オペラができるまで


 一つのオペラの公演が、どのようなプロセスを経て本番に至るかを、
ここで簡単にご説明いたしましょう。


 【音取り、個人稽古】
 公演の演目が決まったら、歌い手達はまず個人的に練習を開始します。
個人的な練習をコレペティトゥーアや練習ピアニストが指導することを 「個人稽古」 または 「コレペティ稽古」 と
呼んでいます。歌い手にとってその演目、またはその役が初めてだった場合、譜読みをしなくてはいけません。その初めての
譜読みのことを 「音取り」 と呼んでいます。コレペティトゥーアは伴奏を弾きながら、歌い手が正しく音が取れているか、
正しく歌えているか、等の指導をし、また、外国語上演の際には言語指導もします。

 【音楽稽古】
 個人的にある程度の練習ができたら、いよいよ稽古場を使って他の人たちとの稽古の開始です。
楽譜を見ながら、相手役の人たちと合わせて、音楽的なことを仕上げていきます。これを 「音楽稽古」 
または 「音練」(おんれん-音楽練習の略) と呼んでいます。音楽稽古が】ある程度進んできたら、副指揮ではなく
本番の指揮者(「本棒-ほんぼう」と呼ばれています) が来て、だいたいのテンポなどの音楽づくりをしますが、これを
「マエストロ稽古」 と呼びます。音楽的に大体仕上がってきたら、暗譜で全曲を通してみます。これを 「音楽通し稽古」 
または 「暗譜稽古」 と呼びます。

 【立ち稽古】
 音楽稽古が仕上がった段階で、演出家が来て、演技をつけていきます。演出家は、どの音楽でどのような演技をしてほしいのか、
どの部分でどうするか、等の指示を出します。歌い手はそれに従って演技をしながら歌う練習をします。これを 「立ち稽古-たちげいこ」
略して 「立ち-たち」 と言います。演出家が外国人だったり、忙しい有名人だったりしたとき、副指揮者と同じく、その演出家の解釈や
演技をよく理解している人が代わりに立ち稽古をします。この人のことを 「演出助手」 略して 「演助-えんじょ」 と呼びます。
歌いながらの細かい演技の練習はせずに、だいだいの立ち位置や、大ざっぱな演技内容等を演出家や演出助手が説明していくことを、
「荒立ち-あらだち」と言います。

 【通し稽古】
 音楽も演技も仕上がって、歌い手がそれを全部覚えた段階で、全体の流れを把握するために、全曲を止まらずに通してみます。
これを 「通し稽古」 と呼びます。「通し稽古」の時には舞台監督や大道具、小道具、ステージマネージャー等の舞台スタッフも参加
して、本番の流れを頭に入れていきます。通し稽古に入る前に、途中アリアなど一部を省略しながら大ざっぱに全体を通す練習をする
場合もあります。これを 「荒通し-あらどおし」 と言います。「荒通し」や 「通し稽古」 をした後で、指揮者や演出家が、違った
ところや良くなかったところを指摘して直させることを 「ダメ出し」 と言います。
 
 【オケ練】
 歌い手達が通し稽古をする頃、オーケストラの人達は、歌い手抜きで、オーケストラのメンバーだけで練習をします。これを
「オーケストラ練習」、略して 「オケ練」 と呼んでいます。オケ練の時には本番の指揮者が来て、テンポ等音楽的なことを
仕上げたり、弦楽器の人達のボウイング(運弓法-うんきゅうほう、弓使いのこと) を決めたりします。レチタティーボ・セッコのある
曲の場合、オケ練にはセッコ・ピアノ、セッコ・チェンバロの人も参加します。

 【オケ合わせ】
 通し稽古がすんで、オケ練も終わると、歌い手さん達がオーケストラと合わせてみます。今までの稽古はピアノ伴奏で行われて
きたので、今度は実際にオーケストラの伴奏と合わせてみるのです、これを 「オーケストラ合わせ」、略して 「オケ合わせ」 と
言います。オーケストラメンバーと歌い手さんとの初めての顔合わせです。なお、オケ合わせの際には演技はつけずに歌だけを
歌います。

 【仕込み】
 オケ合わせをやっている頃、公演を行う会場では、舞台スタッフの人達が、大道具やパネルや照明など、本番の舞台を作って
いきます。これを 「仕込み」 と言います。

 【ゲネ・プロ】
 いよいよ本番間近です。公演を行う会場の舞台で、かつらや衣装をつけ、メイクをし、照明や字幕もつけて、本番と同じように
やってみることを 「ゲネラルプローペ(総練習)」、略して 「ゲネ・プロ」 と言い、 「G. P」 と書きます。G. Pは普通、部外者には
非公開で行われますが、劇場によっては 「公開ゲネ・プロ」 として見せてくれるところもあります。

 G. Pが終わるといよいよ本番です。本番で演奏しているのは、指揮者、オーケストラ、歌い手、曲によってはチェンバロや
ピアノの人です。
でも、その裏で同時に働いている人が何十人といます。そして、本番までに働いてきた人は何百人もいるのです。
普段の私たちの生活でもきっと同じだと思います。一つのことが成されるために、一人の人が生きて行くために、何百人、何千人の
人々の力が必要とされるのです。私たちは日々の生活の中で、つい見過ごされがちなこういう人達のことをキチンと考え、そして
そういう人達への感謝の気持ちを常に忘れないように生きて行きたいですね。
 
 これを読んでくださった方が、華やかな表舞台だけでなく、それを支える裏方の人達のことを少しでも理解し、オペラに対する見方を
少しでも変えてくだされば幸いです。

2000.4.9 

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