邦楽レビュー

 

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阿呆舟 / 天井桟敷

1.イントロダクション 2.法王庁の穴掘り 3.紡錘形の理性

4.眠り男 5.電気の悪魔 6.人間犬 7.G線上の縄とび

8.愚者の麦 9.水死人 10.人動説 11.阿呆船〜大破滅

12.出帆 13.エンディング

 永遠の前衛と言われた故寺山修司率いる演劇集団、演劇実験室「天井桟敷」による、唯一のスタジオ録音アルバム。 演劇なんて、と馬鹿にする人も多いと思う。白状すると、私もそんな人間の一人であった。しかし、この作品は、私に大いなる感動を覚えさせてくれた作品である。演劇の内容は、「世の中にあふれる阿呆どもを、船に乗せて流してしまえ!」という、なんとも痛快(?)ですばらしい内容だ。このアルバムにおける評価すべき点において、作品の内容の良さもあるが、音楽担当のJ・A・シーザーの作りだす楽曲のすばらしさがこの作品をさらにレベルの高いものにしていると言える点にも注目すべきであろう。寺山修司とつるんでいた(?)ころのシーザーの楽曲のもつ独特の土着的な暗さは、誰もが持つ黒い感覚に訴えかけてくる。楽曲の感じは、日本の土着的な部分が、西洋的アートロックに斬り込みをかけた感じで、田舎独特の閉鎖的な暗さをもった、ハードロックやプログレが聴けると思っていただきたい。特にこのアルバムで好きな曲は、演歌嫌いな私が、唯一認める演歌調の名曲「阿呆舟」。この演劇タイトルと同名の楽曲は、曲の良さだけでなく、寺山修司による詞が、あまりにも格好良すぎるのだ。大江戸捜査網のサントラを手がけた玉木宏樹がバイオリンで参加しているところもうれしい感涙の名盤。

 

LIVE AT WHISKY A-GO-GO / CHRONICLE

SIDE:A
1.流れに身をまかせながら 2.春の海 3.神は私の中に 4.朝もや 5.太陽 6.夢

SIDE:B
1.くりかえし 2.家に帰りたい帰れない 3.新しい世界 4.太陽が沈む 5.NOW

 天下無敵の脱力系ロック作品。1970年代に活躍した日本のプログレバンドの1st。1stから、アメリカのハリウッドにあるライブハウスでのライブ盤というところから、もしかしたら人気があったバンドなのかもしれないが、実際どうなのかは微妙なところではないだろうか。現在では、あまり名前も聞かないし、CDも数年前に2ndが出ただけで、この1stは、恐らくCDにはなっていない。では、この作品は駄作なのかというと決してそんなことはなく、日本のロック創世記におけるひとつの名盤と言って良い作品だと私は思っている。このバンドの聴かせ方は、初期のホークウィンドのようなフレーズの反復による洗脳ロック(?)形式。 しかし、ホークウィンドのようなサイケ感はなく、むしろピンクフロイドの影響が見える(シンフォニックでもるが)。インスト曲も多く、 歌物も歌詞が細かくまとめられていて、歌よりもむしろ演奏で聴かせようとするバンドのようだが、最近の音楽になれてしまった人間には、正直タルさが目立つことは否めない曲が多い。あまり、テクニックに走ることはないし、スピード感は、皆無である。もしかして、洗脳目当てのロックバンドだったのだろうか。そう考えると、ボーカルもなんだか洗脳的な声質に思えてならない。ちなみにこのバンド、イタリアンロック界の重鎮、PFMの前座を取ったことがあるそうだ。

 

マジカルパワー / マジカルパワーマコ

1.もうおしまいです。アーメン 2.チャチャ 3.秋がない(アギネ)

4.死出の山から十三仏の掛けじくへ 5.街 6.冬 7.束縛の自由

8.朝の窓をあける、太陽が光る、今日の希望だ小鳥がなく
[思考法切変装置付人間]

9.ルーディング・ピアノ 10.宿薬師念仏鐘はり

11.アメリカン・ヴィレッジ 1973 12.空を見上げよう

 オビを見ると、「武光 徹をして「この一枚のアルバムは音楽に存在する見せ掛けの階級区分を打ち砕く美しい石なのだ!」と言わしめた作品」だそうである。内容の方はというと、ありふれた音楽になれてしまった人間には、とても理解できず、到達できない境地に、マコは1stアルバムにして到達してしまったと感じさせる程。オリジナルは1970年代半ば発売だそうだが、希に見る奇怪な作品。コラージュ的な技法で、現実感と非現実感を混ぜ合わせることにより、たわいのない日常に、破壊と癒しを与える。怪しさと美しさを兼ね備え、即存の音楽を破壊し、さらに再構築する怪作。 この作品を聴き終えたとき、どことなく安心感が残る。ちなみに、この作品のCDは¥1500で買えるし、まだレコード屋に在庫がある状態だ。日本のロック史における重要盤として、一家に一枚所持しておくと、明るい明日があるはずだ。

 


タイム・パラドクス / 玉木宏樹&SMT

1.カオス 2.メッカへの途 3.間奏曲 4.優婆泥沙土(ウパシャニッド)

5.間奏曲 6.空騒ぎ−ファンキー・エフェクト− 7.シジフォスのボレロ

8.シヤコンヌ 9.夢奏曲 10タイム・パラドクス

 「怪奇大作戦」、「大江戸捜査網」のサントラで有名な東京芸大出身のバイオリン奏者による1975年発表のロック作品。超レア盤として数万円のプレミアがつき、マニアに珍重されてきたそうだが、P-VineよりCD化された。卓越した演奏技術を駆使しながら、聴きやすさも兼ね備えた傑作。私は、時代劇のエンディングのような雰囲気をかもし出す一曲目から魅せられっぱなしだったが、他にも「空騒ぎ−ファンキー・エフェクト−」において見せる職人芸的ユーモアセンスなど、聴き所満載のアルバムだ。タイトル曲である大曲「タイムパラドクス」の、壮大さと緊迫感あふれる演奏は、このアルバムのクライマックスにまさにふさわしいと言える名曲。このCDでこの作品に初めて触れた人は、1975年に、これほど完成度の高い作品があったと驚くこと間違いない。このアルバムは、日本ロック史に輝く宝だ。

 

トランシルバニアの古城 / コスモスファクトリー

1.サウンドトラック1984 2.神話−孤独なものたちのための

3.目醒め 4.追憶のファンタジー 5.ポルタガイスト 

6.「トランシルヴァニアの古城」
死者の叫ぶ森〜呪われた人々〜霧界〜トランシルヴァニアの古城

 日本におけるシンフォニック・ロックの先駆的作品。 日本におけるプログレの先駆者なのだし、西洋からの影響が強いのはわかる。しかし、このアルバムの場合、プログレという様式でありながら、とてつもなく日本的なのだ。なぜ、彼らがプログレでありながら日本臭いのかというと、オルガンの音が、グループサウンズ臭過ぎるのだ。そして、渋すぎるGS臭いオルガン・サウンドと、西洋的なシンフォニック様式の融合は、あまりにも格好良過ぎる作品を作り上げてしまった。オープニングから、かなり渋めに攻めてくるこのアルバムだが、Track.2の名曲「神話」が始まった瞬間、あまりの渋さに震えてしまうだろう。ここまで渋さがにじみ出ているシンフォニック・ロック作品は、世界的に見ても数が少ないのではなかろうか。日本だからこそ出現しえた、和洋折衷サウンドの名盤。

 

No Picure

こもりうた / 豊田貴志

1.水平線上のアポロ 2.マリン・スノウ 3.陸の誕生 4.雨 

5.クウェスチョンズ 6.アンサーズ 7.G線上のアリア

 アルファ波シリーズを出す前に豊田貴志がキングに残した電子音楽作品。日本有数の鍾乳洞であるあぶくま洞に、シンセサイザーとバイオリンを持ち込み、自然のエコーを利用して録音した。その音は、昨今あふれている無駄に自然音を垂れ流しているエセ癒し系作品とは違い、まったく無理なく自然を効果的に活用している。それに、豊田の作品は、どれをみてもバイオリンの旋律が、実に日本的で心が落ち着く。最近は、癒し系ミュージックと題して、数多くの作品が出ているが、正直癒し系と呼べないような作品も多く見かける。癒しというより、洗脳に特化している作品も見受けられるが、あれは癒し系音楽と呼べるのだろうか。癒し系ブームの今こそ、豊田貴志は再評価されるべき音楽家ではないのか。

 

ブッダ・ミート・ロック / ピープル

1.プロローグ 2.声明 Part.1 3.讃歌 4.切散華 5.声明 Part.2

6.祈り Part.1 7.祈り Part.2 8.エピローグ

 プレミアの帝王、水谷公生がギターで参加していることで有名なジャズロックの名盤。オリジナルは、二十〜三十万円のプレミアがついてるそうだが、今ならこの再販CDで聴くことができる。ブッダがロックに会ったというタイトルだけあり、洗脳的なお経が延々と流れているが、これが楽曲の邪魔になるようなことはない。しかし、お経がメインというわけでもない。最近は、お経を垂れ流して、どうでもいいフレーズをならべて洗脳的に聴かせて、癒し音楽だと抜かす手抜き音楽が横行しているが、決してそういう音楽でないものを音楽だと言い張って売り出した作品ではないのだ。彼らは、お経に、最高のグルーヴのある演奏をかぶせることにより、最高の心地よさを提供してくれる。特に、ファズの効いた水谷のギターのグルーヴは、聴くものをとろけさせる魔力がある。無論、お経と楽曲の絶妙なバランスが、さらに洗脳性を高めていることは言うまでもない。海外のマニア達からも圧倒的な人気を誇っている理由が、ロックファンなら誰でも一聴すればわかるというものだ。東洋神秘主義音楽の名盤中の名盤。

 

 

さよなら神様 / 清田益章

1.さよなら神様 2.H・Z・A・M・A 3.The Weight 4.Birthday

5.コミュニケーション 6.リズム 7.ルチア Song for Tomorrow

8.SECEDE [離脱] 9.夢のエネルギー 10.終わりなき旅

11.Breath of Psycher

 清田君こと、エスパー清田益章が残した音楽作品。超能力者が残した作品というと、ユリ・ゲラーのような、音響系作品などを思い浮かべるだろうが、この作品にはそのようなところは微塵もない。なんとこの作品は、歌謡曲風のロック作品なのだ。しかも、歌謡ロックとしての水準は高く、タイトル曲である「さよなら神様」におけるキャッチーかつ格好良いメロディは、80年代歌謡ロックの中でも屈指のデキの良さを誇る。しかも、清田君のボーカルも、なかなかさまになっている。これだけの作品が歴史に埋もれるのはもったいない話だ。今こそ、再評価されるべき逸品である。80年代歌謡ロックの裏の名盤。

 

妖怪幻想 / 森下登喜彦 水木しげる

1.河童 2.一反木綿 3.座敷童 4.ぬらりひょん 5.震震(ぶるぶる)

6.狸囃子 7.砂かけ婆 8.小豆洗い 9.小泣き爺 10.べとべとさん

 ジャズ・ピアニストである森下登喜彦が、水木しげる相談のもと、妖怪の世界をシンセサイザーで表現しようと試みた作品。非常に良くできた作品で、現実的でない、どこか幻想的な世界を描き出すことに成功している。それは、日本的な空間であり、それでいて親しみのある世界。まるで、水木漫画の妖怪の住む世界に迷い込んだような気分にさせてくれる。海外でも評価の高い、プログレ電子音楽の大傑作。

 

 

No Picture

エニウェア / フラワー・トラベリン・バンド

1.エニウェア 2.ルイジアナ・ブルース 3.ブラック・サバス

4.朝日のあたる家 5.21世紀の狂った男 6.エニウェア

 日本を代表するロックバンドとしていまだに語り継がれる名バンドの1st。しかし、このアルバムは正直誉められたものではないでしょう。時代的に仕方のないことなのかもしれないが、演奏も、編曲も正直ヘボイ。特に、とろい「ブラック・サバス」と、原曲よりも長くてとりとめがなく、途中のギターのアレンジが恥ずかしく、決めの間奏まで待たされた挙句に、まったく決まってないないという落ちがつく「21世紀の狂った男」は、正直私には聴くに絶えなかった。当時すでに「21世紀」や「サバス」のカバーを出してるのは早いかもしれないが、別にそれらが彼らのオリジナル曲というわけではないわけだ。いまさらこのアルバムのことを蒸し返すことはフェアじゃないかもしれないが、このアルバムは買わない方が良いと私は思う。2nd以降はどれも名盤ぞろいだし、SATORIを持っていないと、ロックファンとしては恥ずかしいので、このアルバム以降の作品をぜひ買ってほしい。SATORIは世界に誇る名盤。

 

 

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