Asia


THEN & NOW


1990 Geffen
1. Only Time Will Tell (US#17/82)
2. Heat Of The Moment (US#4/82)
3. Wildest Dreams
4. Don't Cry (US#10/83)
5. The Smile Has Left Your Eyes (US#34/83)
6. Days Like These (未発表曲、US#64/90)
7. Prayin' 4 A Miracle (未発表曲)
8. Am I In Love? (未発表曲)
9. Summer (Can't Last Too Long) (未発表曲)
10. Voice Of America

 2000年に "THE VERY BEST OF ASIA" がリリースされるまで、多くのリスナーが長い間苦しめられてきた中途半端な編集盤。代表曲を押さえた上に "Daylight""Lying To Yourself""Ride Easy" というアルバム未収録曲をも含む18曲入りの決定盤が発売されている今だからこそ、ますます存在意義を失いつつあるこの "THEN & NOW" を擁護したい。

 確かに不十分です。10曲でまとめようなんて無理がある。
 このディスク発売時点で5曲しかなかったエイジアのヒット曲すら完全収録されていません。しかも落ちたのが "Go" (US#46/86) ときている。確かにTop40ミスではありますが、ジョン・ウェットンをして 「このアルバムが売れなかったら、僕はどうしていいか分からないよ」 とまで言わせた彼のお気に入りこと "ASTRA" からのシングル。その罪は重い。だからといってジョン・ウェットンを責めるのは酷でしょう。活動再開にあたってゲフィンからリリースを強要されたアルバムであり、十分な準備期間もないまま、ワールドツアーに飛び出せるだけのネタとしてなんとか体裁を整えるのが精一杯だったはずだから。

 とすれば、このアルバム最大の功績は、これを携えてエイジア初の… もとい、ジョン・ウェットンの在籍するエイジア初の来日公演が実現したこと。"Book of Saturday""Rendezvous 6:02" まで聴けたんだから。そう割り切って、あとは4曲の未発表曲を中心に楽しむのが正解。

 ちなみに、アナログ的に言うと1曲目から5曲名までが "THEN" サイド、6曲目から10曲目までが "NOW" サイドとされています。これキーポイント。THENサイドに入っていてもおかしくなさそうな "ASTRA" からの楽曲がなぜNOWサイドのラストを飾っているのか? どうやら分かれ目はギタリストがスティーヴ・ハウだったかどうか、という点みたいです。ジョン・ウェットンとスティーヴの確執はしばしば伝えられたところですが、この2人、よほど反りが合わなかったようで。プログレにこだわるスティーヴを斬り捨てて、ポップ全開になり得た 「現在」 こそエイジアのあるべき姿ということなのか。

***
 
 さて、"ASTRA" 以降のジョン・ウェットンは様々なプレイヤーとセッションを繰り返しています。オフィシャルな録音は多くありませんが、ジョン自身は 「エイジア」 という認識で活動していたようです。例えば86年にはジョン・ウェットン=ロビン・ジョージ=カール・パーマー=ドン・エイリー=フィル・マンザネラという凄い組み合わせで3回ライヴを行っていますが、これも元々はエイジアとして行うはずだったらしい。87年のサントラ "OVER THE TOP" に収録された "Gypsy Soul" はエイジア名義ですが、ジョン以外のメンバーは参加していません。88年にかけては Scott Gorham (ex- Thin Lizzy) と Michael Sturgis (ex- a-ha band) を招き入れてエイジア再編を狙います(が、この2人は脱退して 21 Guns というバンドを結成してしまいます…)。スティーヴ・ルカサーとのレコーディングはこの後なのでしょうか。

 これら不遇時代の音源が、NOWサイドに収録されているわけです。 まずはお楽しみの未発表4曲を順番にチェックしていきましょう。(1990年のツアーに参加したパット・スロールのギターは残念ながら聴くことができません。)

"Days Like These"
 エイジアらしくないとか、軽すぎるという批判もあるでしょう。だってジョンの曲じゃないんだからしょうがない。でもとても気に入ってます。エイジアとしての新しい旅立ちを象徴するサッパリ感。ルカサーのギターもいいソロ弾いてるし、適度にメロディアスで軽快な良い楽曲。ジェフ・ダウンズは録音に一切関わっていないようです。ハモンドやシンセも基本的にジョンの演奏で、ブリッジ部のシンセはガイ・ローシェが弾いているらしいです。ソングライターの Steve Jones はピストルズの彼ではないそうです。パンク meets プログレは幻に。

"Prayin' 4 A Miracle"
 これは当時のライヴでも頻繁に演奏していたナンバーなのですが、ダークで重い。しかも割と暗いまま終わってしまう…。せめてコーラスで "Open Your Eyes" のように光を取り入れてくれれば救われたのに。ソングライトは John Wetton / Sue Shifrin / David Cassidy。ギタリストのロン・コーミーはスムース・ジャズ系のアルバムによく参加しているみたいですね。これも基本的にはジェフ無しの録音らしい。(ジェフが音を重ねたテイクも別にあり)

"Am I In Love?"
 ギターがマンディ・メイヤーであることからも分かるとおり、ジョン・ウェットン入魂の "ASTRA" 時代の録音。これと次の2曲は Wetton / Downes 楽曲。地味な曲調ですが、それなりに盛り上げるバラード。こういう派手さのない曲こそジョンらしい、と思えるようになったら貴方も立派な "ASTRA" 中毒者。

"Summer (Can't Last Too Long)"
 これまた適度にポップかつハードな楽曲で、覚えやすいコーラスが印象的。スコット・ゴーハムの短いギターソロはかなりカッコいい。自分にとってのエイジアは良いメロディに尽きます。それは即ち産業ロック。そしてこの曲は極上の産業(誉めてます)。しかし、『ベティ・デイヴィスの瞳』 を想起させる安っぽいハンドクラップは何とかならなかったものか…


 というわけで、小粒ではありますが、ジョン・ウェットンらしいポップセンスを楽しめる4曲。録音時期もメンバーもバラバラですから、統一性や本格的な構成を求めてはいけません。それでもジョンの Completist にはやっぱり欠くことのできない大切な1枚。過去3作のジャケットのモチーフを合成した無理やりなアートワークもこの際許してしまうのです。


お気に入りベスト3
1. Wildest Dreams (来日公演衝撃のオープニング! 1stのB面1曲目、一番好きかも)
2. Days Like These (ライヴではさらに盛り上がります♪)
3. The Smile Has Left Your Eyes (『偽りの微笑み』。ある意味どうしようもなく完成品)

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