『鏡像の人形』

 合わせ鏡の中、光の軌跡辿る
 私の見た夢、君にあげます
 欠けた私の羽、鏡の中の私
 迎えに来ました、あなたのことを





『画霊』

 焼け落ちていく骨を砕いて
 漂い続けた夢の奥深く
 時の中、追いかけた
 溶けて崩れた黒い鏡を
 愛しげに見るよ、液状の魂
 時の流れ塗り固めた





『雲外鏡』

 月を水に沈め身を分け舞い遊ぶ夜に
 顔が棲んでいる鏡に沈む魚

 幻影回廊、虚像の足音
 音も無く漂う抜殻姫様

 砕けて散りゆく私の人形





『生き人形』

 どうして私の腕無いの?
 どうして私の脚無いの?
 どうして私を切り裂いた?
 どうして?
 ねぇ、どうして?

 私の、小さな胸の奥
 あなたへ贈る涙が
 ああ、でも今の私の姿
 とっても、とても綺麗だね

 どうしてあなたを切り裂いた?
 私は人形

 さよなら、このまま消えていくわ
 思い出、全て捨ててく
 最後に、お別れを言いたいよ
 ああ、でももう動かない
 私は、私は美しいわ
 だって、赤く染まってる





『瓶長』

 水、月、蜘蛛の糸巻き、鈴、月、笛の音を撒き
 遠い遠い眠りの果てにあげましょ、蛇の瞳を
 兎の貝合わせの夜、紫の月に狐を
 兎の涙あつめて、赤い夜、水瓶の中
 舞う鳥、琴の音で死ぬ
 去り行く月姫と巫女
 舞う鳥、死んだ月夜に
 目覚めた娘よ、生きて





『細腰』

 月明かり、破れた障子から降りてくる
 愛しい、この光
 飢えては呼ぶわ、生きるモノ達

 朽ち果てた部屋の中から見た月は
 もう傾き始めてた
 私の意識無くなっていく

 この腰に染み付いた
 幾人の手の跡を思い出すのも辛い
 このままにしてて、私、生きたい

 灰にしないで





『化雛』

 桃の花ひとつまみ白いお酒に浮かべ
 春の陽を浴びながら遠い日々思い出し
 金屏風に影映し、赤い台座の上で
 私、今、舞い踊る、桃の花と舞い踊る

 両腕広げてぎゅうっと君を抱きしめる
 百回目の春を、ああ、待ってたよ

 狂おしい笛の音、君のこと灰にしないで
 御簾上げて高杯に透き通った花を置く

 顔を失くした君と一緒にいたかった
 花びらだけが見てた雛祭り
 両腕広げてぎゅうっと君を抱きたかった
 百回目の春をまた、待ってるよ





『面霊気』

 顔を失くした神、顔の無い民達
 鳥居の柱には体の無い顔達
 さあさ、舞うがいい、壊れた足で
 白い狐の舞

 杜の中響けよ、祈る声、火神楽
 思い思いに面を付けて神に捧げ
 さあさ、見るがいい、溶けたその目で
 彷徨う光の舞

 顔を失くした神、娘となり降りる
 その帯と裾にはいくつもの顔達
 さあさ、祈るがいい
 骨を砕いて神の娘が舞う





『骨壷娘』

 ねえ、見て、私のこと
 砕けて粉になるよ
 壊れたこの足ではあなたに会いに行けず
 大好きなあなたの骨、砕いては食べたい

 大好きあなたのこと、私のこと愛して
 あなたの子供産むわ、どの子も骨だけの子
 あなた抱きしめたら
 あら、首取れた、かわいい

 あなたはどこにいるの?
 向こうの土の下も探したのに見つからない
 あるのはあなたの影
 あなたの影抱きしめて今、迎えに行くわ

 私の中に戻って土の下へ帰ろう
 動かないあなたの目に、この白い夢見て
 破れた私の胸に、この白い命を
 あなたのこと好きだから私、目をえぐるわ





『小袖の夢』

 水の音、風の音
 そっと聞こえる、聞こえるだけ
 白い夢染まるまで奇形の光浴びたよ
 砂の色、花の色、どれも真っ白透き通って
 崩れるよ、手も胸も
 天を行く人死んだよ
 火を浴びて眠り続ける娘さん
 白い肌、真白き夢も染まったよ

 土の下、石の下、すすり泣く声、子守唄
 血を流す娘さん、奇形の光放てよ
 火を浴びて眠り続ける娘さん
 白い肌、真白き夢も染まったよ





『猪口暮露』

 月の顔、仄紅く染めて宵の宴は更けゆく
 御灯の下、集いて舞え、酔ひて狂えば、楽しや
 月見酒、いと甘く香り、宵の宴は更けゆく
 妖の唄、響き渡れ、呑めや狂えや、楽しや