球より米倉の色気? 第2話の放送が中止となった「黒革の手帖」。テレビ朝日に視聴者からの抗議が殺到した。(写真は左から吉岡美穂、米倉涼子、釈由美子)〕
★苦情900件
逆に、「黒革」をとりやめてまで放送した野球中継は、日本シリーズのナイター中継の集計を始めた平成6年以降、最低の13・0%。19日の第3戦で記録した最低視聴率14・2%を1・2%も下回るという不名誉な結果となったが、「日本シリーズ」「黒革」両番組の視聴率に対して同局は「ノーコメント」。
とはいえ、「黒革」に対する関心の高さが改めて証明された格好で、次回28日の放送で「黒革」が再び「渡鬼」を抜けるか、注目される。
★鬼が再び“王者”に
「黒革」が放送されなかった21日は、「渡鬼」が平均視聴率20.2%で再び同時間帯の“王者”に君臨。フジテレビ系人気バラエティー「とんねるずのみなさんのおかげでした」も同16.4%で、日本シリーズを上回った。
<日本シリーズ:中日6−1西武>◇第5戦◇22日◇西武ドーム
エースが投げて、足を生かし、堅い守りで勝利を手にした。50年ぶりの日本一に王手をかけた中日落合監督の目は潤みがちで、「このシリーズで一番いい勝ち方。いい形で名古屋に帰れる」と声を震わせた。
先制点は相手のスキを見事に突いた。3回1死、荒木の打球は左越えに。二塁で止まると判断した和田の緩慢な返球を見るや一気に三塁へ駆け込んだ。「返球が緩いのが見えた。半信半疑で思い切りいった。とにかく先制点が取りたかった」と荒木。果敢な走塁は、続く井端の内野ゴロが野選を誘い、欲しかった最初の1点を奪った。
守備で見せたのは6回。3点リードの2死一、二塁から小関の打球は右中間への大きな当たりだった。誰もが2点入ったと思った瞬間、井上−荒木−谷繁と渡り、最少失点で切り抜けた。 「4つ目を勝たないと落ち着かない。目の前の試合を全力で取る」。落合監督はナゴヤドームでの日本一を宣言した。
[2004/10/22/23:09]
<日本シリーズ:中日6−1西武>◇第5戦◇22日◇西武ドーム
狙っていた。3回。左翼フェンス直撃の打球を放った荒木は、二塁ベースを回ったところでレフト和田がボールを投げる瞬間を見つめていた。緩いボールが、しかもワンバウンドで中継のショート中島に返される。その瞬間、猛然と三塁に向かって突進した。中島が慌てて三塁に送球するが、荒木が頭からベースへと突っ込み、セーフ。「和田さんが緩い球を返すことは分かっていましたから、行ければ行ってやろうと思っていましたね」。荒木は涼しい顔で言った。
三塁を陥れたことが、すぐに生きた。直後、井端のボテボテの遊ゴロで、猛然とホームに突っ込み、先制点をもたらした。捕手細川と激突して痛めた右ひざと右足首には試合後、テーピングが巻いてあった。
足、度胸、観察眼。相手のお株を奪うような好走塁が、チームに主導権を運んだ。87年の日本シリーズ第6戦。8回に巨人クロマティの緩慢な送球に付け込み、秋山の中前打で一塁走者辻が一気にホームを陥れ、日本一を決定的にしたのが西武だった。荒木の好走塁も偶然ではない。投高打低を踏まえ、キャンプから1つでも先の塁を狙う方針を徹底してきた。公式戦でも、積極的なプレーには決して批判の声は上がらなかった。それが大舞台で発揮された。
6回には、守備で魅せた。2死一、二塁から代打小関の当たりは、右中間フェンス直撃の二塁打。二塁走者に続き、一塁走者・高木浩も三塁を蹴ったが、ライト井上からの中継に入った荒木が、深い位置からホームへスーパースロー。間一髪、2点目を防いだ。
「やっとウチらしい試合ができたかな。兆しはあったんだけどね。ピッチャーが投げて、バックが守るという野球」。落合監督の手応えは増した。「あと少し。早く日本一になりたいです!」。荒木の口からも、力強い日本一宣言が飛び出した。【伊藤馨一】
[2004/10/23/07:46 紙面から]
<日本シリーズ:中日6−1西武>◇第5戦◇22日◇西武ドーム
7番に昇格した中日井上が1点リードの4回にやや詰まりながらも右前に2点適時打。「クリーンヒットをイメージしていたんだけどね」と苦笑いした。
2四球で出塁した走者を送りバントで確実に先の塁に進めた場面で巡ってきた打席だった。第4戦の3点本塁打に続き、2戦連続で勝利に貢献した33歳のベテランは「向こうは破壊力だけど、自分たちはつなぎ、つなぎのチームだからね」と持ち味を発揮できた満足感を漂わせていた。
[2004/10/22/22:54]
<日本シリーズ:中日6−1西武>◇第5戦◇22日◇西武ドーム
欲しかった追加点を、またも1発攻勢で奪った。9回2死一塁。立浪が西武の3番手小野寺から右翼席へ2ランを運んだ。「井端が一塁にいたので直球から入ってくるかなと思っていた」。読みどおりの甘い直球を逃さなかった。先制しながら突き放せないまま突入した最終回。「苦しい展開だったんで何としても打ちたかった」。貴重なダメ押し弾に声が弾んだ。
シーズンではわずかに5本塁打。だが、第2戦で松坂から放った同点3ランに続き、もう第2号だ。理由がある。「このシリーズはけっこう引っ張りにいってるんですよ。短期決戦なんでね」。一撃で相手を仕留めるため、シーズン中には狙わない長打をあえて狙っている。
続くアレックスも左越えへ連夜の2号ソロ。「勝ったのが一番。日本一は日曜(第6戦)で決めるよ」。エンゼルス時代の02年にワールドチャンピオンを経験した助っ人は日米Vへ向け宣言した。
[2004/10/23/07:44 紙面から]
<日本シリーズ:中日6−1西武>◇第5戦◇22日◇西武ドーム
これが日本シリーズの怖さだろうか。プロ通算116勝を誇る西武西口が、日本一を決める大舞台では1勝もできない。シリーズ5連敗。今季3度、痛めた右足内転筋の影響で、9月20日以来、約1カ月ぶりの実戦というハンディも背負った。そのブランクを感じさせない、7回途中3失点降板。「まずまずでしょう。(足が)ダメになったら仕方ない、行けるところまで行こう、と」。勝ちたい、という気持ちだけで投げた。
4度目のシリーズで、6試合目の先発だった。過去3度、チームは敗れた。97年は第5戦、98年は第6戦、そして02年は第4戦、と相手チームの日本一決定戦はすべて先発を務めていた。のろいにも似たジンクスに、今年で終止符を打ちたかった。「文句のつけようがない投球だった」と荒木投手コーチは称賛した。それほどの投球でも、西口は勝てなかった。
[2004/10/23/07:42 紙面から]
<日本シリーズ:中日6−1西武>◇第5戦◇22日◇西武ドーム
本拠地・西武ドームで、土俵際に追い込まれた。後がない。だが敗戦直後、伊東監督はサバサバした表情だった。言い訳や反省をしている段階でもない。「今日はシリーズらしい展開だった。最後は、ああいうことになってしらけてしまった。ここまで来たら、何も言うことはないでしょ。開き直って、先を見ていくしかないです」。1つも負けられなくなった状況を、一戦必勝の前向きさに変えようと必死だった。
川上を打てなかった。3番フェルナンデスは3三振、4番カブレラは2三振。5番和田は1安打も3人で9打数1安打。カブレラは「あんなにストライクゾーンが広けりゃ、だれも打てない。セの審判は広すぎて、話にならない」と納得していない。だがゾーン以上に、前回とは違う配球が主砲たちを苦しめた。
初戦の力勝負から、しんを外す投球に変えてきた。伊東監督は「第1戦とは全く違う配球。カットボールが多かった」と話した。7回、カブレラの3打席目は外角のカットボールで追い込まれた。第1打席の三振も外のカットを主軸に配球された。最後は外の143キロ直球をボールと判断、見逃し三振を取られた。
初戦では川上から2点を挙げ先勝した。対戦後、カットボール、フォークが意外と少なく、直球で押してくる印象を得た。第3戦まで34打数12安打、打率3割5分3厘のクリーンアップなら、攻略できる確信があった。ロッテ清水直と似ていると判断もしていた。
だが前日の第4戦で山井に抑え込まれた。3人で14打数3安打。緩く逃げていくスライダーにほんろうされた。追いかけてボール球に手を出してはならない。川上は力で押してくるはず。だが、待っても決め球に来ない直球。カウントを悪くし、山井に植え付けられた外角球の残像を、思い出さざるを得なくなった。
明日24日の第6戦はエース松坂が先発し、逆王手をかけに行く。7戦目に先発予定の石井貴もブルペン待機し、スクランブル態勢を取る。今日23日の名古屋への移動日も、18日に続き全体練習をせず、リフレッシュを図る。伊東監督は「疲れてるんで、明日ゆっくりさせてください」と話した。シーズン133試合とプレーオフからの13試合が終わった。あと多くて2戦。すべての闘争心を結集させる。【今井貴久】
[2004/10/23/09:22 紙面から]
写真=2回裏西武無死、カブレラは空振り三振
21日にテレビ朝日で中継された日本シリーズ西武−中日第4戦の平均視聴率が13・0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、95年に全日程ナイターになって以降の最低記録を更新したことが22日、分かった。19日の第3戦が14・2%で、01年ヤクルト−近鉄第3戦14・3%を下回り、最低を記録していた。
テレビ朝日では前週に17・4%を記録、同局ドラマとして初めてTBS「渡る世間は鬼ばかり」(17・0%)を抜いた「黒革の手帖」の放送を来週に延期し、終了まで中継した。同局によると「なぜ『黒革−』を放送しないとの問い合わせの電話が若干あった」という。
また、NHKが午前9時15分から中継した米大リーグのア・リーグ優勝決定シリーズ、ヤンキース−レッドソックス第7戦は9・2%。朝の中継としては高い数字だった。
[2004/10/23/07:38 紙面から]
日本シリーズ運営委員会は22日、シリーズ第4戦までの入場料収入で決まる、選手への分配金を発表した。
勝利チームは9701万372円、敗戦チームは6467万3581円で、日本シリーズ出場有資格40選手で割ると、1人当たりはそれぞれ約243万円、約162万円。
分配金は、入場料収入から共通経費を引いた額の28%(勝ちが16・8%、負けが11・2%)が所属球団を通じて渡される。
[2004/10/22/19:30]
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<西武―中日>6回、先頭の中島を打ち取りガッツポーズの中日・川上 |
オレ竜が50年ぶりの日本一に「王手」をかけた。2勝2敗で迎えた日本シリーズ、西武―中日第5戦は22日、西武ドームで行われ、中日の先発、エース川上が6回1死まで西武打線をパーフェクトに抑えれば、打線も3、4回にスキのない攻撃で3点を先制。9回には立浪、アレックスの連続アーチで試合を決めた。敵地で連勝を飾り、1954年以来の日本一に王手。24日の第6戦、本拠地・ナゴヤドームで落合監督が宙に舞う。
【中6―1西】気迫でねじ伏せた。これがエース。これが憲伸だ。落合竜の大黒柱、川上がレオ打線の前に仁王立ち。その右腕が50年ぶりの日本一へ王手をかけた。
「出来すぎです。これで最後くらいの気持ちで気合が入っていました。球威はなかったけど、逃げても仕方がない。気合だけでいきました」
シーズン中は中6日のローテーションだったが、今回は中5日で先発。直球の最速は145キロ止まり。足りない球威は気持ちでカバーした。7回2失点と好投しながら敗戦投手となった16日の第1戦は140キロ台後半の直球、シュートで徹底的に内角を突いた。序盤はその残像を利用した。
「山井の力を借りて頑張りました。前は内角を使ったから、意識があるかなと」
第4戦で6回を抑えた山井のスライダーを参考にした。初回、2回のフェルナンデス、カブレラはいずれもスライダーで空振り三振。6回1死までは1人の走者も許さず、第1戦から続いた連続打者無出塁を日本シリーズタイの23人まで伸ばした。その直後に1点を失ったが、好守もあって勢いに乗った。
7回は一転して力勝負。フェルナンデスを141キロ、カブレラを143キロの直球で連続三振に切って取るとマウンド上で吠えた。クレバーな投球内容で破壊力がある2人から5三振を奪うなど8回を5安打1失点。127球の熱投でチームを勝利へと導いた。
「川上には負けられない意地があった。クリーンアップといっても、きちっと攻められたらそうは打てない。バッテリーはそれができていた」
落合監督はエースの好投を絶賛した。川上は昨季、右肩痛もあってわずか8試合、4勝に終わった。復活を期した今季は17勝をマーク。最多勝、沢村賞に輝きシーズンMVPの最有力候補でもある。シーズン中は遠征先で若手投手陣を引き連れて食事に出かけるなど投手陣の柱としての自覚も出てきた。
「まだあと1勝残っているし、投げるチャンスがあったら頑張りたいですね。ナゴヤドームで日本一になりたい」
99年のシリーズではチームで唯一の白星を挙げたが、チームは敗れた。あれから5年。エースとして自分の仕事をやり遂げ、あと1勝で届く日本一の座。川上の最高のシーズンはそのとき有終の美を飾る。
≪立浪、アレックス連続弾≫勝利を確信する一撃だった。2点リードの9回2死一塁、中日・立浪が小野寺から右越えへシリーズ2号2ラン。初球狙いはドンピシャだった。
「井端が塁に出たので真っすぐが来ると思った。たとえフォークでも空振りでいいと思った」
続くアレックスも初球を強振。興奮が収まらない左中間スタンドに叩き込んだ。2試合連続の2号ソロ。シーズン中は1度もなかった2人のアベック弾が最高の舞台で飛び出した。「ホームランより勝ったことがうれしい」とアレックスは喜んだ。90年のデストラーデ(西武)以来10人目となるシリーズタイ記録の4試合連続打点だ。「次の試合で勝って(日本一を)決めたいね」。3、4番で6三振の西武とは大違い。オレ竜最強コンビがバットで夢をつかみとる。
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<西武―中日>勝利監督インタビューを受けた落合監督の目にはうっすらと涙が・・・ |
【中6―1西】目がうるみ、声もわずかながらに震えていた。お立ち台で両手を上げて歓声に応える中日・落合監督。川上に関する質問を短く切り上げると「それよりこのお客さんですよ。選手の後押しをしてくれるから…。本当に感謝しています」と続けた。3勝2敗と初めて白星を先行させ、ついに王手。この日ばかりは素直な気持ちだけが口をついた。
会心の試合だった。3回、先頭の荒木が左中間フェンスを直撃。通常なら二塁打の当たりだ。しかし、躍進を支えたリードオフマンは一瞬のスキを見逃さなかった。左翼・和田の山なりの返球を見て一気に加速。三塁を陥れた。「中島(遊撃)の体も完全にレフトを向いていたので、半信半疑でいきました」。荒木は苦笑いしたが、87年、西武―巨人のシリーズで、巨人・クロマティの緩慢な動きを突いて、西武・辻が一塁から一気に生還したプレーをほうふつさせる好走塁。井端の遊ゴロで本塁へ突入すると野選を誘って先制だ。西武のお株を奪う緻密(ちみつ)な野球で流れを呼んだ。
采配もさえた。4回無死一、二塁の場面では、今シリーズ9打点の谷繁に送りバントを指示した。これが決まると、続く井上が右前に落ちる適時2点打。少ない好機を広げる好判断が8回まで3安打で3点という効率のいい攻撃を生み、井上も「うちはつなぎできたチームですからね」と笑った。
6回には守備でも見せた。2死一、二塁から右中間を破った代打・小関の打球を井上―荒木が中継プレー。一塁走者・高木浩を本塁で刺した。最少1失点でしのいで川上を援護。リーグ最少本塁打ながらセ界を制し、チーム防御率1位を支えた中日の野球を大舞台でも演じ切った。
「このシリーズで1番いい勝ち方。いい形で名古屋に帰れる。この熱い声援をバックに50年ぶりの日本一を何とか勝ち取りたい」と締めくくった指揮官。あと1勝。にじむ視界の先には、はっきりと頂点が映っている。
≪「信子コール」も≫バックネット裏で観戦した落合監督夫人の信子さん(60)は、試合終了後、ファンと「竜V決定」のボードを掲げ「あと1つ」と笑顔。わき起こった「信子コール」にも万歳で応えた。「きのう(21日)の試合後は落合も本当に機嫌がよくて。ハートが5つもついたメールを送ってきたのよ」と夫婦の秘話を明かすなど終始ご機嫌。今シリーズは5戦すべて観戦しているが、もちろん日本一の瞬間にも立ち会うため、23日にはチームと同じ新幹線に乗り合わせて名古屋入りする予定。「みんなの中に入っていきます」と声を弾ませていた。
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<西武―中日>6回には伊東監督自らが円陣を組んでナインの奮起を促したが・・・ |
【西1―6中】地元で連敗を喫し、崖っ縁に追い込まれた。それでも、西武・伊東監督の表情は意外なほどサバサバしていた。
「やっとシリーズらしい試合ができた。収穫は多かったよ。8回までは内容のある試合だった」
右内転筋痛から復帰の西口が好投。ロースコアのまま試合は進んだ。ここ3試合で27失点。投壊に歯止めがかかり、中日打線の対策を再確認できたのは確かに収穫だった。しかし、白星には結びつかない。投手が抑えれば打線が沈黙。流れの悪さを象徴する悪循環で、勝利の女神にそっぽを向かれてしまった。
沢村賞右腕・川上に圧倒された。16日の第1戦では和田のソロ本塁打などで2点を奪い勝利。だが、この日は6回1死まで1人の走者も出せない。結局8回5安打で1得点に封じ込められた。
「きょうはスライダーとカットボールが多くて、1戦目の配球とは違っていた。その時のイメージが強かったから…」と土井ヘッドコーチ。相手バッテリーの絶妙な配球に惑わされ、フェルナンデスとカブレラが計6三振。「確かに川上はよかった。でもあれだけ外角にストライクゾーンが広かったらお話にならない」と両助っ人はそろって不満を口にしたが、主砲が不発では大量点など望むべくもなかった。
「こうなったら何も考えずにいくしかない。あさってから開き直って、先を見ていくだけだ」
指揮官は最後にそう言って会見を締めた。あす24日、敵地での第6戦の先発は松坂。中6日と万全の状態で、マウンドに上がる。勝てば逆王手、負ければすべてが終わる一戦。22日は西武第2球場でバント練習を行い、6回まで試合を見届けると球場を後にした。
「ここまできたら細かいことを考えずにいきたい」。短い言葉に決意がにじむ。プレーオフから続いてきた熱く長かった戦い。それをあと1試合で終わらせるわけにはいかない。
≪先発西口3失点≫西武の先発・西口の力投も報われなかった。右内転筋痛のため、9月20日のロッテ戦(西武ドーム)以来の登板は、6回2/3を3失点。実に32日ぶりの実戦だったが、わずか3安打に抑えた。6四球と制球に苦しみ、シリーズ通算6試合の登板で0勝5敗。それでも「まずまずでしたね。満足度は80ぐらいです」とホッとした表情。勝利には結びつかなかったが、伊東監督は「十分でしょう。よく投げてくれた」と10年目のベテラン右腕を称えていた。
テレビ朝日が21日夜に中継した日本シリーズ第4戦「西武―中日」の平均視聴率(関東地区)が13.0%だったことが22日、ビデオリサーチの調べで分かった。90年以降のシリーズのナイターとしては最低を更新した。
同局は午後6時18分から中継。試合はずるずると延び終了したのは10時27分で、9時54分からは「報道ステーション」の枠で放送。中継番組としては報ステ前までで、この間の平均視聴率は13.0%にとどまった。
試合が9時46分までに終了した場合、女優の米倉涼子(29)主演で先週17.4%をマークした「黒革の手帖」を遅らせて放送することになっていたが、試合が長引いたため休止に。同局には「どうしてやらないのか」などの問い合わせが約700件寄せられた。
一方、NHKが総合で午前9時15分から中継した大リーグのア・リーグ優勝決定シリーズ第7戦(72分)の平均視聴率は9.2%。同時間帯の前4週平均は3.7%で、松井の活躍に注目が集まったようだ。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
中日 | 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 6 |
西武 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
[勝]川上 2試合1勝1敗 [敗]西口 1試合1敗 [本]立浪2号2ラン(小野寺・9回) アレックス2号(小野寺・9回) |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
中日 | 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 6 |
西武 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
[勝]川上 2試合1勝1敗 [敗]西口 1試合1敗 [本]立浪2号2ラン(小野寺・9回) アレックス2号(小野寺・9回) |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
中日 | 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 6 |
西武 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
[勝]川上 2試合1勝1敗 [敗]西口 1試合1敗 [本]立浪2号2ラン(小野寺・9回) アレックス2号(小野寺・9回) |
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あす決める―。中日VS西武の日本シリーズ第5戦が西武ドームで行われ、効率のいい攻撃とエース川上の力投で中日が逃げ切り、対戦成績を3勝2敗とした。あと1勝で1954年以来50年ぶり2度目の日本一。王手をかけて本拠地・名古屋へ戻る落合博満監督(50)率いるオレ竜軍団は、付いた勢いで一気に「天下獲り」の構えだ。
視界がぼやけた。両手をちぎれんばかりに振った先の光景がかすんでいく。「オッチーアイ」。総立ちで大声援を送る援軍が落合監督の涙を誘った。歯を食いしばり、時に下を向き、大きな目から滴が垂れるのを我慢した。日本一に王手をかけた将の足は震えていた。
「1番いい勝ち方。エースが投げて主軸が打つ。いい形で名古屋へ帰れるな。そこで何とか決めたい。優位に立ったとは思ってない。4つ目を勝たないと落ち着けない。2つのうち1つという気持ちじゃなく、目の前の試合を全力で取りにいく。そうじゃないとペナントは取れない」
勝利にドン欲な姿勢を表立って表現してこなかった指揮官が、初めて『全力』というフレーズを用いた。
50年ぶりの日本一に王手をかけた一戦。落合野球の根幹を見た。三回、左翼フェンス直撃の打球を放った荒木が、和田の緩慢な動きを見て、一目散に三塁を奪った。四回には連続四球と犠打から、井上が2点適時打。2安打で3点。相手のスキとミスを突く、見栄えはしないが玄人受けする味なスタイルだ。
守備陣は鉄壁の守りで援護射撃だ。六回、二死一、二塁から、代打・小関が右越え打を処理した井上から、荒木―谷繁と絶妙の中継プレー。1点差に詰め寄られる局面を最少失点で食い止め、シーズン45失策のリーグ新記録を打ち立てた理由を証明した。
前夜の快勝劇に興奮した。「勝ったぁ」。文字の前後には絵文字のハートマークを3つ並べ、信子夫人にメールを打った。「こんなの初めて。あのオヤジが50にもなってね。『メールなんてイヤ』って言ってたのに」。監督になって初めて持たされた携帯電話。今では夫婦間をつなぐ必需品だ。
さあ、地元・名古屋で胴上げだ。「最初からここで勝つことを目標にしてきたからな」。日本一奪取を宣言した昨年、10月8日の監督就任会見から1年。約束を果たし、夢をかなえる時がきた。今度は勝って宙に舞い、心の底から大粒の涙を流す。
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土で汚れた白球を右手でしっかり握った。岩瀬から手渡されたウイニングボールを、中日・川上は丁寧にバッグに入れた。8回1失点で今シリーズ初星。99年に挙げたチームで唯一の勝ち星より、王手をかけた白星の方がずっと重かった。
帽子のひさしを右に傾け、気迫の投球を続けた。「最後かなという気持ちで、球威はなかったけど気合だけで投げた」。直球に加え、今季初めて投げたスライダーなど多彩な変化球を駆使。六回一死から細川に左前打を許すまでパーフェクト投球。敗戦投手となった初戦の五回二死から23人無走者で、62年の村山実(阪神)、76年の小林繁(巨人)のシリーズ記録に並んだ。
完全試合にベンチは盛り上がったが、沢村賞投手は「できんだろうと思っていたんでプレッシャーはなかった」と冷静だった。
前日、4番手の山井が白星を挙げたが「参考になったのはガッツポーズくらい」と笑った。何度もマウンドをけり上げ、右手のこぶしを握るガッツポーズにエースの風格が漂っていた。
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中日・荒木が好走塁と好守備でみせた。三回、左越えの当たりで「(中継に入った遊撃の)中島がレフトを向いてたから」と西武守備陣のすきを突き三塁打。相手守備の野選で先制のホームを踏んだ。守っては六回二死一、二塁から小関に右中間を破られるも、右翼・井上からの送球を素早く中継し、2人目の走者を本塁刺殺するなどセンスが光った。
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バックネット裏で観戦した中日・落合監督の信子夫人は、お立ち台に上がった夫の姿に大興奮。周りにいた知人らと「50年ぶり5奪還」のプラカードを掲げて、勝利の余韻に浸った。「名古屋で優勝?そんな予感がしてたの。明日は駅で監督と待ち合わせて、名古屋に入ります。福嗣は勉強があるので」と笑顔が絶えなかった。
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最後の打者、和田が中飛に倒れ、逆王手をかけられた。がけっぷちに追いやられたが、西武・伊東監督は表情一つ変えなかった。「やっとシリーズらしいゲームになったね。収穫も多かった」と強気に振る舞った。
本拠地での王手への執念を見せたが、中日のエース・川上に力負けした。五回までパーフェクトに抑えられ、奪った得点は六回の小関の適時打による1点だけ。「低めにきていたし、カットボールが多かった。前回(第1戦)と配球を変えていたね」と、素直に脱帽。
先発の西口は9月20日に右足内転筋を痛めて以来の登板だったが、七回途中まで3失点と好投した。伊東監督は「オツ(西口)はよく投げた。これだけ投げてくれれば十分」と好投を褒めたが、「それ以上に向こう(川上)が良かった」と川上を褒めるしかなかった。
さらに、緩慢な中継プレーから失点するなど、らしくないミスも出た。伊東監督は「油断をするとああいうことになる。ここにきてチームの若さが出てきたな」と、プレーオフを制した勢いだけでは補いきれないものを感じてか、視線が宙を泳いだ。
先に王手をかけられたことで名古屋決戦は先発ローテーションを代えて臨まざるを得なくなった。第6戦は中6日の松坂で必勝を期し、第7戦には、予定していた石井貴ではなく第3戦で好投した帆足を先発で起用。ダイエーとのプレーオフで胴上げ投手となった石井貴は抑えに回す。
「もうここまできたら、何も考えず、開き直っていくしかない」と伊東監督。明日なき戦いを強いられたが、残りの敵地での2試合を玉砕覚悟で総力戦で取りに行く。
日本一に王手をかけ、目を潤ませながら質問に答える落合監督=西武ドームで(沢田将人撮影) |
お立ち台に立った瞬間、三塁側のドラゴンズファンの熱狂が、声援が、目に飛び込んできた。こみ上げてきたものを我慢することができなかった。落合博満監督(50)の目が、みるみる真っ赤になっていく。試合中、パイプいすから動かず、ポーカーフェースを貫いたその顔が、お立ち台で泣き顔に変わっていく。
「あと1勝。名古屋に帰って必ず決めます。応援がわたしたちの背中を押してくれました。本当にファンの皆さん、ありがとうございました」。帽子を取って、何度も手を振った。
ついに王手。エースを立て万全を期して、3勝目を取りにいった。この試合が持つ意味を説明する必要など、何もなかった。ダイヤモンドを泥だらけになって駆け回る選手たちの動きがすべてだった。
「日本シリーズでも、ペナントレースと同様に守り勝つ」。シリーズ前の誓いを、やっとこの試合で実践することができた。足でかき回し、鉄壁の守備で失点を防ぎ、リードを守り切る。
「そう。やっと一番いい試合ができた。前々からこんな理想の試合ができそうな兆しはあった。最高だろ。うちの選手たちは。すごい。すごいのひと言だ」。かみしめるように言った。報道陣に答えるというより、感じたことを、そのまま独り言のようにつぶやいていた。
バスに乗り込んだ落合監督を、選手たちが雄たけびで迎え入れる。50年ぶりの日本一の座は、もう手を伸ばせば届くところにある。今季最後の勝利は、本拠地で決めてみせる。さあ、みんなが待つ名古屋に帰ろう。
(青山卓司)
これがオレ竜のエース、これがオレ竜野球。中日は22日、先発の沢村賞右腕・川上憲伸投手(29)が5回まで完全、8イニング1失点と西武打線をねじ伏せ、ついに50年ぶりの日本一へ王手をかけた。バックも好走塁に小技、好守でエースをもり立て、まさにシーズン中通りの野球。23日の移動日を挟んで、さあナゴヤで頂点へ。
141キロ。こん身の真っすぐをズドンと投げ込む。空を切るフェルナンデスのバット。さらに143キロの直球に、今度はカブレラがぼう然と立ち尽くす。7回、竜投を苦しめてきた大砲たちの連続三振劇。雄たけびを挙げ、川上がマウンドをけり上げる。どうだ!。竜の、いや、セ界のエースが獅子をなできり、日本一へついに王手をかけた。
「西武はクリーンアップさえ抑えれば何とかなりますから。あの場面は必死でした。今日が一年最後のマウンドと思って、すべてを込めました」
威風堂々、貫録のマウンド。初回から5回まで、無失点どころか無走者投球。「前回は内角を攻めてたから」と初戦の“残像”を生かし、外角攻めで打者を手玉に取る。6回に失点したが、フェルナンデス、カブレラの2人から計5つの三振を奪うなど、獅子のキバをへし折った。
中4日か、中5日か。報道陣も、西武も注目し続けたエースの先発日。現実に言われたのは山井が好投していた21日(第4戦)の最中だった。「電話で、明日と言われました」。突然の通告。だが、慌てない。ブルペンで投球練習はしてきたし、何より「ここまできたら、いつでも一緒ですよ」。心は常に臨戦態勢。スクランブルにも最多勝、沢村賞右腕の実力を見せつけた。
右肩関節唇損傷で5月に離脱した昨季。雪辱に燃える2004年。キャンプ前に掲げた目標は勝ち星ではなく、登板数だった。
「25試合以上投げる。そうすれば結果もついてくる」
とにかくマウンドに上がり続けたい−。下半身の崩れが肩に悪影響を及ぼしてきたこれまでの反省を生かし、キャンプから徹底的に走り込み。シーズン中も肩以上に下半身をケアすることで一年間を投げ抜いた。その結果の17勝。まさにプロ野球人生最高のシーズンとなった。
「今日は全部の球種を投げた。すべてを出し切るという意味で初めてスライダーも投げました。できすぎです」
50年ぶりの悲願へ、この1勝が持つ意味は果てしなく大きい。憲伸イヤーの締めくくりにふさわしい全力の127球。いや、まだ締めくくりではないかも。「まだ(試合が)残っているので、投げるチャンスがあれば頑張る」。頂点へ立つその日まで、エースは戦いをやめない。 (寺西雅広)
西武−中日 6回裏無死、中島を三ゴロに打ち取り雄たけびを上げる川上(式町要撮影) |
3回表1死、荒木は左翼フェンス直撃の打球を放ち、左翼手・和田の緩慢な返球を見て三塁へ頭から突っ込み三塁打とする=西武ドームで(星野大輔撮影) |
ギャンブルではあったが、根拠はあった。そして、勝った。先制点は3回。1死から荒木雅博内野手(27)が直球をフルスイングした。左翼フェンス直撃。もちろん二塁へ。スピードを緩めつつ、目線は切らなかった。左翼・和田がクッションを処理。右手の中で、握り直した。さらにカットマンの遊撃・中島への返球は山なりで、ワンバウンド。その瞬間、荒木のロケットが再点火した。三塁へ。頭から。間一髪。東塁審の両手が広がった。記録上は三塁打。『なぜ』を荒木が解き明かす。
「(和田が)緩いボールを投げたのと、中島の体勢が、完全にレフト方向を向いていたので。もしかしたら行けるんじゃないかと…。半信半疑でした」
確信はなかったが、先の塁へと向かう衝動を止められなかった。それでいて、冷静だった。和田の返球、中島の動き…。「観察していたか?」。この問いに、「そういうのはあります」と答え、さらに続けた。「ノックやゲーム中の動き、それとゲームの中の状況判断はやっているんで」。外野手と中島の守備力が決して高くないことを、事前のリサーチで知っていた。
「油断していたわけじゃないけど、もう少し思い切り投げるべきだった」。和田の表情は苦かった。シリーズ史上、17年ぶりの『伝説の走塁』になるはずだ。
1987年の第6戦。打者・秋山が中前打を放った。走者は辻。ヒットエンドランだった。三塁は仕方ない。中堅・クロマティの緩やかな返球を見て、辻は一気に本塁を陥れた。西武黄金期の成熟した野球は、今も語りぐさとなっている。時を経て、荒木が奪った三塁の価値は、次打者・井端の遊ゴロで生還したことでさらに高まった。レオの守りにほころびあり−。知恵と勇気の走塁だった。 (渋谷真)
西武−中日 絶好の中継で谷繁がホームを死守、好ブロックで一塁走者・高木浩はタッチアウトに=西武ドームで(河口貞史撮影) |
本塁に突入する西武・高木浩。微妙なタイミング。腹をくくって待ち受けた谷繁元信捕手(33)のミットに、ストライクの返球が吸い込まれる。
「1点をどう防ぐかですから。ホームランで取る1点も、守備で食い止める1点も同じ」。鋭いスライディングを完ぺきブロックでシャットアウト。微動だにしなかった正捕手が、レオの反撃をはじき返した。
迫力の場面は3点リードの6回。2死一、二塁で、エース・川上が代打・小関に右中間への二塁打を浴びた。二塁走者が生還し、一塁走者も本塁を狙ったその時だった。
3人の男が、2点目阻止へ心をひとつにした。クッションボールを処理した右翼手・井上が、素早く中継へ返球する。
「握れなかった」。受けた二塁手・荒木に、ボールを握り直すヒマはなかった。あとは気合だけ。振り向きざまの送球は、ドンピシャリのタイミングで、谷繁の構えたミットに突き刺さった。
井上−荒木−谷繁とつないだ執念のバックホームが、川上を、そしてチームを救った。「ウチらしい野球」と谷繁が胸を張った通り、真骨頂の守り勝つ野球で、勝負の分岐点を制した。 (高橋隆太郎)
9回表2死、右越えに本塁打を放ち、出迎えの立浪(左)の頭をなでるアレックス=西武ドームで |
目の前に飛び込んだ弾丸ライナーの衝撃に右翼スタンドのレオ党は静まり、左翼、三塁側の竜党からは地鳴りのような大歓声が沸き起こった。9回2死一塁。立浪和義内野手(35)が西武3番手・小野寺の初球を狙い打ち、獅子をねじ伏せる弾丸ライナーを右翼席にたたき込んだ。
「初球は直球だと思っていた。フォークだったら空振りしてもいいと。本塁打とは思わなかったけど、初球からいくつもりだった」。これこそベテランの味。百戦錬磨の35歳の読み勝ちだった。
勝つために何をすべきか。短期決戦のために、ひとつの決断をした。「引っ張ろうとしているんです。(ペナントレース中)打率を残しているときは長打は考えづらかったけど、今はその意識がいい方向にいっていると思う」。5試合2本と超ハイペースの本塁打はシリーズ仕様の打撃法から生まれたのだった。
過去2回完敗した日本シリーズで、初めて王手をかけた。「王手をかけられるのとは全然気分が違う。名古屋に戻れるし、あと1試合で決められるように全力で戦います」。立浪の気迫あふれる打撃とともに24日、昇り竜は一気に50年ぶりの頂点に立つ。 (関陽一郎)
4回表、中日に2点を追加され、口をとがらせてベンチに戻る西武先発の西口 |
長いブランクを感じさせなかった。約1カ月ぶりの先発マウンドで西武の西口文也投手(32)は全力を出し切った。自身シリーズ5連敗を喫したが、それでも完全燃焼した。「精いっぱいやりましたからね」。6イニング2/3、3失点。敗れても悔いはなかった。
ただ、たった1球の制球ミスが命取りになった。4回1死二、三塁。7番井上に投じた0−2からの3球目、カウント稼ぎのスライダーが不用意に真ん中へ入る。相手を甘く見たわけではない。「四球が痛いね。気が入りすぎた」。2つの四球から招いたピンチ。防げたはずの2点タイムリー。唯一の失投だった。
エースの責任感だけだった。9月20日のロッテ戦以来、32日ぶりの実戦復帰。右足内転筋痛が完治しての先発だった。プレーオフ第2ステージ初戦の10月6日、ブルペン投球の際に再び同個所を悪化させた。なんとか突貫工事で第5戦に間に合わせたのも、責任を果たしたかったからだ。「右足のことは気になった」が集中力は降板するまで持続した。
「4回の2四球がもったいないが、それを帳消しにして余りあるピッチングだったね」
荒木投手コーチもねぎらった。故障再発も恐れず気持ちを込めた112球。中日に王手をかけられたが「あと2試合は他のピッチャーたちに任せるよ」と西口。逆転日本一へ、ベテランエースの思いは第6戦先発の松坂にも伝わったはずだ。
(梶原昌弥)
前日 前日(日本シリーズ第四戦 西×中@西武ド) |
同日 同日(日本シリーズ第五戦 西×中@西武ド情報&横浜も一場に裏金! ほか) |
翌日 翌日(Fuckin'一場問題 ほか) |