Soundtrack


SET IT OFF


1996 Elektra
1. Set It Off - Organized Noize f/Queen Latifah
2. Missing You - Brandy/Tamia/Gladys Knight/Chaka Kahn
3. Don't Let Go (Love) - En Vogue
4. Days Of Our Livez - Bone Thugs-N-Harmony
5. Live To Regret - Busta Rhymes
6. Sex Is On My Mind - Blulight
7. Angel - Simply Red
8. Name Callin' - Queen Latifah
9. Angelic Wars - Goodie Mob
10. Come On - Billy Lawrence f/MC Lyte
11. Let It Go - Ray J.
12. Hey Joe - Seal
13. The Heist - Da 5 Footaz
14. From Yo Blind Side - X-Man f/H Squad



 年を越す、なんて言うと大げさですね。別に普段どおり、23:59が00:00になるのと何も変わりません。だけど僕らはそこに何らかの意味を見出そうとし、年越しそばを食べたり、初詣に出かけたりする。僕はといえば、2002年から2003年にかけての数時間、ビデオでこの映画を見ていました。地上波TVで深夜に放映されるマイナーっぽい映画が好きで、適当に録画しておくことが多いのです。見るものもあるし、見ないまま次の映画を録画してしまうこともあります。だから、この作品が残っていたのはまったくの偶然。サントラファンとして、先にアルバムを買った映画を後からじっくり見るのは楽しいことですが、結論から言うとこの年越しはかなりヘヴィな体験になりました。

 舞台は西海岸、同じ環境で育った幼なじみの女の子4人。学歴もないブラックの彼女らがありつける仕事は清掃会社のアルバイトくらいのもの。銀行をクビになったり、シングルマザーだったり、両親を事故で亡くしたり、それぞれ事情は異なるものの「お金」が必要な境遇。夢も希望もない人生から脱出するためには大金が必要。そんな中、4人のうちストーニーの弟が張り込み中の白人警官たちの誤射を全身に浴びて殺されてしまう。怒りと絶望。彼女らの人生は大きくカーブし始め、銃を手にした黒人女たちによる銀行強盗が間もなく市中の銀行を恐怖に陥れる。最初はうまくいっていた計画も、いったんほころび始めると転落は急だった。次第に追い詰められ、4者4様のラストシーンへ。これは実に重い。

 ストーニー役のジェイダ・ピンケットは後にウィル・スミスと結婚することになるキュートキャラだけど、はっきり言って本作最大の見どころは彼女じゃなくてクイーン・ラティファの演技。すごいすごいという噂は聞いていたけれど、これほどカッコいいとは思わなかった。がっしりした図体。姉御肌のレズビアン役で「よう、オレたちの金に手を出すな。ブッ殺すぞ」みたいな男言葉でドスを利かせまくる。ラッパーとして "U.N.I.T.Y." のトップ40ヒット(US#23/94)を持つ彼女、シングルはもちろんアルバムも買ったことがあるけれど、その声の凄みを初めて思い知った感じ。加えて、豪快にして信頼できる姉貴分キャラ。どうして彼女が全米であれほど支持を受け続けてきたのか、やっと分かったような気がします。やっぱりブラックムービーはちゃんと見なくちゃ。

 もちろん映画としてはかなり問題があります。米国社会におけるマイノリティとしての黒人女性の辛さは理解しますが、だからといってこうも簡単に暴力に訴える展開はどうか。4人の境遇の描き込みも不足していて、後半での彼女らの怒りの爆発がストレートに伝わりにくい。白人(警察に代表される権力)vs黒人の構図、貧困や銃社会の問題、シングルマザーの問題、ハーバード卒のエリート黒人銀行員とのロマンスなど、盛り込まれたテーマも多すぎて消化不良です。しかし、クイーン・ラティファの演技はそれらを補って余りある。壮絶なラストシーンの圧倒的な迫力には、完全に我を忘れて泣きました。どうしようもない境遇からの解放と自由を目指した4人の女たち。多少なりともブラックカルチャーやヒップホップに興味のある人なら、見ておいて損はない。



 そこでサントラですが、メロウな歌モノからヘヴィなラップまで、当時のシーンを代表するメンツをずらりと並べたキャスティング。ブランディやグラディス・ナイトから、ボーン・サグズ・ン・ハーモニー、バスタ・ライムスまで1枚に収まっています。フージーズに制作させたシンプリー・レッドがある一方で、オーガナイズド・ノイズの秘蔵軍団 Goodie MOb まで駆り出されているのです。まさに豪華と言うほかありません。

 サントラのオープニングはオーガナイズド・ノイズによるタイトル曲 "Set It Off"。ワウのかかったギターと揺れるエレピ、沈み込むようなベースラインだけで彼ら独特の南部世界が出現。Andrea Martin から Ivan Matias にヴォーカルを回し、クイーン・ラティファの切れのいいラップソロへ。他の聴きどころとしてはやはり3曲目のアン・ヴォーグ "Don't Let Go (Love)" かな。それまで McElroy & Foster に大事に育てられてきた彼女たちが、本格的に他流試合に臨んだ1曲。オーガナイズド・ノイズの作曲/制作は意外なほどハマっていて、グランドピアノ、生ドラム、ヘヴィなギターが織りなす重いトラックを突き抜ける4人娘の歌声の生々しさといったらありません。それに比べると、ブランディ、タミア、グラディス・ナイト&チャカ・カーンという豪華4人組の "Missing You" はいかにも中途半端。お涙頂戴、というコンセプトが最初から見え見えなだけに、やっつけ仕事と言われても仕方のない出来か。グラディスとチャカをほとんど活かしきれていないのが残念で、これならブランディ&タミアという新世代デュオに任せてみても良かったのでは?という気も。映画でもまさに涙の回想シーンでかかる曲ですが、バックコーラスを Cindy Mizelle がしっかり締めていなかったら本当に収拾がつかなかったかもしれません。

 歌ものとしては他にロリータ声のビリー・ローレンスの "Come On" も小ヒットしました。2,000 Watts 初期の重要なプロデュース作品。音的なインパクトはむしろ Ray J. の "Let It Go" の方が大きかったかな。Keith Crouch お得意のねちっこく絡みつくようなファンクで、独特のスネア音とぐにょぐにょしたシンセが耳に残ります(いずれも Keith の演奏)。レイ・J はブランディの実弟ですが、姉以上に線の細い中性的なヴォーカル。比較的近い声質のラサーン・パターソンがバックコーラスに参加していて、彼は後にニュークラシックソウル色の濃いアルバムを発表することになります。

 ラップものは安定した水準ですね。ボーン・サグズ・ン・ハーモニーは Force M.D.'s の "Tender Love" (US#10/86) と Herb Alpert の "Makin' Love In The Rain" (US#35/87) という80年代後半モノかつ Jam & Lewis モノという的を絞ったサンプリング。歌うようなフロウが複雑に交錯する見事な仕上がりです。バスタはひどく地味かつ不気味、ラティファのソロはシンプルにリリックを聴かせます。グッディー・モブはいつもながらの抑制の効いた濃ゆい出来。

 サントラ全体を通して、出口のないどんよりした雰囲気が漂っています。買った当初はただ単純に「ダークだなあ」と思っていたものですが、映画を見て初めて全容が理解できました。意味もなく暗いのではなかった。これはあくまでも映画のテーマを踏まえた統一的なトーン。96年当時、全米を席巻していたアトランタ産音楽集団 Organized Noize がサントラの共同プロデューサーとして作品全体を監修した意味の大きさが、今こそ切実に理解されるのです。

 …年越しの直前まで、猪木祭見ながらボブ・サップに声援を送っていたことは内緒にしておく方向で。

お気に入りベスト3
1. Don't Let Go (Love) - En Vogue
2. Set It Off - Organized Noize f/Queen Latifah
3. Let It Go - Ray J.

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