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無限懲罰房 第7話 【TEXT TOP】

「無限懲罰房」に閉じ込められ続けていた化け物----否、人間である事が確認されたのだから囚人と呼ぶ事にする----は、
私を睨んだまま繰り返し呻き声のような言葉を発した。
「シャバ…ニ…シャバニ……シャ…ア、アア………」
こちらの言葉が通じるかどうか分からなかったが、私はどうにか聞き取れる囚人の断片的な単語から彼の吐かんとしているセリフを想像して代弁してみた。
「…娑婆に出たい、と言いたいのか?」
囚人は大きくうなずいた。

相槌一つとっても、まるで野獣のような挙動である。
背筋を丸め腰を低く落とした力士のような構えをとったその手には手首に頑丈に縛られた枷(かせ)と、
見るからに重たそうな鉄球をつなぐ太い鎖がしっかりと握られている。
先程囚人がその鉄球で房内を通る太い木柱を打ちつけたように、
私に対して襲い掛かってくる意思がある可能性を考慮して十分に間合いを取り再び彼に話しかけた。

「私の言う事が分かるようだな。ならば落ち着いて聞くがいい。お前を長きにわたって監禁していた刑務所は、とっくの昔に閉鎖された。
刑務所が何故この無限懲罰房とやらを残したまま閉鎖されたのかは分からんが、とにかく私は死刑宣告を伝えに来た刑務所員などではない」
私は一呼吸置いて囚人の様子を伺った。彼はその場で突っ立ったままでこちらの言う事に静かに耳を傾けていた様子で、
今のところは攻撃の意思はないようだ。私はここに来て房の中の気温・湿度が以上に高かった事を今更ながら感じ取った。
「無限懲罰房…か。お前が過去にどれだけの重罪を犯したのかは分からぬが、まるでその存在自体を世の中から抹殺するように
なし崩しを狙ったかのような措置を取られるとは、いくら重罪人であったであろうお前にとっても何とも惨い仕打ちである事よ」

しかしここで誰でも考えるであろう当然の疑問が湧き上がる。刑務所が閉鎖され無限懲罰房が放置されてから今までの間、
水や食料、密閉性の高いこの地下室内での空気の確保はどうやって行っていたのだろうか?
そして何故3ヶ月前ほどから突然音と振動…つまり鉄球で木柱を叩きつけるという行為を行い始めたのだろう?

私は囚人にその事を聞こうとすると、彼はたどたどしく口を開いてそれを遮った。
「ヒャ……二…ヒャ……ナ、ナナ…………ナナア…アア…………」
「何?」
「ニヒャ…ニ……ヒャ…クナナ……ジュサ…サネ…………ンタッ……タ……」

ニヒャ、クナナ、ジュサネ……タッタ。
……273年経った?

…まさか、懲役273年の刑期が……3ヶ月前に終わったとでもいうのか?

私の脳内でさまざまな思いが一瞬で駆け巡った。そして次に投げかけるべき囚人への疑問を出来るだけ冷静に素早く考え出そうとしている間に、
房内にあったあるモノに突然違和感を覚えた。

目の前にそびえ立っている木柱。
たかが刑務所の独房のモノなのに、何故立派な飾り付けが施してあるのだろう……

続く

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