●EWI速弾き講座(講師:しろ) |
※タイトルはEWI速弾き講座となってますが、練習方法の基本的な考え方は同じですのでWXの方にも参考になると思います。(JWSAより)
■はじめに
EWIは、タッチセンサーキーという構造により、音が出るまでのレスポンスが非常に速い楽器です。これにより生楽器では考えられないような速弾きが可能である一方、ごまかしが効かないという短所も同時に抱えています。もちろん設定により、音の立ち上がりを遅くすることは可能ですが、EWIの長所を消してしまわないよう、要はバランスが重要だということになります。実際のところ、EWIの反応速度の速さに比べて、人間の指の動きの速さはたかが知れていますから、反応速度の限界を極めることは人間業ではなかなか困難と言わざるをえません。実際WXでは速弾きできないかと言えば、そんなことはありません。生楽器も同様です。ですが、EWIと全く同じことがWXや生楽器でできるか、というとまた別の問題となります。反応の速さはともかく、その構造上の違いによる差なのです。つまり機械式のキーがないことによる自由度を生かすべきだと思います。ほんのわずかでもキーに触れていれば、その運指が適用されるということは、メカキーでは考えられないことです。
さて、EWIに限らず、楽器のアマチュア演奏者の大多数が憧れる演奏技術は、まちがいなく「速弾き」でしょう。「速弾きができる」=「プロになれる」ということではありませんし、あくまで数ある演奏技術の一つにすぎないのですが、ここでは、EWIならではの特徴にも触れながら、いくつかのポイントを紹介していきたいと思います。若干、kirino氏の奏法入門とかぶるところがありますが、どうぞご容赦ください。また、楽譜の書き方などで多少のミスがあるかも知れません。その際はご指摘ください。
■その1 速弾きの心得
1-1.速弾き心得7箇条
・速弾きは演奏技術の一つにすぎない。
・全ての指を均等に柔らかくする訓練を、可能な限り毎日実行すべし。
・メトロノームを用意し、どんなテンポでも走らず正確に指を回す訓練をすべし。
・例え速く弾いても、一音一音を丁寧に出すことを忘れてはならない。
・換え指を熟知すべし。
・頭を柔軟にし、色々な角度から解決を図るべし。
・EWI速弾きには、潤いのあるお肌(指)が不可欠である。
■その2 換え指の活用
2-1.換え指とは?
速弾きの最大のポイントの一つは、換え指の効果的な活用であると言えます。
人間の指というものは、10本全て同じように動くわけではありません。特に薬指や小指はもともと速く自在に動かせるものではありません。そのため、一つの運指しか覚えていないと、必ず弾きづらいフレーズが出てきます。その際、従来の運指にこだわらず、ちょっと工夫するだけで驚くほどスムーズに演奏できたりします。もちろん、全ての指が同様に動くのが理想ですし、そのための訓練は欠かせませんが、身体の構造上、指の動き方が異なるのは自然なことです。その弱点を補う意味でも、換え指は熟知し、必要に応じて使い分けるべきです。
EWIの場合、全ての運指に換え指は非常に多数存在しています。その中で、実用的と思われるものを、複数使えるようにしておくべきでしょう。特に半音上げ下げするキーはいくつもありますが、いくつかのパターンで使えるようにしておきましょう。換え指を多用するのは、トリルや装飾音符の演奏が主であると思います。以下に例を示します。運指については、他にも何種類もあります。
Ex.1 (基本)
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■解説
こういうトリルや装飾音については、運指1でも2でも、問題なく演奏できると思います。 両方使えるようにしておくと、とっさの場合には便利でしょう。
Ex.2(基本)
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■解説
運指1でも構いませんが、Bisキーは小さいので、中指を触れる時に、隣のキーに触れてしまう可能性はあります。運指2のような換え指にも慣れておくと便利だと思います。
Ex.3
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■解説
運指1が通常の運指だと思いますが、これでは速く弾くのがなかなか難しいです。運指2の場合、右手の人差し指の脇で触れてしまう方法、邪道かも知れませんが、単音の装飾音程度ならば可能です。長いトリルであれば、指をずらして、中指も使ってしまうという手もありますが、どうもあまり実用的ではなさそうです。通常の運指から大きく外れない換え指としては、運指3のような形も考えられます。青いキーのどちらかを選択ということになります。左手の小指を利用するパターンは、小指の柔らかさに大きく左右されますね。普段からこのキーを使っている人以外には、小指の素速い動きは難しいかも知れません。結局実用になりそうなのは、右手の小指を使うパターンでしょう。小指に自信がなければこのキーは薬指で触れれば問題ないと思います。私の場合は、それほど長いトリルでなければ、つい運指1を使ってしまいますが・・・。
■その3 練習方法
ここでの練習の大半は、ウインドシンセに限らず、様々な楽器にあてはまることです。速弾きのみならず、アドリブ等も含めた演奏技術のアップに関わる基本事項です。
3-1. 全ての音を使った上昇と下降
まずは全ての音を利用して、半音ずつ上昇する、または下降する練習を行い、それが滑らかに速くできるようになるまで練習してみましょう。指の練習ですから、タンギング等は当分無視しても構いません。できるようになったら2オクターブ、3オクターブと音域を広げていきましょう。
<1オクターブの例>
3-2. スケールの練習
C調では簡単な運指であっても、例えば半音上げてC#の調ではかなり複雑になります。EWIの機能の一つであるトランスポーズを利用するという手もありますが、絶対音感のある人にとっては、訓練を積まない限りまず混乱します。ここではトランスポーズ機能に頼らず、全ての調で滑らかに指を動かす練習をしてみましょう。
3-3. スケールの組み合わせ
この練習は、指と頭を柔らかくするという点において、かなり効果的です。
ここでは、4音を1セットとして、少しずつスケールを変えていきます。もちろん、5音にして5連符のようにしてもOKです。ポイントは、調子が変わるときに遅れないようにすること。注)楽譜は3小節目までしか書いてありませんが、以後全てのスケールで続きます。
Ex.1
以降省略
Ex.2
3-4. オクターブローラーをまたぐ練習
EWIの速弾きを難しくしている要素の一つには、オクターブローラーの問題があります。使い慣れると便利なものですが、生楽器の演奏者にとっては、最初かなり違和感を感じる部分でもあるでしょう。速弾きのフレーズの途中でオクターブの移動が頻繁に行われる場合、そこで滑らかさが失われてしまうか、余計な音を入れてしまう可能性が高いと思います。
Ex.1
以上のようにオクターブをまたぐ音を、オクターブローラーを移動させる運指で、滑らかに移動させてください。色々な音の組み合わせで実験してみてください。
スピードを上げていった時に、余計な音を入れてしまわないこと。また、タンギングは使わず、スラーでもできるようにすること。
Ex.2
本田氏の演奏ではよくありそうなフレーズを練習用に編集しました。
C#以下の音は全てオクターブを下げて吹いてみてください。これも全てタンギングを付けず全てスラーで。四分音符=120以上ぐらいで、滑らかに演奏できることが目標です。
できるようになったら、拍の頭の音にタンギングを付けて挑戦してみましょう。
他にも、例えばTruthのサビの部分あたり、オクターブの移動が割と多いですので、練習に使えると思います。
3-5. 合唱の発声練習を利用して
合唱の発声練習でよくある練習です。このような練習も、指を柔らかくするために効果があると思います。できるようになったら、スピードを上げてみてください。また、ここには一つのスケールしか載せていませんが、全てのスケールでできるように練習してみましょう。
<Ex.1>
<Ex.2>
<EX.3>
3-6. 上記の練習の応用
とりあえず、最初はタンギングを付けずスラーでの練習で構いませんが、慣れてきたら、音の出し方に少し工夫を加えてみましょう。いくつか例を示します。
このような工夫で、演奏にグンとメリハリがついてきます。メリハリを付けるということは、速弾きを効果的に聴かせるために大切であり、なにより、演奏に面白味を付けることができます。
3-7. 実際の曲演奏
とりあえず、アーティストの曲の完コピを目指すとします。当然、指が思うように回らないフレーズが出てくることでしょう。そんな時にどうするか、基本的な心得ですが、書いていきたいと思います。
オリジナルのテンポでどうしても演奏できない場合、当然のことですが、テンポを遅くして練習してください。この時、CDなどに合わせて演奏していると、テンポを遅くするのが難しいので、MIDI音源等を使うと便利です。また、CDに重ねて演奏していると、元々のEWIの音と重なり、CDのEWI音と自分の演奏するEWI音が混ざり合います。すると、例え自分が抜かしてしまった音があっても、CDのEWI音で補完されてしまいますので自分のミスに気付きづらくなります。
目標とする演奏がかなり速い場合、テンポを半分以下に落としても構いません。確実に演奏できるスピードにして、何回も練習し、その指運びをしっかりと身体にたたき込みます。一度できたという程度でスピードを上げず、10回連続してノーミスでできるぐらいになったらテンポを少し上げます。例えば、元々が四分音符=200ぐらいのテンポだとして、100のテンポでできるようになったら、今度は110にしてみる。いきなり150とかに上げないようにした方がいいでしょう。それができたら、また少し上げる。この繰り返しでスピードを徐々に上げていきます。ゆっくりとしたテンポで演奏できないものは、速く演奏できるはずがありません。回数をケチらずに、何度でも練習しましょう。
ある程度のテンポまできたら、だんだんと演奏しづらくなってくると思います。その指運びによって、遅くなるところ、速くなるところなどあるはずです。そのあたりで一度録音してみるといいと思います。自分がしっかりと演奏できているつもりでも、意外と不正確だったりするものです。自分の弱点がわかったら、そこの部分だけ何度も練習してみます。その部分ができるようになったら、前後の流れとつなげてみます。そこの部分だけ演奏するとできるのに、続けて弾くとできない、ということは結構あるものです。例えばもし、薬指の運指でつまずいていると気付いたら、曲から少し離れて、薬指を柔らかくする訓練をがっちりとやってみるといいと思います。
以上のような方法で訓練を続けても、どうしてもできない場合はどうするか。
まずはできない部分の運指を見直してみてください。EWIの場合、速弾きの敵の一つはオクターブローラーです。オクターブをまたがる時に問題があるならば、オクターブを移動しなくても済む運指はないか、考えてみましょう。
200のテンポの曲を100に落として練習し始めて、120ぐらいで壁にぶち当たった、いくら練習しても進歩しない、というように、目標とするテンポに遠く及ばないような場合は、酷なようですが、今の技術ではその曲を演奏することはできないと割り切るべきです。他の曲を練習しているうちに、知らず知らずのうちに技術が上がり、しばらくたって再挑戦した時に意外とすんなり弾けてしまうことも多いのです。
また、指が動くということで練習を終わらせないこと。他でも書いていますが、ただ指が速く動くというだけの演奏は面白味が全くなく、いくら速く吹いても、ただ速い、それだけの演奏にすぎません。完コピを目指すならば、速弾きと同じぐらいの割合で、そのアーティストのアーティキュレーションを研究し、味が出せるように工夫してみましょう。
■その4 終わりに
速弾きを速弾きっぽく聴かせるテクニックというのは、運指だけの問題ではありません。ベンドやグライドなどを巧く使えば、速弾きを引き立たせることができます。また、緩急を付けることも大切です。速弾きに入る前にわざと遅く弾き、速弾きのスピード感を強調するというのもテクニックの一つと言えます。これらの技術をバランスよく自分のものとしていくことが大切なのです。
なお、練習方法の欄では、基本的なことを、その一部しか記載しておりません。また機会をみて、更新していきたいと思います。(Oct.2002)
●EWI速弾き講座(講師:しろ)
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