Mike + The Mechanics @ Shepherd's Bush Empire


18 July 1995

 これはかなり貴重なコンサート。

 ご存知ジェネシスのギタリスト/ベーシスト、マイク・ラザフォードのソロプロジェクトであるマイク&ザ・メカニクスのロンドン公演をシェパーズ・ブッシュ・エンパイアで見てきましたのでご報告しましょう。

 ステージに現れたのは主要メンバーとなるマイク・ラザフォード(ギター/ベース)、ポール・キャラック(ヴォーカル、キーボード)、ポール・ヤング(ヴォーカル、パーカッション)の3人と、ドラマー、サイドギタリスト(兼ベーシスト)の合計5人。若くはないし、華があるわけでもないけれど、ベテランらしい余裕たっぷりの雰囲気。例えばポール・キャラックなど、髪の生え際の後退が著しいため最近は帽子を愛用中ですが、この日も頭にぴったりフィットする緑色の帽子を被り、サングラスをかけておりました。お茶目で非常にいい感じ。観客の年齢層も高くて、40代・50代がメインかな? 20代半ばの自分はかなり浮いておりました。ソロプロジェクトとは言え、全米#1ヒット "The Living Years" を含む幾多の楽曲をチャートに送り込んでいるこのグループ、ダテに遊びでやってるわけじゃありません。いったいどんなライヴを見せてくれるのか。



 ドラマーのリズムカウントで始まった1曲目は新作のタイトルトラック "A Beggar On A Beach of Gold" でしたが、肝心のドラマーがリズムを取り損なってしまい、ポール・ヤングのリードヴォーカルが入ったところで演奏中断。最初からやり直しですが、メンバーは苦笑しつつも終始リラックスモード。この曲ではマイクはギター、サポートメンバーもギターを弾いており、ベースパートはシンセサイザーで代用。ポール・ヤングの伸び伸びとしたヴォーカルがとっても心地良い。ブリティッシュ・ロック界の名裏方の一人として、忘れられない歌い手です。

 2曲目 "Get Up" でリードを取ったポール・キャラックもまた、忘れ難い名プレイヤーです。エース、スクイーズ、ニック・ロウ、ザ・スミスなどなど、参加アーティストをたどれば英ロック会の紳士録ができてしまいそうな人脈の広さは、彼の素晴らしい人柄と、確実なテクニック+ソウルフルな歌声に裏打ちされたものでしょう。ハスキーな喉を聴かせながら演奏するキーボード類はハモンドオルガン系の音色が中心で、まさに「いぶし銀」と呼ぶに相応しいプレイ。味のあるヴォーカルもまた、細かい節回しなど実に巧い人なのです。この曲でマイク・ラザフォードはベースギターに持ち替えてプレイ。1曲ごとに楽器を交換していきます。

 続いてマイクが 「ロンドンでライヴをやれて嬉しいよ」 といった感じのMCを入れて、マイク&ザ・メカニクスのデビューヒット曲、"Silent Running" につなげます。ポール・キャラックの弾く幻想的なキーボードのイントロにマイクのアコギが重なって、アコースティック・ヴァージョンにアレンジし直された演奏。う〜ん、いい味出してます。ポール・ヤングはコーラスを歌った他、パーカッションセットの中に入ってなかなかリズム感のあるスティック捌きを見せてくれました。

 この他の聴きどころとしては、5曲目に演奏したこの春の全英大ヒットシングル "Over My Shoulder" でリードヴォーカルのポール・キャラックが聴かせてくれた間奏部分での口笛ソロ。スタジオテイクのフレーズにちょいとフェイクを加えて、実によく通る音で口笛を吹いてくれました。口笛といえば、イントロならビリー・ジョエルの "Stranger"、アウトロならJ・ガイルズ・バンドの "Centerfold" が有名ですが、間奏ソロを吹いちゃうのは最近だと珍しいパターンだと思います。

 基本的にはヤングとキャラックの両ポールが交互にリードヴォーカルを取り合いますが、8曲目のモータウンカヴァー "You've Really Got A Hold On Me" ではぴったりと息の合ったデュエットも披露。派手じゃないけどこの2人、ほーんと歌が巧いわ。会場も大喝采でした。

 もうひとつの見せ場は、マイクがメンバー紹介をした後に演奏された各メンバーの過去在籍バンド曲メドレー。1曲目のポール・ヤングはサッド・カフェ時代の "Everyday"。これがお客さんにはかなり浸透しているようでずいぶん盛り上がります。続いてポール・キャラックはエース時代の "How Long"。75年全米第3位の大ヒットで、自分も大好きな曲です。まさかこれを95年になって、キャラック自身の生声で聴けるなんて感激もいいところ。(できればスクイーズの "Tempted" も聴きたかったけれど…)
 そしてお待たせ3曲目、マイクのギターが重いリフを刻みます。そう、ジェネシスの "I Can't Dance" です! ヤングがリードを取り、キャラックはハモンドのソロをフィーチャー。オルガンの魅力を知り尽くした彼の、グリッサンドぎゅんぎゅんのプレイ。いいぞいいぞ〜。でも、3人が横一列になってぎこちなく行進するあの 「I Can't Dance 歩き」 はやってくれませんでした。ちょっと残念…

 大喝采に包まれる中、曲はバンド最大のヒット "The Living Years" へ。
 親子の考え方のすれ違いをテーマに、父の死に際して書かれた曲とのことですが、キャラックが熱く歌い上げる後ろでマイクは何ら派手なプレイをするでもなく、淡々とリズムを刻み続けます。それが却って楽曲の説得力を増しているみたいで、サビのコーラスでは会場中が大合唱。じわわーん。個人的にいろいろと思うところあって、この曲を聴くと胸が一杯になってしまいます。

 そして本編のラストはヤングにリードを託して "All I Need Is A Miracle"。演奏の後半、ヤングがステージの一番前まで出てきて、コーラスのメロディをコール&レスポンスで上手に盛り上げます。人気のある曲だけあって、これまた大合唱になりました。アンコールの2曲も実に見事に決められてしまい、まさにベテランたちの素晴らしい職人芸を見せてもらった気分。"Word of Mouth" のコーラスでは歌詞に合わせ、東西南北にそれぞれ腕を振る振り付けを披露。会場みんなで真似するのも楽しかったです。ここしばらく若いバンドばかり見ていたので、そんな意味でもいい気分転換になりました。次は必ずジェネシスとしてフルセットのステージを見せてほしいなあ…


<セットリスト>
1. A Beggar on A Beach of Gold
2. Get Up
3. Silent Running
4. Plain & Simple
5. Over My Shoulder
6. Another Cup of Coffee
7. Someone Always Hates Someone
8. You've Really God A Hold On Me
9. Web of Lies
10. Medley - Everyday / How Long / I Can't Dance
11. The Living Years
12. All I Need Is A Miracle

-ENCORE-
1. I Belive
2. Word of Mouth


August 2002 追記

 マイク&ザ・メカニクスはこの後ベスト盤とオリジナル作を1枚ずつ発表しましたが、かつてのような大掛かりな活動は行っていないようです。来日公演も1度も実現しなかったわけですが、仮に来日したとしても、上記ラインナップでのライヴはもう二度と見ることができません。ポール・ヤングが2000年に急死してしまったからです。ライヴで歌を聴くまではそれほどでもないと思っていたのですが、実際に生で聴いてみるととてもいい声をしていましたし、人柄が良さそうな様子が伝わってきました。非常に残念なことです。

 また、マイク・ラザフォードのジェネシスの方は、ご存知のとおりこの後フィル・コリンズが脱退。新ヴォーカリストを迎えてアルバム "CONGO" を発表するもセールスは振るわず、その後は沈黙を守っています。英国を代表するロックバンドだけに、また何らかの形で活動再開してくれることを期待しています。


MUSIC / BBS / DIARY / HOME