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無限懲罰房 第8話 【TEXT TOP】

再び、囚人の下品な呼吸音のみが薄暗い無限懲罰房を支配した。

想像を絶する劣悪な環境下で世紀を越え生き延びた囚人と、美術品・工芸品と言っても差し支えない見事な風貌を呈する、
あまりにも場違いな独房を支える一本柱。そのおおよそ対照的な関係に位置する二つをどうにか共通の接点でもってつなぎ合わせようと
私の頭の中ではさまざまな憶測が飛び交い、同時に私が長年便利屋をやっている中で完全に失ってしまったと思われた
怖いもの見たさという興味の概念が一気に湧き上がってくるのが分かった。

囚人は微動だにせず何とか考えをまとめようとしている私の方を見ている。
伸びきった髪の毛とヒゲの奥からかろうじて見えるその顔の表情からは、彼が何を考えているのか私には全く読み取る事が出来なかった。

「273年、だと?」
私が聞くと、先程と同じように囚人は頷いた。その返答をするタイミングの良さはまるで私が質問してくるのを待っていたかのような印象を受けたが、
囚人の心をそのしぐさや様子から読み取るには、あまりにも光が足りなかった。
「それは、お前の刑期の事か?」
予感が的中し、囚人は再び頷いた。ちょっとばかり骨だが、囚人とのやりとりを円滑に行うには
----つまり、十数年ぶりに私にときめくような好奇心を感じさせたこの無限懲罰房に関する真実を知る為には----
なるべく相手に話をさせるのではなく、こちらの問いかけに対し「はい・いいえ」で答えてもらうやり方が手っ取り早いようだ。
「273年…人間が生きられる年月を遥かに越えている。本当にそれだけの間ここに閉じ込められていたのか?」
やはり囚人は頷いた。
長期間暗闇に閉じ込められ、正常な思考が不可能になってしまったのだろうか?
人間は通常3〜4日暗闇の中に閉じ込められ続けると発狂すると言われている。
時間感覚を支配する神経が完全に破壊され、自分の中ではとんでもなく長い年月が経ったと感じてしまっている可能性は十分に考えられる。

次に問うべき質問は?何を食って生きてきた?何の罪で投獄された?この柱は何故こんな立派な装飾が施されているんだ?
そして柱は何故壊れるどころか歪む気配すらないのだ?娑婆に出たい執念がお前を273年もの間生かし続けてきたのか?
私は表には出さずにいたが、囚人が私に対し「当初私が想像していた行動を起こすまで」
ひっきりなしに童心に返ったかの如く興奮気味に思考回路を活発に動かし続けた。

そう。
囚人が何かに気付いたかのような表情をしたかと思うや否や、自分を拘束していた巨大な鉄球を私めがけて思い切り投げつけるまで。

続く

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