『桜散る』
散った 散った 桜が散った
あぁ 蕾はじけて ふわり
散った 散った 桜が散った
あぁ 花びらの声も
蕾に包まれ眠る
咲く時を待つ花の夢
夜明けに足音一つ
月の夜に咲き乱れよと
祈りと呪いの箱に
花びらを毟り捨てる
蠢く蟲達が喰む滅ぶ夢
夜桜幻想
蟲の仔産み落とす娘は
あの橋の上 唄う
蟲の子守唄と呪いの
言葉で埋め尽くして
散った 散った 桜が散った
あぁ 花びら舞って ふわり
散った 散った 桜が散った
あぁ 微睡みの中に
虚ろな目で蟲の仔を孕む
麻痺するように巡る巡る夜を
粘液纏わせながら
産まれ出る蟲の仔達
桜の精は踊るよ
枯れた森 夜桜幻想
散った 散った 桜が散った
あぁ 桜色の血で濡れ
散った 散った 桜が散った
あぁ 誰かの泣く声
散った 散った 桜が散った
あぁ 蕾はじけて ふわり
散った 散った 桜が散った
あぁ 蟲の音よ響け
『蟲使いの里』
人知れずある其の村は
蟲を育てる蟲使いの里
人知れずある其の村は
蟲娘を称える蟲使いの里
人知れずある其の村は
桜の嘆きも聞かぬ村
『神桜−春を待つ森−』
鳥達の歌が春を告げて
暖かい光に命が目覚める
優しい風にくすぐられて
溢れる喜びに花達は微笑む
冷たい夜風に凍える森
夢に見た春の日は余りに遠く
光は降り注げども
我が蕾開かず
黒き病に侵されて
森は朽ち逝く
嘆きに捕らわれ散り逝く身よ
お前の命はこの森の命ぞ
今一度此の地に春の日を
取り戻し私は咲き誇りませう
蝕まれながらも尚
永き冬に耐えた
命の何と強きこと
尊き生よ
深き土の褥にて
春を待つ命よ
私が此処に立つ限り
守り続ける
祈り続ける我に力を‥‥‥
『蝕まれる桜娘』
奥深き処に在りし
其れは美しき桜
桜に住みし者
桜燐と呼ばれる森の長
彼女は願う 森の平和を
彼女は叫ぶ 森の痛みを
燐粉が舞い散り
美しき森は汚されゆく
美しき森を守るために
彼女は求む 強き力を
『蟲産む娘』
風を待つ日
呪い穢れ
夢幻の葉を揺らす
霞んだ眼に宿す
祈り歪む
脚に血糊
潤んだ花揺らす
命の種宿す
散れよ桜の花
雫 乱れ咲く
白糸紡ぎ織る
水辺に降り立て
夜明けの空仰ぎ
其の火に焼かれて
身を焦がして
雛と白い月を撫で
桜の花一つ
指先で潰し
蟲に抱かれ孕み
夢の森枯らせ
『夢蟲』
森林の夢
消えた今でも夢見る
玉虫色溢れ
木々を腐らせよ
動く心臓 握り潰して
キミの心臓 握り潰して
鱗粉で見る夢は
蟲産む娘の恨みと
粘液で包む抜け殻よ
動く髪の毛 お腹の中に
喘ぐ産道 蟲は止まらず
千年桜色 蛹の中で見た
キノコの笑う声 降る
森林の夢
消えた今でも夢見る
もう一度だけでも
夢 咲きますように
『永日の想い』
ひとつふたつと
日々を数え幾星霜
散ってはまた咲き
咲いてまた散る
理の中
移ろい続けても尚
待ちわびて染まる
薄紅の花
日差しが揺らめく
遠き春の日の記憶
優しいあなたよ
呼ぶ声がする
必ず此処に戻るから
再び桜の咲く頃に
そう言って静かに
私に微笑みかけました
きっとあなたが
今の私を見たなら
悲しむでしょう
嘆くのでしょう
はらりはらりと
涙の雫が落ちる
人の子のように
私の中に生まれたの
もう一つの心
とても愛しい‥‥
理の中
移ろい続けても尚
待ちわびて染まる
薄紅の花
『蟲の匣』
蟲の匣 抱き抱え
娘 息絶え絶えに
森林の声に寄せ彷徨い歩く
泡沫と血の菌糸 纏う翼で
破裂する膜の夢
明日を呼ぶ人訪ね
森林の夢に舞う
蟲愛でる日々
耳鳴りは遠くまで
あの旋律を
思い出せない 轍の行く先
朽ちて粉になる天体の声
帰ろう 匣を捨ててあの街へ
仰ぎ見る空は夢に遊ぶよ
土のように倒れ臥し
蟲の音は聞こえるか?
遥かから
呼ぶ声は深く誘う
幾千の種を蒔き
雨露に消え
思い出せない 轍の行く先
朽ちて粉になる天体の声
帰ろう 匣を捨てあの街へ
仰ぎ見る空は夢に遊ぶよ
『桜咲く』
咲き乱れよ 零れ桜
花吹雪くように
舞い踊れよ
時つ風は春を届けにきた
彩られて春の心
今もずっとこの胸に
ゆらり
花明かりが揺らぐ度
ふわり
香ればほら蘇える
もう二度と戻らないと知る
だからこそ美しく笑む
届け 届け
あぁ ひとひらの想い
御空の果てに
光満ちて
息吹く森を綾なすは命
待ち続けて空を仰ぐ
生まれたばかりの命
きらり
春雨に花は濡れて
はらり
揺れて露が地に落ちる
短し春
散りゆくときを
迎えるからこそ気高く
届け 届け
あぁ 幾千の祈り
花びらに変え
私は此処で
ずっと貴方を待ってます