● ウィンドシンセ奏法入門 (講師:Kirino)

 トランペットやサックスなど管楽器の教則本を開くと、まず最初に「姿勢」だの「口のかたち」だの「喉を開く」だの、いままで意識もしなかったような肉体コントロールの方法について多くのページを割いて詳細に解説されていて、初心者にとってはそれたけで恐れをなしてしまうところがあります。でもこれはしかたのないことで、最低限の肉体コントロールの訓練をしないと演奏どころか音が出ないのが管楽器に共通していえることだからです。
 それにくらべるとウィンドシンセは便利なもので、とりあえず吹けばだれでも音が出ますから、面倒なことはすっとばして、すぐに演奏を楽しむことができます。ありがたやありがたや。
 しかし、いくらすぐに音が出るといっても必ずしもすばらしい演奏ができるとは限りません。基本的な演奏技法について知っておく必要があります。そこでここではウィンドシンセ演奏に最低限必要と思われる基本奏法と、表現力を増すための技法について解説したいと思います。

 ウィンドシンセはシンセと名はついていても立派な管楽器の一種ですから、基本的なところは通常の管楽器の演奏技法に近いといえるます。したがって本解説もある程度管楽器経験のある人には釈迦に説法な部分があると思いますが、「奏法入門」ということでご容赦ください。また筆者がサックス奏者(アマチュアですが)でもあることから、特にサックス的アプローチから解説しているところがあります。ウィンドシンセの可能性は単にサックスの電気化に留まるものではありませんが、そこまで解説できていないのは筆者の力不足です。

 なおここで解説するウィンドシンセはEWIシリーズ、WXシリーズの2つ(両方)を対象とします。ある程度楽譜を読める(楽譜に書いてある記号の意味が理解できる)ことを前提としていますので、解説に用いている楽譜や記号の意味が全く分からない方は、次に示すようなサイトや楽典で記号の意味を理解しておいてください。

 解説中、譜面のデモ演奏をMP3ファイル化してあります。適当な再生ソフトで聴いてください。演奏にはWX5/VL70-m、EWI3020/EWI3020mを適宜使用しています。基本的にトランスポーズは使用していません(Key=C)。


1. 準備

1-1. セッティング

 電子機器ですから最初に機器の接続および設定が必要ですが、個々の機器についての説明するとキリがありませんのでここでは割愛させていただきます。それぞれの機器の使用説明書に従い、息を吹けば安定して音が出る状態にセッティングしてください。

 もし音が出なかったり不安定な場合、各種センサーの調整がうまくいっていないことが考えられます。

 全くの初心者の場合、初めのうちはベンドセンサーやグライドセンサーを無意識に触って(動かして)しまうことが多いので、ある程度慣れるまでは最初はベンド・グライドを無効にしたほうが良いかもしれません。無効にする方法は次の通り。

 なおWXはリップセンサーの設定を次の3種類から選べるようになっています。

 WXにおいて上記のどの設定にするかは自分の好みと習熟度にあわせて適宜選択すれば良いのですが、表現力の高さから考えるとタイトリップ奏法でリップ出力をはベンドに設定、あるいはルーズリップ奏法でリップ出力はモジュレーションに設定、のどちらかをお奨めします。初心者がタイトリップ奏法を選択する場合、演奏中安定した音程を保つにはそれなりに慣れが必要です。音を聞きながら、またはVL70-mのピッチベンド量表示を見ながら、常に一定の圧力でリードを噛み続けられるよう訓練してください。
 なお、リコーダータイプおよびルーズリップ奏法の場合、ピッチベンドはEWIと同様右手親指を使ってピッチベンドホイールを操作することになりますので4-1で説明するピッチベンド操作はEWIの操作方法とほぼ同じになります。またルーズリップ奏法およびタイトリップ奏法で、リップセンサー出力をモジュレーションに設定している場合はビブラートはEWI同様、リップセンサーの操作により行いますので5.で説明するビブラート操作はEWIでの方法を参考にしてください。

1-2.ウィンドシンセの構え方(持ち方)

 これといって決まった持ち方はありませんが、基本としてはストラップを使用したソプラノサックスの持ち方が最も理にかなっています。すなわち、

 この姿勢は、サックスにおいては適切な口の形や喉の開きを得るために必要な姿勢です。しかしウィンドシンセの場合は息を吹き込めば鳴るので、姿勢に関しては他の楽器のようにあまり神経質になる必要はありません。ストラップを全く使わないで右手で水平に管を持ち上げて吹く人もいますし、EWIでマウスピースを強めに噛んで口でぶら下げるようにして吹く人もいます。WXの場合ストラップがなくてもじゅうぶん安定して吹けますし、指によけいな力がかからず、腹式呼吸(後述)がしっかりできる姿勢であることさえ気をつければ、自分が一番リラックスできる姿勢で吹くのが一番良いと思います。(ただしあまり強く噛みすぎると顎に負担がかかりますし、EWIではマウスピースやリップセンサーの破損の原因になります)

 マウスピースのくわえ方ですが、直接歯と歯ではさむように軽く噛む方法と、サックスのように下唇をいくらか巻き込んで(もしくは下唇全体で支えながら)くわえる方法のおおよそ二通りがあります。EWIの場合前者、WXの場合後者で吹く人が多いようです。初心者には前者のほうがやりやすいでしょうし、木管楽器経験者なら後者のほうが慣れていて良いでしょう。どちらのくわえ方でも、それにより音が変化することはありませんので、自分のやりやすいほうを選べば良いと思います。いずれにしろあまりきつく噛むとマウスピースの破損や唇を切る原因になりますので、ほどほどにくわえるのが基本です。

1-3. 運指

 運指はEWIもWXもリコーダーやサックスに近い運指で、管楽器の中では最も簡単といえます。木管楽器経験のある人ならすぐに習得できるでしょう。基本的な運指は次の運指表の通りです。ほとんどの場合この運指だけ覚えれば間に合うはずです。

 運指の基本練習については3-4.(アーティキュレーション)で解説します。なおこの運指表のほかにも同じ音を出すのにいくつかの方法(換え指といいます)があります。長くなるのでここでは割愛しますが、何か曲を演奏しながら「どうしてもここの運指がしにくい」と感じたら各機器の取り扱い説明書を参考にしながら自分なりの換え指を研究してみてください。換え指や運指の練習についてはしろさんの「EWI速弾き講座」がEWIはもちろんWXの方にも参考になります。是非ご覧下さい。


2.最低限必要な基本奏法

 とりあえず運指を覚えれば演奏はできるのですが、管楽器であるからには最低限、腹式呼吸とタンギングを意識する必要があります。

2-1. 腹式呼吸

 最初にウィンドシンセは吹けば鳴る、特別な肉体コントロールは不要、と書きましたが、ブレスコントロールが特徴であるウィンドシンセの上達のためにはブレスを思い通りに操る技術・・・ずっと同じ量の息を出し続ける、一定幅で息の量を増減させる等・・・はどうしても必要になってきます。そのためには腹式呼吸をマスターすることが大切です。それにウィンドシンセは軽い息でも鳴るので体への負担は軽いとはいえ腹式呼吸をせずに長時間演奏すると最悪の場合肺気胸などで体をこわしてしまいます。腹式呼吸ができるまでウィンドシンセを吹いてはいけない、ということはもちろんありませんが、吹くときには常に腹式呼吸をするよう心がけてください。常に意識していれば、数日〜数週間でコツをつかめるでしょう。
 具体的な腹式呼吸の方法ですが、息を吸うと同時にお腹(胸ではない)を前後左右に出来るだけ膨らますようにします。肩があがらない様に気をつけてください(多少動くのは可)。限界まで吸ったら、「フー」の口の形でなるべくゆっくり息を吐いていきます。このときお腹に力をいれ、膨らましたお腹をできるだけ膨らませたままで息を出します。くしゃみをするとき、お腹に力をいれて「ハックション」とやりますよね?あの力の入れ方でなるべくゆっくり息を出すのです。手を腕の長さいっぱい延ばして口の前にかざし、手のひらに息があたるくらいの強さで息を吹いて、最低でも10秒、できれば20秒以上続けられるようにしましょう。これができれば長い音符でもブレのない安定した音を出せるようになります。

 腹式呼吸については次のサイトが参考になります。

2-2. タンギング

 音の出し初めや、止めるときに使います。管楽器全てにおいて必須の技術です。舌(=toung)つきとも言います。音を出す時、息だけで「フー、フー」とやると、音の出始めがぼやけてしまいます。止めるときもしっかりと止まらないためリズム感が無くなってしまいます。これを避けるために音を出す/止めるときに舌で息の流れをピタッと止めるのがタンギングです(Ex.1)。マウスピースをくわえた状態で「トゥーフッ、トゥーフッ、」とやってみてください。「フッ」の時に、舌でマウスピースまたはリードを軽く触るような感じで息の出口を止めます(EWI、WXとも共通です。ただしマウスピースの穴を舌でふさぐのではありません)。そのまま息の圧力をかけておき、「トゥ」と舌を離し、一気に息を吹き込みます。「トゥ」の時=音の初めには、あらかじめ息の圧力をかけておくことに注意してください。これで立ち上がりの鋭く、リズム感のある演奏が出来るようになります。譜面がスタッカートの場合はそれなりの短さで(楽典的には、記譜された音符の半分・・・例えば四分音符にスタッカートが書いてあれば、八分音符ぶんの音の長さ吹くこと・・・になっています)、テヌートやスラーが書いてあれば音の間が空かないように「トゥートゥー」というタンギング(レガートタンギング)を行います。蛇足ですが、スラーが標記されているところではクラシック的管楽器奏法ではタンギングは行わないことが多いですが、ジャズやポップスではスラーが書いてある場合もレガートタンギングを行うのが普通です(タンギングをせずに音を変えるのはよっぽど速いフレーズかそれなりの効果を狙う時だけで、全ての音にタンギングを入れるのが基本)。ですから極端に言えばタンギングができていないと何の曲を吹いてもサマになりません。そういう意味でも大変重要な奏法です。

Ex.1

 Ex.2はタンギングの基本練習です。

Ex.2

デモ:  2_2.mp3 (317kb)  機材:EWI3020/3020m(音色:S43 Axis)

 なるべく音と音の間を開けないレガートなタンギングと、音を短く切るスタッカートの差が出るように気をつけてください。なお音はとりあえず「ソ」にしていますが何の音でも構いません。


3. ブレスコントロール

 ここからは表現力を増す演奏技術の解説となります。最初はウィンドシンセがウィンドシンセであるための最大の特徴といえるブレス(息)による音のコントロールについてです。

3-1. クレッシェンド&デクレッシェンド(音量のコントロール)

Ex.3

 音量をだんだん大きくすることをクレッシェンド、逆をデクレッシェンドと言います。腹式呼吸を使ってうまく息の量をコントロールして、スムーズできれいなクレッシェンド・デクレッシェンドができるようにEx.3を練習してください。音量が揺れてはいけません。またWXでタイトリップ奏法を選択している場合は音量とともに音程も安定しているか気をつけながら練習してください。

 どうしてもうまくピアノとフォルテの差が付かない場合、音源側のブレス設定(感度やゼロ点等)が不適切な場合があります。チェックしてみてください。

 ブレスのゲインはなるべく低いほうがダイナミックレンジが広くなって良いですが、あまり低くしても吹きにくいだけですので、自分が演奏しやすい範囲でなるべく低めに設定するとよいと思います。また最適なゲインの位置は音色の設定によっても変わりますのでいろいろ試しながら最適な位置を探してください。

 曲の中では、たとえばこんな風に音量の差をつけます。

Ex.4

♪デモ3_1.mp3 (150kb)  機材:EWI3020/3020m"Trumpet",伴奏はYAMAHA QY70

3-2. 譜面にいちいち書かないノリの部分での音量のコントロール

 さらにEx.4の曲のバッキングではこんなフレーズもありがちです(Ex.5)。シンプルな譜面ですが、「Da-u-Da」と歌うようなフィーリングで吹くと感じが出ます。

 Ex.5

♪デモ3_2_1.mp3 (64kb)  上記譜面にハーモニーを加えてあります。機材:WX5/YAMAHA MU100R 

 このような持続音の音量をコントロールする表現は鍵盤楽器では不可能ですし、シンセについているホイール等を使ってもなかなか難しいものがあります。息を使う楽器ならではの表現といえるでしょう。ちなみに、Ex.4,5を重ねるとこんな感じになります。→♪デモ3_2_2.mp3 (140kb)

3-3. アクセント

 アクセントはタンギングを使って瞬間的に大量の息を吹き込んで行います。基礎練習としては、タンギングの発展系になります(Ex.6)。

Ex.6

デモ:  3_3.mp3 (156kb)  機材:EWI3020/3020m(音色:S43 Axis)

 すべての音符をタンギングして吹きますが、アクセントの位置ではやや強く吹いてアタックをつけてください。アクセントをつけたからといって音と音の間隔(=テンポ)がばらつかないように注意してください。

3-4. アーティキュレーション

 アクセントも含め、タンギング、スタッカート、スラー、あるいは後述するベンドやグライド等をフレーズの中のどこでどのように行うかを、アーティキュレーションといいます。アーティキュレーションは音楽のノリを決定する最も重要な要素です。アーティキュレーションのパターンは無数にありますが、最も基本となるパターンとして、Ex.7-1(Cメジャースケール)とEx.7-2(クロマチックスケール)をPattern a、b、c、に示したアーティキュレーションで吹いてみてください。(なおこれは1-3で述べた運指の練習も兼ねています)。運指とタンギングのタイミングが合うように、また音と音の間によけいな経過音(私はピロ音と呼んでいますが)が入らないように気をつけながら練習してください。"ピロ音"を少なくするためにわざとキーの反応を鈍くするようにコントローラを設定することもできますが(EWI=KEY DEALY、WX=Fast off)、個人的にはこの設定を使わないで練習することをお奨めします。最初はうまくいかなくてイライラするかもしれませんが、どちらにしても練習する手間は一緒ですから。

Ex.7

デモ:  3_4.mp3 (191kb)  機材:EWI3020/3020m(音色:S43 Axis)

 次に運指に慣れるためにEx.7-1(Cメジャースケール)を12のKEY全てに移調し、a〜cのパターンで練習しましょう(Ex.8→別画像,12kb)。ここでは2オクターブ程度しか譜面にしていませんがさらに広いオクターブを使って練習しても良いです。退屈かつ大変な練習でいやになると思いますが、運指に慣れるために毎日少しでもやっておきたい練習です。

 さて実際の曲の中ではEx.7で練習したパターンの他にいくつものパターンを組み合わせて演奏します。曲のなかでどのようにアーティキュレーションを行うか、どんなパターンを使うかといった法則があれば良いのですが、残念ながらそういうものはありませんし、どれが正しいというものでもありません。結論を言えば、かっこよければ、何をしても良いのです。といわれてもなにがかっこいいのか困ってしまうという方は、まずは自分が好きな、かっこいいと思うミュージシャンの演奏を良く聴き、コピーしてみるのが良いでしょう。コピーしているうちに、いろんなアーティキュレーションのパターンが蓄積されていき皆さん独自の個性あふれる演奏へ発展していくはずです。コピーするのもなかなか難しいという場合は、Jim Snidero著"Easy Jazz Conception Study Guide" (日本語版・(株)ATN)がジャズのアーティキュレーションを学ぶテキストとしてお薦めです。サックス用かフルート用が良いでしょう。楽器のKeyに合わせ自分が適当と思うものを選んでください。(なお"Jazz Conception Study Guide"も良いですが初心者にはすこし難しいかも)

3-5. ブレスによる音色のコントロール

 今まで触れませんでしたが、ウィンドシンセにおいてはブレスの強さによって、音量のほかに音色(例えば音色の明るさ)をコントロールすることが一般的に行われています(3_3や3_4のデモを聴けば音量と共に音色が明るくなっているのがわかるはずです)。今まで述べたクレッシェンド・デクレッシェンド、アクセント等の際は音量だけでなく、音色もスムーズにコントロールできているか注意しながら練習してください。ブレス量によってどのように音色変化するかは通常音源側で音色ごとに設定されていますので、場合によっては自分の思った通りの音量で思ったような音色になるように音色の設定値を工夫することも重要です。


4. 音程コントロール(ベンド・グライド・グリッサンド)

 表現を増すための奏法、続いては音程のコントロールです。皆さんカラオケを歌うときは特に意識しなくても歌手のマネをしていわゆる「しゃくりあげ」とか「コブシ」といった微妙な音程変化をつけて歌いますよね。それと同じように楽器を演奏するときもそういった音程変化を用いて演奏に表情を与えます。ウィンドシンセではベンド、グライド(ポルタメント)という2つのコントローラー、および運指を使ってこのような音程変化を表現します。なお、実際の曲の中で使用頻度が高いのは「ダウンベンド」と「運指による装飾音」です。まずこの2つができればどんな曲でもとりあえずカッコ良く演奏することができます。まずはこの2つをマスターし、その後残りの奏法にとりかかるのも良いでしょう。

4-1. ベンド

 一つの音符に対しごくわずか〜全音くらいの連続的な音程変化をつけて表現する奏法で、管楽器一般でこのような奏法をベンド(bend)、またはベンド奏法といいます。ウィンドシンセの場合、ベンドは「ピッチベンドセンサー」を操作することで行います。音程を上げる操作をアップベンドまたはベンドアップ、下げる操作をダウンベンドまたはベンドダウンといいます。通常ベンドを使うフレーズによってアップ・ダウンどちらを使うかは明らかなので、単に「ベンド」としか言わないことも多くあります。

 一口に「ベンドセンサー」とまとめてしまいましたが、EWIとWXではその構造が異なり、操作感はかなり違ったものになります。

 どちらが良いかは好みの分かれるところですが、いずれにしろ自分の使っているコントローラで「心地よいベンド効果」が上手く表現できるようになることが大切です。

4-2. ベンドの基礎練習(1)

 ベンドアップ・ダウン操作の基礎練習は次のような譜面で行うとよいでしょう。なお、ベンドの幅(どのくらい音程が上下するか)は、通常音源側で音色ごとに設定します。一般的には上下とも「全音」ぶん(MIDI的に言えば±2)変化するように設定されていることが多いので、ここでの練習も変化幅が「全音」に設定されているものとします。実際の操作として、まずは

で練習してください。とりあえず微妙な表現は考えず、ベンドをオン・オフするだけのイメージでかまいません。まずはEx.9-1で感覚をつかみ、Ex.9-2,3,4へと移ります。

Ex.9

デモ(EWI)4_2_EWI.mp3 (189kb)  機材:EWI3020/3020m(音色:S43 Axis)
デモ(WX)4_2_WX.mp3 (194kb)  機材:WX5/VL70-m(音色:Pr1-123 BassCla!)

 厳密に言うとベンド幅が全音に設定されていればEx.9-3,4の「ド→シ→ド」や「ミ→ファ→ミ」(音程の差が半音)のような変化にはなりませんが、とりあえずあまり気にせずに全て全音幅のベンドをON/OFFするつもりで吹いてしまってください。

4-3. ベンドの基礎練習(2)

 さてEx.9の場合、ベンドセンサーを単純にオン/オフするイメージで操作すれば良かったのですが、もう一歩踏み込んで、オンとオフの中間(すなわちこの場合は半音)を微妙にコントロールする練習もやってみましょう。

 ♪デモ(EWI)4_3_EWI.mp3 (83kb)  機材:EWI3020/3020m(音色:S43 Axis)
デモ(WX)4_3_WX.mp3 (122kb)  機材:WX5/VL70-m(音色:Pr1-123 BassCla!)

 Ex.10では「ソ」だけしか示していませんが、他の音でも同様の練習をしてみてください。EWIの場合、右手の運指が伴うド〜ファ#までは結構難しくなります。
 実際の操作は次の通り。

 初心者レベルで実際に曲を演奏する場合はとりあえずEx.9のような単純なコントロールだけでも何とかなりますが、Ex.10.のコントロールができるとよりいっそう表現力を増すことができます。がんばって練習しましょう。また、自分の操作技術を磨くと同時に、機器の設定を工夫して自分のクセに機械を近づけることも大切です。いろいろ試して、自分にあったセッティングを見つけてください。

4-4. 実際の曲の中でのベンドコントロール

 実際の曲の中では、アップベンドよりもダウンベンドを使う機会が圧倒的に多くなります。極端に言えばアップは全く使わなくてもなんとかなります。Ex.11はダウンベンドを用いた例です(T-SQUAREアルバムWAVE収録"ARCADIA"より)。

♪デモ4_4.mp3 (140kb)  機材:EWI3020/3020m"Judd3020"(Plate Reverb使用)

 ここでのダウンベンド操作は、息を吹き込まない無音の状態であらかじめセンサーを「下げた」状態にしておき、吹くと同時に元にもどすことで行います。このとき「元の音(本来の音程)」が発音するタイミングに気をつけてください。あまりタイミングが遅いとテンポ感のない、もたついた演奏になってしまいます。この奏法は俗にベンドによる「しゃくりあげ」あるいは「しゃくり」とも言います。ベンドで一番使う機会が多いのがこの「しゃくり」です。
 蛇足になりますが、場合によってはベンドでなく運指による装飾音でベンドによるしゃくりと同じような効果を得ても良いです。センスに応じて使い分けてください。最初に述べたとおり、ベンドによるしゃくりと装飾音さえできるようになればかなりそれらしく演奏できるようになります。
 なおEx.11では1カ所だけ、レからソまで半音階の運指をすばやく行って音をつなぐ「グリッサンド」(後述)を使っています。

4-5. グライド(ポルタメント)

 ウィンドシンセで連続的音程変化を得るにはベンドの他に「グライド(またはポルタメント)」というコントロールがあります。ベンドより広い音程をなめらかにつなげて演奏したい場合に用います。生管楽器ではトロンボーンのスライドを連続的に動かす奏法がこれにあたりますが、ウィンドシンセの場合はトロンボーン的というよりは「いかにもシンセイザー」的な特徴ある効果を得るために使うことが多いと思います。どちらかというと特殊効果的な奏法なので多用する人は少ないようですが、ウィンドシンセの「シンセ」の部分を活かした奏法ですので、ここぞというときには使えるようにしたいものです。

 ベンド同様、グライドの操作もEWIとWXとでは異なります。

4-6. グライドの基礎練習

 Ex.12はグライドセンサー操作のタイミングと音源設定の感覚をつかむための練習です。EWIのグライドプレートを触る面積によるによるグライドタイムコントロールはとても難しいので、とりあえずここではそこまで考えず、EWI/WXとも、グライドタイムは音源側で設定する値のみに依存することとします。演奏する曲のテンポにより適切なグライドタイムは変わるので、音源側の設定をいろいろ試しながら「この曲のテンポだとグライド設定値はこのくらい」という感覚をつかんで必要な時にすぐ適切な設定ができるようにしてください。コントローラ操作そのものはセンサーののON/OFFだけを操作するイメージとします。

デモ:  4_6.mp3 (76kb)  機材:EWI3020/3020m(音色:S43 Axis)

 音源側の設定:

 グライドを曲の中で活かすにはセンスが必要ですが、慣れてきたら

 等を念頭に置きながら演奏することでグライドによるより深い音楽表現ができるのではないかと思います。

4-7. 装飾音・グリッサンド等、運指による連続的な音の変化

 ベンド、グライドのほかにも「すばやい運指」によって聴感上連続的な音程変化を得ることがあります。むしろ実際の演奏の中ではこちらを基本として、独特の効果を得たいときにだけベンド・グライドを使用するのがオーソドックスなアプローチかもしれません。例えば半音や全音高い・低い音を一瞬吹いてから譜面本来の音を演奏したり(装飾音)、1オクターブ程度の音程差をすばやい半音階、またはその曲のスケールによって移動します(グリッサンド)。操作は運指だけですので、速い運指ができるよう運指練習をすればOKです。慣れてきたら、運指とベンド・グライドを併用したり、ブレスの強さを変えながらグリッサンドするなど工夫すればより表現力が増すでしょう。


5. ビブラート

 ビブラートは絶対に必要なもの、ではありませんが、特にバラードを演奏する場合はきれいなビブラートができると表現の強力な武器になります。ウィンドシンセではビブラートの深さ、速さ、タイミングとも生管楽器とほぼ同じレベルで自在にコントロールすることができます。鍵盤型シンセより圧倒的に自由度が高いので、鍵盤シンセとの違いを出す上でも慣れてきたらしっかり身につけたい奏法です。ビブラートのかけ方は大きくわけて口によるもの、息によるものの2種類があります。

5-1. 口または顎の動きによるビブラート

5-2. 息の強さによるビブラート

 EWI、WXとも共通です。腹式呼吸を使って息の強さを周期的にコントロールします。一般的には音量の大きさの変化によりビブラートを表現することになります。管楽器ではフルートなど笛系の楽器は通常この方式のビブラートを使っています。音程変化によるビブラートより大袈裟にかけることができるので使いわけるのもおもしろいでしょう。腹式呼吸がしっかりできていないとコントロールは不可能です。

5-3.ビブラートの基礎練習

 ♪デモ:  5_3.mp3 (128kb)  機材:EWI3020/3020m(音色:S43 Axis) ビブラートセンサーによるビブラート

 運指・タンギングをしないロングトーンのまま、ビブラートを4分、8分、3連、16分音符のタイミングでかけてください。口でビブラートをかける場合、音符により顎を動かす速度を変えてください。4分音符ではゆっくり、16分音符では速く顎を動かします。16分と同じ速度で4分音符のビブラートをかけると均一なビブラートになりません。また変化がa-u-a-u-と、周期的になるよう気をつけてください。au-au-au-au-ではありません(a:口または顎を弛める。u:口または顎をきつくする)。EWIの場合、およびWXでモジュレーションを使う場合は、設定によってはa-と変化させただけで勝手にau-au-の変化が起こってしまう場合があります。特に遅いテンポの場合顕著です。このような場合あまり不自然にならないように音源側でVIVRATO感度やモジュレーション関連の設定値を調整してください。
 顎を動かす力と距離は出来るだけ少なくするように意識しましょう。あまり大きく顎をハグハグやっていると、顎の関節を痛めるおそれがありますし強く噛みすぎるとマウスピースやセンサーを傷める原因になります。必要に応じ音源側で感度等を調整しましょう。EWIの場合はコントローラを構える角度もビブラートのしやすさに大きく影響します。

 息の強さでビブラートをかける場合、まずは楽器を使わず、声だけで"a"の発音で、喉で発音を切らずa-a-a-a-a-と発声してEx.13を練習してみてください。これができたらそのイメージのまま管を吹きます。あまりやりすぎると森進一のモノマネのようになってしまうのでほどほどに心地よいところを見つけましょう。なおEWIの場合、歯で直接マウスピースを噛んで息の通る穴を細くすることで腹式呼吸で息の量を変えたのと同じビブラート効果を得ることができます。マウスピースの寿命が極端に短くなる(かみ切ってしまう)のであまりおすすめはしませんが・・・

 どんなときにビブラートを使うのかというとジャズやポピュラー曲の場合例えば

というようなパターンは良く使われています。しかしこれもアーティキュレーションと同じくきまりきった法則はありませんし、どれが正しいというものもありません。演奏者によってビブラートの使い方はそれぞれ個性的で、速いフレーズの中でも常に使う人もいればバラードであっても全く使わない人もいます。これもまずは自分が好きな、かっこいいと思うミュージシャンの演奏を良く聴き、コピーしてみるのが良いでしょう。

5-4.音を揺らす他の方法

 ビブラートをかける場合、生楽器では上記のように口か息を使いますが、シンセサイザーの場合音源側の設定によって勝手にビブラートをかけることもできます。LFOを常にONにしたり、エンベローブを使ったり、オシレータをデチューンしたり、コーラスやフェイザー等のエフェクトを使ったり・・・と方法は様々ですが、いずれもそれなりの個性的な効果が得られます。どれが正しい、ということはありませんのでいろいろ試しながら自分なりの表現をみつけてください。


6. その他の奏法

6-1. 広い音域を利用する

 奏法とはちょっと違いますが、ウィンドシンセの特徴の一つとして音域が広いことがあげられます。プロのウィンドシンセ奏者の演奏でもこの特徴を活かし広い音域を一気に上昇/下降するフレーズが出てきます。やり方はただそのように運指するだけです。といってもよどみなく運指するのは結構難しいですけれど。Ex.14はマイケルブレッカーのお得意フレーズから。頭の「シ」をダウンベンドでしゃくればさらにさらにかっこいいですね。

♪あまり上手でないデモ6_1.mp3 (37kb)  機材:WX5/VL70-m"Pr1-087 Old Mini"

6-2. ベンド幅を大きくしてみる

 音源側でベンド幅を広く設定(5度とか8度とか)しておき、アップベンドにより演奏すると金管楽器のリップスラー的なニュアンスが良く出て、特にシェイクやリップターンといった表現がやりやすくなります。アップベンド側のみ幅を広く、ダウンベンド側は通常通りに設定しておけば汎用的にいろいろな曲に使用することができるでしょう。

6-3. コントローラの個性を活かしたウラ技的奏法

 ●EWI1000永久ロングトーン

 ●WX5 換え指奏法

♪デモ6_3.mp3 (59kb)  機材:WX5/VL70-m"Pr2-085 FnkyTenr(エディット済)"(これのみトランスポーズ機能使用)


7. まとめ(練習メニュー)

 さて奏法についていろいろ解説してきましたが、項目が多くてかえって混乱してしまったかもしれません。本当はEx.2〜13までを全て練習してほしいのですが、皆さんなかなかそんな時間もとれないでしょうから、忙しい初心者向けに最低限これだけはという、毎日の練習メニューを考えてみました。

 スケール練習は上級者になっても絶対はずせませんが、あまり基礎練習ばかりでもつまらないので、なるべく曲を吹きながら練習するようにしてみました。全てにおいて、腹式呼吸を意識しながら練習してください。


8. 最後に

 長々と偉そうなことを書いてきましたが、結局のところ、カッコ良ければ何をしても良いんです。ここではあまり触れませんでしたが、特にウィンドシンセの”シンセ”の部分、すなわち音源のプログラミングが可能という部分を利用すれば、どんな音にするか、どんな効果を加えるか、それこそあらゆることができます。逆に言えば、ウィンドシンセにおいては音源のプログラミングも奏法・演奏の一部ということです。この解説にとらわれず、ぜひ皆さん独自の表現方法を開拓していってください。


参考文献:

Jan.05. 2002


● ウィンドシンセ奏法入門 (講師:Kirino)

協会宛メール(yoshmeme@rainbow.plala.or.jp)