既に新聞やテレビでも報じられていますが、電気用品安全法の実施により大きな混乱が予想されています。電気用品安全法の問題点について考えてみました。
長文となってしまいますが、ご容赦ください。あらかじめ要約すれば、次のとおりになります。
法の目的であるところの「電気用品について消費者の安全を確保」することに異論はありません。法改正の目的であった規制緩和についても同様に異論はなく、それに対応して安全性を保持するための規制が行われること自体に不満があるわけでもないのです。
困っているのは、中古市場の規制、特に「法改正以前の電気用品の販売について」に限定されます。その影響が甚大であることをご理解頂きたいのです
30万社あるとされる中古品の販売業者・リサイクルショップや楽器店などは、直接の影響を受けます。しかし、経産省が古物商を管轄する警察庁に連絡したのは今年の2月15日、経産省のホームページで中古販売に触れた記述が登場したのが2月17日になってからのことです。「大手の生活創庫(静岡県浜松市)。販売禁止になる商品在庫は約16億円分もある」とされる一方、「小規模な個人経営が多い中古品業界では、春から売れない在庫を抱えて倒産が相次ぐと悲観する声があがる」など、その窮状は既に報道などでも明らかです。
経産省では、残りの一ヶ月で周知を徹底すると言っていました。しかし周知したとしても、残された期間で販売出来ない在庫をなくすことは困難です。在庫商品は販売出来ないだけではなく、処分しなければならず、その費用もかかります。また、販売可能なPSE表示付電気用品は、いちど新品の購入・使用を経て中古市場に流れるのですから、商品の補充も困難となります。
一部では、経産省の説明として、登録と外観・通電・絶縁耐力について自主検査によって製造者としてPSEを貼ることができるという報道もありますが、実際には経済産業省令に従って基準適合確認を行わなければならず、また費用や作業量などの点で現実的に可能かどうかは明らかではありません。また電気的改変の必要性や商標法・特許法との関係、法人製造事業者としての罰則が厳しく、製造物責任法上の損害賠償の対象となる可能性などが明らかになっていません。
問題は「販売」する店だけでは留まりません。
販売されているものを買う人たちがいます。直接規制されてはいませんが、販売が禁止されれば買取はなされないでしょう。中古店に品物を持ち込んで買い取ってもらう人たちがいます。
「中古品販売事業者の方やAVマニアの方が困っていらっしゃるのは承知している。しかし製品が法律の対象となっている限り、ご理解いただくしかない」(経産省)
オーディオファンへの影響は経産省でも認識されているようですし、報道等では坂本龍一氏の動きがあったことから音楽家への影響も扱われています。
オーディオファン、(アマチュアを含む)音楽家、およびレトロゲームの愛好家らが最初に中古販売規制に反応しました。しかし、影響は彼らに留まるものではありません。
第一に想定されるのは、経済的に中古を買わざるをえない人たちです。これは、通常の家電などだけではなく、業務用の電気用品を使用する事業者にもあてはまります。
不況が続く中で、頻繁に新品に買い換えるだけの経済力を持つ人は多くありません。一人暮らしを始める学生(またはその親)にとって、身のまわりの電気用品を中古で揃えると言うことは珍しいことではないでしょう。引っ越しなどの場合では、逆に古い電気用品を買い取ってもらうことで新居での電気用品の買い取り資金とすることも多いでしょう。
電気用品の対象は、家電に限るものではありません。業種によって、特に中小〜個人規模での事業では、業務用電気用品を中古品で入手することは避けられないこととなっていますし、手放す場合は買取を前提として資金繰りをしていることが考えられます。高額なものについては、電気用品を担保として融資を受ける場合もあります。
必要な機能を持ち安全性に不安がなくとも、新品を購入することを強いることになれば、新規に事業を立ち上げることは困難になります。対して、これまで事業を行ってきた人々は、手元にあったはずの資産が突然失われます。新しい電気用品を買えば済む、と言ってはいられない、社会的・経済的弱者に大きな影響を与えることになるのです。
経済的なことだけではなく、代替不能性も大きな問題となります。
かつての電気用品が備えていた機能が、今日の電気用品には備わっていないことは多々あります。ベータ・ビデオ・デッキ、古いゲーム機など、既に用いられなくなった規格に対応した電気用品は、中古品以外での入手は困難です。一部で対応機器の生産が続いていたとしても、高級品だけであったり逆に普及品だけであったりして、ユーザが求める品質・価格と合致しないことも多いようです。これらの機器の入手が難しくなることは、同時に対応したソフトウェアが持つ価値を損なうことになります。写真機材なども、じょじょに新規生産が行われなくなることで照明や引伸機などの入手が困難になれば、作品が生み出せなくなってしまいます。
古い楽器には、それを使わなければ出ない音というものがあります。どれほど精巧なレプリカであっても、ホンモノのストラディヴァリウスと同じ音色が得られないように、シンセサイザーやエフェクターやアンプには、現行の機材では代用がきかないものが多く存在します。これらの機材には、歴史的な価値があるだけではなく、古い楽器を用いて新たな文化・芸術の創造が行われています。
柳宗悦を引き合いに出すまでもなく、およそこの百数十年の間に用いられてきた電気用品は、生活に根ざした文化そのものでもあります。特別な機能を持たなくても、時代を表すデザインというものもあります。茶箪笥や卓袱台や織物が文化であるのと同じように、扉付のテレビや銀色に輝くトースターやピースマーク型のライトや無機的で安っぽいモノトーンの炊飯器も文化なのです。
PSE表示なしの中古電気用品の販売を禁止することとは、すなわち、法改正以前の「すべての電気用品の販売」を禁止することです。以上述べてきたような、経済的な影響や文化的な損失は計り知れないものがあります。
このほか、資産価値がなくなることによって税処理上どうなるか、修理によってPSE再取得をした場合の商標や特許との兼ね合い、廃棄するならば環境問題にも繋がります。輸出は規制されませんが、貴重な電気用品が流出するならば、かつての浮世絵の轍を踏むことになりますし、逆にそれが安全でない電気用品であれば相手国との関係悪化が懸念されるなど、販売や入手困難性だけでなく各所に問題が波及する可能性もあります。
小寺信良:電気用品安全法は「新たなる敵」か (Side A)には、次の発言が引用されています。
PSE法のそもそもの目的とは、「非常にシンプルで、電気用品について消費者の安全を確保するためなんです」と経済産業省 商務情報政策局 消費経済部 製品安全課 課長補佐の福島 伸一郎氏は言う。
そもそもここで言うPSE法とは何かを注意しておく必要があります。
第一条で「この法律は、電気用品の製造、販売等を規制することにより、粗悪な電気用品による危険及び障害の発生を防止することを目的とする」と謳う電気用品取締法がありました。法改正によって名称が電気用品安全法となり、規制緩和の一環として基準・認証制度が民間事業者に開放されました。法改正によって変更された第一条には「この法律は、電気用品の製造、販売等を規制するとともに、電気用品の安全性の確保につき民間事業者の自主的な活動を促進することにより、電気用品による危険及び障害の発生を防止することを目的とする」と書かれています。
つまり、電気用品取締法/電気用品安全法は、消費者の安全を確保するための法律ですが、「電気用品安全法」への改正は消費者の安全を確保するために行われたものではなく規制緩和の一環として行われたということです。
安全面について、検討しておきます。
PSEマークがついていない中古の電気用品を販売すること、それを購入して使用することは、どれほど危険なのでしょうか。
言うまでもなく、PSEマーク自体が安全性を向上させるものではないです。貼れば安全になる魔法があるわけではないはずです。
PSEシール導入が決まった99年以前に作られた電気用品と、この06年4月1日以後に作られる電気用品の間に、安全性の面で大きな違いがあるのでしょうか。
法施行後のパブリックコメントの資料「(別添)電気用品安全法に基づく電気用品及び特定電気用品の指定について」では、「電気用品の安全性向上につながるような技術革新は平成7年以降、特段認められていない」という認識が示されています。では、平成7年以後今日までに「電気用品の安全性向上につながるような技術革新」はあったでしょうか?残念ながらそのような革新はなかったように思います。
経年変化による劣化は、電気用品が常に抱える問題ではあります。
しかし、これはすべての電気用品に当てはまることであり、また中古市場を経由しようがしていまいが大きな違いがあるというものではないでしょう。また、発火などの可能性は、経年変化などよりも、構造上の問題や無理な使用法に起因すると考えるのが自然だと思われます。中古品は、何年かの実用に耐えたということを示すものであり、未だ実際の使用状況に置かれていない、初期不良の危険性がある新製品との間での安全性の比較は、経年変化による劣化だけを持って行うべきではないと考えます。実態として、製造販売後同期間を経た後に継続使用よりも中古市場を経由した方が重篤な事故に繋がることが多いという実態があるなど相応の理由があるならば、中古販売規制について検討も必要でしょうが、法改正時には審議会および国会で取り上げられていません。また、一般に経年変化による劣化の危険性を抑える方策としては、中古品の販売規制が適切なものではないと思われます。
では、なぜ中古品の電気用品の販売を規制するのか。
「これまで『特定電気用品以外の電気用品』のほうには、安全検査済みを表わすマークがなかったのです。以前はあったのですが、一時期なくした時期がありまして。今回の法改正では、規制緩和の流れの中で政府の関与を極力減らすということで、自己責任に基づく製品流通という方向に変わったわけですが、マークもないのでは自主規制にも齟齬があるということで。今回の法改正で、この表示と法律が合うことは、我々にも消費者にもメリットがあると考えています」(福島氏)という主張には、いちおうの筋は通っています。
『電気用品安全法関係法令集』(2002年度版 P44、2004年度版も同様の記述)では、次のように解説されています。
「法律改正内容の解説及び経過措置/(9)経過措置/2 流通に係る経過措置 」
なお旧法における適法品に製造や流通期限を定める理由については、多数の品目で新旧の表示品の混在が長期間続くことが効果的な事後規制を行う上で好ましくないこと、また新法の施行にあたり速やかな移行が求められることから、製造流通実態等を考慮し事業者等にとって影響を最小限とする範囲で用品ごとに製造流通期間の上限を定めることとしたものである。
この一時期の「表示なし」電気用品の扱いについて考えてみましょう。
「表示なし」の期間に製造された乙種の電気用品は、表示がなくとも安全性は保証されているものと考えられます。「表示なし」の期間以外に表示がない電気用品は製造・輸入・販売することができません。したがって現在流通している「表示なし」の電気用品は、安全上の問題は法制度上は存在しません。今後は、製造についての規制がしっかりとなされ、最初の販売についてPSEの表示が義務づけられてさえいれば、基準に合致しない電気用品は流通することが不可能となります。ならば、中古市場で販売される「表示なし」の電気用品が問題視されているものではないという前提をひとまず設定することができるはずです。この場合、「表示なし」製品の存在は、自主規制あるいは「効果的な事後規制」について影響を及ぼすことはありません。
では、この前提が間違っているのでしょうか。これまで参照した以外に、中古電気用品を規制する根拠としては、次の発言があります。
「以前ですが、新品で製造したもので安全基準に合致していない製品が中古として流通している、という情報があったのです。調査したところ真偽のほどは明確にならなかったのですが、実際にそういう可能性は否定できない。何かあったらこの法(PSE法)を運用して、中古市場で問題があった場合に対処する、という体制になっているわけです」(福島氏)
「新品で製造したもので安全基準に合致していない製品が中古として流通している」という可能性があるとすれば、「何かあったら」、「製造」および「最初の販売」の段階での規制さえあれば、対処することは可能と思われます。真偽のほどが明確ではない段階で、「何か」がない状態の中古市場を規制するほどの理由とはなりえません。
西野あきら経済産業副大臣は国会で「この法律によって業が成り立たない顕著な例があれば残念だが、相対的にはそこまでいってないと思う」「歴史的な価値のある音響機器があるという事は承知している。だからといって安全性を確保する観点から除外していいとはならない」と発言されました。
このままでは、中古販売業は成り立たなくなることは明らかです。また、歴史的な価値のある音響機器のみならず、経済的弱者の生活やさまざまな形での文化・芸術などが失われていく根拠は、「安全性を確保する観点」から見出すことができません。
又、先日の予算委員会分科会質疑で、周知が全然なされていないことも明らかになりました。経済産業省が本年2月15日から警察庁を通じ古物商などの業界団体への通知が開始された現状です。本来なら5年間の経過措置期間は周知徹底のための期間でもあり、それが為されて来なかった事が問題の要因で、国民が充分納得でき無い状態のまま、4月1日から本格的な施行が開始される事は市場の混乱を招くだけでしかありません。
我々は市場の混乱を回避する為、以下の点が必要だと考えています。