'Til Tuesday


COMING UP CLOSE : A RETROSPECTIVE


1996 Epic/LEGACY
1. Love In A Vacuum
2. Voices Carry (Single Mix)
3. You Know The Rest
4. No One Is Watching You Now
5. On Sunday
6. Coming Up Close
7. Will She Just Fall Down
8. David Denies
9. What About Love
10. Why Must I
11. The Other End (Of The Telescope)
12. J For Jules
13. (Believed You Were) Lucky
14. Limits To Love
15. Long Gone Buddy
16. Do It Again (Previously unreleased)


 'Til Tuesday と言えば80sファンには 『愛のヴォイシズ』 こと "Voices Carry" が忘れられません。多くの人に一発屋だと誤解されているようですが、実際は必ずしもそうではありません。彼らにはTOP40ヒットが2曲、HOT100ヒットなら5曲もあります。

US #8/85 "Voices Carry"
US#61/85 "Looking Over Your Shoulder"
US#26/86 "What About Love"
US#59/87 "Coming Up Close"
US#95/89 "(Believed You Were) Lucky"

 このうち "Looking Over Your Shoulder" 以外のヒット曲を全て収録したのがこのベスト盤。でも、聴き所はむしろヒット曲以外の楽曲たち。聴いてみればすぐに分かります。"Voices Carry" のような強烈なフックを持ち、シンセサイザーで塗り固められた 「狙ったヒット」 はほとんどありません。それは出典アルバムの露骨な偏り方を見ても明らかなこと。

US#15/85 "VOICES CARRY" (1, 2, 3)
US#49/86 "WELCOME HOME" (4, 5, 6, 7, 8, 9)
US#124/88 "EVERYTHING'S DIFFERENT NOW" (10, 11, 12, 13, 14, 15)

 最大のヒット作であるデビュー盤をほとんど無視して、2ndと3rdにひどく偏った選曲。紅一点のエイミー・マンのソングライターとしての本質に気づけば、それにも納得がいくはず。繊細なメロディと、内心を吐露した丁寧で知的な歌詞。1stの大ヒットの喧騒を経て次第にシンセサイズド・ポップから離れ、アコースティックでフォーキーな曲を書くようになったエイミーの魅力は、実は 'Til Tuesday の後期に集約されているのです。特に装飾を削ぎ落とした "EVERYTHING'S DIFFERENT NOW" の佇まいは、近年のエイミーの作風に最も近いミッシングリンク。ジュールズ・シアーとの2年間の恋愛が終わり、かなり辛い時期に書かれた曲が多く、"J For Jules" のタイトルに名前が引用されているほか、"(Believed You Were) Lucky" などは Jules/Aimee の共作クレジットになっています。

 もっとも、1st収録の "Looking Over My Shoulder" "Maybe Monday" などは個人的に好きな曲だったので、このベスト盤だけでは物足りません。これとともに1stも手元に置いておきたいですね。また、欲を言えばもっと未発表曲も聴きたかったかも。ちなみにラストに収められている "Do It Again" は、アコースティックギターが爽やかな未発表曲で、ラストを締めくくるのにぴったりの前向きな楽曲です。

 このディスクのポイントのひとつは、CD Extra 仕様になっていること。"Voices Carry", "Love In A Vacuum", "What About Love", "(Believed You Were) Lucky" のビデオクリップのサワリを収録。特に "Voices Carry" で叫ぶ、

"He wants me / But only part of the time / He wants me / If he can keep me in line..."

 のブリッジから最後のコーラス部分にかけての収録は嬉しいです。場面はニューヨークのカーネギーホール、正装してオペラを鑑賞するエイミーと彼氏。粗野で自分勝手な彼氏への不満と怒りが鬱積していたエイミーは、オペラの途中で突如キレて立ち上がり、帽子を投げ捨てると上のラインを大声で叫び始めるのです。80年代洋楽のビデオクリップの中でもひときわ印象的なシーンのひとつ。それは後のアラニス・モリセットら 「怒れる女性シンガーソングライター」 の先駆け、但しあまりにも早過ぎた先駆けでした。

 シンプルで真っ白なCDのレーベル面。エイミーのファンなら、それを見てきっと微笑むはず。写っているのは 'Til Tuesday デビュー当時の彼女のトレードマーク、プラチナムブロンドの髪をひと房だけ細長く編んで垂らしていたあのブレイド。昔の貴重な写真を配したブックレット、詳しいライナーノーツや素晴らしいリマスターなども含め、全般にとても丁寧で愛に溢れた編集盤といってよいでしょう。


お気に入りベスト3
1. Voices Carry (Single Mix はボブ・クリアマウンテンのお仕事。音圧が他と全然違う!)
2. Limits To Love (ジャズっぽいアレンジにとても惹かれるのです)
3. Love In A Vacuum (イントロでエイミーが弾くチョッパーベースも、若さと愛嬌があっていい感じ)
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